平家物語を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
重盛が没し、清盛の暴走を諌めるものは一門にいなくなった。
燃え盛る野心は反発を招き、平家の刃は遂に禁裏に及ぶ。
孫・安徳天皇の即位と、以仁王を担いだ反乱。
矢降り注ぎ地燃える戦乱の中で、維盛は初陣に涙を注ぐ。
その眼は継がずとも、父と同じく亡霊を見ながら…。
そんな感じの大暴走! 平家滅亡RTA第5話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
人格に優れ、教養と武勇を両立させていた重盛というバランサーを失い、後白河法皇たち既存勢力と新興勢力たる平家…その狂える頭たる清盛の暴走は、もはや留まるところを知らない。
後に禍根を残す過剰な武力行使、実力威示も、躊躇わず行う。
他人の頭を踏んで悦に入れば、必ず恨みを買う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
それは地下水のように世間に溜まって、平家を滅亡に追いやる大きな流れになっていく。
棟梁として、そんな面白くもない流れが見えていたからこそ、重盛は時に謙虚に、時に勇猛に振る舞い、父の暴挙を首賭けて諌めもした。
しかし、天下の武人は死んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
忠と考の狭間、平家とそれ以外の板挟みに苦しんで、神仏に疾き死を望んで、”平家物語”から途中退場した。
あとに残るのは傲慢なる宗盛、粗忽な知盛、有能ながら芯に欠ける重衡…屋台骨には、束ねてなお頼りない。
個人としては、悪い人じゃぁないんだがな。
重盛ダディ中心のファミリー・コメディとして”平家物語”を描き直す、体温のある筆は平家全体に及んでいて、壮大な滅びに飲み込まれていく人たちはみな、奇妙な愛嬌と存在感を宿す一人間として描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
彼らはみんな当たり前にダメで、当たり前に愛嬌があって、フツーに笑い涙もする。
そういう一人間を越えた英雄的存在感が、”平家”なるものを支え導くには時に必要で、清盛を諌める重盛にはそれがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
一代で家門を天下一にもり立てた怪物をせき止めるには、同等の質量がいる、という事だろう。
重盛亡き後、清盛の肥大化したエゴに対峙できる存在は、平家にはいない。
そんな状況を、大胆な演出でスケッチしていくエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
サイエンスSARUの若武者、モコちゃんのコンテはビリリとスピーディに冴えて、情勢が一気に変わっていくダイナミズムを、心地よく動かしていく。
いつもよりちょい早口の語り口が、押し留め得ぬ時流と噛み合ってる感じ。
この急流から琵琶は切り離されていて、”化け猫”と資盛がからかうように、彼女は年を取らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
のんびり赤子と戯れ、戦の外側、”平家”の構成員全員が共有する嵐の外側に置かれていく。
同じ女として、平家だからこそ嫁ぎ平家だからこそ疎まれる徳子。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/LjvQeKnw6C
少女から女、母へと一気に歳経ていく”姉”に比して、びわはずっと子供の象徴である禿髪、性別を超越した異性装のままである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
これを女の装束に着替え、子を生み誰かを愛し…それ故苦しむことが出来る存在になったのが、今の徳子である。
おちおち、スイカもノンキに食べれない立ち位置だ。
望まぬ婚礼も”平家”の女の務めと受け入れ、絹の監獄に輿を入れてみれば、夫は雅で優しい人で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
白居易の漢詩に歌われる、紅葉を焚き酒を温める唐風の風情をよく知る文人上皇は、同時に複雑な立場に置かれた政治的主体でもある。
妻である、徳子と同じように。
業に塗れ、骨肉の争いに…あるいは側室との安らぎに身を投げる男たちを、徳子は許す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
自身を許す存在、今観音と定めることで、夫の心が自分に寄らぬ苦しさ…実父の駒と使われ、義父と弟がいがみ合う現状から、自分を守っているのかもしれない。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/gsLevyIeHG
徳子の涙と決意は、既に都を包みつつある戦乱の煙、地に満ちる屍、一門を飲み込む運命に、彼女がどう向き合うかを告げているようでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
憎い、苦しい、妬ましい。
戦は世の”苦”を生み出し増幅させるが、それだけが世界の全てだとは思いたくないと、許す心が菩薩の来光…と、果たしてなるか。
愛し憎み、殺し生み出す世の習い全てを、”平家”であることのやるせない苦しさを全て許すと、涙ながらに告げる姉は、”化け猫”を置き去りに大人になってしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
その背中を見ながら、びわは死者を見る瞳で亡霊と語らい、”許し”がどこにあるのかを探る。
思えばこの女(ひと)も、父殺しの一門。
しかし同時に同じ屋根の下で暮らし、笑いあった家族であり、憂き世の苦しさを共有してくれる友でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
おっとうを斬ったのも平家なら、父となり守ってくれたのも平家。
何を憎み、何を許すか。
徳子も囚われる現世の鎖は、びわを例外にはしない。ここで第一話の父殺しが効いてくるの、面白いなぁ…
重盛という歯止めを失った清盛は憤怒と野心に暴走し、罪を重ね恨まれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
彼の怪物的エゴに押し上げられた”平家”という船に乗っかり、栄華を楽しんだ一門は、ブレーキを失った暴走車に翻弄され、混乱の只中で最大のエンジンを失うことになる。
それでも、終わるまでは終わらない。
どんだけ惨めに落ちぶれようが、命を無残に散らそうが、罪も名声も、一人の人間として確かに生きた当たり前の景色も、消えはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
その全てを、許して覚えておいて…語り継ぐ。
今観音・平徳子の背中を追う形で、びわの未来が戸惑いつつ、次第に見えてくる回でもある。
びわの物語を先に追いかけてしまったが、彼女が見据え、触れ得ぬ歴史の大河は急速にうなりだす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
場面場面の繋ぎ方、動かし方がなかなか独特で、ザクザクと心地よいズームを繰り返しながら、謀略と戦争の押し引きが展開していく。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/UvUzKZhErE
妹の地雷も余裕で踏み砕く、知盛オジキの明るいウザさを、後白河院がピシャリと砕き、その野心を傷心の清盛が受けて福原から立ち上がる流れには、せき止めぬ運命の勢いがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
オジキ、『悪い人じゃねーなー…』てのは木村昴の好演もあってよく伝わるんだが、重盛にあった配慮が足らねぇ…。
重盛ダディを最高の器量を持つ”武士の物差し”として前半描いておいたことで、そこに届かない兄弟たちが平家の屋台骨を背負うことになって、メコメコに零落していく様子に納得いくの、エグい書き方だなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
『重盛が生きてりゃぁ…』は、多分当時の人も二億回言っただろうね。
新たに棟梁となった宗盛は、父の野心を止め得ず、平家の刃は遂にその主へと向いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
武家は貴族を守り、忠誠を誓うもの。
そんな古き建前を前提に、ヒビが入りつつも動いていた世界は、この実力行使で決定的に揺らぐ。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/JrlMvThASE
傍から見てると清盛と後白河院、どちらも同じ穴の狢であるが、法皇は分を忘れた武家の反逆に涙を絞り、恨みは瞳の奥に吹雪を宿す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
グーッと、しおらしく嘆いてるかと思いきや恨み骨髄な怪物ジジイの目にクローズアップして、その果てにある鳥羽殿に移り変わる演出、”動く絵”の面白さが詰まってた。
先週今様で”平家”と楽しくセッションしてたのも、今回横暴に横暴で返され涙を絞るのも、同じ一人の人間である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
高倉上皇幼き頃に、その養育に悩んでいた”良き父”が、こういう修羅の巷に囚われ、あるいは生み出す。
人間、本当に色々である。
いや、後白河院は”色々”過ぎるとは思うけど…。
英雄、怪物として年表に刻まれる歴史的な顔と、一人間としての息吹。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
その両方を必ずキャラクターに宿し、ただただ歴史の大河を追いかけるだけではない、ヒューマンドラマと混ざり合う”平家物語”を書く志は、この作品をずっと貫通し、支えている。
院の瞳の奥に渦巻く吹雪は、そんな描き方をよく教える
さて一線を越えた平家は驕り高ぶり、宗盛はプチ清盛とも言うべき情のなさで、新たな争乱の種を蒔く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
『オメー…それは当然恨み買うだろ…』みたいなブッチギリ愚行であるが、宗盛には亡霊が見える特別な目とかないからね! 仕方ないね!!
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/4NAc6jhCi5
…という、異能にその人の振る舞いを回帰させる考えを、このアニメはあまりもっていないように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
びわや重盛の特別な瞳は、世界に確かにあって見えにくいものを可視化する補助具であって、例えば徳子は許しなければ修羅になっていく世界の悲しみを、見据えたからこそ今観音を志した。
あるいは(びわと違って)重盛の眼を継がなかった維盛は、初陣を生き延びて亡霊の髑髏を夢見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
”眼”の有無は何が見えるかを決定的には隔てず、見えたからといってその無常と非情に、適切に立ち向かえるかは分からない。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/vXEag62EwN
重盛は亡霊が見えてしまう自分の智慧と優しさに苦しみつつ、必死に平家とそれ以外の狭間に立ち、魂を削ってバランスを取った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
武家の本分として勇猛に戦いつつ、他者の尊厳を害しないよう、頭を深くたれて生き…遂に耐えかねて死を願った。
その苛烈が、彼の息子に果たして宿るのか。
『なんか…無理そうッスね資盛兄ぃ!』って匂いが、プンプン漂ってきて大ピンチではあるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
武士に生まれたものが、必ずしも武士に向いているわけではない。
当然の事実なんだけども、”家”が重すぎるこの時代、自分にあった生き方ってのは家門と時代が、許しちゃくれねぇよなぁ…。
あるいは政治と戦争の現場から離れ、得意の舞で名を挙げる道も、平家が貴族階級に馴染んで融和していけば、あったのかもしれないけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
清盛がえげつなく示すように、”平家”はあくまで暴力専売家業であり、成り上がりものとして否応なく反感を買い、弓矢を突きつけられる立場である。
重盛ですら耐えかねたこの時勢を、果たして残された連中乗り切れるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
重衡オジキは文武と人格のバランスも良くて、プチ重盛として後半を支えてくれそうないい人オーラあるが、どっか頼りきれない柔弱も匂う。
上手い書き方だなー、と思う。
彼らがぼんやり、『平家ヤベーな…』と呟く裏で
以仁王を担いだ反乱計画は世間の恨みを吸い上げて形をなし、それよりも早く清盛の諜報網が内乱の予兆を捉える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
あらゆる場所に耳をそばだて、逆らうものは斬り殺す。
第1話でおっとうを殺した禿達の延長線に、『乱あり』を告げた密偵がいて、清盛の怪物性と繋がっている。
かくして開かれた戦端は、平家一門を総動員した戦へと拡大していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
雁首揃えて置きながら、清盛が福原から戻るまで決断できないアフター重盛世代、マジヤベーなって感じね…。
敵がすがる寺社勢力の、袈裟の奥の欲をつついて隻翼をもぎ、相手を誘導する。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/yjtzU3KzE7
清盛の戦上手、政治上手がよく見える回でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
思えばここまで、戦の描写はみな過去のことだったが、重盛が死んだこのタイミングでリアルタイムの戦争が、女に化けて逃げ延びる滑稽とか、坊主が米求めて群がる醜悪とかを刻みつつ動き出すのは、なんとも…なんとも…。
長兄維盛も見事な若武者備えに身を包み、無事を祈られながら戦場へと出ていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
ここ、第1話で描かれた資盛の謹慎と重ねるように、勇壮より悲壮に重苦しく、曇天雨中の悲しき家庭的出来事として描かれているの、このアニメらしいなぁ、と思う。
武門の誉れと知りつつも、重く辛しや出立の日。
後世に語り継がれる橋合戦、戦の実相はなんとも無残で、資盛の初陣に栄光の色はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
目に映るのは矢衾と殺し合い、鎧に染み込む水の重さ、冷たさこそが武家の本分。
そのリアリティを、舞を好む若君は背負いきれない。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/KyOLLXIy0E
『その弱さが悪なんじゃ! だから滅ぶんじゃ!』という苛烈主義も、『弱くても大丈夫だよ!』という甘えも、橋合戦の描写にはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
ただただ、今も昔も戦場では人が生きたり死んだりし、ゼーゼー喘ぎながら鎧着込んで川を渡る苦しさが満ちている。
このお話で初めて描かれる”合戦”は、そういう色だ。
戦場に赴かぬびわにかわり、優しき資盛の目を借りて戦場の実体…その炎に照り返す資盛の魂を、描く回でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
彼は父のようには成れない。
恐怖も疲労も飲み込んで、勇壮に戦場を駆けて名を上げることも。
殺すべき相手を容赦なく殺せる冷たさと、その怨霊の声を聞く優しさを併せ持つことも。
それでも、”平家”という共同体の一員、英雄の嫡男として、世間は資盛に戦士であることを望み、背負わせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
この合戦を契機に、世は乱の色合いを強くし、戦が頻発することとなる。
その根源はやはり、燃え盛る清盛の野心をせき止めていた、重盛の死なのであろう。
以仁王は流れ矢に死に、平家は触れてはいけない領域に平気で刃を向ける、成り上がりの本性を剥き出しにした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
関わる者たちの思いがどうあれ、世間はかのごとく判断する。
朝廷の権威も寺社の威力も、皆何するものぞ。
よくぞ射った、よくぞ焼いた。
(画像は”平家物語”第5話から引用) pic.twitter.com/gaA1tNaBcZ
そう叫ぶ怪物と相対するには、戦を終えて涙ながら、舞を好む資盛はあまりに脆すぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
これで衆生も平家の威を知り、戦の炎も収まるだろう。
オジキぃ…そいつぁあんまり、希望的観測ってやつだよ…(年表チートで結末知ってるので、好きなだけ上から目線マン)
増長は恨みを煽り、暴力は反感を育てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
戦のあとには戦が続き、戦火は栄華を焼き尽くす。
全てが終わった後の後に生まれた立場からは、そんな達観も吐けるわけだが、今まさに運命の荒波に飲み込まれている人たちが、時流と己達が行き着く所を、知るわけもない。
あるいは知り得る異能の瞳とか、許し考える思慮深さとかで、未来を覗き見ることは出来るのだろうが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
ではその巨大な流れをどうせき止め、変えていけるというのか。
化け物めいた精力と世知で、野望を駆け抜ける清盛をどう止めれば良いのか。
答えはない。
あるいは、既に出ている。歴史が証明している
しかし解答用紙たる事実の列挙には、徳子の涙も、資盛の荒い息も宿ってはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
一人間としての苦しみと尊さをドラマティックに綴る”物語”だからこそ、複雑な時の流れに確かに刻まれていた、死すべき定めの者たちの輝きがまぶしく、僕らに届くのだろう。
こういうのは、フィクション故の強さか。
重盛ダディというでっけーバランサーを失って、加速し暴走していく”平家”のありさま。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
『あ、やべぇな…』という実感を早めのBPMで、詩情豊かに語るエピソードでした。
大変良かったです。
(どっちかというと)これまでの整った京アニテイストより、荒くれるSARU味を楽しめる回だったかな。
運命の激浪はあまりに激しく、滑稽ですらある速度で人々を飲む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
将の器、武の才に欠けるとここまで描かれた青年も、平家の命運を否応なく背負って、軍を率いることになる。
あどけない幼帝もまた、担がれた神輿ごと戦乱に飲まれていく。
無残、悲惨、陰惨。
確かに、なれど…。
次回も楽しみですね。
追記 惆悵舊遊無複到(惆悵す 舊遊複た到ること無きを)
菊花時節羨君回(菊花の時節 君が回るを羨む)
平家追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
高倉上皇の人間味を表し、徳子が心を寄せる縁になったエピソードの下敷きには、”林間に酒を煖めて紅葉を焼く”という慣用句…の元ネタたる、白居易の漢詩がある。
『王十八の山に歸るを送り、仙遊寺に寄題す』と題した七言の中に、
林間暖酒燒紅葉
石上題詩掃綠苔
とある。
”王十八の山に歸るを送り”とあるように、この詩は送別の…あるいは永訣の詩である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
この対句はただ風雅を遊ぶのではなく、それがもう二度と出来ない遠い場所へと旅立っていく友へ、昔を懐かしみかけがえない時に涙する想いが宿る。
下働きの無礼を咎めず、むしろ詩聖の境涯と寿ぐ慈悲と同時に…
別れの色が引用の綾織に微かに滲む、その憐れに徳子は感じ入って、夫が好きになったのかな、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
去っていくものへの送別という、風狂に宿る寂しさは、”平家物語”の通奏低音でもある。
この景色から伸びていく未来、全てを飲み込んでいく運命を予感するスケッチとしても、あの描写はよく刺さる。
笛を奏で、舞を舞った懐かしき日々が遠くなることを、重盛の子供たちも確かに感じていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
あの時漠然としていた予感は、戦火を伴ってより具体的に、重苦しくのしかかってくる。
それに押し潰されて、父のような立派な武士たり得なかった時、平家の屋台骨はひしゃげて潰れる。
追い立てられて散る人たちに、果たしてどんな紅葉を焚き、酒を温めるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月9日
苔むす岩の上に詩を刻んだような穏やかな時間は、もう戻ってこない。
あるいは水底の都へと旅立った先にしか、もう待っていない。
平家物語、段六”紅葉”から活写された場面は、そんな無常の行き先を、微かに奏でてもいる。