



魅惑の魔少年が、記号だけで構成された空っぽ人間どものコミュニティをかき乱し、空っぽであることに唯一疑問も違和感も持ってない超虚無生命体を持ち上げて、野望の階段を順調に登るお話。
石田彰の魔少年力にかなりの部分を頼ってはいるが、今まで散々空っぽっぷりを描写されてきた連中が超音速で堕ちていく様子には妙な納得があり、自分的には結構手応えがあった。
雲仙くんが強引に話を丸める流れで、空っぽなりの意味や矜持が微かに(マジ微かに)見えたのが、結構良かったのかもしれない。
このお話の軸が何であるか…あるいはテーマなるものの不在それ自体を面白がる、中身がないからこそ軽い軽妙さを狙ったものなのか、残り1/3まで進んでも俺には全然解んないんだけども。
今回描かれた防衛部の中身ないからこその脆さ、そこをクラッキングして野心を前に進める小石川くんの思惑、…を跳ね返してるように見えて何の変化もない雲仙くんの姿は、今まで積み上げてきたものにあんま嘘がないな、と思った。
あんだけ記号以外に何にももたず、それを補う身のある交流もそこまで多くなく、ひたすらなんとなくつるみ、なんとなくいがみ合ってきた連中なら、選ばれる側になれる誘惑にはそらー脆かろう。
薄皮一枚の連帯にヒビ入れる仕事を、第3話で最悪な性根を見せていた愛琉志くんに預けていたのも良かったし、久々に彼の汚ったねぇ声聞けて嬉しかった。
ペラッペラな記号貼り付けてグダグダ言ってるときより、インダス川より濁ったエゴぶつけてるときのほうが愛琉志くんは可愛いので、どんどんナルシズムの地盤を切り崩されて、ヤバい呪いを吐き出す方向で行って欲しい。
他の連中も個別回で掘り下げられた、なけなしのエゴを上手く小石川くんにクスグッてもらって、「コイツラにもなにかに執着する魂が、確かにあったんだなぁ…」という気分になった。
記号の塊にそういう感慨を覚える瞬間が、俺はいつでも好きだ。
石田彰の好演にも助けられて、小石川くんが防衛部のヌルい繋がりを俯瞰で見て、英雄サークルをかき乱す姫役やってる姿にも、結構な納得があった。
このお話の登場人物は自分が何者であるのか、内面なるものに踏み込むチャンスを一切与えられないまま、背負わされた記号一本でヌルい青春コメディに挑んでいる。
そらーキャラクターとしての全身が軋むわなぁ! ってところを、小石川くんは向き合う相手ごとにキャラを変え、相手が一番欲しい言葉を投げて籠絡し、空っぽな内面を擬似的に満たしていく。
そのあまりに早すぎる浸透は、どんだけ防衛部の連中が空っぽで乾いているかの証明になってて、凄く良いなぁ、と思った。
物語を咀嚼する行為に一般的に求められるだろう、奥行きあるコクとか味わい深さとかの観点じゃ、あんま褒められたもんじゃないんだろうけど。(本気で今見ているものの欲望中枢をぶっ刺すつもりなら、もうちょい気合い入れて可愛げを磨き上げる所で、アリモンの萌えで済ましてるところとかも、まぁあんま褒められない)
ここまで九話、そういうトコロに行きつけそうな瞬きを時折見せつつ、イマイチ時代からズレたヒーハーなネタと、作品やキャラのコアへと踏み込む前に「な~んちゃって」で逃げる腰の弱さを積み上げてきたこの話が、唯一出せる嘘のない自分らしさが、多分今回のチョロさだったんだと感じた。
これは多分狙った作劇ではなく、尺の都合をキャラに明言させる半端なメタ視点と、どっかでみたアリモノをやり切ることに汲々としてる余裕の無さが噛み合った結果の、幸せな偶然だとは思うけど。
ともあれハイカラ防衛部の皆さんが、作品外の視線が宿す欲望を忠実にこなし、彼らの意志も意地も介在しないサービスをおざなりにぶん投げてくる二次元娼妓である現状(と、僕が認識するもの)に、嘘のないスピーディな堕落(と、そこからの回復)だったと思う。
インスタントに悪感情に引っ張られ、何もなかったかのようにそこから立ち上がって、「いつもの防衛部」をやれてしまえる後腐れのなさは、ペラッペラな記号だけで構成されているからこそ生まれる身軽さだ。
小石川くんが最後に「よしよし、狙い通り絆が深まったな!」と言葉でまとめたから、絆が深まったことにもなる後追いの追認が、ペラッペラに軽くて気持ちが良い。
小石川くんの空気操作に、空気が読めないが故に踊らされない雲仙くんは、選ぶ自分であることに誇りを持っている…風味である。
この揺るがぬ意志はどんな状況でも「ハイカラ」しか鳴き声出さない、徹底的な内面のなさとビッチリ癒着していて、フツーの視座から見るとグロテスクですらある。
そういう平面的怪物としての主役の顔を、あえて抉り出そうとしたのか結果的に出ちゃったのか、やっぱり僕には判別つかないけども。
前回平面の裏にある奥行きをちったぁ掘り出せそうな展開から、スカッと背中を向けて個別回を終わらせた流れから繋ぐなら、まぁこの描き方が嘘はないよな、と思った。
ある意味今回で、作品に感じていた煮え切らなさ、存在に耐えられないほどの軽さが相転移して、独自の味を持った感覚もある。
正直彼らが劇中で得ていく友情やら絆やらが、作品独自の手触りと体温を宿した本物であるという認識は一切得れないし、「なんかやってはるわぁ…」という離人感は消えない…どころかドンドン強まっている。
んだが、そうなるべくしてシーンとエピソードを積み重ね、そうなるべくしてオタク的記号の吹き溜まりが生まれつつあるこの終盤戦は、妙に個人的な納得を宿してもいる。
ずっとそういう話だったし、そういう話であることから離れる試みを自分で叩き潰してきたお話が、ペラッペラな記号と薄ら寒いスローガンの集合体になっていくのは、そら必然だろう。
そしてなまじっか人間を描こうとしてないから、ペラペラな彼らは妙に可愛い。
これは記号が操作され、物語と快楽が発生するプロセスそれ自体に強めの興味がある、相当異常な消費者だからこそ感じる可愛げなのかもしれない。
作者の意図(あるいはその破綻)に抗い、己を語る権限すらもたず、求められるままセクシーなサービス、パンチに欠けたトボケ、形だけの絆と友情と戯れ続ける彼らは、それでも作品の中で必死だ。
この何もかもが表層の上で滑ってる状況で、それでも妙に”在る”感じをキャラに宿せているのは、理屈で割り切れない強さと上手さが確かに、この作品にあるからなんだろうなぁ…とも思う。
散々悪口垂れ流してきて、今更聞き入られるとは思わないけど、俺はこのアニメ結構好きなのだ。
そもそもなんかデケーことを独自に言いたいわけでもなく、既に確立したそれっぽいなにかをなぞりつつ、物語の外部から投げかけられる欲望に応え、程よく心地よいお約束を演じ続ける、永遠の足踏み。
話数カウントが「終盤戦」を示したから、虚空から唐突に現れて盤面をかき乱し、なんかいい感じにクライマックスに突入しうる紛糾と絆をペラリと作り出す、いかにも石田彰声な石田彰。
その空っぽすぎる物語の伽藍が、あまりにチョロくあまりに薄っぺらいキャラたちにしっかり反射されて、物語の形式と内実にズレが無いところが、僕の捻じくれた愛着の理由なのかもしれない。
「自分たちがやってることに嘘をつかない」という点において、防衛部ハイカラというお話、自分的には心地よく見れてしまっているのだ。
でもこれはファンでもなんでもねー外野が、キャラにもシリーズにも愛着なく安全圏から見てるから感じていることで、”防衛部”に体重預けている方たちには結構キツいのかもしれない。
自分としては有基くんがぶっ飛んだ視線で愛の本質についてしつこく踏み込み、トボケた記号論コメディをぶん回しつつも妙に体温があった”LOVE!”が好きだったので、あのクドい熱が全然感じられないのは残念ではある。
同時にこんだけ空疎にぶん回されると、別物として割り切れてもいる。
そんくらいの間合いなんだよな、自分と”防衛部”…ある意味”防衛部”を諦めて、眼の前に出されているものを率直に食べれてしまう、無責任で気楽な立場。
さておき凄いスピード感とペラい建付けで、魔少年が怪しい企みを顕にし、その思惑にかき乱された主役たちが絆を深め、主役が空気を読まないからこその強みを発揮するお話が、終盤戦に相応しく展開されていきました。
この話が一話で終わってしまうこと自体が、掘り下げるべき奥行きを徹底的にキャラから剥奪して、手際よく(もしかしたら低予算で)話を回せるエコノミー重点で話を転がしているこのアニメの顔を、良く照らしていたと思います。
このワリキリ加減は本当に凄いと思っているし、割り切らざるを得ない背景にファンの立場じゃ視線を向けれない分、一番デカい空疎がそこにありそうな気もするけども。
どっちにしろ、百目鬼くんの巨大(とされる)感情が炸裂する伏線なども貼りつつ、状況は終幕に必要な温度を、見ているものの実感とは無縁に高めていってます。
作品に貼り付けられた温度計が「そろそろクライマックスですよ!」と告げているのに、全然ワクワクしてこないダンドリ感、やっぱ凄いなと思う。
何度言っても信じてもらえないと思うけど、俺はこのお話しが結構好きだ。
世間一般で評価されるポイントではないだろうけど、外部の欲望に徹底して応える記号論の行き着く先を、見せてくれそうな期待が確かにある。
…だけど、こんな観点で興奮できるのは、ひねくれ切ったメタ構造のオタクだけなのだ。
それでも…次回も楽しみ!