イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

エイリアン・スピーシーズ

平田剛士、緑風出版。日本各地に存在する、移入種の問題について述べたドキュメンタリー。必ずしも国外から入ってくる種が問題になるわけではないため「外来種」ではなく移入種である。サブタイトルも解りやすく「在来生態系を脅かす移入主たち」となっている。
基本、一章一地域の八章立てであり、最終章が移入種と種の多様性、それにまつわる国際的・国内的な取り組みの話となっている。扱う地域と動物は小笠原諸島とヤギ(食害)、沖縄とカメ(生殖混交)、京都深泥池とバス・ギル(生態系変化)、石狩・空知とアライグマ(ペットの野生化)、奄美大島マングース(天敵の移入と暴走)、北海道日本海地方とサケ(養殖と野生種)、北海道東部とワシ(希少種の野生帰還)となっている。
目的意識のはっきりした取材と記述で、読んでいて戸惑うことは少ない。主張がはっきりしすぎていて、希少種エコロジーに反対の立場を取るならば眉をしかめざるを得ない場所もあるぐらいだ。正直、最初から結論が決まりすぎている部分があって、種の多様性を徹底的に擁護する論調には疑念を感じる箇所もある。
が、章ごとにはっきりと具体例を打ち出し、種の多様性保存以外のドキュメンタリーとしいての面白さを持っているこの本には、ただの環境プロパガンダでは止まらない魅力がある。それは例えば京都であれば非学術団体の生物環境保護協力への取材だったり、北海道東部であれば「動物園」と自然保護の複雑な関係性であったりする。
章ごと、動物ごとに別の側面と視座をしっかり持ち、ルポタージュとしての厚みをきっちり作っていることは評価に値するだろう。単純な興味のみならず、この本が扱う種の多様性という問題が、さまざまな領域に関わる問題なのだ、という認識をしっかり浮き彫りにしてくれる。筆が生き生きとしているのだ。
もちろん、主題である移入種生物多様性の問題は定義から具体的な数値、学術的な研究手法までもれなく取りまとめている。一口に移入種問題と言ってもさまざまなはじまり方と展開があり、それぞれに事態は異なる。そのような複雑さを切り捨てず、真っ向から相撲を取る姿勢もまた、評価されるべきだ。加えて言えば、移入種問題を語るのであれば避けては通れない「捕殺」に関しても、反論を恐れずしっかり主張しているのも好感が持てる。
主張と調査、取材のバランスが良く、構成、文章のレベルも高い。非常の良い本であり、面白かった。名著。