イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

とある飛行士への追憶

犬村小六ガガガ文庫。なんとなーく「この本を読みなさいよ」と本屋で主張していたから手に取った一冊。最近年を食ったのか、ガガガの水が体にあって仕方がありません。さておき、ファンタジーというか「ここではない場所」を舞台にした、空戦&ボーイミーツガール小説でした。科学背景的には1940年代、場所的にはイタリア+ヴィクトリア朝イギリスと日本が海を隔ててギスギスしています。
まぁ丁寧な小説だなぁ、と思いました。空中戦艦とかそういうのも出てくるんですが、一応出て来る理由付けも説明ではなく素直な描写として織り込んできます。主人公が所属している西洋っぽい陣営は超クラス社会であり、そこらへんの生臭さが丁寧に描写されていたのが好印象。あと、空戦の描写がよく練ってあり、情景が目に浮かんでくる文でした。
やりたいこととやるべきことを、しっかりと捕まえた小説であり。空戦、冒険、身分差のあるボーイミーツガールという三本柱を据えつけ、それを文章力と設定の地面で支えている感じでしょうか。ラノベはまぁ色々と現実を離れた場所と事と物と人を練りこむものですが、本来ないモノを丁寧に組むことで、人の心の機微とか、風景の描写とか、矢継ぎ早の冒険とか、まぁ古い小説力に溢れた(そして古い小説力を必要とする)ものを浮かび上がらせています。
一巻で用意した食材を全部使い切り、過不足無く終わらせる。小説として出版される以上そこがスタートラインなはずですが、実際ゴールと言っていいほど稀有で、難しく、そして達成してしまえば小説としては十分完成されている。そういう部分が丁寧にくみ上げられた、よい小説だったと思います。