白い砂のアクアトープを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
営業最終日、がまがま水族館は賑わっていた。
巣立ちの時を迎え、魚も人も別れていく中で、くくると風花は行き先に惑う。
館長代理として、八月の迷い人として。
必死に駆け抜けた夏休みの宿題を、何処に届けていくべきか。
今、少女たちの夏が終わる。
という感じの、アクアトープ第一部完ッ! な第12話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
しんみりとした情感あり、旅立ちの爽やかさあり、夕暮れに爆裂する女の涙あり、ここまでの物語をしっかりとまとめ上げる、良い最終話でした。
くくると風花が選んだ道に、強く納得できるのは良いフィナーレだな、と思う。
館長代理として足掻いたくくるの一ヶ月は、現実を押し返すことなく、がまがまは閉館していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
その上で、その終わりから何を得て、先に進んでいくのか。
心の中にあって、無限に広がっていく海に自分という船を、どんな風に漕ぎ出していくのか。
見えているようでもあり、未だ不鮮明でもある。
がまがまを舞台とした学生編の終わりとしても、そこから始まるティンガーラ社会人編のエピローグとしても、力強い躍動がしっかりあって、とてもこの作品らしいエピソードになってました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
離れて進んでいく物語で、風花と繋いだ心がどう生きてくるか。
別れにこそ絆の輝きを期待できるのは、大変良い。
というわけで、ついにその日が来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
粛々と×印を増やしてきたカレンダーが、宿題提出日に辿り着いた時、くくるは泣くのではなく笑っていた。
おじいの弟子たちがぞろぞろやってくるのは、彼の人生を感じさせて好きな演出だね。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/emM5lNsvT9
さんざん憎まれ口を叩いていた類くんが、空也さんに涙でデレるのも、可愛くてよかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
皆別れを惜しみつつ、明日に漕ぎ出すための何かを探し、貰い受けて進もうとしている。
閑散としていた水族館には人が満ちているが、それは最後の花火だ。
それでも、沢山の思いが嬉しい。
急に濃い外見の社長さんが出てきて、くくるをティガーラに誘ったが、なかなかに浮かない顔である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
母を失って以来時間を止めてきたくくるが、ガマという子宮にこもり、出てきたばかりの現状。
未来を急に突き出されても、なかなか噛み砕けない。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/RVmdiKcvmK
うみやんが扉を閉ざす手付きが、棺の蓋を閉めるようにも見えて、なかなかに感傷を抉る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
それが呪いにならないように、精一杯足掻くだけ足掻いて終わっていく舞台を、孫娘と従業員に与えるために、おじいはくくるに館長代理を任せたんだろうなぁ、と思う。
散々迷って暴れて閉じこもって、終わることを納得はしたくくるであるが、何をどう始めるかは未だ見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
そこから一歩を踏み出す時に、一緒に月を見上げるのはやはり風花である。
しかし誰かに砕けた夢を預け、代理をしてもらうような繋がりは、ハタから見てると危うい。
『くくるが笑顔になれるなら』で、エゴを取っ払って未来を選ぶ時、風花の顔は描かれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
彼女は自分が何をしたいかも見ていないし、くくるが何をして欲しいかも、真実見えていない。
誰かのために頑張るって、どういうことだろう?
誰かが頑張れる力を、応援するってなんだろう?
風花がアイドルになってやりたかったとこと繋がる問いが、ここでは十分に精査されていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
それは出発直前、土壇場ギリギリまで追い込まれないと心に湧き上がってこないものだ。
くくるが前回水族館を占拠し、台風に立ち向かってようやく、ズタボロな現状を認められたように。
僕はこの作品の、迷い間違える弱い人間をそれでも肯定する視線が、とても好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
それは必然であり必要な歩みでもあって、命と同じくままならないものをどう引き受けて、前に向かって押し出していくかって事と、このアニメはがっぷり四つで組み合っているように思う。
年齢に伴う経験は、そういう厄介事の乗りこなし方、あるいは上手い受け身のとり方を否応なく教えてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
子供は経験を通じて大人になり、大人の中にも傷だらけの子供は眠っている…はずだ。
色んな年齢の人が働いた、がまがま社会のグラデーションは、時間が積み重なる意味を肯定的に描く。
くくるが砕けた自分の希望を押し付けるように風花を縛ったのも、風花が一旦それを無批判に受け止めたのも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
そして後に、その真の意味を考え直して走り出すのも、二人の未成熟な人格をより良く変化させていく。
人格を形成する彫刻刀の、一筋一筋を切り取る細かな視線。
やっぱり、その執拗さが好きなのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
ティンガーラで働く中でも、くくるはまた迷って間違えぶつかって、それを正して己を変えていくと思う。
死せる父母と終わる故郷に縛られていた少女が、擦り傷だらけの旅路を突き進む物語は、まだ続く。
このクライマックスは、折り返し点でしかない。
しかしとても大事なターニングポイントであり、ゴールラインでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
扉を閉ざした後も”仕事”は続き、命を送り出す責務を果たすために、くくるはチョコを魚で釣る。
このシーンが一番『あ、終わるんだな…』感あってキツかったな…。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/9ggKLJmk27
高いヒールと、魚臭いゴム長。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
二つの赤い靴は共に、終わった夢のなごりである。
シンデレラ・ストーリーを叶えてくれるガラスの靴でも、永遠に踊らさせてくれる赤い靴でもなかったそれらを、風花は両方愛しく包んで故郷に…未来に持ち帰る。
がまがまのクロージング作業もまた、自分が何を手に入れてきたかを確認する、殯としての役目を持っていると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
生活感のある描写で、客と生き物に満ちたがまがまを書いてきたからこそ、ガランと終わりきった情景はよく刺さる。
ここは演出の蓄積が、最大限活きたポイント。
へこたれない明るさを演じてきたくくるに引っ張られて、がまがまは終わることが考えられない生活の場として、元気に描かれてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
物語は、まだ続く。
そう信じたくなる描き方は、くくるが夢から醒め現実を見据える前回、ズタボロの現状をシビアに示す。
しかし魔法の隙間に、くたびれた現実感はしっかり宿っていたわけで、くくる(の目を通じて僕ら)が前回見たもの、今回直視するものは、”見たいもの”ではなく”在るもの”を見るようになった、観測者側の変化でしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
そうして見据えてみると、終わりの風景には荒涼だけがあるわけではない。
たしかに12話、精一杯足掻いた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
必死に仕事をして、楽しいことも明日に繋がることも沢山あった。
伽藍堂の水槽に海の生き物の幻を見るのは、そこで確かに、命が息づいていたからだ。
そういう残影がくくるだけでなく、視聴者の瞼にも焼き付く描き方が出来たのは、凄く良かったと思う。
フライトの時間は、刻一刻と迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
奇跡の水槽は最後の魔法をかけて、現世に取り残されるくくるの額を撫でる。
おばあの口から語られる、出生の秘話。
冥府に微睡むものは、果たして迷える人々を見守ってくれているのか。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/tGM88Jf2gW
くくるがバニシングツインの生存者である設定は、”沖縄”という場所を描く時どうしても後景に広がってしまう、76年前の戦場を透かし彫りにしているように、僕には感じられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
神里老人が水槽の前で出会い直した、さとうきび畑に消えた命。
そこから繋がるもの。
第9話で鮮明になったように、がまがま(を舞台とするこの第1クール目)は地域密着型コミュニティとしての水族館、狭く緊密な家族主義、過ちすら肯定できる揺り籠の時代を背負っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
そして今回、それは終わる。
おじいがやり遂げた古い時代の善徳は、滅びゆく種族である。
しかし死から生が生まれる流転、冥府と現世が繋がるガマをメインステージにしてきた物語は、この終わりからこそ始まるもの、継続され再生されるものを、第2クールに展開していくように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
がまがまと真逆に思える、都市的で経済的で非・家族的なティンガーラに、どうここで滅んだものを継ぐか。
形を変えて生まれ直す存在を、様々な角度から描きたいから、1クール目ラストを夢の終わりと始まりで〆るのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
寂しくもどこか、爽やかで力強い脈動が宿る今回の旅立ちが、何を引き継いで次に繋がるか。
そこに期待があるのは、良い折返しだと思う。
かくして流されるように訪れた別れを跳ね除け、風花は自分の足で、自分が本当に行きたい場所へと辿り着く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
第1話、東京駅から沖縄駅にやってきたのはマジ風まかせとしか言いようがなかった女が、ここでスケジュール蹴飛ばすのはアツい。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/OPLKUoQO6D
くくるが一人になった時、何をするのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
それを夢砕かれた自分の経験に引き寄せて想像し、自分がしてほしかったこと、くくるにしてもらって嬉しかったことを手渡すために、全力で走る。
最初の別れはくすんだ照明の下、開放感のない屋内で果たされた。
既定路線の答えを投げ捨てて、今自分とくくるに必要なものに飛び込む時、(これまで二人がそう描かれたように)壁は取っ払われ、強い光と青い空が世界を包む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
この瞬間、海咲野くくるにとって宮沢風花が圧倒的な”光”であることが、力強くヴィジュアライズされてていい感じ。このど真ん中勝負…ッ!
今自分がしたいことは、泣いてるくくるの側にいること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
衝動に素直に向き合った結果、誰かの笑顔のために選ぼうとしたオファーを拒む道が拓けるのは、なかなか面白い。
くくるの涙と風花の未来は、直接には繋がっていない。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/ymu5drp1FY
しかしそれを選びうる自分、選びたいと思う欲望を中間媒介にして、揺るぎない”宮沢風花”を一本に繋いでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
自分が何をしたいのか。どんな自分でいたいのか。
フワフワ女夏休みの宿題は、かけがえない”誰か”を隣に置くことで、解答を見る。
その決断が、くくるの喪われた家族を風花が引受け、泣けない少女の涙を抱擁する形なのは、まぁ納得である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
やっぱなぁ…くくるって根源的に略奪され喪失した少女なんで、そこを埋めないと先に進むのは無理だよね。
そして手渡された絆は、誰かの代用品ではない。
遠い国から流れ着いた他者のまま、別れていくこの瞬間にこそ、風花はくくるに永遠を約束する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
くくるの姉であることが、一人これから道を探す風花の背筋を伸ばさせるだろうし、風花の笑顔を思うことで、くくるはこれから進んでいけるのだろう。
そういう縁は、確かにある。かけがえなく大切である。
『がまがまを護るんだ!』と、夢にしがみついて生き延びようとしたくくるが、なんにもなくなった自分を認め、そこから始める気概だけを抱えて進み出すのは、切ない力強さがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
何も守れず、何も変えれず、しかしなにも得れなかったわけではない。
世間のものさしでは惨めな敗残に見えるものが…
時に魂の真実に向き合った、唯一の答えとして己を照らし、未来を支えることが在る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
一ヶ月の奮戦に、少女たちは何を得たのか。
天に飛び立っていく風花と、地で見送るくくるの魂は、遠く別れてなお、心の海で繋がっている。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/nH9UxOG2XE
終わりは始まりに繋がり、充実した空っぽを抱えて、物語は新たな舞台へと進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
風花のいない沖縄で、がまがまではない場所で、くくるは何と出会うのだろう。
ここまで描かれた歩みから、何を取り出して難局に立ち向かうのだろうか。
そんな未来に、今僕はとてもワクワクしている。
だが今は灯を落とし、洞窟本来の姿を取り戻したガマに、お疲れ様とありがとうを告げたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
1クール、綺麗な水とかわいい動物と、迷いと執念と祈りと叫びを力強く描いてくれた、素敵なキャンバスでした。
(画像は"白い砂のアクアトープ"第12話より引用) pic.twitter.com/HfmAET5rAY
というわけで、1クールを締めくくる熱いエピローグであり、新たな旅立ちを寿ぐ靭やかなプロローグでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
大変良かった。
今まで描いてきたもの、そこから芽吹くもの。
終わってなお続くもの、新たに生まれ直すもの。
このお話が積み上げてきたものが、見ている側にしっかり届く仕上がりでした。
ここから時間が過ぎてのティンガーラ編、優しいおじいの見守りフェイズが終わり、涙とともに生まれ直したくくるはまー、シビアな”仕事”に向き合うことになるでしょう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
館長代理時代とはまた違った迷いと過ちを、散々積み重ねるでしょう。
でも、それが良いんじゃないか。
ここまで12話、物語を紡ぐ手付きを見せてもらって、今そういう気持ちです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月23日
滅びを止められないまま終わった物語が、確かに見据える、継承されていく輝き。
このアニメがこれまで描いてきたものと、これから描き得るもの。
そこに、最大限の感謝と期待を込めて。
次回も楽しみです。