Turkey! 第8話を見る。
ひとしきり個別回も終えて、苛烈さの中に確かな安らぎを宿した戦国にも順応してきた未来人一行が、クライマックスに飛び立つ前の整地のエピソードである。
異様な力みで突っ走り続けているので目立たないが、なんだかんだ巧いし物語の全体像もよく見えているこのお話の、優れたバランス感覚がよく出た回かなぁと思う。
まんべんなく10キャラの出番を作り、それぞれがここまでの物語で得た変化、培った繋がりを会話や情景に滲ませつつ、未だ一刻館ボウリング部が踏み込まざる戸倉家の秘奥に、飲み込まれるように踏み込んでいく所まで、しっかりまとまっていた。
俺はこのお話の本気でしかやれない力んだ姿勢も、そこに滲む不格好な生真面目さも、とても好きだ。
今人が死んだり、女であることが踏みにじられることの意味を真正面から問う話をやる同時代性を、戦国へタイムスリップする奇策ゆえに真っ直ぐ向き合える物語が、どこへ行くのか。
終盤戦、おそらく相当ハードコアにそれを問う前段階として、中間セーブ地点であるこの第8話、少女たちが今どこにいるかを上手くスケッチしていたと思う。
時空転移直後は、血みどろの戦いに巻き込まれてもどこか他人事であり、激ヤバ蛮地に放り出されてしまった「遠足」の匂いが抜けなかった女子高生たちも、手を泥に汚して井戸を掘りあるいは命に軽重をつけなきゃ生き延びれない厳しさを、真っ赤な返り血に学び取ったりして、人権が保護されない前近代のお客さんであるより、その当事者であることに近づいてきている。
同時に生きることがあまりに重すぎるがゆえに、色んなモノを軽んじないと命が続かない時代の、本当の泥に首まで浸かっているのかと言われると、まだそこには距離がある。
そういう場所に生まれたときから浸されている、戸倉家真の厳しさと重いと向き合うためには、一度は戦国の奈落に堕ち、そのハラワタを思い知る必要もあろう。
そんな天国と地獄の中間地点を、美しくスケッチする回である。
夏夢との魂の対話を経て、父へのわだかまりを超え自分の真意を見つめてしまった七瀬は、物わかりの良い理性的安全圏に自分を置くことを止め、手を土に汚して一緒に井戸を掘る。
それは大国の庇護なくしては生き延びれないクニを富ませ、己の思うままに生きれる自由を掴む助けになる…だけで終わらなさそうなのが、戦国という時代を包む価値観、それを生み出す血泥の匂いを、ずっしり腰を落として描こうとしている物語から、漂ってくるムードではある。
このまんま未来知識でハッピーエンド! となるなら、第1話冒頭で麻衣はあんな泣き方してないと思うし、OPもあんなに不穏じゃねぇだろ…。
とはいえ奪うためにはまず与えなければいけないし、奪われてなお消えない心のともしびを胸に宿すためには、無縁の存在だったはずの過去の人に、自分と同じ赤い血が流れていることを実感する必要もある。
そういう手触りを描く上で、ここまでの個別回はかなりいい仕事をしてきたと振り返れる、冒頭の温泉掘削シーンであった。
俺ァ身体張って現場に身を沈めていく人間の描写が好きなので、あんだけ戦国の衛生事情にワーキャー言っとったボケガキ共が、ジャージ姿で泥にまみれてるのをみて、胸に迫るものが確かにあった。
その体当たりの介入が、幸せばっかを連れてくるかは…先を見なきゃ分からんね。
あの美しい夕日は前回のエピローグでもあり、描ききれなかった夏目と傑里…自由と責任をそれぞれ背負うキャラクターの対話が、赤心に眩しい場面といえる。
己の胸の中にあるものを殺しきれず、さりとて自由なままに何もかも投げ捨てて逃げ続けることも出来ず、イエとクニに縛られる戦国の女たち。
その厳しさを繋ぐかすがいとして、姉妹の情は確かな手触りでそこにあって、天人が連れてきた思わぬ僥倖は、そういう甘っちょろい人間味が傷つけられることなく守られる、微かな希望を照らす。
国が富み、理不尽を強いられることなく、あるがまま生きられるという…麻衣たちの故郷では当たり前に守られている、あまりにも危うい夢。
無論全てが叶うユートピアなどではないけども、時を隔てた別天地だからこそ理不尽を可能な限り遠ざけ、ちったぁ人間が人間のまま生きられる権利と自由を受け取れる場所。
死ぬの飢えるのの心配なく、部活に一喜一憂できてしまえる場所。
戸倉家の女たちもみなそこを夢見ていて、しかし彼女たちを包囲する戦国の”今”は、そういう未来からは遥かに遠い。
そしてだからこそ、あるいはそういう現状だからこそ、人は時代を超えて同じ夢を見ているのだろう。
ここら辺のズレと共鳴が話の真ん中に来てみると、ボウリングとタイムスリップが話の主題になってんのは、かなり納得がいくんだよな…。
ボウリングって勝敗を競う競技であり、みんなで楽しむレジャーにもなり得て、どっちにしても生きるの死ぬのに縁遠い、ノンキで気楽な(だからこそ大事な)遊びだ。
そういう、戦国の血と一番縁遠いものをわざわざ背負ったからこそ、そういう泥沼でも楽しく幸せになりたいと願う、人間普遍の心が際立ってる感じはある。
こういう共鳴点を強調するために、この物語は時間的なズレを作品の真ん中に負いたわけだが、おんなじ差異と重なりは地理や社会的立場に位相をズラして、モニターの向こうに広がる現代日本でも共通なんだろう。
麻衣たちが戸倉の女たちに向けている共鳴を、人間普遍の強さと価値と見つめる視線が、確かにあると感じる。
今回のエピソードは現在地の確認であると同時に、作品を牽引するピンク色のカリスマの内側、生身の烈火が燃える過去に踏み込む話数でもある。
それは寿桃と利奈とで同時並列的に進んでいて、過酷な過去を背負いつつなぜ、麻衣が人間としてあまりに正しい道を進んでいられるのか、かなりクリティカルな問いかけが成される。
そこにたどり着くまで、寿桃の顔が鏡越しにしか描かれず、温かな生身で理不尽に向き合う麻衣と、ちょっと遠い存在になっているのは面白い。
傷だらけのまま、どこに入れば良いのかわからない幼子に差し出された手を、麻衣はいつでも差し出し返す。
己の重たい傷を…それを超えて光の方へ進み出す麻衣と、鏡越しズレた位置に己をおいている寿桃は、つまりパッと見ピンクの天然で似通っているように見える存在と、遠い場所に立っているわけだ。
この距離を縮めるべく、すがるように癒やすように伸ばした手で話が収まるかと思いきや、寿桃は秘密を明かさぬまま身を引き、麻衣のように暖かくなれる「いつか」を語る。
それを聞く青い着物の少女は部屋の外にいて、強く優しくあるための資質を問いかけ、手渡し合う場所から隔絶されている。
そういう場所の近くにいるのに、存在を認識されず望みの外側に追い出されている子を、どうすれば近くに引き寄せられるのか。
同じ青色をシンボルカラーにする利奈が、さゆりに膝を曲げて近づく形で、自分から冷たく美しい他人の事情に踏み込んでいったのは、とても印象的だった。
俺は第1話から利奈に甘いので、あの子が自分なりこの旅で起こっていることを噛み締め、麻衣が取り繕った善良の奥に燃やしている、烈火の如き理不尽への憤怒に焦がされている様子を見るのが、大変好きだ。
誰も取りこぼさず、手を差し伸べる。
麻衣が利奈や寿桃に果たしていることは、かつて自分がしてもらったことであり、一人トロフィー抱えて両親を待っていた時、本当は手渡してほしかったものを、他人に施して取り戻そうとしている、一種のリハビリでもあろう。
そこには話が人間の尊厳に差し掛かった瞬間、キレたマジ声を腹の底から絞り出すことしか出来ないい、桃色のカリスマの生き様がよく燃えている。
人間の本質を一瞬で直感できてしまう才能ゆえに、色んなものに縛られて身動き取れなくなってる凡人の地平から浮き上がる麻衣だが、その熱はたしかに人に伝わり、何かを変えつつある。
スペアを取れないイップスの奥に、癒えない傷と寂しさを抱えてるオーラがビンビン漂っているけども、だからこそ震えを微笑みで押し殺し、常に明るく輝いていようとする生き方は、強くて正しい。
その生き方が、幸せな結末を掴み取れるかどうか。
全く油断ならねぇのが、この本気しかないアニメである。
そういうふれあいの隣で、髪色を同じくする魂の姉妹が時を超えた繋がりを確認し、そうして自分の形がちょっと見えた仲間と、夕日の中肩を寄せ合う。
この夕焼けの対話、ここまでの話数をフルに活かしてる感じでマジ良かったですね…。
すれ違ったり振り回されたり、色々あった戦国の道のりだが、確かに得たものも多かったのだ。
お互いの個別回を経て心が育った七瀬と希が、まるで親友のような距離感で未来について…この場所への愛着について語り合うのとか、旅で得たものをしっかり確認できて素晴らしい。
ほんでそういう情景がちゃんと美しいのは、このアニメの良いところね。
前回から異様な速度で、人間としての貌が削り出されまくっとる七瀬だが、父不在の辛さから逃げるように知識を溜め込み、博士キャラの背負った影が一気に立体感増していたのも凄かった。
そうやって溜め込んだ知識が、人を活かしうる武器として機能する戦国への愛着を語る顔が、発展途上国での井戸掘りに呪われたオヤジに妙に似ているのは、業であり祈りだなぁと思う。
既に壊れてしまった親子関係に苦しむ利奈、燃えてなお宿る灯火を導きとしている麻衣に対して、七瀬とオヤジの関係性は、未来から来た旅人の正体に絡んで、今後どういう発展を見せるか…ここに来て、メガネの解説装置が一気に存在感を増してきとるッ!
あと利奈麻衣の交流は全てが最高で、「マジで”ある”ッッッッ!!!」って感じでした。
上手く周囲に馴染めない利奈が、それでもみんなのために作った不格好なボウリング場が持ってる意味を、麻衣は当然解っているし取りこぼさない。
そうしてくれる部長の傷を知り、踏み込むべきじゃないかもしれない泉にあえて踏み込んでくれる暖かさを知って、利奈も真っ直ぐ自分の言葉を伝えていく。
他人の心からといい場所に自分を置くことで、これ以上傷つかない安全を保つことよりも、自分がしてもらって嬉しかったことを返す。
これねぇ…麻衣が誰かに手を差し伸べ続けるのと、同じ心の機序なんすよ…。
目の前にいる人が、時や立場を超えて同じ心の動きを持っていて、共感でお互いを繋ぎあえるかもしれないという、甘っちょろい希望。
これを封じて、守るべき相手と殺すべき相手を冷徹に切り分けないと生き延びれないのが、剥き出しの人間性が素足で動き回ってる、戦国のルールではある。
そういう場所でも人の心は繋がってしまうし、澄んだ水鏡は想像していたより似通った人間の像を、お互いの心に照らすことを、利奈は学びつつある。
そういう発見と自分の心の動きに、素直になる勇気を手渡せているんだから、つくづく音無麻衣は立派な人である。
俺はこういう形で、キャラの偉さを削り出してくるお話しが好きだ。
そして暗い奈落に落ちそうなときも、麻衣は最速で己の体を動かし、利奈の手を取る。
他の連中が反応できない突然の不条理に、考えるよりも早く対応し命を拾うの、マジ傑物って感じで好きだ。
やっぱずーっと、麻衣がどういう部分で卓越しているのかを意識して描き続けている話だと思う。
何もかもをぶち壊しにする理不尽への反応速度は、それに対応できないまま父母を奪われた己への不甲斐なさが根っこにあると思うと、褒めてばっかもいられないわけだが。
それでも、危機を前に先頭に立って皆を引っ張るのは、やっぱり麻衣部長の手なのである。
利奈に対応する青キャラである朱火は、戸倉家が抱えた暗い秘密でもあるらしい。
…武家にとっての忌み子を殺す風習も、現代社会の感覚では理解できない戦国のリアルであり、それに抗って命と尊厳を守ろうとする姉妹は、やっぱ本来いるべきじゃない時代に生まれついてしまった、時の迷い人なのだろう。
こういう形で、タイムトラベラーたる主役と原住民たる戸倉家を対照/共鳴させてくるの、面白い書き方だなぁと思う。
殺すべき相手を選べる(選ばないと責務が果たせない)傑里が、朱火(あるいは寿桃?)を殺せず生かす選択をしているのも、第6話との響き合いで良いコク出てきとるわ…。
この暗い秘密に踏み込むことで、一刻館の少女たちはさらに戸倉家へ…彼女たちが生きる戦国のリアルへ、深く身を浸していくことになる。
遠く見守ることが、誰かの尊厳を守るという賢い決断を、意を決して跳ね除け、心と命の赤い核心へと身を進める意志。
それを宿しているからこそ、音無麻衣はこの物語の主役だと僕は思っておるので、次回何が描かれるかには、とても期待しています。
他者とどの距離感で向き合うのが正しいのか、色んなキャラと関係性を通じて多彩に描きつつ、芯の太い答えを主役にずっと背負わせているの、一貫性があって俺は好きです。
あの子は多分、そういう人なのだ。
次回も楽しみ。