イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

動物たちの心の世界

マリアン・S・ドーキンス青土社。「動物の心」の有無に関する、近年の研究を一般向けに纏めたライトサイエンス。筆者は利己遺伝子で有名なリチャード・ドーキンスの元妻。だが内容は行動心理学と動物学を主軸に据えており、もちろんリチャードの分野とは関係ない。
この本に特徴的なのは、「動物の心」を肯定する立場と、「動物の心」を否定する立場(正確に言えば、肯定する立場の理論的脆さを鑑みて、断言できる材料はないとする立場)を交互に行き来する筆致である。「動物の心」は科学の中では、それなりに古い問題であり、同時に(他の科学と同じく)方法・理論の発展により日々刷新されている新しい問題でもある。この本は、新旧・肯定否定を縦横無尽に行ったり来たりし、読者の腰を安定させない。
筆者は「動物の心」を観測するときに入り込む、研究者の先入観や予断を細かくあぶりだし、科学的判断と独断の中間にあるこの問題の独自性を強調する。同時に峻厳な方法論でデバイスを排除し、多数の審査を経てもなお優位だと判断できる実験結果も、多数紹介している。どうしても独立したマテリアルとして認識することが困難な「心」の問題を、科学で扱うことは難しい。一見どっち付かずとも取れる筆者の立場は、「心」の科学研究のややこしさを扱う上での慎重な立場といえる。
動物のみならず、「心」の科学的扱いを丁寧に解説した本である。無味乾燥に思える行動主義心理学を、解りやすく味わい豊かに書いた本としても、高く評価できる。良著。