イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

活撃/刀剣乱舞:第8話『歴史を守る』感想

時の河を遡り大義のために己を振るう付喪神恋歌、一切刀身が顔を見せない第8話。
任務を外れた『特別な一日』を過去で過ごす第一部隊と、本丸で己の迷いと向かい合い仲間との絆を新たにする第二部隊、それぞれの物語が交錯するエピソードとなりました。
『ただただ主命を果たし、命の重さを顧みない道具的存在のままでいてはいけない、いたくない』という刀剣男士の思いを、兼さんだけが抱えているわけではない、というのが分かる話でもあったかな。
自己満足の欺瞞と謗られようとも、過去に生きた人々の生死を心に刻むべく食事を振る舞う第一部隊からは、先週鮮明に描かれた遠さや冷たさ、完成され終わった物語とはまた違う体温が、しっかり伝わってきました。
それと同じものを抱くからこそ、任務について日の浅い第二部隊は悩み、支え合い、先達とすれ違うように己の物語へと挑んでいく。
過去と未来、終わった物語とこれからの物語が交錯する中で、刀剣男士全てに共有される誇り高き生き方がぶっとく見えてくる、非常にいい回だったと思います。


というわけで、今回は第一部隊と第二部隊が過去と未来に別れ、それぞれ刀剣を握らない闘いをするお話です。
先週クールに任務を果たす第一部隊が印象的だっただけに、主命から外れたイケメン炊き出し任務はインパクトがありました。
京を覆っていたおどろおどろしい空気は晴れ、街に活気は戻ってきたけども、失われた命は帰ってこない。
計測可能な歴史の歪みが取りこぼしてしまう赤い血を、第一部隊もまた、第二部隊の熱血漢たちと同じようにしっかり見据えていました。

そこに至るには、今(そしてこれから)第二部隊と兼さんが悩んでいる葛藤があり、自分たちも血を流してきたのでしょう。
新入りの骨喰くんがいるおかげで、先んじて自分たちの物語を終え、一つの結論にたどり着いた第一部隊の歩みが、描かれずとも感じ取れるようになっています。
刀剣男士は人斬り包丁の付喪神であり、血の通わない大義を果たすことを第一義として、今の姿を取る。
しかし人の姿で暮らすうちに、己の足で歩き、頭で考える自由を深めていって、自分たちなりの答えを出すようになる。
第一部隊の中にいる骨喰くんだけではなく、そこから時間的にも距離的にも離れた場所にいる兼さんもまた、同じ迷い路を歩いて、三日月達がたどり着いた迷いなき境地にたどり着ける。
今回のお話は、刀剣男子という特殊な生命がどのように自我を発達させ、成長していくかというライフスパンを、横幅広く見せるお話だったと思います。

先週は荒々しく雄々しい戦姿ばかりが目立った第二部隊ですが、今回はイケメン炊き出し部隊へと変貌し、戦士の仮面に隠した情熱を溢れさせていました。
飄々とした源氏兄弟も、眉毛なくてこえー大典太くんも、陸奥守や兼さん達のように失われる命に思い悩み、迸る激情をちゃんと持っている。
大典太さんが、あくまで『主の刀剣』であろうとする骨喰くんをアツく説得するシーンは、経験の総量は違えど本丸に集うのは同じ刀剣男士、同じ仲間、同じ人間なのだと確信できる、いいシーンでした。
俺は一見人情味なんぞ捨てたように見えるクールガイが、とんでもなくホットな熱血を溢れさせちまうシーンが大好物でね……。

『現在進行系の物語』ってのはとにかくダイナミックで勢いがあるので、『既に終わった物語』というのはどうしても冷めて見られがちです。
先週一本で終わってたら第一部隊の思いも、そういう冷たさを避け得なかったと思うわけですが、今週『既に終わった物語』で獲得した『自分なりの答え』がまだ脈動して、彼らの魂に赤い血を流していることがしっかり伝わったことで、巧く一方だけを持ち上げることを回避していました。
色んな理由から直接描かれないにしても、第一部隊の古強者たちも、第二部隊の若人と同じ道を辿って、落ち着いた現状にたどり着いている。
その歩みと境地は同じように尊いわけで、踏みしめた道のりが選ばせた『特別な一日』をしっかり追いかけることで、『既に終わった物語』を体現し、第二部隊が見つけるべき答えを暗示する仕事を立派に果たした第一部隊の価値は、より強くなったように思います。


刀剣男士は時の客人であり、現地に留まって時間の流れに身をおくことは許されません。
彼らの任務は人間の理を超えたところから、人間の営みを守る超常的なものであり、そういう意味では骨喰くんの『欺瞞』という言葉も、真実の一端を掴んではいる。
そういう定めを受け入れているからこそ、第一部隊は先週超常の戦士として刃を振るい、主命をしっかり果たした上で、自分たちで決めた『特別な一日』にだけ留まっています。
それは長い戦いをくぐり抜けてきた闘士達が、主命と感情の間でつけた、一種の折り合いなのでしょう。

現地民と刀剣男士が『食事』を介して触れ合う場所が『河原』なのは、なかなか面白いところです。
本丸でも滔々と流れる河は時間そのものであり、そこに身体を浸すことを刀剣男士は許されていない。
しかし河と陸地の境界に位置し。古来よりの開放空間、人間の理から外れた『河原』においては、たった一日だけ夢を見ることが許される。
共同体の境に位置し、そのルールから外れた行為(芸事や皮革加工、屠殺まで)が行われた『河原』でしか、人間と刀剣が触れ合えないというのはちょっと儚くもありますが、その逸脱を世界が許してくれるという優しい舞台設定でもあります。

今回も『俺達だって、人の命を繋ぐ行為を大事に思ってるんだぜ……ッ』というメッセージを発するべく、飯は上手く使われていました。
あからさまに浮いてる不思議衣装の超絶イケメンが、地べたに腰を下ろして煮炊きし施す姿にはシュールなおかしみがあり、それ以上の真剣さがあった。
『これくらいしか出来ないからこそ、精一杯にやろう』という気概は、戦を楽しんでいる余裕すら感じる先週と対比を為して、より強い温もりを教えてくれました。
作画力があるので、焼き魚やイケメン汁がちゃんと美味そうなのが良いよね。

新兵・骨喰くんはそういうムードにうまく馴染めないわけですが、ベテランたちはそんな彼を『昔の自分』として暖かく見つめ、理解を示す。
言葉を尽くしてしっかり思いを伝えようとする山姥切くんがすごく頼もしくて、ジジイどもにケツ持ちされているだけではない、隊長に相応しいリーダーシップを感じました。
兵器として強く、ユニットとしてレベルが高いだけではなくて、経験の浅さが生む頑なさとか迷いとかを受け入れる優しさがあるのが、刀剣男士のモラル高いところですね。

そこに支えられて、骨喰くんが簡単には答えを出さず、目の前の矛盾を矛盾のままじっくり考えているのも、とても良い。
そういう迷いがあって初めて、自分なりの決意を胸に秘めた老練の強者へと変わっていけるのだろうし、心を持たない只の刃は、審神者も求めていないだろうしね。
無論それが大義である以上、時間遡行軍と戦い、パラメータ化された歴史を守る使命は果たさなきゃいけないんだけども、困惑や混迷を含めた感情が伴わなければ、刀剣『男士』が事件に関わる意味はない。
頼れる先輩たちに見守られながら、骨喰くんもまた、闘いと日常から己の為すべき『使命』と、守るべき『命』を見つけていくんだろうなぁ。

『お侍さんにとって、命のやり取りは当然のものなんだろ?』という老母の問は、第3話で浪士との間にかわされた問答と、ちょっと響くところがあります。
あの時は『士(さむらい)』という生き様の苛烈で輝く部分が強調され、そこに陸奥守と兼さんが共鳴していく形だったわけですが、命を刃に乗せて使う戦士の刃は、同じ戦士にだけ向けられるわけではない。
『士の心』と書いて『志』になるわけですが、それは剣を持たない民草の小さな、しかし大切な生活を断ち切ってまで守らなければならないほど、大きなものなのかという疑問が、老婆を通じて投げられた気がします。
これは直接には第二部隊には届かない距離から出てるけども、テーマ的には真芯を捕らえる大事な疑問ですよね。
今後闘いの中で、兼さん達が自分たちなりの『志』を、胸を張って手に入れる展開になると良いのですが。


骨喰くんの青春ワントップを残り五人で支える形の第一部隊に比べ、第二部隊はみんなでスクラムを組み、みんなで答えを見つけていくスタイルです。
先々週散々迷っていた兼さんは、水面に己の心を写し、沈思黙考しているところから話が始まります。
他人に支えられ、『皆』のなかで答え(に続く疑問)を見つける骨喰くんと、『独り』から初めて自分の足で仲間に近づき、頭を下げて一つになっていく兼さんの対比が、なかなか面白い。
その両方を、時間を超えて流れる『河』が見守っているのも、ちょっと興味深いモチーフですね。

一番最初に兼さんに寄り添い、不器用な彼から言葉を引き出していくのは、相棒たる国広です。
ちょっと頼りない部分もあるけども、果たすべき『使命』に迷いがない国広は、迷えるリーダー兼さんに足りないところを補う、最高のパートナーですね。
あまりにも完成度が高くて正解ばっかり出すので、いるのが当たり前になってその尊さを忘れてしまう、ラブコメの幼馴染枠みてーなキャラだな国広……『良い人過ぎて、恋愛対象に出来ない』とかいう寝言をぶっこまれるタイプ。

兼さんが水鏡を前に己を見る時、ちょっと大きめの石に胡座をかいているのは、なかなかレイアウトの妙味だと思いました。
絵的に面白いってのもありますが、あそこで嵩上げしているお陰で国広を見下すでも、見下されるでもない、しかし国広の迷いのなさがちょっとだけ上回る絶妙なポジションに、二人の距離が調整されるんですよね。
普段はでっかくて頼れる兼さんと、小さい女房役国広って関係性が強調されてるんだけども、身体を折りたたんであぐらを組むことで、心がちょっと萎縮している現状が巧くビジュアル化されている。
でも兼さんは(先々週のジジイや陸奥守の助けもあって)答えには近づいていて、完全に大間違いってわけでもない。
そこら辺の心理状況を非常に巧くカメラで切り取っていて、やっぱ表現力のあるアニメだなと思いました。

国広を筆頭に、兼さんは『頼りない隊長ですまねぇ。もう一度俺と戦ってくれ』という想いを言葉にし、頭を下げて筋を通します。
みんな兼さんが良い人で、真面目で、迷うからこそ可能性を感じる『良い奴』だってのは知ってるんだけども、そこに甘えず自分の未熟さを侘び、関係を再構築する努力を怠けないところが、とっても良いです。
出自的に兄弟とも言える親しい国広にも、ちゃんと仁義を切って思いを伝えるところが、生真面目でいいなと思います。
そういう人格的清潔さがしっかり描写されると、回りが兼さんを立てて敬う展開にも、スッと乗っかることが出来るわけです。


そこから兼さんの謝罪巡業は続くわけですが、国広に続く親しさで近寄ってくるのが陸奥守なのは、なかなか面白い。
彼らがぶつかり合うのは期待の表れで、『コイツならもっと正しいことが出来るのに、なんでわからないんだ!』という苛立ちがあるからでしょう。
「お前が隊長になるかもしれないぞ」という軽口を「まっこと正しい」と軽口で返しつつ、重い口調で「でも、おまんはそれでええんか?」と続けるあたりに、陸奥守の兼さんへの強い期待が感じられます。
元々『主命』よりも目の前の『命』を大事にしがちな陸奥守は、『自分の答え』ってのを重く受け止めてるキャラなのだと思います。
そういう男が惚れ込んだ男が、状況に流されるまま只の刃になってしまうのは、陸奥守にとってなかなか耐え難いのでしょう。
そういう気持ちを素直に言えないところが、ツンデレアーツ黒帯って感じですね。
二億点です。

『アタイの胸キュン……ちゃんと判ってよね……』という陸奥守の漢女心を横において、兼さんは薬研くんと鶴丸にも思いを伝え、筋を通していきます。
この時『厩舎』と『菜園』という、物言わぬ命が日常の中で育まれている場所が舞台になるのは、本丸が何を守っているのかを巧く暗示していて、とてもいいです。
主命から離れた第一部隊が遠い過去で育んでいるものを、審神者の膝下である本丸でも慈しみ、大事にしている。
剣を置いて鍬や笊を持つ刀剣男士の姿が一瞬映ることで、本丸全体が共有している『命』の値札が見えるのは、とてもいいと思います。
馬に(文字通り)舐められるシーンも、仲間との親密さを確認していくエピソードを巧く変奏していて、いいアクセントだった。

『水も滴る良い少年』とばかりに、あざといサスペンダー半ズボン姿を強調する薬研くんですが、兼さんより下の位置にあえて入っているのは、なかなか面白い。
何かに押し付けられたのではない、兼さんの『自分の答え』であるのを確認したら即座に「良いぜ」と答えられる薬研くんは、身の丈に似合わぬ成熟を心に飼っているわけです。
でもあえて下に入って、兼さんの提案を受ける形で状況をまとめ上げていく。
刀の代わりに包丁を握って、人民の中に入っていく第一部隊にも似た靭やかな強さが、薬研くんにはあると思います。
『負けるが勝ち』的な強さというか。

薬研くんが見せたしなやかさを、兼さんも獲得していきます。
陸奥守の思いは肌で感じとっていて、でもそこに素直にはなれない。
ツンデレ×ツンデレの牽制合戦は最終局面まで行っても破裂せず、焦れきった陸奥守がアニメ史上に残る良い作画の地団駄を踏むことになる、と。
この時も荒ぶる陸奥守は立って。兼さんは座ったまま下に入り、「お前が必要だ。あの時助けてくれなれば、俺は死んでいた」と、言い争うことなく素直に気持ちを言葉にする。
あんまり真っ直ぐなので、拗れた陸奥守には受け取りにくいわけですが、そこは女房役の国広が巧く噛み砕き、通訳を買って出る、と。

本丸の日常の中をどっしりと自分の足で歩き、隊員一人ひとりに誠実に向き合い、思いを伝える旅路。
たどり着いた答えを骨喰くん一人に伝えていく第一部隊の歩みとは少し違うけども、同じ悩みに飛び込み、一つになっていく頼もしさを描くという意味では共通もしている。
そういうものをじっくり切り取る今回は、第二部隊の再起としてとても良かったです。
自分たちの至らぬ部分、頭を悩ます疑問と向かい合うことで、たどり着くべき答えへの道筋が見えてくるのだとしたら、兼さんのイライラ旅は必要な癒やしであり、試練でもあったのでしょう。
人を成長させる波風を前に、孤独に放っておくのではなく手を差し伸べ、言葉を変え、あるいは見守る情が本丸の中間にあるということも判って、ここ三話の迷い路はとても良かったです。

精神的な傷に向かい合った兼さんに対し、身体的な傷で寝込んでいた蜻蛉切さんという対比も、なかなか興味深い。
傷をケアしてくれる有難みも、塩大福という印象的なアイテムを活用して、こっちでもしっかり描かれていました。
おんなじテーマを立場とキャラクター、舞台を変えて何度も描くことで、分厚く熱くなっていくってのは、非常に大事だと思いますね。


自分で選んだ『特別な一日』を終え、帰って来る者たちと、強い結びつきを確認し新たな戦場に赴く赴く者たち。
彼らが共有するものが描かれた後だからこそ、あの交錯は凄く分厚い意味を持つ、良いラストカットでした。
立場や経験、来歴は違えど、人としての想い、士としての決意を共有する戦士達が、戦場と本丸、2つの部隊で鍛え上げられる。
活撃そのものを2つの舞台に背負わせて、そこからまた新しい物語が始まる活力にも満ちていて、本当に素晴らしい。

先々週思いをぶつけ、千々に乱れた思いに筋道をつけてくれた三日月と、答えを手に入れた兼さんが一瞬会話をするのが、ここに至るまで歩いた道、確認した想いを含んで豊かだなぁ。
あの時交錯した視線と言葉は、先々週ジジイが兼さんから引き出したモヤモヤに答えを出せたか、その確認でもあるわけで。
部隊の同志たる骨喰くんだけでなく、別チームにまで目配せ効かせているあたり、ジジイはほんと偉い。

とはいうものの、第二部隊は未だ完成とはいえず、彼らを鍛え上げる戦場はこれから先に待ち構えています。
『歴史を守る』という題目の本当の意味は、第一部隊が物語の前景で掴み取ったように、さらなる苦しみに挑んで初めて掴めるものなのでしょう。
そういう戦いに挑めるのもまた、傷を癒やし迷いを受け止めてくれる『本丸』があるからこそ。
刀をあえて握らないことで、戦いが成立する構図がより鮮明になる、良いエピソードだったと思います。
やっぱ派手で受けの良い要素だけを強調するのではなく、それを裏打ちする影の部分にしっかり切り込み、表現力豊かに語ってくれるアニメは、見てて面白いやね。


今回は第一部隊と第二部隊だけではなく、その上に立ち、あるいは間をつなぐ審神者……そして本丸という組織そのものもしっかり描かれました。
審神者の守りたい歴史』というのは、果たすべき主命であると同時に大切なものを取りこぼす、信頼しすぎてはいけない看板として扱われています。
しかし刀剣男子が、時に背中を向けつつも『主の刃』であることに誇りと納得を抱いているように、審神者もまた刀剣男士個人の想いや個性をしっかり受け止め、配慮している。
そういう様子が細かい描写から伝わってくるのは、彼(彼女?)を好きになり信頼するのに十分な足場になってくれます。

ミッションの評価分析、部隊マネージャーであるこんのすけとのミーティング、現場作業員である兼さんとの交流。
審神者は指揮者として、組織の長としてするべき仕事を相当真面目にこなしていて、彼の優秀さと優しさがあればこそ、第一部隊の『特別な一日』という逸脱も許容されているのだと感じました。
死闘の中で兵器の心を気にかける余裕があるのは、審神者が高潔な人格の持ち主であること、それを可能にする能力がちゃんとあるからだろうし。
直接答えを見つけるのは刀剣男子に任せつつ、それに必要な環境を整え、手に入れた答えを聞き届ける仕事はしっかり果たすあたり、職分を弁えた良い審神者だ……。

本丸からちょっと離れた周辺の自然を切り取ることで、先々週強調された折り目正しさとはまた違う、返ってくるべきホームの温かみみたいのが、うまく強調もされていました。
第一部隊が帰還し、第二部隊が旅立っていく『交点』の今回、背景として『本丸は良いところで、ここに帰ってこようと思えるから戦えるのだ』というメッセージがないと、話の奥行きが消えちゃうんですよね。
内勤の風景をファンサービス交えつつ描くだけではなく、仕上がった美術をどどんと叩きつけて『あ、いい場所だな』とパワーで納得させる力技、お見事でした。
入れ物の美麗さがあればこそ、そこに詰まっている刀剣男子たちの優しさと誇りも輝くわけで、象徴を巧く使って内実を細かく伝達する手腕、雄弁で好きだな。


というわけで、宿命の戦いに挑む戦士たち、それぞれの想いを別角度から掘り下げていくお話でした。
既にベテランとなったもの、今まさに戦いに挑むもの、それを遠くから見守るもの。
それぞれ立場は違えど同じ暗雲に挑み、それぞれの答えを手に入れることの意味をしっかり描いてくれて、とても良いエピソードでした。

第二部隊と第一部隊の差って、ゲーム的には『レベル』っていう味のないパラメーターの差だと思うのですね。
しかしプレイヤーが彼らをレベリングする中で、色んなイベントがあり思い入れが生まれ、独特の妄想≒物語が生まれてくる。
そういう感情の太さに支えられてアニメ化にたどり着いた(であろう)コンテンツの中で、『これからレベルアップしていく』新米を主役に据えつつ、『既にレベル上げを終えた』ベテラン部隊も疎かにしなかったのは、ゲームとアニメ、個人的体験と共益的物語のバランスを高度に取った、なかなかのアクロバットだと感じました。
キャラクターや背景設定だけではなく、原作のゲームシステム、ゲームという体験そのものにリスペクトを払いアニメを作っていくのって、やっぱ凄いことだなぁと思う。
……まぁ僕はブラゲーユーザーではないので、出てきたものから仮想的演繹かまして勝手に感じてるだけなわけですが。

第一部隊の『特別な一日』にしても、兼さんの迷妄行脚にしても、『自分で選ぶ』ということが凄く大きな共通テーマになっています。
それは『本丸』という組織に所属する歯車であり、『刀剣』という道具的存在として生まれた彼らが、、『男士』として志を手に入れる宿命にある『刀剣男士』であることを、巧く踏まえたテーマ設定だと思います。

冷たい鉄、他人にほしいままにされる存在として生を受け、新たな宿命と使命のもとに生まれ直した彼らは、時間から解き放たれた異形であり、同時に厳しさと優しさの中で成長する人間でもあります。
他人と大義に使われる存在であり、同時に個別の意志を貫き通す存在でもある彼らが、新たな戦いの中でどのような疑問と出会うのか。
それを乗り越えるために、どのように支え合うのか。
刀剣乱舞後半戦、己を洗い直す見事な中休みを挟んで、さらに期待が高まりますね。