ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
戦神の足音に恐慌し、ついに崩壊を始めたアシェラッド兵団。
降るもの、従うもの、見限るもの。
殺戮の雪原が、獣の血で赤く染まる。約束された崩壊に、抗うほどの才気もなく、それでも足を前に進める。
それで諦められるなら、剣なんて握ってないのさ。
というわけで、因果応報陰惨無残、アシェラッド兵団終わりの始まりである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
勝ってる時は神と煽て、下り調子になれば見限る。凡愚の残酷さが牙をむく展開が、山程の血で飾られていく。
拷問、殺戮、弔われぬ死者。人間のグロテスクを一切逃げず、真正面から描く気概。
冒頭、”イングランド兵”の死体を貪るフクロウと、勇者を偽装されて眠るラグナルの対比がエグい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
どちらも暴力の犠牲であるが、片や野ざらし、片や温かい炎の側で眠る。しかしそこに、死者への敬意はない。何しろ”後ろからの槍”は味方から出たのだから
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クヌートは”父”の死を飲み込みきれない。呆然と、一瞬前の平穏にすがり、否定し得ない現実を否定しようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
しかしそこにラグナルの死体は確かにあり、クヌートの幼年期を終わりにしていく。トルフィンがそうされたように、アシェラッドは子供から”父”を奪って、強引に荒野にほっぽりだす。
『多分彼自身、”父”にそうされたんだろうなー』と考えると
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
、虐待の連鎖に陰惨な気持ちになる。
愛ゆえに復讐者に身を落としたトルフィンもいれば、愛を受けずケダモノになっていくものもある。そのケダモノも、母とウェールズの愛ゆえに鬼畜を背負っている。
人生模様は、血と涙で塗られて複雑だ。
『ラグナルを消す』というバクチが、一天地六、どちらに出るか。ビョルンと言葉をかわしつつ、アシェラッドは己のこだわりを冷たく伝える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
己が頭に抱きたいと思えた相手だけを、自分の上に乗せる。人でなしがどうしても譲れない、自由意志と矜持。
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崩壊していく兵団に取った対応を見ても、それはアシェラッドの中でとても強いものであり、だからこそかつてトールズに投げた『俺の頭にならないか?』という問いかけの重さが際立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
そう思える唯一の相手を、自分の手でぶっ殺して『なんちゃって』にしちゃったんだよなぁ…。
ビョルンに伸ばした腕もまた、『なんちゃって』で引っ込められる。それでガッチリ頭を掴んで、ジブンノシンネンを真っ直ぐ伝える器量は、獣にはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
それを自分で判っているからこそ、”デーン人”には体重を預けないのかも知れない。そんな賢さが、兵団の崩壊を招きもする。ままならないねぇ…。
ラグナルの殯では温もりの象徴だったオレンジは、屋外ではアシェラッドの孤独を強調する。そこに踏み入れないビョルンは、何を思い何を見るのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
『俺が付いていきたいと思った』という言葉に嘘がないことは、彼の行動が証明している。うう…マジ報われない。死にそうオーラ全開だし…。
ラグナルとクヌートの服喪、副官との信念の対話(未遂)と、温もりから離れてアシェラッドが行き着くのは、拷問場である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
貝のように口を閉ざしたサクソン人を切り分けるべく、もちだされるハサミ。人体損壊、無惨の劇場である。
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ここのアシェラッドはまさに鬼畜であり、軽口とは裏腹の余裕の無さも感じ取れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
血みどろの乾いた空気に肌が粟立つが、ブリトン人はそれに屈しない。意地を支えるのは信仰と愛だ。
デーン人によって蹂躙された、日常と家族。愛着は反転し、どす黒い憎悪へと変わっていく。
野に生きるケルト人と、そこに混じって家と鋤を与えたローマ人。偉大なるウェールズ史を内面化したアシェラッドにとって、『イングランドの支配者』は日常と家族を略奪したケダモノでしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
だから奪う。ハサミで切り取る。
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誰かの日常を踏み荒らしたケダモノが、自分の愛を踏まれて叫ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
『ケダモノめ! 俺たちの国から出ていけ!』
1000年前も、1000年後も、世界中のあらゆる場所で繰り返されている風景が、この末世にも当然ある。
愛ゆえに憎み、生きるために奪う。この連鎖から抜ける手段が、ヒトにあるのか…?
アシェラッドが普段の冷淡さを維持できず、拷問で隊長を屈服させることにこだわったのは、彼が『キリスト坊主』で『サクソン人』だからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
”父”なる神に祈りを捧げ、他人の庭で支配者面。アシェラッドから見れば憎くて堪らぬ相手だが、デーン人に故地を焼かれる前は、良き父でもあったろう。
500年前の故国を取り戻す…少なくとも平穏に保つための”ヴァイキング”活動は、かくして敵を生み、それは暴力では屈服しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
鼻を切り取る前にトルケルが追いつき、戦神の雷名は恐慌を呼ぶ。崩壊の始まりである。
戦闘行為はやっぱ、命ではなく士気が崩壊した時に終わんだなー。
死者に相応しい礼節を求めるクヌートは、薪雑把のように担ぎ上げられ、乱雑に荷車に乗せられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
葬礼など贅沢品。今は火急の時である。
静かな怒りを込めて振り下ろされた掌が、クヌートの頬を打つ。冷たく見下ろす瞳に、憤怒と苛立ちが見える。
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ビンタで現実を分からせようとするアシェラッドが、トルフィンにそうであるように最悪の”父”で、『ホントヘッタクソだなコイツ…』って感じ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
地位が欲しいだけなら、甘言で乗せて傀儡にする道もあろう。ビョルンもそう言ってたし。
しかし、それでは納得できない。頭に抱くに足りる、信頼が欲しい。
自分の中の渇きを預けるに足りる、絶対的なもの。残酷な現実から嘲笑に負けない、運命を動かしうる”なにか”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
そういう曖昧なものを、アシェラッドは冷笑と奸智の奥で探しているのだと思う。
ロマンチストにも、ニヒリストにも成りきれない生煮え人間。そらー、百人からの兵団すらもまとめきれんわ。
暴力知略装置としてはかなり優秀だけど、国や運命を背負い切り、年表に名を刻むには足らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
アシェラッドの半端な造形はとても見事で、人の在り方を活写していると思う。
こういう存在が史書の隙間にはみっしりと埋まっていて、英雄の物語が歴史になっているのだろう。
後に北海皇帝を冠する英傑クヌートは、アシェラッドの激発に真相を悟る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
”良き父”を奪い、自分の秘めた欲望を押し付ける”悪しき父”への視線を、アシェラッドは冷たくはねのける。
殺したよ。だからどうした。
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離反者を、アシェラッドは処刑しない。恐怖で縛ることもなく、部下に造反の自由を与える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
暴力集団の長としてはヌルいと思うが、そもそも権勢が欲しいわけでもない。欲しいのは運命への納得なのだ。
自分が本当に欲しい物を、適切な方法で見つめ、手を伸ばしえなかった男の悲哀を背負い、行軍は続く。
その背中を、軍神の一味も追う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
背中を曲げたアシェラッド兵団の道行きに比べ、『我らヴァイキング、殺戮に恥じるもの無し』と堂々、真っすぐ進み続けるトルケル兵団。
悲しいかな、”器”の差であろうか。
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というか、アシェラッドが部下に求めた『付いてきたいやつが付いてこいッ!』って自発性を、敵たるトルケル兵団がガッチリ持っちゃってんだよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
アイツラお頭の戦狂い、オールドスクール・ヴァイキングスタイルにバッチリ共感しちゃって、おんなじ気持ちで進んでんだもん。
アシェラッドはウェールズへの忠誠を堂々表に出来ないし、トルケルみたいな陽キャでもないんで、むっつり黙って信念を隠す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
人は結局なにかの奴隷。ニヒリズムが差し出せるのは現世利益だけで、それは風前の灯のように危うい。風向き次第で、簡単にドツボにハマる。
そういう状況にあっても、ただただアシェラッドを見据えているビョルンが健気でもあり、哀れでもある。お前の周り、マジでクズばっかだよ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
『クズにはクズしか集まんねぇな!』と嘲笑うには、アシェラッド兵団と付き合った時間が長すぎる。生臭いカルマに、どうにもため息である。
迫りくる足音。伸びる影。それぞれの顔に影が伸び、下は上の意志を介さない。崩壊した橋は、そのまま兵団の運命だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
『人が渡る』って視点でしか橋を見れない兵士と、兵站と経済まで考えて立ち回る指揮官の視覚差が残酷だなー、と思った。
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アシェラッドは確かに賢しい。政治も経済も暴力も出来る。でもそれを他人に伝えたり、共感してもらう能力(と意志)に決定的に欠けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
他人は所詮、信じるに値しない。
ニヒリズムの限界点がこの雪原だが、では後の覇王たるクヌートはそこをどう踏破していくのか。
クヌートを無力に陥らせている憂鬱を、どう乗り越えるかって個人の問題は、アシェラッドの限界点を北海皇帝がどう克服するかっていう、もうちょいデカい問いかけに繋がっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
愛なきものは、100人すらだにまとめきれない。信念を共有しなければ、ケダモノの集団は脆い。
その脆さを超越したからこそ、クヌートは後に覇王足りうる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
父を殺され、この世によるべなくたった少年が何を杖に立ち上がるかで、アシェラッドが示した限界点を超える”なにか”が見えるだろう。
愛の無力を見せたトールズ父さんと、暴の限界を見せたアシェラッド、二人のいいとこ取りって感じかなぁ…
それは未来として、今は地獄のような追跡劇を生き延びる必要がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
丘向こうに輝く槍衾。神話から飛び出してきたような、四人殺しの投げ槍。こうしてインチキ暴力叩きつけられると、そらトルケル親方に付いて行きたくもなるわな…。マジ漫画。
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トルケルの投げ槍は兵団の戦意と、アシェラッドの冷たい理知を決定的に壊す。ビョルンがやはり、その崩壊を冷静に見据えているのが印象的だ。戦闘時はキノコ食ってバーサーカーなのにねぇ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
終わりの気配を感じつつも、それでも自分の信じた男を信じ続けることにしたんだなぁ…純愛じゃん。
兵団をまとめていた実利のタガは緩み、頭の顔には雪が蹴りかけられる。背後には戦神の槍。前にはむせ返るような不和。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
どんずまり。行き場のない泥まみれの破滅を、男たちはどう切り抜けるのか。
あるいは、切り抜けられぬまま泥に沈んでいくのか。
待て、次回。良いヒキだ…。
というわけで、アシェラッドのグラウンド・ゼロ開幕ってエピソードでした。風雲児のように物語の舳先に立っていた男の限界点を、拷問と不信で色濃く塗りたくる筆が重たく、ズッシリ腹に入った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
人間、そういうもんである。美しきヴィンランドを夢見つつ、そこにはめったに辿り着けないのだ。
だがその愚かしさ、無力ひっくるめて人の生き様なのであり、このお話はそういう人生曼荼羅から全く目を背けていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月27日
矛盾と無理があらゆる場所で軋み、生と死が交錯する運命の結節点。煮えたぎるように冷たい雪原から、一体何が飛び出すのか。
来週も楽しみ。