イマワノキワ

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活撃/刀剣乱舞:第4話『守りたかったもの』感想

歴史の闇に潜み、影からあるべき世界を守る戦士たちの物語、新章開幕の第4話です。
時は1868年、江戸無血開城の英断を果たす勝・西郷会談を巡って、第二部隊と時間遡行軍が丁々発止の差し合いを繰り広げる回となりました。
落ち着いた会話シーンあり、お互いの手の内を読みあうリサーチあり、UFOの作画力を活かしたチャンバラありと、バラエティ豊かで楽しい感じに。
刀剣男士の内面を掘り下げるための足場も的確に挿入され、あんま目立ってなかった薬研くんの大立ち回りも良かったです。
鶴丸もさんざん焦らされた分、空から超かっこいい登場を果たして大満足であり、非常にいい塩梅に引きました。


おそらく活劇は3話でひとまとめのエピソードを4つ重ね、(3×4)=12話でやっていくシリーズなのだと思います。
なので4話目の今回は、新しい章の始まりであり、前章を簡単に取りまとめるところから開始。
国広いわく『これが僕らの本当の初陣』なわけですが、確かに陸奥守と兼さんの衝突を経て一つにまとまった第二部隊が、チームとして機能するシーンが多めでした。
隙あらば『隊長さぁ~ん』とねじ込んで、『オレ兼さんのこと認めてるぜよ。先週仲良くなったぜよ』アピールをしてくる陸奥守があざとい。

男の子たちの感情だけではなく、実際の任務を通じてチームっぽさをちゃんと見せてくれるのがとても良いですね。
一個しかないこんのすけの懐中時計は、リーダーである兼さんがもつことになる。
それは作中のタイムリミットを可視化する装置であると同時に、作戦中の時間配分を兼さんが決定し、チームの勝利条件を自分たちで設定できる自由と責任の象徴でもあります。

今回は結構早い段階で大目的(『会談の護衛完遂』)が判明し、敵の手筋を探りつつ、こっちの対応を決めていく感じ。
相変わらず時間遡行軍は色々考えて手を打ってきていて、大太刀の実力で押し切れれば良し、幕軍強行派が大砲をぶち込んでくれても良しと、王手飛車取りをかけてきます。
兼さんたちも自分たちの足で調べ、あるいは審神者データベースで史実と照会して、相手の手筋を探っていきます。
『敵味方ともに盤面が用意され、複数の勝利条件がある中で、チームを分割/統合して、全力で勝ちを拾っていく』感じは、やっぱいいなぁ。

大太刀とのチャンバラはかなりの時間を割いて描かれ、一筋縄ではいかない強者っぷりがよく伝わってきました。
1対4の不利な状況でも、背後や側面にしっかり睨みを効かせ、『連続』攻撃ではあっても『同時』攻撃ではない隙間を巧く埋めて立ち回る。
『重くて長い』大太刀の特色を活かしつつ、小回りがきかないところを体捌きと意識配分で補う、強いヤツの殺陣でしたね。
大太刀のアクションに説得力があるので、『二人置いて一時間抑える』という兼さんの決断にも切れ味が出るし、橋で抑え役を担当する二人が画面からハズレても蔑ろにされてる感じはしないし。
ここらへんの絵の強さを、ちゃんとキャラ表現・ドラマの展開に繋げているのはとても良いと思います。

『江戸無血開城』という史実をひっくり返すべく、時間遡行軍は大太刀という駒を盤面に貼る。
四人がかり(単騎での戦闘が多かった第1章との対比)で挑んでも『倒す』事はできない相手に、兼さんは『一時間抑えきる』という勝利条件を新たに設定し、勝ち負けの条件をズラしてきます。
『何がどうなったら勝ちなのか』という判断は、変化する状況の中で押し付けられるものであると同時に、自分たちで設定しもぎ取るものでもあるわけです。
逆にいうと、状況に流されすぎず意思を通すこと、そのために明瞭な智慧と信頼関係を作ることが、第二部隊リーダーとして、あるいは人形の付喪神として兼さんがやるべきミッションなのだな。
ここら辺は、蔵の中で薬研くんが言っていた『自分の足で歩ける刀剣男士』の生き様と、結構響き合う所ですね。


今回の兼さん、大太刀という飛車角で釣られて本丸を空にする采配になったわけですが、薬研くんがしっかりバックアップの仕事を務め、穴を埋めていました。
将棋で例えると、玉側に配置しておいた銀が、敵の詰めろを巧く阻止した形かな。
陸奥守とイチャコラする兼さんの陽気さと、緩みがない薬研くんのクールさは良い対比になっていて、かといってお互いを否定するわけでもなく、なかなかいいコンビでした。
何しろ短刀なので、打刀が追いつかないところを補うのは得意技、ってことかなぁ。

薬研くんと兼さんの対比はチーム内部の仕事っぷりだけではなく、史実への態度、前の主への対応でも光っていました。
土方歳三がバリバリ現役で動きまくっている慶応年間、兼さんは結構難しい立場にいます。
先週は審神者の『主命』を背負っていたわけだけども、今回は時代も立場も近い分、『土方歳三の佩刀』だった自分をどうしても意識して、函館で撮られた『例の写真』っぽいポーズを取ってみたりする。

今回時間遡行軍の駒として使われている『幕府海軍の強行派』は、この会見での無血開城に納得行かず出奔する、榎本武揚に繋がる存在です。
そして土方歳三榎本武揚五稜郭で合流し、幕府残党最後の戦いで死に、あるいは生きることになる。
主命を守るために敵対した男たちは、少し運命が違えば肩を並べ共に戦った、もう一人の自分かもしれない。
敵のはずの定命人の中に、刀剣男士である自分と通じるものを見るというのは、先週の浪士と似通った描き方ですね。

土方歳三は、本当は何を守りたかったのか』
作中最高のワトスン役、国広が油断なく問いを投げかけてきてますが、これは兼さんならずともなかなか難しい問いです。
それはつまり、『土方歳三は血まみれの人斬りか、何かを守るために戦った戦士か、武士という滅びゆく虚名に殉じたロマンチストか』を問うことになるからね。

新撰組が時代の波にもみくちゃにされ、大政奉還により幕府近習という立場を失ってしまった後でも、甲府会津、函館と転戦する土方は、江戸を火の海にしてでも戦い続けたかったのではないか。
守りたかったのは平和や命ではなく、武士として生きて死ぬ誇りであり、政府直轄治安維持組織として新撰組が掲げた旗だったのではないか。
そういう結論も出る問いだし、となると刀剣男子が守ろうとしている『主命』と、土方佩刀としての『使命』は矛盾しかねないんですよね。

ここら辺はタイムトラベラーが常に抱えている矛盾で、審神者に召し上げられた刀剣男子としては、この幕末は既に終わって結果が確定した『過去』なんだけども、生きて動いて戦っている実感としては『現在』だし、土方に強い思いをもつ付喪神としても『現在』だという。
今後の掘り下げ方次第ですが、今回のミッションは兼さんが『審神者の刀剣男士』としての自分と、『土方歳三の佩刀』としての自分のバランスを見つける話になるのかもしれません。
それは『過去』と『現在』のバランスをとる話であり、物語全体のテーマ性を掘り返す場面にもなるわけで、とても面白くなりそうですね。

今回は『過去』と『現在』の捻れた超越性を描きつつ、同時に時間や人間の限界に縛られる不自由さも、そこかしこに埋めている回で。
変装もせずうろついていれば十手を指した岡っ引きに尋問され、修羅場に赴くためには手で櫂を漕いで進んでいくしかない。
人間と超越者、どっち付かずの刀剣男士の有り様を、ちょっとコミカルに描いていく演出は結構好きですね。
一回ポリスの尋問受けた後学習して、蜻蛉切が変装しているところとかも、チームが無能に見えなくていい。
その時代の服を着て、飯を食って溶け込もうとする何気ない努力ってのが、時間遡行軍と刀剣男士をわける大きな裂け目なんだろうし。


薬研くんはこの『過去』と『現在』の対峙に(少なくとも表面上は)クールに回答を出していて、『俺は審神者の剣だ。過去には縛られない』と宣言している。
冷静に為すべきことを果たし、小さな体で敵の寄せてをしのぎ切る薬研くんらしい、タフでクレバーな答えだと思います。
まぁこれは薬研くんが今回の時代の当事者ではない(『現代』の話ではないので対立自体が成立していない)から出てきた答えであり、それこそ本能寺ミッションとかになったら彼も揺れるのかもしれませんが。

薬研くんと兼さんが蔵の中で語り合うシーンでは、やっぱり薬研くんは光から遠い場所にいます。
時間が過ぎて夜、兼さんがいた窓際に居場所を移し、より闇が濃くなった場所には時間遡行軍が潜む。
この一連の配置は、薬研くんが背負っている薄暗さみたいのを強調していて、なかなか面白かったです。
クールでダークなだけではなく、戦えば血まみれになるし、窮地には青ざめもする人間らしさがちゃんと描かれているところも良かったな。

戦闘機械としての薬研くんと、人間としての薬研藤四郎の対比は、刀の使い方を通して巧くアクションしていました。
刀剣男子は歴史を守るのが主命なのであり、現地人の血で己を濡らすのは不本意。
なので剣(≒己)を収めて無手で侍を制圧し、その隙を狙ってきた時間遡行軍の刃を打刀で受け止めて、薬研藤四郎を抜剣して倒す、という。
その前に『大砲を支えている紐を切り、砲撃を成立させない』ために己を鞘走らせているのと合わせて、薬研藤四郎がなんのために戦うかがクリアに見えるアクションでした。

抜く/抜かないでキャラを見せる演出は今回冴えていて、やっとうを収めて銃で不意打ちしようとする陸奥守のトリッキーさとか、白と赤のコントラストが美しい鶴丸の抜刀横薙ぎとか、とても印象的だった。
薬研くんで『抜かない意味』を印象づけておいて、仲間のピンチを超かっこよく薙ぎ払い、赤い命を奪う残酷さ、『抜く意味』を強調する鶴丸登場は、本当に良かったなぁ。
白の対比という意味では、甲板に投げ出された薬研くんの白いおみ足も、夜闇が濃い分鮮烈だったね。
基本シリアスにストイックに進むんだけども、素知らぬ顔でスーパーセクシーをぶち込んでくる活劇のスタイル、俺は好きだよ。

あと品川界隈が舞台ということで、なにかと『俺は海に詳しい。坂本龍馬の愛刀なんだぞ!』アピールをぶっ込んでくる陸奥守があざとくて良かった。
ただの可愛いアピールではなく、軍艦の諸元を思い出すことで幕軍強行派≒時間遡行軍の手筋を読む助けになっている辺りが、チームモノとしてとても良い。
やっぱ第1話から第3話で陸奥守の危ういヒロイズムをちゃんと掘り下げて、リーダー兼さんと対立、和解させた流れは良かった、てことだよな、今回の収まりの良さを見ていると。
事前にちゃんとぶつかりあい、分かりあったからこそ、今回隊長にべったりくっついて補佐する陸奥守の動きに、説得力があるわけで。


というわけで、時間遡行軍との出し抜き合いでも、土方歳三との対話の取っ掛かりとしても、刀剣男士の本懐を問う意味でも、正しく『序』という感じのエピソードでした。
活撃はかなりかっちり話数の使い方、そこに共通するテーマの描き方を考えている印象なので、ここで『問い』がちゃんと出てくるのは、期待がガンっと高まる。
セリフと演出を活かし、アクションとドラマで『問い』にちゃんと『答え』を返してくれるアニメだという信頼感が、既に生まれとるからね。

江戸無血開城という大義を前に、謀略と剣戟の限りを尽くす二つの勢力
最高のタイミングで最高にかっこいい登場を果たした鶴丸は、果たしてチームに馴染めるのか。
おそらく序章でしかない激戦の後に、兼さんは何に悩み、いかなる答えを手に入れるか。
来週も非常に楽しみです。

 

追記 絵としての距離と時間との距離

追記 西郷隆盛と時の流れ