イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

直立歩行

クレイグ・スタンフォード青土社。サブタイトルは『進化への鍵』。そのとおり、二足直立歩行の起源を、霊長類学、化石研究、遺伝子調査、解剖学などさまざまな手段を意欲的に用いつつ、「原生人類は一直線に直立歩行したわけではない」というしなやかな主張を交えつつ書く本。
非常に解りやすく、読みやすい構成である。人類の起源に関してのさまざまな知見−ジャングルに分け入ってチンパンジーやボノボを直接見ることから、化石資料の解剖学的分析、ミトコンドリアDNAマップの作成まで−を駆使して、さまざまな立場から二足歩行の起源を調べている。基本的に時間軸に沿って論が展開されるが、あえて横道にずれることで本質に近道することを恐れない思い切りのよさもある。
その丁寧な記述で、筆者は本当にさまざまな学説を取り上げていく。現生人類における歩行の重要性、食肉の重要性、狩猟の重要性。それを考えるうえで将座となる化石や霊長類研究の紹介。万華鏡のようにきらびやかだが、同時に化石資料の限界点や、霊長類研究を人類に当てg嵌めることの危険性を指摘することも忘れない慎重さも兼ね備えているのだ。
もちろん、筆者自身が提唱する二足歩行の起源もとても興味深い。ただ自説に固執するのではなく、一見正反対の論の中にも正当性を見つけ、その上で矛盾点を指摘する態度は誠実だ。僕はもちろん原生人類に関してのスペシャリストではないので、専門的な判断は出来ないけれども、筆者が何度も強調する『人類の二足歩行に関しては、科学的裏づけのない推論が相当数まかり通っている』『二足歩行を考えるとき、我々はあまりにも一直線の進化というモデルに安住したがる』という指摘には強く頷けた。
資料の調べ方、その出し方、専門学説の噛み砕きと記述の仕方、味わい豊かな語り口。どれを取っても一級のライトサイエンスで、非常に面白かった。名著。