憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
橋の上から女が落ちた、汚れ酒場のボロ雑巾。
それを愛した男が消えた、三日三晩の阿片窟。
このブリテンにありふれた、身分違いの悲しみ喜劇。
だけど教授は、許しゃしない。
悪魔の猟犬引き連れて、悪党お前は、地獄で踊れ。
そんな感じの、セックスと麻薬と偽装自殺、憂国のモリアーティ第5話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
初の依頼なき殺人となり、ウィリアムの白皙に少し血が通ったような…暴力集団をテコにした身勝手な正義が色濃くなるような、自分的に少し不思議なエピソードだった。
”モリアーティ”は義憤に燃える人か、正義を為す神か。
そこの感触がなかなか掴めないまま、しかし溢れ出る悪徳と残虐、底冷えした正義にフラフラ惹きつけられ見てしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
そんな赤黒い誘惑に身を任せつつ、酔いきれない。アニメの画角は聖なる犯罪の、隠しようがないグロテスク、公憤に飾られた”私”の匂いを的確に切り取っている。
憂国のモリアーティというアニメーションは、”モリアーティ”の犯罪を、存在を、肯定するのか否定するのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
それが、今後作品を追う中で一番のミステリなのだなと、自分的に画角が定まった感じがする。
…原作ありのアニメ化としては、相当攻めた作り方になってる気がする。原作未読で判別しきれないが
物語は、狂女の落下から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
橋…二つの領域を繋げる境界から落ちる彼女は、貴族と平民、二つの身分を繋ごうとして失敗し、死地に追い込まれた犠牲者だ。
それは遠い未来、ライヘンバッハから落ちる”モリアーティ”の予言かも知れない。
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/tQ0kffDmMh
教授の踊りは推理という形をまず取り、殺人に至る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
今回のダンスは上手く行ったが、腐敗しきったロイヤル・ブリテンと踊りきれるかは、まだ分からない。
犯罪による世直し。
一私人集団によるテロルが、どこまで大英帝国に牙を突き立てられるか。それを考えるには、まだ早いか…。
学生のサボりを、鬼の顔で注意する教授。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
学園コメディでこの話が終わるわけもなく、教授は不在の部屋に何かを感じ取り、自分の事件として引き受ける。
友を強く思うライルの瞳に黄金を感じたウィリアムをは、彼を腐臭漂う事件から遠ざける
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/LR3QVwqocG
ここが僕には、ちょっと面白かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
モリアーティ邸炎上事件において、アルバートがウィリアムに感じた光。貴族社会を根っこからひっくり返す、暴虐と犯罪の誘惑。
それと同じものを、犯罪卿は友を思う青年の真摯な輝きから感じ取る。美徳を黄金と感じる感性を、彼は持っている。
ではなぜ、それを守る手段に犯罪を選ぶのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
『彼が”モリアーティ”だから』という、メタ視点の答えも出せるだろうし、『それ以外に固着した階級構造を崩せないから』とも言えるだろう。
それ以外の譲れないなにか、犯行手段(モーダス・オペランディ)を選り好みする根にあるのは、美学か憎悪か嗜好か
そこら辺を、僕はもっと見たいな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
同時に犯罪相談役として、正義と復讐を望む人に完全犯罪という凶器を手渡す神めいた彼の表情も、なかなか面白い。
絶対不可侵の神と、怒り過つ人間。二つの顔を行き来する金色の青年が、何を求めどこへ往くか。
アニメから入ってこのアニメを楽しんでいる僕の焦点は、そこに絞られてきた感じもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
この奥が読み通せない感じが狙って出しているのか、偶然噛み合って生まれているのかは、製作者ならざる僕には判別つかないけども。
その意図も、最後まで付き合わないと読みきれないかな。
人が人を思う輝きを、どす黒い闇から守るかのように、教授は単独で事件に切り込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
真犯人とは、遠景の柱を境にけして交わらず、悪徳を拒絶し。
川向うの泥濘と嘲られるパブには、自分の足を運ぶ。
金を突き返し、無念を手渡せる距離
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/IIguIwz75G
橋の上、黄金の光の下であり得たかも知れない幸福な夢を、壊した悪党の真実を知っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
しかし、誰も殺してくれとは言っていない。
虐げられた民の、声なき声。それを聞く耳は、簡単に自分の中から湧き上がる正義の炎を強くし、全てを焼く。
”モリアーティ”の前には、テロルの路が開いている。
世界初の理性的探偵、そのライバルたる犯罪卿は、犯罪を解決する側よりも強く、己を律する近代的理性、倫理的規範を持たなければ行けない立場なのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
誰を殺し、誰を活かすか。
その判断を”私”にしかもたない、世直し処刑人。彼が軛を失った暴れ馬にならない保証は、どこにもないのだ。
というか依頼人なき私刑殺人やってる時点で、既に絶賛大暴走中なのだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
それを咎めうる”公”は、貴族の私欲で腐敗し機能していない。だからこそ他でもない貴族階級から、私刑を以て公を正す道を選んだ…のは、アルバートの”依頼”か。
炎の絆で結ばれ、ウィリアムももはや立派な共犯だけど。
投げ返された黄金は、無念を渡す六文銭。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
悪徳が匂う阿片窟に、積み重なる罪の値段。
”金”という非常に生臭いものをスケッチすることで、殺されるものと殺すものの表情が、深く見えてくる。
パイプの異常に凝った装飾が、英国の腐敗を教える
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/Hg5NEmq2r6
紫の悪徳に染まった連中は、軒並み醜い。その醜悪が、果たして殺人という究極の手段に見合うものなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
現状、他に道はないと描かれている。当たり前と諦め、変化の芽は踏みにじられている。
それが社会の困窮なのか、個人的な思いつめなのか。それを探るとこまで画角を広げるかも、今後の個人的注目
とまれ、この事件は極めて私的なアングルから捉えられ続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
『花を供えてくれ』と投げられた浄銭を薪に、燃え上がる炎。それは狼煙となり、私兵を呼び集める。
ガーゴイルのように、岩の上に立つフレッド・ボーロックが印象的。
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/C4Z30RVdtG
今回の事件は依頼者がいない。ウィリアムが状況を把握し、『こうあるべき』と定めた正義を、同志(あるいは共犯者)と実行している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
そこには意志と決断と責任があり、誰かの願いを反射する犯罪機械の役割を、大きく踏み出している。
彼にそういう顔があると見えたのは、僕には面白い。
彼が世直しのために選び取った”モリアーティ”という機関は、三人称的な遠さが確かにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
誰かの憤怒、誰かの憎悪に助言を与え、誰かの手を赤く染める。
その”誰か”に、ウィリアム自身も入っていることを今回の犯罪は色濃く教える。その人間味が、救いとなるか仇となるか。
ともあれ、刑は執行される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
女を踊らせ突き落としたお前は、死と踊り橋から落ちろ。
罪なきものを椅子に縛り付け犯したものは、縛り付けられ血みどろに死ね。
幼子の命を無碍に蹴倒したものは、懇願を無視されたまま哀れにくたばれ。
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/HnQcJNU4Jc
ここまでの犯罪/正義と同じく、ウィリアムはクズが己がお貸した罪と似通った死に様をするよう、状況を整えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
同罪反復。
バビロニアの法典にすら刻まれている原則を、忘れきったこの国に取り戻すかのように、報いを受けさせる。殺人という無秩序を、貫通するあるべきルールへの希求。
それがいつか、”モリアーティ”自身にも襲いかかる気配を、カメラは静かに捉えているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
橋は生と死の狭間を繋ぎ、そこから落ちたものは『慚愧に耐えかねた犠牲者』と偽装され、死の国へ進んでいく。
いつか、彼らもまた落ちるのか?
それに答えるものは、まだいない。
為された復讐の正義、帰らぬ人への思いを前に涙する人を、ウィリアムは遠巻きに見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
それは彼の事件ではなく、しかし彼は選び取って、法では裁かれない悪党を殺した。依頼者なき犯罪に渦を巻く感情は、遠くて近い。
©竹内良輔・三好 輝/集英社・憂国のモリアーティ製作委員会 pic.twitter.com/UiDgHaidxL
捧げられたのは、黄色い水仙。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
花言葉は”もう一度愛して””私のもとへ帰れ”…そして”うぬぼれ”。
ナルキソスは暴走した自己愛の果てに、水鏡に写った自己愛に溺れ、水仙に成り果てたという。
見るべき他人を選別し、身勝手な正義を振るう青年も、兇猛なるナルシズムに食われてはいないか。
己が成し遂げた正義、それでも帰らない命を遠巻きに見るウィリアムの犯罪は、かくして幕を閉じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
完全犯罪が露呈しないということは、喪失の悲しみに寄り添う権利を失う、ということでもある。
ウィリアムが自分の事件と引き受けても、彼はあくまで部外者なのだ。
そんな感じの、犯罪卿の日常であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
リッチな作画と豊かな演出力で、華麗なる残酷を切り取るアニメの筆致を僕はたいそう気に入っているし、神と人の合間を揺れるウィリアムの肖像、それを描く筆致と意図にも興味を惹かれている。
それが多分、原作にはない味わいであるとはなんとなく、解る。
僕はアニメ化を通じてこの作品と出会い、アニメという表現を通じてしか”モリアーティ”と踊らないつもりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
そういう出会い方をしたのは個人的には行幸だと思っていて、ただアニメのみを知り、面白いと感じる視聴者として、この作品を見ていこうと思う。
それで取りこぼすものも多々あろうが…
そういう立場でこのアニメを見続けることが、捕まえるなにかもあるかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
無論そういう視点は間違いを沢山含み、見当違いの読みを重ねていくのだろうけど、それも引っくるめて『僕と”憂国のモリアーティ”』かなと、勝手に思ったりもする。
まぁ一人くらい、そういうのがいてもいいだろう。
伊達男と寡黙な少年を加え、モリアーティ一味の形も整ってきました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月9日
依頼なき殺人を、己の手を汚すことなく果たした金色の堕天使が、次に赴くのは船。
移動する密室の中で、いかな腐敗が暴かれるのか。いかな正義が牙を剥くのか。
次回も楽しみです。