イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うしおととら:第25話『H・A・M・M・R~ハマー機関~』感想

邪悪なる宿命を仁義の刃で切り裂く青春伝奇ストーリー、今週はマッドなサイエンス組織との対峙だよ。
宗教を力に変えた光覇明宗とはまた違うアプローチで、白面と戦おうとする科学集団HAMMR。
その暴走に囚われた潮と麻子、とらが真っ直ぐな気持ちを叩きつけることで、間違った強さを手に入れようとしていた大人が変わっていくというお話です。
いつの間にか歪んでしまった信念を青年の生真面目さが正すっていう構図は、うしとらの基本構造と言って良いくらい共通したモチーフなんだな。

手段が変われば内容も変わるもので、自尊心と狂熱が特徴的だった光覇明宗に比べると、冷静すぎることが不気味な印象を生んでいるHAMMR。
僕らは潮と一緒に獣の槍誕生に込められた因縁と痛みを知っているわけで、それを冷徹に切り分けていく科学者の視点は、確かに拒絶したくなる冷たさに満ちています。
あそこの潮の表情は見事に情念を練り込んだ作画になっていて、相変わらずキメ所の演出は外さないアニメだなぁと感心。
畠中さんの熱演も、原作の熱気をアニメに取り入れる重要なファクターになってますね。

前編である今回はHAMMRの人間的な側面はまだ公開されず、科学が持っているイヤーな側面だけが強調され、彼らが何を守りたくて道を間違えたかは、隠蔽されたままです。
そこら辺に切り込んでいくのが『"しあわせ"を作り出すのが科学なんじゃないの!?』という麻子の咆哮なわけで、人非人が仮面を外し、人情見せるための温度上げが巧いですよね。
ここら辺はタメてタメて待ち構えてから、満を持して救世主として登場するとらちゃんの緩急もよく効いてまして、あそこで引いたのはいい演出だったなぁ……。

前回真由子がヒロインだったので、今回はこれでもかとばかりに麻子がヒロインポイントを荒稼ぎしています。
とらと親しげに離したり、信頼関係を感じさせる脱出劇を見せたり、バルちゃんとの触れ合いの中で異能事件にも手慣れた様子を見せたり、ただの日常の象徴から少し踏み出した変化も強く感じられました。
黙って守れられているだけでは藤田ヒロインは務まらないわけで、積極的に事態を解決しようと動く麻子の力強さと頼もしさが素晴らしい。


アニメになって見返してみると、うしとらの根底にはかなり正統派の儒教的価値観、『仁義』
の考えがあると思えます。
任侠創作物の中のジャーゴンと化してしまっている印象もある『仁義』ですが、理由なく人を慈しむ『仁』も、利害や固定観念を超えた根本的な人倫にしたがって行動する『義』も、原義としては人間の生き方をより良くするための観念であります。
バルちゃんの苦境に共感し憤る麻子の姿は正しく『義憤』ですし、白面の欠片に囚われたバルちゃんを一度は犠牲にしようと決意するものの、そこに自分と同じ赤い血が流れていることを確認して矛先を止める潮には『仁』があります。
『みんなのために僕を殺して!』というバルちゃんの姿も『仁』を宿していると言え、その倫理性を目の当たりにしたからこそ、潮も槍を止めたのでしょう。

科学的計算に走り過ぎて『"しあわせ"を作り出す』という科学本来の『仁』を忘れているHAMMRの現状と合わせて描写することで、主役たちの倫理的優位はより鮮明になっています。
重要なのは『今は』色々忘れて道を間違えているHAMMRも、白面を倒すという大目標においては潮たちと同じはずであり、しかしその目的のために手段を捻じ曲げてしまっては白面と同じ存在になってしまうという、お話しの根本的なルールです。
一見何の役にも立たたない人間としての倫理的優位性、傷だらけの『仁義』がしかし、主役を白面から区別する最も大事な要素なのだということが、今回強調されていたように思うわけです。
主人公として毎回真っ直ぐすぎるほどまっすぐに活きている潮は当然として、潮が守るべき対象である麻子もまた、正しくないことに怒り正しいことをするべく体を張る、『仁義』に溢れた存在だと確認できるエピソードがここで来たのは、なかなか嬉しいところです。

うしおととらという作品は正しさを甘やかすことはせず、むしろ非常に厳しい試練を課して課して課しまくることで、主人公たちが抱えた『仁義』が本物か試してくるお話です。
だから正しいことをする潮達は無条件に報われるわけではないけれども、しかしそれを試すのは『仁義』の信念を製作者が本当に大事に思っているからであって、心の底から相手を思う気持ちが空回りするという話でもありません。
麻子が科学者に向けた吠え声に込めた魂はちゃんと届き、大きな変化を呼びこむわけですが、それは来週とその先のお話です。
HAMMR編をどうまとめるのか、クール終わりをどう引くのか、潮と麻子の『仁義』はどう報われるのか。
うしとらアニメ2クール目最終話、非常に楽しみです。