イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第170話『アイドルのチカラ』感想

全てがSLQCという舞台に集約しつつあるアイドル活動、今回は第167話を受け取っての瀬名あか回……というよりも、家族との関わりやアイドルとしての大空あかりの強みも含めた、あかりちゃんの二年間の集大成でした。
星宮いちごのポーザーとしてお話に登場し、泥をすすって最底辺を歩いてきた彼女が持っている最強の武器『笑顔』にクローズアップした、説得力のある回だったと思います。
無論瀬名さんの総括としても素晴らしい出来で、2016年になってからのアイカツは本当に切れ味がヤバい。

今回のお話、展開的にはかなりじっくりとした回し方で、キャラクターの表情やリアクションをクローズアップで捉えるシーンの多い回でした。
アイドルとして必要な引力を持ち、様々な人の目を奪う沢山の『笑顔』を、しっかり時間を使って見せる。
これはあかりちゃんがクイーンを獲ってもおかしくない説得力を視聴者に見せる回であること、その説得力が『笑顔』であることを考えると、かなり分かりやすい演出だと思います。
同士に見せる笑顔、母親に見せる笑顔、ファンに見せる笑顔、スタッフに見せる笑顔、友だちに見せる笑顔。
今回あかりちゃんは沢山のスマイルを見せるわけですが、その全てが丁寧に切り取られ、細かくニュアンスが異なる切り取られ方をしていました。

相手によって色合いは変わるものの、作中でもママンが述べらていたように、あかりちゃんの笑顔が誰かの笑顔を生み出す、アイドル力のあるスマイルです。
いちごちゃんとの差別化の意味もあって、あかりちゃんはアイカツ世界が許すギリギリのシビアさで現実を泳ぎ、泥臭い努力を積み重ねてここまでやってきたアイドルです。
そんな彼女の道程を知っているからこそ、ただ脳天気に笑うのではなく、しんどい状況だからこそ涙の代わりに笑ってきたあかりちゃんの笑顔は、辛い今日を歩き通して明日にたどり着く力を、様々な人に与える。
『SLQCへの説得力を整理し、積み上げる』という1月からのシリーズテーマを鑑みると、今回示された大空あかりの『強さ』の説得力は二年間の歩みを踏まえて見事なものです。

アイドルという存在が何を以って尊く強いかというのは、色々な答えがあると思います。
神崎美月のような圧倒的なカリスマ、星宮いちごの持つハッピーで暖かなオーラ、有栖川おとめの親近感、氷川スミレの美貌。
作中のファンが何故アイドルたちに視線を奪われ、彼女たちを見上げるのかという答えはこのアニメ、ずっと丁寧かつ個性と説得力を持って描写してきたと思います。
今回、しんどい立場でも笑顔を忘れず、笑顔を生み出してきたあかりちゃんの姿、それに惹きつけられる周囲の人々をじっくりと写したことは、彼女の個性、彼女だけが持っているアイドルとしての強みを整理し、視聴者に伝える上で、凄く大事なことだったわけです。


彼女が持っている強みはもう一つあって、瀬名さんとの複雑な関係が生み出すパワーです。
アイドルとデザイナーであり、お互い刺激を受ける同士であり、優しい世界で許される限りの泥を啜ってきた努力の人であり、敬意と愛情が交錯する関係でもある。
瀬名翼が大空あかりに引き寄せられる引力、あかりちゃんが瀬名さんを見つめる視線の重力もまた、これまでのエピソードの中で丁寧に積み重ねられてきたわけですが、ドレス製作の苦悩の中でセナさんの中のあかりちゃんをまとめ上げることで、その関係の総決算も同時に行ったように思います。

ただの恋ではなく、ただの友情でもなく、ただの尊敬でも、憧れでもない、色んな相が相混じった複雑な色合いの空が、二人の間には広がっています。
その感情にはとんでもない熱量と爽やかな健全さがあって、沢山のエピソードを計画的に積み上げたキャラクターだけがもつ、一言では言い表せない、しかしひと目見れば判る濃厚な感情のうねりが存在している。
今回スターライト学園からドリーミーレイクの距離をあえて飛ばさず、丁寧に描写したのは、物理的な距離を苦にもせず、お互いの元へと駆けつける思いの強さと特別さを、映像で表現したかったんだと思います。

今回瀬名さんは泥臭く衣装製作に悩み、あかりちゃんの笑顔を見つめることで前に進む力を手に入れ、ドレスを完成させます。
彼がアイドル・大空あかりの一番のフアンであるというのは、例えば劇場版を見ても判ることですし、あかりちゃんの勝負ステージには必ず駆けつけていることからも、平易に理解できるところです。
セナさんは今回、デザイナーという特別な立場であると同時に、アイドル・大空あかりが偶像として、笑顔で力を届け前に一歩進むエネルギーを与えてきた、数多のフアンの代表でもあったのだと思います。
あかりちゃんの『笑顔』という武器を使って、混迷から抜け出し見事なドレスを完成させる瀬名さんの姿を切り取ることで、彼と同じようにあかりちゃんの笑顔を見て元気になり、なんとか前に進むエネルギーを振り絞る、アイカツ世界の名前も顔もないフアンたちを、僕達は想像できる。
それはアイドル・大空あかりがどこまで到達したのか、顔のある人達のドラマを描く以上に説得的に見せる、豊かな広げ方ではないかと、僕は思うのです。


あかりちゃんの笑顔はもはや生き方なので、瀬名さんにだけ向けられているわけではありません。
スタッフや、スミレちゃんが代表する友人たちや、父や母にも向けられている。
今回スケジュールの合間を縫って家族との交流するあかりちゃんを切り取ったのは、瀬名さんとはまた違う彼女の味方、彼女の強さの根源を見せる意味でも、良い演出だったと思います。

あかりちゃんという人物の根本を理解し、その人生すべてを肯定し支えてくれる両親(特に母)。
その姿は例えば第115話『ほっこり☆和正月』などでも描かれていたわけですが、今回の描写は保護者から半歩先に出た、自分だけの生き方と強さを手に入れた一人格として娘を認める、巣立ちを控えた母鳥の姿でもあった気がします。
アイドルとして地保を固め、家という宿り木にもじっくり腰を落ち着けられないほど、自分の世界を手に入れたあかりちゃん。
でもそんな彼女の『強さ』を真っ先に理解し、言葉にしたのは他でもない母親であるという今回の見せ方は、あかりちゃんが二年間歩くことで手に入れた強さと成長、それを見守り育んできた家族の大事さと暖かさを、しっかりまとめ上げていたと思います。

今回はスミレちゃんも良いトス上げをしていて、少し迷った時に背中を押したり、必要な言葉をかけたりして、瀬名さんとあかりちゃんの二人三脚を応援していました。
スミレちゃんも引っ込み思案だった登場時からあかりちゃんの笑顔と出会い、大きく変化したキャラクターなわけで、今回のエピソードは大空あかりの『笑顔』に引き寄せられ、それを糧によりポジティブな方向に歩き出した人たちのスケッチでもあったと思います。
素直に受け取れば友達のことを良く理解し、受けた友情に報いようとする善い隣人なんだけど、どうしても素直に受け取れない闇をスミレちゃんには感じちゃうんだよな……そんなスミレちゃんが俺は好きなんだけどネ。

しんどい道の途中でも笑顔を忘れなかった結果、あかりちゃんは沢山の人に笑顔を与え、支えられるアイドルに成長しました。
その成果がしっかりとステージングに出ていたのは、お話に説得力を与える上でとても大きかったと思います。
堂々とOPを背負っての歌唱、レースがディレイで揺れる表現の見事さ、大胆かつ魅力的なカメラワークと表情の芝居。
"今日が生まれ変わる センセイション"という歌詞ではじまる"START DASH SENSATION"は、SLQCに向けて全ての武器を揃え直した今回の構成にすごくしっくり来て、良い選曲でした。
今回瀬名さんに"未来向きの今を 君に見せ"たからこそ、彼は全力の一歩先のドレスを仕上げることが出来たわけで、自分のために笑顔でいて、前に向かって走り続けるアイドルが周囲に何を与えるのか、アイカツ全体のテーマにも関わってくるステージングだったように思います。

また、瀬名さんの処女作オデットスワンコーデのラインを引き継ぎつつ、ブライダルな衣装と『大空』の名を盛り込んだホワイトスカイヴェールコーデは、原点を振り返りつつ成長を確認する今回のエッセンスを見事に表現した『芝居をする衣装』だったと思います。
胸元と腰の薔薇を合わせると7+5=12でダズンローズなんだけど、手首とティアラにも薔薇があしらわれてるから別のメッセージなのかなぁ。
最後に『せな』かに『つばさ』を与えるイメージシーンの見事さもあって、あかりちゃんが誰に支えられ、どこまでやってきたのか、非常に見事にまとめたお話だったと思います。


神崎美月を『アイカツの天井』から下ろし、第124話『クイーンの花』でSLQCを『アイカツの天井』に設定したシリーズ展開、その集大成とも言えるお話でした。
アイドルが自分のすべてを出し尽くし、物語全体を総括する場としてSLQCに説得力を持たせるためには、やはり主人公ユニットとしてお話しの真ん中にいた三人が、これまで何を積み上げ、何を手に入れ、何を求めて決戦に挑むのか、しっかりまとめ上げることが大事でした。
スミレちゃんも、ひなきちゃんも、そしてあかりちゃんも、それぞれが何故アイドルとして『強い』のか、SLQCにどれだけ強い思いをぶつけるのか、しっかりと掘り下げられた気がします。

そして今回は、大空あかりという凡人がアイドルになった理由を掘り下げることで、『アイドルとはなんなのか』という問に、一つの答えを出す回でもあったと思います。
凡人として真っ直ぐに、泥にまみれながら笑顔を浮かべ続けてきた彼女のスマイルには、アイドルに『何か』を求める様々な人の目を奪う、強烈な引力がある。
だから、SLQCを彼女が取って、『アイカツの天井』にタッチしてもおかしくない。
説得力のある良い結論であり、優れたアイドル論であり、おそらくアニメーション史上アイドルということについて一番長く語り続けたシリーズの一区切りに、絶対必要な話だと思います。

何よりも素晴らしいのは、スミレちゃんもひなきちゃんも各々のエピソードの中で、今回見せたのと同じくらいの説得力をしっかり積み上げ、誰が勝つのか読み切れない、誰もが勝って欲しいと思える状況が生まれていることです。
正直な話、ドリーム・アカデミーとの関係の中では掘り下げきれなかった、『私と違うあなた』だからこそ高め合うことが出来るライバル関係が、かなりの説得力を持ってうねっていると、僕には感じられます。
この感情のエネルギー、ドラマの渦潮がSLQCという舞台でどう炸裂するのか。
否応なく期待が高まる、大空あかりの総決算でした。