イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第4話『ヴァナキュラー・モダニズム』感想

吹奏楽と人情と青春と謎解きがクロスする複合ジャンルミステリ、今回は建築オカルトな謎解き。
ハルタの生活苦をフックにして、奇っ怪な遺産の謎を解いて過去のわだかまりを解消するお話でした。
大仕掛けで荒唐無稽な楽しい謎も良かったですが、いつも無敵の探偵様をしてたハルタのマウントを取れる姉者が出てきたことで、彼の弱さが感じ取れたのが個人的には嬉しい回でしたね。

日常の謎ミステリにおいて自分が背負っている謎を解かれるということは、自分の見せ場を失うってことだと思うわけですが、この話はむしろその後、謎に込められたわだかまりを探偵が解消してからのキャラの表情が、凄く魅力的に描かれています。
弱く可愛い生き物二号(一号はチカちゃん)こと成島さんが一番わかり易いけど、前回家族の問題を解消してもらったマレンの両親がフランクな姿を見せたり、謎解きで終わらない価値をお話しの中で継続して見せているのが、凄く好きです。
これは吹奏楽部の再建物語を内側に繰り込むことで、謎を解いて『倒した』キャラクターを部活の仲間に変化させ、青春を共有できる立場を与えているのが、凄く大きいと思います。

ハルタの明晰な頭脳によって謎を解かれることで、肩の力が抜け魅力的な表情を見せるようになったキャラを見ていると、頭が切れすぎて小憎らしい側面もあるハルタを認めざるをえないわけで。
謎解きをただの知的体操で終わらせずに、感情の開放弁として機能させ、カタルシスがやってきた後の魅力的な変化をしっかり追いかけることで、このお話の中の謎解きは値段が上がっているように思うのです。
逆に言うと、その値段を上げるためにも成島さんを可愛く描いているというか。
いやホントね、チカちゃんと成島さんがキャイキャイキャイキャイしてるシーンの新鮮な可愛さは、このお話のニトロブースターだと思う。

今回謎を解いてもらった大家さんは部員ではないので、例えば第1話の名も無き告白者のように特に拾われることなく終わるのかもしれませんが、毎回『頑なな気持ちが謎と一緒にほぐれて、とても良かったなぁ』という気持ちでお話が終わっているのは、素晴らしいことだと思います。
今回の話は謎を残す側だったオジサンが、困ったこともあるがどうにも憎めない人だと(ラストの大仕掛含めて)しっかり描写されており、それに呼応する形でついついきつい当たり方をしてしまった大家さんの後悔にも、ちゃんと体温を感じて受け止めることが出来た。
日常の謎というジャンルを選んでいる以上、日常的な感情が持っている細やかな肌理を視聴者に感じさせられるかどうかってのは大事だと思うわけですが、このお話の人情の描き方、受け取らせ方は凄く上手だと思うし、好みでもあります。
謎という重荷を下ろした後のキャラクター描写引っくるめて、作品世界に優しい眼差しを向けながら作っているというか。


そういうふうに世界を切開出来るのも、優秀な探偵ハルタがさっぱさっぱと謎をさばいているからなのですが、彼はどうにも理が勝ちすぎて可愛げがない印象を受ける。
そこら辺は彼の天才性の表現であり、彼だけが謎を解きそれに囚われた人々を開放する特権を持っている説明にもなっています。
姉に振り回されていた前編から、見取り図を見て謎を直感した瞬間に、スッと探偵の表情に代わる描き方が凄く良かったですね。

しかし彼が怜悧であればあるほど、チカちゃんや成島さんに代表される気楽な人々の親しみやすさは彼から遠ざかっていってしまいます。
人情の温かみにこのアニメの良さを感じている身にとっては、お話を迷わせずに進行してくれるありがたさを感じつつも、どうにも勿体無いなぁと感じる瞬間がたまにある。(これは『青春する』お話であるこのアニメが、メインモチーフを非常に巧く描いている証拠だともいえます。青春の季節には思いやりが満ちていて、暖かくあって欲しいなぁと僕はいつも願っているし、それが他のキャラの描写ではかなっているが故の『勿体無いなぁ』でしょうし)
そういう視点から見ると、今回人間関係でハルタの優位に立てる姉が登場し、追い込まれ狼狽するハルタの姿を見れたってのは、なかなか良かったです。

無論『弱さ』だけが人間性を宿す器ってわけではないですし、理性で謎をどんどん解いてお話を牽引していくハルタは『強く』なければいけない立場でもあります。
ただ今回、『強い』ハルタが一瞬見せた脇の甘さによって、『弱さ』が完璧な探偵にも存在していると一息つくことが出来て、なんというのかな、ようやく探偵ハルタの推理激を遠目に見守るのではなく、一緒に肩を組む間合いまで近づくことが出来たような気がしました。
無論これは錯覚で、部長と結託してマレンをノセた時にも、成島さんのルービック・キューブを塗りつぶした時にも、彼は誤解されやすい怜悧さの奥に人情の気配をちゃんとさせていました。
しかし今回の姉への対応はすごく分かりやすく彼の『弱さ』を見せていて、物語進行をスムーズにし物語的存在意義を強調する彼の『強さ』と対照することで、探偵の魅力がいや増した感覚を覚えたわけです。

この『強さ』と『弱さ』のバランスは色んなキャラクターに徹底していて、今のか弱いいきもの成島さんがあんなにキュートなのも、登場回で非常に思いつめて頑なな姿を印象づけていたせいでしょうし、クリスマスを家族と過ごすマレンに何か安心できる空気を感じるのも、彼がどれだけ『自分は売られた子供なんだ』という意識に苛まれていたか、巧く見せれていたからでしょう。
ワトスン役であるチカちゃんもそのコミュニケーション能力の高さ、探偵であるハルタが持ち得ない(持ってはいけない)計算の無さを非常に魅力的に描くことで、謎の前では『弱い』存在なんだけど、人間の前では『強い』存在という感じに、得意分野を探偵と巧く交換しながら青春していると感じます。
ワトスン役の定番として、超理性的探偵が気づかない情緒的側面をチカちゃんが拾い上げるシーンがちゃんとあることも、『強い』『弱い』の相互関係を基本守りつつ、固着しないように適度に回転させ、キャラクターのいろんな側面を見せる芳醇さに繋がっているのでしょう。

今回のエピソードは『強さ』と『弱さ』の出し入れが気持ちよかったわけですが、実はずっと『強い』ままのキャラクターがこのアニメにはいます。
あらゆる状況で余裕を崩さず、ハルチカの幼い恋を受け流し教師として二人を導いている、草壁先生です。
この作品のキュートさが『強さ』と『弱さ』を的確に回転させることで生まれている以上、『強い』草壁先生の『弱さ』が顔を出す瞬間が必ずあるんでしょうが、それは大ネタなのでじっくりやる感じですね。
今回のエピローグで姉がビデオを持ってきてくれたおかげで、『家族の喪失』『音楽からの脱落』という草壁先生の『弱さ』に繋がる伏線はしかれたと思いますが、それを回収するのはラスト近くかなぁ……。
けしてクローズアップされないとはいえ、このお話が『弱小吹奏楽部の成長物語』というレイヤーを被せられている以上、それを引っ張ってくれる草壁先生は簡単には『弱く』出来ないもんね。


そんなわけで、今回も謎というわだかまりを解いて、関わった人が少し幸せになる、気持ちの良いコンパクトさでまとまったお話でした。
あのアパートを作る手間とか、地震対策やら強度やら余計なことを考えはじめるとコンパクトとはいえないかもしれませんが、ジャラジャラと庭を埋め尽くす五百円玉の絵面に凄く夢があって、『何だかいい夢を見たな』と思えるエピソードだったのは間違いがない。
薄暗いことも多い僕らの毎日に少し似ていて、もっと輝いている姿を強調してみせるのが日常の謎ミステリというジャンル、青春小説というジャンルであるのなら、『何だかいい夢を見たな』と思えるのは、凄く大事でしょう。

ハルタの『弱さ』と『強さ』が感じられるお話運びと合わせて、このアニメの強いところである『こういう奴らがいてほしいな』と思えるキャラの魅力が良く出ていて、良い第4話だと思いました。
探偵と謎にフォーカスするよりも、それを取り巻く様々な人々の肖像(とその変化)を、じっくり丁寧に追いかけているところが、非常にポジティブな意味でのファンタジーとしての魅力を、このお話に与えているのかもしれない。
そんなことを考える、ハルチカ第4話でした。