時光代理人 第2話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
トキとヒカリが潜る今回の事件は、女達の10年史。
潜って掴んだ秘伝のレシピは、掠れた輝きを蘇らせて、思いは帰るべき場所へと戻っていく。
あまりの切れ味にビビりつつ、作品のポテンシャルを思い知らされる仕上がりとなった。
なるほど、傑作だ。
暗くシャープな描線で最初の挨拶を決めた第1話に比べ、どっしり腰を下ろしてなぜ”写真”なのかを、そこに宿る情と奇跡を掘り下げながら語っていく第2話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
第1話が急いで何かを取りこぼした、というわけではなく、するどいジャブで的確に距離を測った後のストレートが、満を持して放たれた感じ。
最初に10年時が過ぎてしまった夏社長の、我欲と疑念に塗れた老醜を見せてから、トキは写真に潜り時を超えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
それは物質化されたタイムマシンであり、写真の中には永遠に、人間が忘れてしまう思い出がやどり続ける。
トキは当事者が忘却した想いを実感する、記憶の代理人なのだ。
街並み、カメラ、靴。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
ビジネスの進展とともに写真に切り取られた風景は変化し、女達の関係も変わっていく。
たった二人、新婚初夜のようにときめいて始まったお仕事は義務へと変わり、『半年働いて半年休む』と始まったはずの麺屋家業は、腹一杯でも食べなきゃいけない苦役になっていく。
何が大事なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
何を忘れたのか。
トキは写真に封じ込められた過去を、現在進行系の現実として体験し、無味乾燥なレシピではなく、リンがその職人気質で、常に隣りにいる人を思って作ってきた女子寮ラーメンを、その舌で味わっていく。
トキが潜ることで、写真の中で死んでる過去は意味を取り戻す。
エマの事件は死によって冷たく切断されて終わったが、今回の事件は死にかけていた過去の思い出を、ダイブによって蘇生させる再生の物語だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
写真に潜る異能には、その両方が宿っていることを最初の二話で、コレ以上なく鮮明に突きつけてくるシリーズ構成が、大変に巧い。
10年分の写真は過去から順番に潜られ、無邪気な女学生が現実に揉まれ、心が離れていく…そして一本の麺で確かに繋がってもいる関係性を、丁寧に追いかけていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
顔にシワが増え、苦労とため息が積み重なる時の刻みが、実は若々しい思いと繋がっていること。
衰えぬ永遠は写真の中に保存され…
トキが異能を駆使してそれを追体験することで思い出されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
この時、始点と思われていた”新婚初夜”から更に遡って、全ての原点であり答えでもある写真が発見されて物語が収まるのが、大変良い。
それは思いの答えを…ナツ当人でなければ解けない過去からの暗号を、捕まえたからこそ潜れる場所だ。
そこには若々しい青春があり、たった二人手を取り合って世界に挑んでいく希望があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
それは年月の中で消え去ったように思えたけども、ずっと確かに生きていて、リンは厨房の中大事に大事に、思い出を蘇らせる花の香とともに抱きしめていた。
忘れていたのは、商売に飲み込まれたナツの方だ。
しかしその若々しい香気は、トキとヒカリによるダイブで取り戻され、ナツは老いた姿のままもう一度、青春の原点へと帰還していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
それは死んでなどいなくて、ただ思い出せばよかったのだ。
しかしそれが何より難しいから、人は時光代理人を頼む。
それは冷たいビジネスであり、人情再生稼業でもある
写真の中に封じられ、もう動かない過去に潜ることで、時を巻き戻し魂を蘇らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
冷たいだけと思われていた主役たちの仕事には、今回鮮烈に描かれた倫理的可能性がある。
それに見ぬふりをしてビジネスを続けるか、それとも情を豊かに過去に潜り…それ故未来を変えてしまう危険と、共に進むか。
”新婚初夜”という言い回し。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
手繰って繋がってしまう麺。
微かにゲイ・セクシュアリティの香りを宿しながら、視線を通わせ背けるナツとリンの描画は、間違いなく主役たちの未来へと照射されている。
トキとヒカリが二人のように思いをすれ違わせ、原点に戻って再び進む物語への予兆を、視聴者に作る。
そういう計画的な布石でもあるのだが、ここでトキがヒカリの諦観を超えていく、不合理な情動の人物として描写されていることに注目したい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
もう、これ以上知れるものはない。
俯瞰の全知者であるはずのヒカリが見落としたものへ、トキは明言できない予感を抱えて飛び込み、真実を回収していく。
それは三人称のロジカルな観察では得れないもの…例えば、女子寮ラーメンの味とか、大量に詰め込まれた麺へのうんざり感とか…が、実感を伴ったダイブで過去を識るトキには見える、ということでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
それは必ずしも、良い結果には繋がらない。
情は仕事の邪魔になる。危険でもある。
そんなトキの危うさを第1話で見せておいて、この第2話でその可能性を豊かに広げるのが、本当に上手いなと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
物語は光と闇、希望と諦観、どちらへも転がっていける。
答えは定まっておらず、潜ってみなければ見えないものがある。
そういうサスペンスへの期待を、実際のエピソードで語り切る。
全く説明臭さがなく、女達の十年史が悲喜こもごも、切なさと情感を宿して踊る様をたっぷり堪能した後に、『なるほど…』という感触が残る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
見事な”第二話”の調理と言える。
今回光の方向に広がったモノが、次は再び暗い淵に沈むかも知れず、また希望へと繋がるかもしれない。
この読めなさは心地よい
前回の春巻きに続き、今回も”食”がノスタルジーと切なさの触媒として、大変巧妙に生かされていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
味覚とそれにまつわる思い出は、まるで魔法のように過去を蘇らせていく。
写真へのダイブを通じ、動かないはずの過去を揺るがす危うさと、蘇らせる強さを描くこのお話の、大事な核。
ちょっと”失われた時を求めて”のマドレーヌめいた、一口の記憶から豊かにほとばしる感情と、確かな思い出。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
”食べる”という普遍的な行為を通じて、トキとヒカリが持つ異能が実は、人間誰しも持っていて忘れている力にかかわるのだと示す意味でも、春巻きとラーメンは良いフェティッシュだ。
トキが潜って取り戻したものは、ナツに届いて彼女を帰るべき場所へと送り出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
しかしそれは、ナツ自身が忘れていたものを思い出し、自分の意志で、あの時のスニーカーとは違ってしまった靴で帰還する、彼女自身の決断である。
そこに無能力者の尊厳があるし、異能の存在意義がある。
過去から現在へと劣化し、原点を取り戻して未来へ戻る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
女社長の歩みは同時に、田舎から都会、都会から田舎へと進む足取りにリンクしている。
エマも田舎から出てきて都会に傷つけられ、家に帰ろうと願って果たせなかった女であった。
急速な都市化と、それが生み出すギャップ。
”羅小黒戦記”でもメインテーマに選ばれた要素は、かの国の鮮烈な才能が、”今”語るべき題材として狙いをつけるに足りる、かなり大事なネタなのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
否応なく流れる、時の刻み。
これをシャープに逆行し、追体験し、再生しうる存在として”写真”を選ぶのは、やはり正着であろう。
オムニバスであるこの物語が、今後何を軸に展開し、どんな例外を話しに盛り込んで展開していくか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
変わらぬ者と、各話ごと変化する画角で何を切り取ってくるかも、大変楽しみになる第二話だった。
こんだけ闊達に、第1話で視覚になった部分に光を当て、単話としての仕上がりも怪物的。
こういうものを見せられてしまうと、先を期待するなという方が無理である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
既に終わってしまったリンとナツの情の物語を、シャープにテンポ良く回想しつつ、現在進行系で”ビジネス”してる主役の現在と未来に絡ませる。
そして過去に思われていたものにはさらなる原点があり、そこから未来が広がる。
それはすれ違ってしまった女達の結末であり、男達への予言でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
第1話の暗いオチで『どうなっちゃうのかな~』と思わたところで、『捨てたもんじゃねぇかもな…』と、欲しい所に圧倒的な一撃を叩き込んで納得させるのも、凄く良かった。
ここで問答無用の希望を飲ませるの、巧すぎるよなー…。
”写真を撮るモノ”の変遷で、時の流れを見事にヴィジュアライズしてたり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
萌えキャラっぽい設定とムーヴのリンが、かなりシビアにクールに”ビジネス”してる描写とか。
主役とエピソードゲストを外したところでも、メチャクチャシャープな技法とセンスが唸りまくってて、相変わらず強い。
布石として置かれているもの、象徴として描かれているものの意味を言語化して受け取れないとしても、とにかく物語に浸って味わっている中で、自然効いてくるように作る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
一番効率的で一番難しい物語の設計と受容を、すげぇサラッと(見えるように)仕上げてるの、とにかくすげぇなと感じます。
一短編としても、長い物語の”第2話”としても、凄まじい仕上がりでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
大変面白かったし、圧倒された。
何よりこの早いタイミングで『なぜ、”写真”なのか』という問いへの答えが、凄くエモーショナルに、鮮烈な冷静さを伴って一つのドラマとして提出されたのが、作品を信頼する足場として強い。
『なるほどな~』って感じだったね、正直。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
第1話の段階でこの腹落ち感はあったんだが、今回グッと腰を落として事件に踏み込んだことで、深く深く突き刺してきた。
こんだけのものを書いてしまうと、今後超えてくるか気になるもんだが、まぁ高く飛んでくでしょう。
そういう強さがある。次回も楽しみ。
追補 この話数を見て、何かを思い出したメモワールとして。
時光追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年4月27日
写真を物質化した記憶、複製される記憶のアウラとして見る視線は、ベンヤミンを思わせて面白くもある。
今回の補助線
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