イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チェンソーマン:第2話『東京到着』感想

 血糊色に輝く純情青春地獄絵図、デンジくん初めてのお仕事を描く第2話である。
 うどんとフランクフルトと全部のせトーストで腹を満たし、お仕着せのジャケットとよく解んねぇ首締めるやつを貰って始まった、デンジくんの東京生活。
 同僚との顔見世はボコ殴りとキンタマ蹴りつけ大会でスタートし、バディはイカれたハチャメチャ角つき女で、流されているようで満たされていて、乾いて擦り切れているようで潤ってもいる。
 読む側の情感を置いてけぼりにするほど、乾いてスピーディな原作の質感がやや湿って、世界の解像度が大きく上がったことによるアニメ独自の味わいが濃く香り立つ第2話となった。

 

 

画像は”チェンソーマン”第2話から引用

 アキくんを問いかけ役に、”本気”を一つの核として進む今回のエピソード、心の窓である眼のアップが多い。
 感情のない虫のような、あるいはそれ以上の異形を感じさせるマキマの眼球で開始するこのエピソード、デンジくんを拾い飼いならした謎めいた女の底は見えずとも、デンジくんの軽くイカれた新しい日常と、そこに食い込むアキくんの乱暴な優しさは良く見える。
 義務教育受けてない(煽りで使ったこの言葉がマジになって、言った側がショック受けてるあたり、暴力先輩の”人間”が既に透けてる感じもある)デンジくんにとって、家族がいて幸せがあって命がけで追うべき信念が宿ってる”普通”てのは、いまいちピンとこない。
 飯が食えて優しく触ってくれて服と家をくれて、甘酸っぱい性欲と憧れを煽り受け止めてくれる夢のような女がいる暮らし。
 血みどろの悪魔殺しを『まともな仕事』と言い切る彼には、アキくんが悪魔に奪われ、だからこそ無惨に死んでほしいと願う”普通”も”本気”もわかりやすい形では宿っておらず、しかしデンジくんなりに”本気”である。
 青年たちの真っ直ぐで生気に満ちた燃える瞳に対し、やはりマキマの眼球は異様さが際立ち、初手から異物感を際立たせている感じが強い。
 怪物の気配をコロンのように漂わせる女に、それでもデンジくんはよく懐き発情してて、可愛らしくはあるがどこか異常で危なっかしい。
 そのザラリとした異物感が、デンジくんという存在そのものなんだから、いわゆる『共感できる主人公』からちょっと外れた位置に(彼が背負うこの物語ごと)置かれているのは、正しい描き方なのだと思う。

 

 

画像は”チェンソーマン”第2話から引用

 真夜中のゾンビ殺しが終わり、東京に向かう道のりはそのまま、デンジくんの心にマキマが入っていく過程と重なる。
 あのヤクザ共と同じく自分を道具として利用し、片目やキンタマ奪ったりタバコ食わせたり、裏切って背中から刺すのかと警戒している時、デンジくんの世界は薄暗い。
 それが生まれて初めて何も塗ってねぇパン以外のものを、しかも好きなだけおごりで食べて良くなり、ぶっ倒れたら優しく見守り抱きしめてくれて、だんだん夜が明けてくる。
 未だ空は厚塗りの絵画的不穏さを残しているけど、デンジくんはポチタと一緒に暮らす中ずっと待ち望んでいた当たり前の渇望を満たされ、それを与えてくれる聖母として……そんな綺麗な崇拝で終わらない、でもピュアな性欲を向ける対象として、マキマに光を見出していく。
 飯、温もり、服、クソ見てぇな悪魔殺し稼業。
 見ている側に何処か『そんなもんで……?』と愕然とされるような、愛するようになる理由。
 しかしデンジくんを取り巻いていた最悪の環境は『そんなもん』すら当然に与えず奪うばかりで、彼もそれに順応してタバコを食っていた。

 しかしもう、そんなことはしなくて良い。
 うどんもフランクフルトも食って良いし、女の肌を求めても良いし、クソみたいな借金に縛られて搾取されることもない。
 このあまりにシンプルで動物的ですらある欲求充足を愚かと笑うには、デンジくんの暮らしてきた日々は悲惨がすぎる。
 『まとも』なんて願うべきもなかった少年が、それでもはるか遠くの願いと諦めつつ求めてきたものがわっと押し寄せて、そこにMAPPAの作画と楠木ともりの声帯がついてくるとなりゃ、狂っちまうのも無理はない。
 デンジくんのマキマさんへの熱量は、『まとも』な僕らが遭遇する初恋とはもうちょっと違った質感で、もっと切実なのに同時に軽薄でもある、凄く独特の手触りを持っている。
 それがあくまで、夜明けの光である現状をこのPAの描画は上手く切り取っているように思う。
 Agraphの良い劇伴とつえー美術&撮影があいまり、かなりエモく描かれるマキマの浸透は、ポチタを失い何もなくなった(もとから何もなく、何かを求めることそれ自体を封じられ続けてきた、普通じゃない)少年にとって新たな生活が、どれだけの奇跡なのかもよく教える。

 

 

画像は”チェンソーマン”第2話から引用

 マキマが締めてくれた犬の首輪(それは『まとも』な世界で人間の形を保つ、大事な包装紙でもある)を決意とともに抱きとめて、デンジくんはアキくんが振るう暴力を跳ね返し、”ここ”で生きることにする。
 飯も服も家もある明るい暮らしから、懐かしく暗いゴミために引っ張り込むクソみたいな先輩は、あの時のチンピラのように火の付いたタバコを投げつける。
 しかしデンジくんはもう反抗を覚えたので、それを飲み込んで日々の糧を得ることはしない。
 ムカついたらキンタマを蹴り上げ、またキンタマを蹴り上げ、動けなくなるまでキンタマを蹴り上げ続ける決意を、この裏路地の先に続く光……マキマが待つ場所へと突き立てる覚悟だ。
 散々予告されてるのに、『まとも』なケンカに慣れすぎてアップライトな構えを取り、見事にキンタマを蹴り上げられるアキくんの人の良さが、この最悪のファーストコンタクトで既に滲んでいるのに、散々笑った後ちょっとだけ泣いた。
 マジ、デビルハンター向いてない。

 

画像は”チェンソーマン”第2話から引用

 デンジくんを利用していたヤクザ共は、彼と生活をともにしなかったが、アキくんは衣食住(あと排泄)全てをうんざり顔で共有しながら、一緒に仕事をする。
 自分がどんだけ”本気”かを頭ひっつかんで伝え、義務教育も受けてねぇ部下兼同居人の生き方を問う。
 デンジくんのハチャメチャ汚ぇ犬食いには破天荒なパワーが宿り、同時に『まとも』な飯の食い方一つ教えてくれる家族なんていなかった過去が反射してる。
 これに顔をしかめるアキくんは、常識的で当たり前な人間の行き方ってのがどこか、家庭を拠点に知れる時間があって、しかしそれは全部目の前でぶっ壊された。
 だからデビルハンターをやっているし、悪魔は軒並み惨たらしく死んで欲しいと願っている。
 でも眼の前にいる悪魔と人間の混ざり物、イレギュラー・レアケースがどんなやつなのか、殴り殴られしながら学ぼうとする姿勢も、しっかりある。
 カネに釣られたか、女に魅入られたか。
 どっちにしても欲望だけじゃ進んでいけないヤバい稼業で、それでもやっていける奴なのか……目の前で死んだりしないかを、慎重に探っている。
 悪魔にかかわる連中がなんで戦っているか、血まみれの窓ガラスの外に広がる『まともな社会』ってやつを、軽薄なクソチンピラに親身に教えてもやる。

 

 そうやって探られるだけのハラは、動物のように社会のド底辺を這いつくばって生き延びてきたデンジくんには、当然ない。
 それっぽい”本気”を装って伸ばした手はエロ本に伸び、ポスターに刻まれた二次元おっぱいをむなしく掻き抱くのが、今ん所の目標だ。
 デンジくんは人間の当たり前が、普通ってやつが何なのか誰にも教えられていないし、解ってもいない。
 即時抹殺と隣合わせの政府の犬、命がけの殺し屋稼業に身をおくのが『まとも』なんかじゃない事実を知らないまま、安い餌と遠い女の残影を人参よろしくぶら下げて、血まみれの道を走っていく。

 それでも道標のように、心臓から延びるコードと、首を締め付けるネクタイが大事にするべきものを教えてくれる。
 ポチタと笑いながら過ごし、もう失われてしまった日々。
 『死んでもいいぜ』と言いかけて訂正するのは、夢を見せる約束と重なった心音が大事だからだ。
 マキマに抱かれた温もりを、もう一度掴みたいと燃える欲望。
 それは間違いなくギトついた性欲でありながら、それよりもっと幼く純粋な願いと繋がって、綺麗に眩く輝き続けている。

 人間が人間として生まれてきた以上求めるものを、ひとしきり与えられたなお前に進むために必要なものが何なのか、デンジくんはこれから待ち受ける過酷な戦いの中で、否応なく見つけなければいけない。
 それで十分なはずだったのに、もっともっとと求める根源に、何があるのか。
 ポチタと暮らすだけでは満足できなかった少年が、夢の全部のせトーストにかぶりついた後探すのは、女の胸か、人の証か。
 手に入れたとして、それは永遠に守られるのか、無惨に吹き散らされるのか。

 もともと与えられていなかったものと、目の前で砕かれ奪われたもの。
 デンジくんとアキくんは最悪の出会いを果たしながらも根っこの部分で何かが似ていて、それが命令を越えた共鳴として、未来を生み出していく。
 それが輝いている保証なんて、このゴミみたいな世界には一切ないけども、皆が”それ”を求めている。
 チェンソーの駆動音のように、魂の奥底で鳴り響く欲望(あるいはその不在)を聞きながら、デンジくんも『まとも』な復讐鬼であるアキくんを見つめて、分かろうとしていく。
 そんな呼応が元気な回で、とても良かった。

 

 

画像は”チェンソーマン”第2話から引用

 ここにゴアゴア血みどろ小娘のハチャメチャ大暴れが加わって、さて特異四課の未来はどっちだ!? というところで、今回のお話はおしまい。
 パワーちゃんの瞳は悪魔特有のガンギマリっぷりで、デンジくんに負けず劣らず『まとも』を知らない匂いがプンプンするわけだが、御大層な世間のスタンダード……ネクタイの締め方なんぞ知らなくても、彼らは渇望に焦がれる一匹の人間として、確かに生きている。
 それを追う筆致は原作の小気味いい渇き方とは少し違っているけども、選んだ叙情の絵の具は確かに”チェンソーマン”に合っていると思うし、このクリアでハイクオリティな絵筆でどんな物語が編まれていくか、とても興味深い。
 何も知らない、識ることを許されなかった若き獣達が運命を野放図に駆け抜けながら、見つけるもの……共に生み出すもの。
 その片鱗が感じられる第2話だったかなと思う。(マキマ周辺に漂う、異様なる残酷さへの予感含め、ね)
 次回も楽しみだ。