イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスターシンデレラガールズ小説 『Encore』

「(スポットライトが灯り、舞台袖から、アコースティックギターを持った多田が出てくる)
あー、どーもどーも。アンコールありがとうございます、あざーす(鼻をすする音)
(ざわつく観客席。「泣いてる?」「李衣菜ちゃん泣いてる?」という声がする)

 

あー、心配かけちゃってるかな……はー、隠しきれてないなぁ。

ちょっとね、ステージ終えて気が緩んだのか、出ちゃいましたね、鼻水(鼻をすする音、軽い笑い)
心配されたまんまじゃロッカー失格なんで、事情を説明しますと……どっから言おうかな……(「全部言って!!」という声)

 

んじゃお言葉に甘えて(笑い)、ステージ始まる前に『トムとジェリー』、見てたんですよ、カトゥーンの。
楽屋でね、『うわー、緊張してんじゃん私、もう22なのにッ!』ってなって、解そうと思って古き良きね、古き好きカトゥーンを見て笑おうと思って。
ネズミがいたずらを仕掛けて、ネコがムキになって追いかけて、ひどい目にあって、大笑いっていうね、くっだらないスジなんですけどね、やっぱ面白い。
あっはっは~って笑ってたら、ふと思い出しちゃったんですね。

 

そういえば、17の時もこれ見てたな、って。

 

あの時はまだ私アイドルで、ていうかアイドルなりたてで、*(アスタリスク。多田がシンデレラプロジェクトにおいて、前川みくと結成していたユニット)も出来たてで。
みくとは反りが合わなくて……アイツ人の目玉焼きに、勝手にソースかける女なんですよ! めっちゃ許せんね!!(笑い)……まぁ合わないなりに、仕事は仕事だからなん
とか妥協点をね、見つけようとしてた時期ですよ。

 

共演者がすんごい遅れてて、やんこともないからビデオ見よっかってなって、プロデューサーが持ってたのがCPのPVと何故かトムジェリしかなくて、PVは夢に見るくらい見てたから、んじゃあ消去法で……ってなって。
最初はぼーっと見てたんですけど、やっぱ面白いからだんだん入ってきて、一緒の所で笑うとなんか気恥ずかしくて咳とかしちゃってね、お前ら付き合いたての中学生か!! って感じですよ今思えば!(客席笑い)
恥ずかしいから、場を持たすために私こう言ったんですね。

 

「こんな体でかい猫がさー、ネズミと遊ぶわけないじゃん、所詮アニメじゃん」って。

 

いやー、殴りたい(客席爆笑) 17の私を、タイムマシーンで殴りに行きたいですね!!(万座爆笑)
(咳払い)みくは困ったように苦笑いして、そうだねとも違うよとも言わずに、「新しい話しやるよ、梨衣菜チャン」とだけ言ったんですけど。
そん時はまぁそれで終わって、だいたい二週間後くらいにノースエントランスがあって、忙しい忙しいアイドル生活がようやくスタートする時期なんで、ずーっと忘れてたんですよね。


あの時から5年過ぎて、またトムジェリ見て、今度は一人でバックステージでアンコールの声聞いて、今日あったこととか、色んな事とか考えて。

ようやく気付いたんです。
『多分トムは、ジェリーのこと好きで、小さなネズミに合わせてくれてたんだろうな』って。
『そういうのネズミに感じさせないのが、ネコの強さで優しさなんだろうな』って、思った。

 

アタシあの時17だけどほんとガキで、ギター一切、ホント一個のコードも弾けないのに『ロックなアイドル、目指してます』とか言ってて(笑い)。
NGが美嘉さんのステージでダンサーデビューした時も『バックダンサーとかロックじゃない』とか言ってて、んじゃあムッチャ入れ込んでたNGの気持ちはどうなんだよ!! ってかんじですけど今思えば……ああ、タイムマシーンが欲しい(客席笑い)
ヘッドフォンいつも付けて、ツンツン尖って自分守ってて、イヤーなガキを煮詰めたような嫌なガキでした。

 

みくは2つ下だったけど、私より全然大人で、ずっとアイドルになりたかった夢持ってて……知ってます? アイツ、デビューできない頃キレて喫茶店占拠事件起こしてるんですよ。
今はザ・アイドル! ボス猫!! って感じですけどね。
それも強い気持ちがあるからかなって今は思いますけど……ええ、当時は『アツくなるとかダサい』って思ってました、少し。
ああ、タイムマシーン、タイムマシーン(客席笑う)

 

みくは常時フワフワしてた私よりアイドルっていう仕事に本気で、いつもやるべきことをしっかりやってて、背筋を伸ばして猫耳つけてました。
『口うるさい猫だなぁ。お前は私のママか』って当時は思ってましたけど、そういう部分をみくがしてくれなかったら、*はすぐ潰れてただろうし、今こうしてアンコールをもらうこともなかったかな。
でもみくは、やってた当時はそういうこと全然感じさせないで、ギャーギャーいがみ合って、楽しく……凄く楽しくアイドルさせてくれて、凄く良かった。
嬉しかった。


(スポットライトを見上げる)会いたいなぁ……みくの話してたら、すごくみくに会いたくなった。会いたくなっちゃったよ……。
って、死に別れたわけじゃないんだから、歌ってる限り、どっかに届くわけですけどね!(観客拍手)

 

アイドル辞めて二年、シンガーとして出なおして一年。
ようやく漕ぎ着けたワンマンライブだから、ケジメ付けたほうがいいかなぁとか思ったんですけど、やっぱアイドル時代、CP時代、*時代あっての多田李衣菜で。
思い出は、夢みたいに綺麗で泣けちゃって。
そういう気持ち引っ括めて、ちゃんと受け止めたいし、受け止めて欲しいんで、アンコールの曲はこれにします。

 

*で「ØωØver!!」です。
即興でアコースティック&ソロにアレンジできるくらいには、梨衣名チャンのギターも巧くなったぜ、みくちゃん。

 


道玄坂RockMAGMA、多田李衣菜ワンマンライブ『Back&Again』よりMC抜粋)