イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

行為論的思考

高木由典、ミネルヴァ書房社会学的行為論において、行為と人間の「生」について「体験選択」という概念から語った論集。「叢書・現代社会のフロンティア」の一冊であり、サブタイトルは「行為選択と社会学
まず形式であるが、過去に発表された筆者の論文集、という形になっている。一見すると纏まりがなくなりそうな形態であるが、サブタイトルにもある「体験選択」という軸が中心になり、むしろ相互の連関が深まって読み応えのある形になっている。「体験選択」はルソーの溶解体験をベースに、郷理・合目的な行為選択を外れた場所にある行為選択について語った概念である。
この文章は感想であって読解ではないので、この本の基本的概念である「体験選択」については上記の簡潔なまとめで終えておく。とまれ、クラ・ポトラッチに冠する贈与論、ウェーバーの行為論分析、そして大西巨人の「神聖喜劇」や聖書各節など文学の行為分析など、横幅の広い議論を、ベルグソンに依拠しつつも独特の視点と論理で読みほぐしていくヴァラエティの豊かさは特筆に価する。
その上で、独自概念である「体験選択」の説得力の高さ、応用力の広さ、論理的妥当性から、これを主軸にすえたこの本の論理はわかりやすい。リセイの学問である西洋学問において、切り捨てるしかない非論理的な感情跳躍を、論理で何とか捉え、共有されるべき論題として取り上げようという筆者の視点は一貫しているし、ある程度以上成功しているようにも思える。
学問論理としてこの本がどのように位置づけられるか、は社会学の徒ではない僕には正確に評価できないだろう。だが、一種卑近アレイまで取り上げて社会学に(一種の)ぬくもりを取り返そうとする筆者の立場は独特かつ重要であると思うし、その試みはしっかりとした調査と論理記述力に裏打ちされ、成功しているように思える。
主張と証明のバランスがよく取れており、可読性は高い。なかなかに面白い論集であった。良著。