新規エピソードと総集編で送る、青春登山日記も三話目。
吉成EDを横に押しのけて、みっしりと富士山を降りた後のあおいの歩みを追いかけ、その先でひなたとイチャコラ一緒に進む足取りも描くエピソード。
カトキコンテには独特のテンポと呼吸があり、これまでの新規エピと合わせて作家性を色濃く出していく作風を感じることが出来る。
僕は美麗なハイクオリティに統一されているより、携わるスタッフの味が殺されずに出ているお話のほうが”アニメ”食ってる感じが強くするので、ヤマノススメの魅せ方はかなり好きだったりする。
どうやったって背景美術がイカれるのもこの作品の特徴だが、あおいとひなたが歩く池袋は見慣れた都会の塵が洗われて、どこか別天地のようにも感じられる。(ここら辺の妖精郷テイストは、”ラブライブ!”シリーズにおけるお台場や原宿に通じる異郷性を感じたりもする)
後に総集編で描かれるヤマの美術ともまた違った、水彩で軽くレタッチしてファンタジックな味わいを色濃くした景色が、二人の瑞々しく眩しい夏を上手く切り取っていく。
あおいが何かをナメてヒーヒー言うのはいつものこととして、ひなたが先を行き手を引いてもらう基本構図、繋がる手を起点に弾ける笑顔も、元気に切り取られていた。
総集編でも同じ構造が幾度も顔を見せて、あおいとひなたがどんな距離感で進んでいるかを丁寧に刻みつけてくれる。
ヤマで展開する濃厚な友情に比べて、新規エピに漂う空気は軽妙かつ爽やかで、湿り気が少ない夏の匂いがしていた。
このカラッとした空気は三分という短めな尺故だろうし、先に述べたカトキハジメの作家性も関係しているかもしれない。
総集編が終わった後、長尺で参加した時どういう味わいのアニメを生み出すか、是非後半戦での登板を望みたいところだ。
総集編はかなりギュギュッと詰め込んだ内容で、原点回帰の金峰山から母が子の成長を噛みしめる霧ヶ峰、新たな出会いに満ちた谷川岳と、色んな山に登っていく。
圧倒的な美術にまず目が行くが、細やかに心の機微を切り取り、静かに焼き付けていく演出の妙味もそつなく切り取られ、『”ヤマノススメ”ってこういうアニメ!』てのが、しっかり伝わる総集編だったと思う。
朝顔に絡みつかれた杖、置き去りにされた羊羹。
静物を上手く使って、富士山に登りきれなかったあおいの憂鬱を切り取る筆は鮮明だ。
この静かな語り口が、親友が頂きから送ってくれた手紙に誘われて再び歩き出し、運命に出会い、見知らぬ未来へと踏み出していく少女の再起を、押し付けがましくなく届けてくれる。
こういう所の表現がうまいから、思春期の微細で面倒くさい心、それがヤマの景色に羽ばたいていくカタルシスも、よく描けるのだと思う。
無論美術の圧倒的な強さが、作品を下支えしているのは間違いない。良すぎる……全てが……。
過剰な力みとすら感じられるヤマの描画は、アニメ美少女が汗水垂らして山に登り、そこで何かを得ていく実感を裏打ちしていく。
この美しい景色に出逢って、あおいは薄暗い憂鬱から前に進み、母に成長した背中を見せ、新しい出会いに積極的に踏み込んでいく。
貴重な尺を結構使って、ほのかちゃんにグイグイ行くあおいを描いたのは、無論五話以降の物語で『誰この人!?』とならないための布石でもあろうが、同時にひなたが引っ張ってくれた手があおいを、どこに連れてきたかを描くためでもあろう。
金峰山山頂で、ロープウェイの中で、都会の地下鉄で、あおいはいつでも、ひなたに手を引かれて進む。
しかしほのかと出会い進む時、隣に彼女の日向はなくて、あおいは自発的にヤマで新しく出逢った人に声をかけ、関係を作っていく。
そういう逞しさがどこで鍛えられたのかを……杖を朝顔の中に置き去りにしてしまうような挫折が、実は哀しいことばかりではないと、静かに描く筆がギュッと圧縮された、よい総集編だった。
思い出の谷川岳登山は過去と出会い直す旅であると同時に、新しい喜び、可能性と出会う道のりでもある。
ひなたと共に思い出を見る視線と、ほのかという新しい友人と語らう夕べは同じ場所……”ヤマ”で隣り合い、混ざり合って新たな形になっていく。
それに手を伸ばす時、いつも通りひなたが手を引くのではなく、あおいこそが最初に動く瞬間をしっかり捉えている演出は、このアニメが雄大な美術だけで見てる側を飲み込む作品ではけしてないことを、良く語っている。
登って、挑んで、惨めな気持ちになって、それでも友達に支えられて立ち上がり、約束を果たしてまだ進む。
物語が終わったとしてもまだその先に未踏の峰があるのだと、本気で信じた連中だからこそ、この”Next Summit”があるわけで。
黄金の夜明けの向こうに二人が見た夢の続きは、正にこれから描かれるのだ。
そんな感慨を深くしてくれる、よく仕上がった二期まとめであった。
こういう戦略的な総集編は、作品側が何を見せたいのか、その意図を鮮明に刻んでくれるので、僕個人の視聴スタイルと噛み合ってありがたい。
『授業中の『馬が飛ぶわけないだろ!』ってガヤ、山本監督繋がりで”ワルキューレロマンツェ”ネタだったんだな……』などと新たな発見をしつつ、次回を楽しみに待つ。