イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

宗教地獄絵 残虐地獄絵

吉田八岑+田中雅志、大和書房。東西美術における『地獄』をざらっと追いかける本。ドレによる「神曲」のエッチングからキャパのベトナム戦争写真、「往生要集絵巻」まで、宗教と現実、洋の東西を問わず、各章ごとにポイントを絞って纏めている。
筆者二人による共作であり、片方は悪魔学、片方は美術史を専門分野としている。そのせいか、正午とにテーマに挑む態度、史料の掘り方、レイアウト、書き口などがまったく異なり、「地獄図」というテーマで纏めてはあるものの、各章ごと(全部で六章)に別の本を読んでいるかのような気分になる。かといって食い足りないかというとそうではなく、横幅の広さをバラエティーの豊かさと受け止められる確かな書き味がある。
特に第二章、「現世の地獄」はソンミ村やキャパの写真など今世紀の写真芸術から入るという意外な(そして興味を引かれる)出だしから始まり、人間終焉を予見した稀有の天才としてのゴヤに注目し、「プリンシペ・ピオの虐殺」「わが子を食らうサトゥルヌス」「戦争の惨禍」などの作品個別論を交えつつ、その独自性を徹底的に掘り下げた非常にクオリティの高いものである。初手に現実の地獄を置き、その先駆者にして最高峰としてのゴヤを見つめるまなざしは、鋭く知性に満ちている。
他の章も各国の宗教意識と地獄の関係などを交えつつ、多彩な図版で目を楽しませてくれる。少将食い足りない部分がないわけではないが、むしろそれが手軽さに変わっており、めまぐるしく題材が変わりながらも振り回されない、色彩の豊かさを楽しめる構成になっている。少々難をつけるとすれば図版が小さく、美術書には必須の絵を『読みほぐす』作業には少々使いにくいところであろうか。
ともあれ、二章の深さと全体的なハンディさは特筆に価する。読みやすく、なかなか面白い本であった。良著。