イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

SPY×FAMILY:第15話『新しい家族』感想

 犬探しと東西平和が交わる三部作も遂に完結、フォージャー家に毛むくじゃらな新たな家族がく解る、スパイファミリー第15話である。
 ”SPY”要素が濃かった物語がロイドさんの完璧な決着、ヨルさんの超暴力ごっつあんゴールを経て、”FAMILY”の穏やかな日常(≒ロイドさんが守りたいもの)に戻っていく歩みが、ゆったりと綴られた。
 大きな政治の話が動いていない日常パートを、国家の一大事と同じくらい楽しく、騒々しく書き続けてきた筆が生きて、『ああ、戻ってきたな……』という感慨が大きいのは、結構な話数を使ったかいがあって大変よろしい。

 

 ロイドさんは人命を革命の犠牲として正当化し、そのくせガバガバなテロ計画で理想も果たせない敵と違い、任務もこなすし家庭も守る、おまけに犬も殺さず全てを平和に決着させる、スーパースパイ・ウルトラダディである。

画像は”SPY×FAMILY”第15話より引用

 己の腕を盾と食らいつかせ、完璧な決着をもぎ取りに行くその姿は、自分が戦っている相手すら不鮮明で、真実が良く見えない場所から指示だけ出してるテロリストとは、大きく違う。
 煙の向こう側、爛々と瞳を輝かせる正義の怪物と、家族サービスに余念がない”良き父”は同じ人で、冷徹なスパイの仮面の奥に真実、平和を求める実感があるからこそロイドさんは強い。
 普通なら間諜に求められるだろう、二者択一の厳しさを驚異的なスペックと信念で乗り越えていってしまう、問答無用のヒロイズム。
 状況を圧倒的に制圧し、実はピンチにすらなってない無双っぷり。
 ここら辺、凄くこの作品っぽいところだなぁ、と思う。
重たさはあくまで背景と過去にあって、表に立つものはライトで爽快感満載ってバランス感覚が、支持を受ける大きな理由と感じる。

 

画像は”SPY×FAMILY”第15話より引用

 同時に犬とテロルを巡る騒動は、普段は背景に隠れている戦争の傷と痛み、それを知っているがゆえに影の闘争に身を投じる戦士の顔を、よく際立たせる。
 先週学生テロリスト相手に、苛烈な覚悟を見せつけていたハンドラーは、最初サングラスを鏡として、アーニャの顔を自分の心に入れない(アーニャの温もりを、自分の中に入れさせない。そのことで、彼女はスパイとしての自分を成立させている)
 しかし子供らしいわがままを救国の英雄から受けて、膝を曲げて同じ目線に立って手を触れ、”特例措置”を認めることにする。
 そこに重なっている家族の肖像が既に過去形である意味は、ここまでの彼女を見ていれば容易に想像できる。
 ここで何を奪われて今でもスパイやってるか、明言せず想像に任せている所が良い奥行きだな、と感じる。
 シビアでシリアスなスパイ稼業を印象的に描いたからこそ、全てが落着し家族が日常に戻っていく時、WISEの長がそこに何を認め、どんな顔をするかは良く染みる。
 サングラスの奥にある優しい瞳を投げ捨て、冷徹な判断をWISEが果たさねば、守るべき理念が崩れてしまうような本物の危機は、今回の大活劇から薄皮一枚、思いの外遠い所にある。
 そう認識しているからこそ、世界で最も非人間的な仕事を、あまりに人間的な体温残したまま続ける道を選んでいるのかもしれない。
 

画像は”SPY×FAMILY”第15話より引用

 後半15分は大騒動も落ち着き、『犬に名前をつける』というあんまりに家庭的で市民的で、人間的なイベントが転がっていく。
 愉快なイーデン校での騒がしい日常が画面に戻ってきて、張り詰めた緊張感が心地よく揺らいでいくのを感じる。
 そんな風にぬくもりが取り戻されながら、ロイドさんが身を置く大きな嘘の影も、抜け目なく切り取られる。
 なにしろ情の深い男だし、仮初ながら手に入れてしまった”FAMILY”がどんなに良いものなのかを、アニメは豊かな色彩と美しい輝きで幾重にも描く。
 この嘘っぱちの日々があまりに幸せだからこそ、ロイドさんは秘密を抱えたまま家族ごっこを続けるのに罪悪感があり、しかし薄氷の平和を守るためには続けるしかない。
 それはハンドラーの過去形の娘と同じく、かつて残酷に奪われたからこそ二度奪われてはいけないものであり、分厚い仮面の奥に本音を隠しつつも、誇り高き博愛を行動原理としている男の原動力だ。

 ロイドさんは良き家庭人の仮面を被り、新しく家族が増えたフォージャー家の幸福にどっぷり浸りながら、それを真実受け取る刺客が自分にはないと、冷たく遠ざける。
 それは家族ごっこが”任務”でしかない現状の冷静な反射だし、彼自身の家族を戦争で砕かれた過去が、新しい幸福に浸ることを許さない結果でもある。
 同時に幸福を求め認める柔らかな心は彼の中で死んでなどいなくて、目の前の小さな笑顔がどれだけ大事なことか、偽りの生活に確かに刻まれる幸せがどれだけ得難いか、よく分かっている。

 面白いのは、任務の(ひどく扱いにくく愛しい)コマと侮ってるアーニャが実は読心の異能を持ち、ロイドさんの嘘(スパイとしての任務、人間としての暖かさ)が既にバレバレである現状だ。
 父として大人として子供に対して優越しているように見えて、その内側は既に解っていて、しかしお互い嘘がバレれば、せっかく手に入れた暖かな偽りは壊れてしまうと怯えている。
 第2クール開始を告げるこの三部作は、そんな親子の現状を楽しく鮮明にエグッてきた感じがある。

 ロイドさんとアーニャのジレンマに対し、ヨルさんのは……ジレンマなのか否か、いまいちよく解んねぇ部分あんだよな。あの人、殺人任務自体には一切の忌避感ないし。
 殺しを日常としながら、奇妙に掠れず壊れず、家庭的な温もりを大事に身内を(時にその超人的暴力で)守る”いばら姫”は、ロイドさんやハンドラーが抱えるわかりやすい陰影を持たない。
 無邪気に見えるアーニャにすら、異能による孤独感や捨てられる恐怖は滲んでいるのに、ヨルさんは殺戮者である自分を全く疑わず、目の前にある幸福を素直に堪能し続ける。
 余裕を残し、人道的に事件を制圧出来るロイドさんの完璧さとはまた違った、どこかがギクシャク歪な無敵っぷり。
 これがきしむエピソードを、アニメの範疇で扱えるか……そこは、結構気になっているポイントだ。

 ともあれ事件を追えて、”FAMILY”には新たな家族が加わった。
 でけー犬が家にいることで、学校や日常がどんだけ楽しくなるか、結構時間使って書いてくれたの良かったな。
 家帰る度アーニャちゃんは、ボンドの分厚い毛並みの奥にある肋骨の感触とか、内蔵がふくふく動く生きた実感とか、『あ、でかい犬近くにいるな……』っていう存在感、足音、微かな獣の匂いを感じられるわけでしょ……マジ羨ましいよでけー犬。
 薄氷に成り立つ東西平和と、それに包まれた偽りの家族の平穏。
 背負うものの重たさを時々思い返しながら、しばらくは幸福で優しい嘘は続いていく。次回も楽しみ。