イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

乱歩奇譚:第7話『パノラマ島奇談(前編)』感想

折り返しを過ぎた猟奇VS味のない犯罪アニメ、今回は探偵アケチの憂鬱。
パノラマ島事件解決の準備をしつつ、これまであまりピンとこなかったアケチ先輩の一人称でお話を進めることで、彼の内面や価値観に切り込んでいくお話でした。
アケチパイセン、思いの外常識人かつ寂しがり屋であり、年上の犯罪者ばっかりの生活はさぞつまんなかったろうな……。

探偵アケチにメンタルダイブする前の枕として、コバヤシ少年の退屈な日常も描写されていました。
猟奇が起きない限り相変わらずの灰色っぷりで、思わず大槻ケンヂの『新興宗教オモイデ教』他、暗黒ジュブナイル諸作品の主人公たちを思い出しちゃった。
世界を軽蔑しつつ心のマグマを貯めこんでいる少年が、よく尖らせた鉛筆とか人間の心をズタズタにする電波とか手に入れると、とんでもなくロクでもない事になる。
アケチと出会って心のマグマを流す筋交いを作れたことは、コバヤシ少年にとって善かったんだろうな。
あと、サラッと出てきたハナビシ先生がどう考えても大丈夫ではないので、早めのメンタルケアしないと凄くロクでもないことになると思う。


コバヤシ少年の日常と、パノラマ島で事情聴取をするアケチの認識はかなりの部分被っていて、キリコのトルソめいた凡人たちの認識から、アケチもまた日常を疎んでいることがわかる。
しかしアケチは猟奇的であることに浮かれず、押し流されず、地道に現場を検証し証言を集め、事件解決のための見取り図を作る。
猟奇犯罪を非日常の世界として、それこそパノラマ島のようなグロテスクなテーマパークとして楽しむコバヤシ少年とアケチとは、実はつまらない日常への思い入れが違うのだ。
不眠症と頭痛に悩む国家公認探偵は、思いの外常識人で普通だ。

黒蜥蜴の証言からして、電人Mも青銅の魔人も鉄人Qも過去の事件であり、語られはしないが魅力的で猟奇的な事件の幾つかが、既にアケチ少年の上を通り過ぎていったのだろう。
黒蜥蜴や影男のようなキャラの立った犯罪者になることも、カガミやワタヌキといった現実的で冷めた犯罪者になることもせず、アケチは犯罪を解決し続けている。
つまらない日常への忌避感と逸脱への嫌悪という、矛盾する認識がおそらく、アケチの頭痛の原因だ。

常識と狂気、日常と犯罪。
どっちもつかずで際に立ち続けることは思いの外大変で、情報を脳内の劇場で整理・再演可能な異能は必要だし、それも完全な制御下にはなく、疎みつつも気になってしょうがない隣人たちが勝手にしゃべる。
脳内劇場をテンポ良く取り込んだアケチの天才描写は、結構スマートでよかったな。
完全な探偵、理性の怪物たろうと務めるアケチにとっては、ハシバやコバヤシ少年や黒蜥蜴の闖入は不本意なことなんだろうけど、そのノイズこそ彼が開放的な人間だという証明でもある。
そして多分、過剰に正義が無化されてるこの作品世界において、彼の普通さはとても大事で善いことなのだ。

アイスピックで砕いた睡眠薬に缶コーヒー、蓮っ葉な言動、無痛症(おそらく)。
取ってつけたように人を遠ざける奇行と記号に相反して、彼は人情家で激情家で、面白い人物なのだということが、探偵アケチの一人称で語られた今回のお話から判った。
僕はそれが、とても面白かったのだ。

黒蜥蜴の証言からして、過去に個人的な何かがあった結果、アケチが二十面相に強い執着を抱くことになったのは、間違いないと思う。
加えて、執拗に中村刑事にカガミの事情を聞きたがるところからして、あの堅物で正義の概念存在のような男のことが、アケチは結構好きだったのだろう。
つまり、二十面相事件はただの胸糞悪い私刑犯罪というだけでも、日常から逸脱した猟奇犯罪だというわけでもなく、探偵個人の事件でもある、ということだ。
作品で起きていることと主人公が繋がったわけで、今回の一人称的描写最大の報酬は、実はこれなのではないかと思う。
やっぱ主人公が作中の出来事に執着し、何らかの価値を見出していないと創作物は面白く無いもんな。


パノラマ島事件の方は、謎解きのための準備段階という感じ。
流行りもんを取り敢えず触っておく姿勢は今回も健在で、ブラック企業の経営者と浅薄なメディアクリエイターがザックリ死んでた。
熱のない時事ネタ描写よりも、歪んだリビドーを煮て固めたようなマネキン地獄の描写にパワー入ってたのは、悪趣味が良くて好みです。

今後の布石としてはパノラマ島事件よりも、『ハシバがギャンブルに弱い』描写のほうが不穏な気もする。
カガミ刑事の一件で、身内のネームドだろうと容赦なく犯罪者に落とすことがわかったので、次崩されるなら中村かハシバだろうし。
最近魔少年に誑かされる要素ばっか強調されるけど、アイツの常識的な所結構好きなんだけどなぁ……。

丁寧に状況を構築しつつ、探偵アケチの内面をしっかり描写した回でした。
後半の解決編でも事件以上の何かを見せてくれるのか、楽しみです。
地味に作監すごい人数いたのが別の意味で気になるけど、大丈夫でしょう多分。