アイドリッシュセブンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ハードコアな挫折を後にして、男たちは嵐に飛び込む…その前に! エンジョイ・オフタイムー!! つうわけで、川辺でキャンプで釣りな、アイドリッシュセブン修学旅行回である。
緩い雰囲気の中で、キッチリ人間関係は前進させ、嵐の準備を抜け目なく整えていた。
前回ハードな展開で心を揺さぶってきたので、『大丈夫大丈夫! みんな仲良しアイドリッシュセブン!!』と、男イチャコラで心を癒やす回…だと思っていたんだが、そのセッティングを活かして関係の描写をしっかり深めてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
硬い展開の後には柔らかい運びを、ヌルい描写にキツい関係性を。緩急大事
『家』である事務所を離れたスペシャルな時間はちゃんと活かしていて、エロとか酒とか、普段顔を出さないアダルティな要素が上手く仕事をしていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
壮五が酒飲めたり、大和がエロ関係結構積極的だったり、意外な一面を見せるのはオフ回の大事な仕事だ。
メインで配置されているのは、陸と一織(の間に挟まる三月)の関係と、新ユニット”MEZZO”の二人である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
前者が既に札を全公開し、思い思われる繋がりを確認した上で過去の失敗をケアしているのに対し、後者は現在進行形で札の開け合い、ぶつかり合いである。
全体的に緩いムードであり、話の主眼は失敗した一織(と、そんな彼を見てショックを受けた視聴者)のケアにある。だから、ダイレクトにえぐるセリフはそんなに使えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
なので、今回はかなり暗喩とムードに頼った、間接照明の演出が強い。僕はそういうの大好きなので、見てるの楽しかった。
例えばじゃがいもと枕投げ。関係がうまく構築できない(今構築している真っ最中)なMEZZOは、環が投げた本音を『いい子』な壮五が受け止めきれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ギスギスで溢れる寸前の感情を宿したボウルに、乱雑に投げ込まれたじゃがいもは、環という存在を受け止めきれない壮五の心そのものだ。
これに対し、酒の力も借りてバリアーが下がった一織は、陸の気遣いをちゃんと受け取って『ありがとう』を言葉にし、相手を気遣う。枕は投げられ、受け止められる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
天への複雑な思い、喘息というハンディキャップ。札を既に公開しているから、コミュニケーションを隔てるものはない。
陸が一織を気遣うのは、自分が気遣ってもらったからだ。正確に言うと、他人に心を配れる優しさが強さであり、公平さであり、カッコ良さでもあることを、一織を通じてしっかり理解したからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
そういうものに触れて、ちゃんと思い直さないと、このアニメの子どもたちは自分を正すことは出来ない。
大概の人間がそうじゃないかな、と思う。失敗してすら学ぶことが出来ない人も多いだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
そんな当たり前の世界で、陸は一織に優しくされて、だから傷ついた一織に優しくしたいと思う。前を向いて、もう一度立ち上がって欲しいと望む。
ここら辺の、失敗と学習、傷とケアの関係性をスケッチしていくのが、今回のゆるーい大自然男祭りの狙いかな、と感じた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
それぞれの情報公開度、心への踏み込み、相互理解に応じて、その深さは異なる。色んな段階があって、凸凹した歯車が形を変えながら前に進む先に、アイドリッシュセブンがある。
メタファーとして有効活用されているのは、ライティングもそうだ。『良い親父』である社長が意識して悪い空気を抜くべく企画した楽しいキャンプ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
だがその裏には、ハードコアな格差、なかなか素直に流れない人間関係という、重たいリアルが横たわっている。これが画面に日陰を造る。
アホバカトークから『大人』である社長と万里が離れ、大人の特権である車の運転をする。移動する密室の中で、彼らは子供に聞かせられないリアリズムの話をする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
誰もが、望むとおりに愛されるわけではない。努力しているだけでいいなら、誰もがスーパースターだ。(社長煮えすぎだろ。好き)
その瞬間、車線の半分は木漏れ日で明るく満たされ、もう半分は影に覆われている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
スポットライトと、重苦しい舞台裏に分割され混じり合う『アイドル』のリアルは、楽しいレジャーにやってきたからとおって、消えてなくなるわけじゃない。
これを追いかけるように、問題含み(問題しかない)MEZZOは、屋根のある調理場でじゃがいもを剥く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
欲望のまま振る舞う『ワルイコ』な環は、『みんな』が食べるじゃがいもを乱雑に剥く。自我境界線が的確に拡大できていないので、環にとって『みんな』は実感がない。
一方壮五は、自分の個人的事情を公開しないまま、『なければならない』で感情をコントロールしようとする。環が指摘する通り、『イイコ』であろうとするのは多分、大和に褒められたいからじゃない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ここにはいない『家族』を追い求めて届かないのは、アイナナ全員を縛り付ける鎖だ。
幾度も強調されるように、MEZZOの成功はアイナナの成功だ。露出できる特権は二人しかないのに、そこには五人が、もっと言えば事務所の経済がひっついてくる。望むと望まざると、責任がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ガキな環だが、感情の面ではそれをちゃんと理解し、自分のものとして受け止めている。
このことは冒頭、MEZZO命名の儀式からも見て取れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
アイドリッシュセブンは、七人の名前だから。新しい名前をつける手続きが、そこに境界線をひく。
仲間と自分たちを切り分けることで、ケジメをつける社会の儀礼。ガキにだって、それが大事なくらい理解っている。
の、だが。壮五との関係はそれとは別に、お互いの生き方の衝突になってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
妹恋しさ故に、ガキなりに考えて、色んなモノを踏みつけにしても『アイドル』になりたい環の、個人主義の足場。『みんな』への義務感を突破しきれない、壮五の中の『イイコ』
環が『妹』という札を公開しているのに対し、壮五は個人の事情を抱え込んでいる。その重たさから一瞬開放されるから、アルコールによる酩酊は壮五によく刺さる…依存症になるタイプだな、あの美形…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
状況を日陰から出すためには、壮五も『イイコ』の源泉を晒さないと始まらない。
一方、既に心を晒している陸と一織は、晴天のもと腹蔵なく、本音を叩きつけ合う…ように見えて、陸は慎重に親密さを演出し、初めての挫折に傷ついた一織をケアしようとしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
表面的には、ただぶつかり合っていた時のように見えても、そこには感謝と愛が柔らかくと持っている。
二人の間に三月が入るレイアウトは、仲立ちする年長者が、円満な関係構築にどれだけ重要かを教えてくれる。MEZZOは二人きりで、カレーを作っていたわけで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
社長が社内で言っていた挫折への耐性は、アイドルに愛されていない三月は多分、グループで一番あるのだろう。
…いや、違うか。誰も、痛みになんて慣れやしない。痛さは何回ころんでも変わらなくて、そこでうずくまったら何が失われるか思い知らされて、痛みを抱えたまま立ち上がる意志があるから、三月は対応能力が高いってだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
それは自動的な反応ではなく、頑張った結果だ。偉い、歴史の教科書に載せろ。
だから、仲間の挫折、自分の痛みをケアしようとしてゴツゴツぶつかってしまうバカな弟たちを、戯けて空気抜いて、助け舟を出して、交流をサポートしようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
その優しさと賢さは、社長がこの会をセッティングしたのと多分、同じ色合いだ。
お互いの弱さ、欲望の源泉をさらけ出した二人(+一人)は、影のない世界でぶつかりあい、静かな夜の中で言葉を掛け合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ありがとう、嬉しいよ、頑張るよ。
素直な胸の内を公開できる間柄と、じゃがいもをキャッチできない関係。先に進むものと、取り残されるもの。
そういうスケッチに挟み込まれるように、大和が道化を演じてくれたナギにキッチリお礼を言いにいった。お前…早く悪いことしておかないと、来世はマハトーマーに転生しちまうぞ!(『マジ天使』の気取った言い回し)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
言わない優しさ、言う優しさ。大人と一括りにされる人たちの、微細なグラデーション
『灰になりかけた俺たちに、もう一度火をつけた…』とか、煮えた言い回ししたかと思えば、年長エロス大臣の顔をむき出しに、ミッドナイトタイムでハッスルする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
あんまエゴを出してこない大和にも、ちゃんと影の部分があると教えてくれたようで、楽しくも印象的な見せ方だった。
ナギは特に陰りの気配もなく。普段はバカやって必要なタイミングで〆るという、非常に優秀なトリックスターを続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
彼もまた、何らかの鎖に縛り付けられているのか、はたまたナチュラルに自由なのか。そこら辺はまだまだ分からんが、彼の人間関係のセンス、その行動がありがたいのは確かだ。
今回全員で事務所の外に出たことで、小鳥遊社長を家長とする『家』の構図が、結構鮮明になった気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
少年たちはそれぞれ、エゴを暴走させたり不器用に気遣ったり、年長者の余裕でケアしたり、事務所という『家』の中で年相応に交流をする。『父』はその場を整え、社会と接合する。
『父』の暖かで怜悧な視線があればこそ、少年たちのナイーブな自我はのびのび暴れ、存分に失敗し、そこから何かを学んで立ち上がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
子供たちは当然気づかないし、大人は気づかれないように立ち上がっているけども、『ありのままの自分』に出会うためには、誰かの環境整備が絶対必要なのだ。
強いものが弱いものを守り、諭す。人倫が果たされた、幸福な『家』としての小鳥遊事務所を成立させている、家長としての社長こそが、今回一番目立っていた感じがする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
その庇護下にある紡は、男たちの姉であり、母であり、トロフィーとして永遠に追われるヒロインでもある。
忠告に来る年上のおねーさんとして、健全なエロ欲望のターゲット
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
として、男たちの物語のアクセントとして。
紡は男たちに常に求められ、盾となる。そんな彼女の『家』は開始段階から円満で、少年たちを悩ます鎖からは完全に切り離されている(と、現状公開されている情報からは見える)。
その特権が、『家族』に悩む少年たちの心に特別な存在として滑り込む『乙女ゲーの主役』の足場を固めていたりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
ここらへんは透明さを重視される『ノベルゲームの主役』の特性でもあって、それが三人称で再投影されるアニメ化で、別の顔を持っている感じもある。
自己を語る内面を極力持たず、少年たちの中で渦を巻く葛藤と魅力を反射する鏡として製造された彼女は、アニメになって顔と声を手に入れ、主体から客体へと変化する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
しかし『アイドル』ではない彼女に、克服するべき問題、表明するべき伏せ札は(現状)ない(ように見える)。
そこで足を止めていては、視聴者の感情移入主体であり物語の進行役である彼女の本分は果たせない。悩むのは顔の良い男の仕事であって、悩みを解決に導くサポーターの領分ではないのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
そこら辺をよく見た結果、第3話を追いかけるように自己の内面を語る今回、紡は自分の話をしない。
第8話が第2話の失敗を変奏するように、今回は第3話の問いかけ、内面吐露を再演しつつ、あの時は表面をなぞるだけだった関係性により深く踏み込み、アイナナの変化を強調する作りに(も)なっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
『お前、なんで『アイドル』なの?』
問いは同じだけども、帰ってくる答えの重さは違う。
それはここまでの物語で、少年たちが手に入れたモノ、築いたて気付いたモノの重たさを反射している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
フェスの失敗が、ファーストライブより重たかった描写の陰画として、今回のキャンプは出会った頃より深く、的確に心の傷を切開して、真心と真実を開放してくれる。
そういう部分もちゃんとスケッチしてくる、良いオフタイム回でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
物語を成立させるキャラの初期配置、それが相互作用した結果としての変化、その結果生まれる新たな交流と軋轢。
構造をよく見て、必要な物語を引っ張ってくるために的確に配置する手腕を、再確認できるエピソードでしたね。
一織と陸は、しっかり想いをキャッチボールして問題なし。お兄ちゃんSとナギはナチュラルな晴れ。しかし、アイナナの命運を背負うMEZZOは波乱含みで噛み合わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年2月18日
楽しい馬鹿騒ぎをサービスしつつ、折り返しを過ぎて後半戦、どういう座組で走るかを明瞭にしてくれました。来週も楽しみですね。