イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ルパン三世:第20話『もう一度、君の歌声』感想

ルパンだ! 車だ!! カーチェイスだッ!!! という単純なお話はやりゃしない2015、今回は人生の落日と思い出のお話。
『ルパンと車』で想定するスピード感をあえて落とし、哀しみも喜びも共有してきた老夫婦の人生をじわりと辿りつつ、寂寥感と爽やかさのある良いエンディングにつなげる、情感のあるエピソードでした。
第4話『我が手に拳銃を』といい、第8話『ホーンテッドホテルへようこそ』といい、2015のメロウな話は名作多いなぁ……。

今回ルパンはあくまで観察者でして、話の主役はジジイとババアと車。
愛するものが失われようとする哀しみに飲み込まれて、それを遠ざけることで痛みに耐え用とするジジイと、モノ言わぬババア、泥棒に満々と盗まれた尻軽車という、かなりヒネった主役の配置がまず良いです。
ジジイは屋敷を一歩も出ることなく話が進み、スピード感のないカーチェイスの中で銭形があっという間に事件を解決したり、ルパンの小粋な心配りで思い出を取り戻したりして、最終的にババア往年の名曲のように『部屋を出てお出かけ』することで話が収まる。
この動と静の対比(しかも『動』担当のクラシックカーは、色々あってスピードを出せない)が穏やかかつ鮮やかで、印象的な物語でした。

とにかく坂口芳貞さんが冴え渡っており、愛ゆえに傷つき、傷ついても離れられない分厚い感情が、どっしりと胸に迫ってくる貫禄の演技でした。
幸せだった時代の描き方もとても良くて、セピア色の思い出がとても鮮やかであればあるほど、もう動きも歌いもしないババアの姿が切なくなってきて、全部打ち捨てたくなったジジイの気持ちに共感できる。
子供のいないジジイとババアを無言で健気で繋ごうとするクラシックカーの演技も良いし、じっくりと美しい風景を歩き直すことで、輝いた日々を追体験させてくれる話のテンポも良かったです。

今回の話は失われた時間にまつわる話なので、ノスタルジーをどう醸し出すかってのが大事かと思いますが、ポンコツクラシックカーの象徴性と、『歌』が持っているモチーフとしての強さを活かしきって、とても懐かしい気持ちになれました。
なかなか気持ちを開いてくれないじゃじゃ馬に語りかけるように、ゆったり車を乗りこなすところもいいし、ジジイ本人は車には乗れないっていう不自由さも、話を豊かにしていて良い。
後あれだ、湖川友謙のやや癖がありつつ、やはり根本的な『絵の馬力』満載なリアルな作画が良かった……第13話以来二度目か?


話の主役はジジイとババアなんですが、んじゃあルパン一味が何もしていないかというと、例えば下らん詐欺を考えついて事件の準備をしたり、通信機越しに思い出をよみがえらせる小憎らしい善行をしたり、お話しの要をしっかり務めています。
とっとと詐欺事件を解決して、お話しの本筋をわかりやすくする有能なとっつぁんも、いい仕事だった。
車が早く走らなくても、ルパンが話しの主軸に座らなくても、詩情と面白さに満ちた話が生まれてくるというのは、ルパンシリーズが持ってる強さだなぁと思いますし、2015はそこを理解して話作っているなぁと痛感します。

ルパンは銭金を奪う泥棒なんですが、同時に倫理的に銭金を超越していて欲しいキャラクターでもありまして、そういうジレンマを気持ちよく解決してくれたのも、今回気持ちよかった。
ただのモノとして売り買いされる車に秘められた、ジジイとババアの思い出の大切さ、そして車自身の奇妙な愛情をしっかり読み取り、銭金の損得を投げ捨てて綺麗な物語を優先するルパンの姿は、『快盗』の名前にふさわしい。
泥棒というアウトサイダーだからこそ、一般的な倫理を超越して本当に大事なものを盗みとれるルパンの格好良さを、脇役に置きつつすごく大事にしてくれたお話だと思います。

ラストカットのキスシーンも綺麗で、見た後に『ああ、良い話を見た』と胸がいっぱいになるような、見事なエピソードでした。
24分間の間で、捻れたジジイの気持ちと人生がスーッと真っ直ぐになって、とても正しいお別れをして部屋を出て行く流れがしっかりあって、派手な部分は一切ないのに満足感があるところが、非常に良い。
緩急取り混ぜるだけではなく、緩急を使いこなし楽しい物語に仕上げる腕前をしっかり示した、白眉といえるお話でした。