バクテン!! を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
アオ校の自称エース、お調子者の女川先輩が怪我をした。
原付にぶつけられて全治三週間、地区大会に間に合わないかも!
…というスポ根によくある問題とは、また別の所にある陰り。
高く飛ぶ足場が崩れた時、僕らはどうすれば良いんだろうか?
そんな感じの、女川先輩と美里くんのエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
前回の志田監督を主役に描いた薄暗さを引っ張って、ずるくて弱いお調子者にため息一つ、実は気遣いの人なスーパーエースとの凸凹青春二人三脚なお話となった。
先輩だけでなく、寮に越してきた美里くんがどんな人間か、良く見えるお話。
この話全体的な空気としては溌剌として颯爽、前向きで常に明るい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
これは相手をよく見て素直に感動する主役、翔太郎の人格が強く影響している。
彼を中心に描いてきた前半六話は、屈折することなくただ真っ直ぐ、目の前の課題を飛び越えていく構成が目立った。
そこで基本的な空気を作っておいて、前回は志田監督、今回は女川先輩と、主役を取り替える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
作品を切り取る画角を変えると、見えてくるものも変わる。
(第4話は七ヶ浜キャプテン主役回だが、彼の人品は翔太郎に近い真っ直ぐなものであるから、トーン自体もさほど本筋と変わらなかった)
世の中には挫折や迷い、弱さがたくさんあって、皆が翔太郎のように素直に生きられるわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
だがそんな風に真っ直ぐ翔べなくても、エースになれなくても、人は再び立ち上がることが出来ると、この物語は告げてくる。
人それぞれ、長所と短所は異なる。無条件に、誰もが頑張れるわけではない。
そう描いてくれることで、翔太郎の真っ直ぐな資質(を足場に作られる、この作品全体のムードとテーマ性)が、彼の人品によって獲得されたとても特別なものだと、受け止めることが出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
無条件に真っすぐは生きられない世界で、それでも素直である素晴らしさが、影に縁取られて輝く。
そして間違え迷いながらも、色んな人との縁を杖に立ち上がり直す人々の姿も、同じくらいに眩しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
皆、とても厳しい場所でそれでも高く跳ぶことを、自分の意志で選んでいる。
キラキラ輝く青春ドラマの、自動的な流れが彼らを後押しするのではない。縁と思いが、彼らを飛ばせるのだ。
比較的スルリと、人間として正しいフォームで翔べてしまう翔太郎からカメラをズラして、屈折した弱い人達を二連続で主役にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
そのことが、作品世界を支える厳しくも優しいルールをより強く伝えてきて、凄く物語に立体感が出たと思う。
僕はこの第7話&第8話、作品全体に大切な連作だと感じました。
僕は”視る”という行為を手がかりに、この作品を読んでる部分が大きいのだけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
物語開始時の女川先輩は、自分も世界も、好きなアイドルも見えてはいない。
あわや大事故、という危機を言い訳に、足を止めてしまった彼を、美里くんと監督はよく視ている。
(画像は"バクテン!!"第8話より引用) pic.twitter.com/v1ZtCl0E2z
今回のエピソードは、むっつりと厳しく正しいことばかり言ってた美里くんが寮に入って、至近距離で顔が見える話だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
実は前々から描写されていた、彼の繊細な心遣いは序盤から元気で、美里くんは調子がおかしい女川先輩をずっと目で追う。
失敗を引きずってないか。自分が悪い影響を及ぼしてないか。
翔太郎の素直な努力をしっかり見つめ、演技で語りかけてきたときから変わらない無骨な優しさに、今回のお話は目を向けていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
美里ボーイが優しい子だって俺は知ってたわけだが、今までのように匂わすのではなく、ど真ん中で掘り下げてくれる回で大変嬉しい。
身体が壊れると、心が歪む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
心が歪めば、怪我を装う。
前回志田監督の歩んだ暗い道を描いたことで、彼が女川先輩の歪みや弱さに、しっかり理解を及ぼしてる現状もよく染みる。
あさをちゃんが奥さんの身内だと判ったことで、一人頷いてる描写にもすごく納得行くんだよな。
今の女川先輩と同じような歪みと弱さから、志田監督は看護師である奥さんの言葉で立ち上がり、治した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
あさをちゃんは家族としてその歴史を知っているから、他の部員には当たり前の指摘に思える言葉に、凄く重い手応えがあるんだろう。
ここら辺、側道に一話使ったのがめっちゃ効いてる描写。
しかし監督はあくまで見守り、女川先輩が自力で立ち上がる時を待つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
自分もそうされて翔び立てたし、女川くんと仲間たちなら必ず戻ってくる。
一見放任主義に見えて、凄く子供を信頼して待ち続けるスタイルなんだなー、と思う。
この”信頼への信頼”、絶対馬渕先輩から学んだよな…(馬志が自カプ)
女川先輩の嘘は、一年コンビが部屋に飛び込む前から描写される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
薄暗い闇の中、怪我した足で地面を踏む彼はノックの音にも気づかない…周りが視えていないのだ。
美里くんは奇妙な同居を言い出し、じーっと女川先輩を見つめ続ける。監督も同じ。
(画像は"バクテン!!"第8話より引用) pic.twitter.com/De4DA0PSOJ
今まで”視る主役”だった翔太郎が、周囲を見ずに突っ走って扉を叩く役なのが、今回のエピソードの構造をよく語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
今回の”視る主役”は美里くんで、彼が隣に来ることで女川先輩も、相手と自分と世界を見つめる視力を取り戻し始める。
まず見えるのは、生真面目にノートを取るスーパーエースだ。
女川先輩は美里くんの肩越し、何事もチャランポランで、ストイックにこなせない自分との差を、まず見比べたと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
『嘘を付くなら貫き通せ』という、美里くんの提案…そこに込められた思いからも目を背けて、ついつい両足で地面を踏む。
この提案、ピュアで傷つきやすい部員見てるからだよな…。
仲間は弱くてズルい女川先輩をそれでも受け入れるだろうけど、真実は凄くバカで真っ直ぐな連中をメチャクチャ傷つける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
だからせめて、嘘は貫いてください。
そういう視線で、美里くんは女川先輩をじーっと見つめ続けているのだと思う。
生活領域が重なることで、美里くんの事が細やかによく判る回だ
それは女川先輩も同じで、テキトーなりに本気で真摯だと思っていた彼にクローズアップしてみると、思いの外脆く弱い部分が強く出る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
女川先輩は志田監督が寄せる信頼と心配から、どうしても目を逸らしてしまう。
自分が間違っていると判っていても、素直に正しくはなれない。
かつての志田監督と少し似てて、また違う影を彼は背負っていて、それがベランダでうずく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
嘘の包帯を巻いた自分の足が、何を踏みつけにしているか。
それを思い知らされた時、あの時みたいにノンキには立てない。
(画像は"バクテン!!"第8話より引用) pic.twitter.com/NhSmTXhcFB
女川先輩の誇りであり劣等感の源泉でもある二人の、ただただ真っ直ぐな思い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
これを視れてない段階では、自分に力をくれるはずのまーちょんの歌もバッテリー切れで、女川先輩に魔法をくれないのが面白い。
本当に大事なものに目を向けない者には、アイドルは微笑まないのだ。
最終的に女川先輩が自分を取り戻す契機も、自分自身が語っていた『二番手でも真っ直ぐに頑張る』まーちょん…そんな彼女が好きな、二番手でしか無い自分である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
連発される”〇〇エース”と合わせて、今まで小ネタだった要素が分厚く存在感出してくるの、凄く良い。
ちっちゃな頃からマブだった、とんでもなくスゲェ奴ら。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
それに追いつけないからこそ、エースを目指した。でもその夢は、いつでも現実に追いつかれていく。
カーテンを開けて話を聞いても、女川先輩は美里くんを…彼を羨み自分を蔑む女川ながよしを視れていない。
女川先輩視点だと、蒼天のベランダは失われてしまった素直さ、何も出来ない自分のスケッチなんだけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
でも三年生がずっと”三人”でいた意味、そこで女川先輩が果たした価値が、”三枚”のタオルとTシャツでしっかり示されてるのが、凄く優しい視線だなー、と思う。
彼は自分たちを”すげぇ二人と情けねぇ一人”にわけちゃうけど、ベランダで聞いた通り仲間たちは”すげぇ三人”だと思ってる。そして、多分それが正しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
暗闇の中足元、嘘で踏みつけているものがどれだけ重いか、判らない男ではないからこそ彼は、ベランダに崩れ落ちるのだろう。
ここで開け放たれたカーテンから、美里くん自身が飛べる理由が告げられていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
既にましろくんとの超屈折したライバル関係は描かれているから、彼が女川先輩の視る無傷のエースではないことを、僕らは知っている。
それでも翔びたい。インターハイに行きたい。
(画像は"バクテン!!"第8話より引用) pic.twitter.com/eLX6TCO59M
それは出会ってしまったから。瞳をこじ開けられ、自分も翔びたいと思える飛翔を見つけてしまったからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
志田選手はマジで、その飛翔で色んな人間の人生捻じ曲げ過ぎだと思います! 最高。
やっぱ出る人間全員、人生がネジ曲がるほどの暴力的な”出会い”経験してるの、最高に良い。
闇の向こうから届いた、エースの強い思い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
シャイに閉じられたカーテンの奥で、女川監督は美里くんの言葉を反芻し、視線を自分自身に向けていく。
自分が大好きなアイドルは、エースになれないから逃げ出すのか。
逃げ出す自分が、まーちょんガチ勢だと言えるのか。
女川先輩が立ち上がる最後の契機が、身近にはいない偶像なの最高に良いんですよね…”アイドル”に何がなしうるか、メチャクチャ力強く語ってると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
自分のことは誇れないけど、頑張る貴方を好きな自分なら好きになれる。
そういう気持ちにさせてくれる、特別で崇高な偶像。
女川先輩は”なんか元気もらえるサプリメント”にまで、大好きなまーちょんを貶めかけていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
すげぇダチに追いつくためにエースになろうと思った、自分自身すら視えていない弱虫に、アイドルは歌ってくれない。
でも、心のなかに宿った歌がもう一度動き出した後は、その歩みにしっかり寄り添う。
あまりに美しい空に流れる、TANTAN-Girlsの声は、凄い人だらけのセカ位の中でそれでも、夢を諦めない輝きを歌う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
それが女川先輩の翼だ。
嘘の包帯を剥ぎ取って、エースじゃない今の自分を受け入れ、エースになりうる未来に不敵に笑う。
(画像は"バクテン!!"第8話より引用) pic.twitter.com/kzN8hDlR2W
ようやく、女川先輩はエースでありたい自分、まーちょんが好きな自分を視る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
その視線の先にいるのは、自分と同じように屈折しながらも熱い、不器用なスーパーエースだ。
彼が投げかける視線を受け取り、自分に反射させ、信じる偶像に誇れる自分を取り戻すことで、少年は足以外をしっかり治す。
薄暗いでこぼこ道を走った自分の過去に反射させつつ、そんな迷いを見守り続けた監督の視線を、バカ二人は共有しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
必ずしも全てが視えてる訳じゃないけど、でも仲間を素直に信じる気持ちが、結果として良い結末を連れても来る。
ここら辺の視差も書き方も、好きなエピソードだ。
かくして一件落着! 演技構成も変えて行くぞ地区大会!! …って思ってたら、美里くんの視線が険しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
その視線の先にどんな挫折と痛みがあるか、見つめ受け止める仕事はやっぱり、素直で無敵な主役に戻ってくるんだろうな。
今回女川先輩を視た美里くんが、翔太郎に視られる立場に変わる。
迷うもの、見守るものの立場は固定されたものではなく、皆が弱さや陰りを抱えながらも、魂が高く翔ぶ手助けを差し出し合っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
女川先輩が迷うことで、そういう世界の優しい強さが描かれる回でもありました。
翔太郎主役ではなかなか表に出てこない、人間が当たり前に持つ暗く弱い部分。
美里くんもそれを越えきれてないから、むっつりと自分の優しさを隠し生きているのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
だからこそ、この優しい少年の抱えた荷物を翔太郎が見つめて、一緒に翔べる日が待ち遠しい。
それを果たしてこそ、素直さが武器の主役でもあろうし。
主役を取り替え、影の濃い二話を連ねることで、
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
作品の陰影が強く深まる展開となりました。
この立体感で、翔太郎主役の爽やかな本道に戻ってくると何が見れるか。
不器用エースの秘密と合わせて、大変に楽しみです。バクテン、やっぱおもしれーな…。
しかしやっぱり”少年ハリウッド”の黒柳監督、キャラ要素で軽く流せそうな”アイドル”を触った瞬間、骨が太すぎるドル論で殴りつけてくるのが最高に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月29日
偶像が誰かの奇跡になるのは、その生き様が魂に反射し、幾度も己のあるべき姿を見つめ直させてくれるからこそなのだ。