MARS REDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
赤い幻に惑いながら、前田義信は刃を振るう。
吸血鬼、皆死すべし。
妄念の宿った一撃を受け止めながら、来栖秀太郎は言葉を絞り出す。
鬼に堕ちながら、人であり続けたい。
夢幻の間で、そんな祈りが雪に融ける時、かくして青年は己の道を選ぶ。
そんな感じの大正吸血伝奇譚、遂に最終回である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
前田さんと秀太郎、二人の主役にギュッとカメラを寄せて、男たちの哀しみ、女の涙を最後に焼き付けるエピソードとなった。
狂気に身を浸しつつも秀太郎を斬れない前田が、彼を殺せたのに灼かれた岬と、しっかり重なる。
去る者、残る者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
幸福な夢と真紅の狂気に溺れつつ、前田はその使命を果たし、秀太郎は初めて、己の意思で刃を使う。
人が老いて死んでいく舞台から外れた場所で、それでも人でいようとあがく弱い存在。
時代が行き過ぎても、彼らは舞台袖の暗がりで必死に生きて、たぶん今もそこに…。
現代のお伽噺に必要な余韻を微かに残しつつ、”零”の物語としては良い決着を迎えたのではないでしょうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
吸血鬼同士の超絶高速バトルっつー、作品のパット見で求められる要素が回収されるのが最終回って、やっぱヘンテコなアニメだったなー。
でも、そのズレ方に強い意志があるので、やっぱり好きだ。
狂ってしまった前田さんの、儚い夢。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
永遠の幻を彷徨う彼の背後で、時計は運命の瞬間の直前静止を続ける。
正気を失い、現状を否認し、あって欲しかった世界に溺れる。
それは多分、第1話で岬が見ていた夢だ。
(画像は"MARS RED"第12話より引用) pic.twitter.com/vs3Ebz6XyC
友がいて、頼れる上官であり義父となった人がいて、愛おしい妻がいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
世界は壊れなどせず、何もかもがモダンな装いのまま平和に守られていた時代は、しかし震災でヒビが入り、戦争で壊れていく。
年経ることの出来ないヴァンパイアの宿命は、前田さんにおいては精神にこそ、強く作用している。
秀太郎が立ちふさがることで、彼の夢想は終わり、現実へと帰還する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
東京駅を飾っていた大時計は崩壊し、もはや今がいつかもわからない。
幸福に向かって一方向に進むと思っていた運命は、過酷に荒れ狂い、男を吸い尽くした。
それでも、今ここに刃を持って立っている。立ってしまっている。
秀太郎と前田さんの決戦は、いつぞやの手合わせのように生ぬるくはなく、其処を超えて加熱していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
ひらひらと舞い落ちる雪すら静止する、極限の速さ。
心は夢の中で止っているのに、身体は時を超えて動く矛盾が、鮮烈なアクションの中で悲しくひらめいていく。
秀太郎がスワさんのダガーとか、山上さんの拳銃とか、タケウチの閃光手榴弾とか、”零”の絆をフル動員して前田さんを殺しに行くのが、とても悲しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
その死闘の中で一番活きているのは、他ならぬ前田の薫陶なのだろう。
奇縁に集い、何かを成し遂げることもなく、時代に踊った赤い徒花…零機関。
その決着にどっしり時間を使って、あくまで人として強くなろうとする秀太郎と、迷妄から解き放たれて岬の元へ旅立つ前田さんを照らしてくれたのは、とてもありがたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
東京駅前に刻まれた、二人狂鬼の重なる聖痕。
(画像は"MARS RED"第12話より引用) pic.twitter.com/9BZPsX7PoN
山上さんの時は優しく戯けた嘘を演出した秀太郎の吸血鬼能力は、今回情け容赦なく敵を屠る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
しかしその終わりこそが、前田を妄執から解き放ち、岬とともにある夢へ送り返す唯一の手筋であった。
或いは、狂気に抗い、人であるために鬼の力を使い、人を守るという理念は…
秀太郎が前田のごとき、鋼の剣鬼として鍛え上げられることで完成するのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
前田自身が狂気に駆られ、葵ちゃんを傷つけ殺しかけた時、秀太郎は科学の翼で駆けつけ、彼女の命を救った。
今回の刃にもそんな、捻れてしまった理念をかつて共有すればこそ、断ち切る慈悲が籠もっている。
永訣の朝に、秀太郎が葵ちゃんの血を求め、自ら刃を握って与える仕草が、切なく美しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
岬は柄を握って己を終わらせたが、葵ちゃんは刃を握って秀太郎の背中を押すんだよなー。
同じ東京駅前、第1話と最終話の対比はこの好きだ。
(画像は"MARS RED"第12話より引用) pic.twitter.com/eGlA3K6ZbA
目の前に立ちふさがる鬼に、この後に待つ混迷に、”零”最後の生き残りとして、人として、白瀬葵を愛し愛された栗栖秀太郎として、刃を握り続ける修羅道を選んだ秀太郎。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
その視線が、前田の如き鋼の色を帯びているのが、やはり良い。主人公がこの顔するまでの物語…なのだな。
壮絶なヒロイズムに、哀しきロマンスをしっかり添えるのがこの作品のいいところで、葵ちゃんの涙は熱く、美しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
鬼が血に震えつつ、それでも人でい続けるための縁として、”恋”をそれぞれ様々に、豊かに描き続けていたのはとてもいいと思う。
そして折笠富美子声のヒロインは、いつでもマジ最高。
大乱を超えて、老いることのない吸血鬼は姿を変えることなく、街の片隅に生き続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
ファミコンの取りっこしてるちびっこ軍団、可愛かったな…新しいメンバーが増えていたので、隠れ里は戦後も機能し続け、幼い迷い子をしっかり守り続けたのでしょう。
金剛鉄兵の悪夢は儚く散り、大正を彩った”政府管轄の吸血鬼”も朝日の前の雪のように、消えていったのかも知れません。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
しかしどれだけ時が流れても、科学の灯りが闇を強く照らしても、そこに赤く輝くモノたちは確かに、しぶとく生き延びている。
デフロット君が幾度も繰り返し、永生者の憂鬱を跳ね返す希望にしていた『現代のお伽噺』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
”零”が吸血鬼らしい暴虐ではなく、脱力するような笑える方向に、自分たちの力を使ってきたのも、その一員として、ちょっとファンシーな夢を時代に刻むことが大事だったからかなー、と思いました。
終わってみると、凄く独特の味付けと力加減で進んだ物語でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
”吸血鬼によって構成された特務機関”つう看板から想定される、異能のチャンチャンバラバラからはかなり遠く、平和で呑気な大正をじっくり描いていく前半。
しかしそこにも、確かに鬼の悲しさ、人の脆さは滲んでいた。
大震災というカタストロフィ・ポイントを経ても、”零”の残党はノンキに生活を守り、殺すのではなく守る方に力を入れて、逃げて逃げて逃げ切って終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
残るのは、剣鬼の志を継いだ秀太郎一人だけ。
それでも、人たる証は手放さないまま、もう存在しない機関のモットーを唱和し続ける。
人である喜び、鬼である悲しさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
それを変貌していく時代をキャンバスに、凄く独特の絵の具で描いたアニメでした。
演劇調の画面づくりも、時代を宿した美術も、殺伐と微笑みが混ざり合う空気も、どれも好きだった。
伝奇史劇として、見てるこっちが勝手に膨らませられる素地がちゃんとあった。
『中島さん…護国の狂王ってんなら、最後にメカ中島になってぶっ込んでくるくらいの気合は見せてくださいよッ!』つう感じが、なくもないが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
あんだけふんぞり返ってた黒幕が、ストトーンと権力の階段転げ落ちてそのままって、やっぱすげぇ話運びだよな…。
ジャンルの定番からどっか外れた所で展開し、どっか外れた所にすっ飛んでいく話運びは、しかし描きたいものが鮮明で、とても新鮮だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
鬼も…鬼だからこそ人でありたいと、笑顔を生み出ししがみつく。
刃を握るよりも強い生き様を、貫くべく時代から逃げ、逃げることで向き合う。
終わってみると、バチバチのバトル物ではなかったことが、この作品にしか描けない情景を幾重にも重ねて、独特の味わいを生んでいました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
元が朗読劇だからか、文学へのくすぐりが随所に埋め込まれていて、僕好みだったのも大変ありがたい。衒学汁ダブダブなアニメだーい好き!!
大正から戦中、戦後を経てこの令和へ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年6月29日
”零”の鬼達が辿るであろう旅路を思うと、『現代のお伽噺』としての深みがある、良い終わり方でした。
大変面白かったです。ありがとうございました!