女子高生ものづくり放課後ライフ、天才ちびっこ・ジョブ子が仲間に加わる第3話である。
強がり言う時はオーバーサイズのジャージで口元を覆う、鍛えられた萌え仕草が印象的な飛び級12歳を仲間に加え、DIY部の日常は今日も楽しい。
年相応に素直じゃないジョブ子を巡る対応で、部員の人間もよく見えてくる話運びで、大変良かった。
まったりと落ち着いた空気はそのままに、ここまでのお話で作り上げてきたもの、これから作り上げるものをしっかりカメラに入れて丁寧に扱っていく手付きが、お話全体への信頼感を生み出してくれる。
危うい幼さを残したぷりんはなーんも考えずこだわらず、ジョブ子の柔らかい部分にズケズケ踏み込んで足りないものを補い、賢いたくみんはその震えに気づきつつもなかなか進めず、くれい先輩はカッとなって反発してしまう。
人それぞれ他人への向き合い方があり、別々のそれが組み合わさって”部”となっていく。
そんな小さな歩み、人格のグラデーションが徐々に混ざり合っていく様子が丁寧に切り取られ、大変良かった。
『そうありたい』と常々思っていても、年経る度難しくなっていくものに目を向け、幼いせるふに導かれる形でより善くなっていく過程がしっかり描かれていたの、主役がなんで主役か良く解って、素晴らしかったです。
今回は手作業をバカにするジョブ子を追うことで、作品全体の構図が見えやすくなる回でもあっただろう。
最先端の技術を学べる潟女は、古臭く懐かしい湯女を取り囲むように立地し、間近にあって混ざり合わない。
旧き善き温もりを残す三条市にも、否応なく押し寄せるEV、自動運転、ドローン技術……最先端のテックは果たして、綿々と続いてきた人の営みとは相容れないものなのか?
ここら辺の疑念は主人公と幼なじみの家にも反映されていて、せるふ家はオールドスクールな戸立てであり、ぷりんの家はシャープな印象の最先端に塗り分けられ、対立するかのようにそびえ立っている。
しかし当たり前に街を駆けていく運転席のないバスを見てれば解るように、この作品は古いものと新しいものが混ざり合って、新たな”手作り”が生まれていく可能性に既に目を向けている。
今回ジョブ子が心の壁を外して、本当は大好きなDIYを存分楽しめる居場所を手に入れたように、どんな時代、どんな形であれ技術には人のぬくもりが宿るし、宿るべきだ。
健気な強がりが和らぎ、親元離れてマジ寂しいちびっこが笑えるようになる過程を追いかける中で、たんぽぽが控えめに、しかし靭やかに象徴としての仕事を果たしていた。
ぷりんの主人公らしい壁のなさ、押しの強さが目立つ展開ではあったが、その隣で一意専心細やかに紐を編み上げ、見事な花器を作り上げたたくみんの描き方に、この作品らしい穏やかな周到さが匂っていたように思う。
彼女は季節の移ろい、人の心の機微をよく気づき、優しく摘んで飾る……そのための器を地道に準備できる人格を持っている。
ぽわぽわ暖かく、天才少女の門出を祝う綿毛が舞うよりも早く、たくみんはジョブ子の孤独と寂しさに気づき、しかし踏み込めない。
そこをズカズカ踏み越えていけるのがせるふの強さであり、部で隣り合うなか次第にたくみんが己のものとしていく、憧れの形なのだと思う。
同時にあんまりにも危なっかしい手付きで、妄想に遊び釘一つまともに打てない主人公の隣で、手仕事への適性の高さが描かれてもいる。
そんなたくみんの姿勢を見習って、せるふもくれい先輩の指導を受けつつ、ちょっとずつ成長していく。
『モノが残る』というDIYの強みを活かし、主張しすぎない形で前回作り上げたスキー板のベンチが、皆の憩いとしてしっかり仕事をしてる様子が切り取られてもいた。
こういう形でどっしり、彼女たちが何を生み出し積み上げているか確認しながら、お話を楽しめるのはとても良い。
わざわざ”DIY”というテーマを選んだのはなぜか、大上段に構えてエモく叩きつける形ではなく、じわじわと染み込むように納得させていく。
”日常系”の大変に強い部分を、的確に振り回していると思う。
この筆致は素直になれない幼馴染にも生きていて、ぷりんはずっとせるふを目で追い続ける。
窓ガラス越しに隔てられた気持ちに飛び込みたくて飛び込めない、思春期の震えは静かに、しかし執拗に画面に焼き付けられて『ここが青春の一大事……一大事なんですよ!!』と力強く吠えてくる。
大変良い。
すぐ妄想に溺れるせるふの幼さは、彼女を取り巻くアナクロでアナログな手触りと繋がっていて、年相応に成熟し一人先走ってしまうぷりんの孤独は、先端テクノロジーに漂う冷たさと呼応している。
それは一見隔てられているように見えて、しっかりと手をつなぎお互いを抱擁する瞬間をずっと待っている。
技術は常に人の温もりと思い出に隣り合うもので、ジョブ子においては母と過去、仲間と作る新しい未来を、たんぽぽの暖かさで祝いでくれる。
今は遠くに見つめるだけで動けぬぷりんも、ジョブ子が今回そうされたように、せるふの手を取って……キャラとして背負った先端テクノロジーと一緒に、古臭く身近なDIYの領域に近づく日が、かならず来るのだろう。
今回描かれたジョブ子加入の物語は、そんな主題の前駆としても、かなりいい仕事をしていたように思う。
この後褐色ウザいしーがノシノシ押し寄せてきて、成熟と幼さの間で身動き取れなくなってるぷりんがけして孤独ではないのだと、”あだ名”を巡るシーケンスを連続させながら教えてくるのは、大変上手い作りだと思う。
ジョブ子が付けられたヘンテコなあだ名は、慣れぬ異郷で楽しく生きていくための親しみを与えてくれる。
そういう行為が”名付け”にあるなら、自分を”しー”と呼べと言ってくる彼女は、ぷりんの孤独を癒やす親しみの源に、なってくれるキャラなのだろう。
こういう感じでキャラとシーンを繋げつつ、まだ混ざり合わないタイミングをしっかり守って、ドラマの燃料を残す話運び。
緩く力まず心地よく進行させつつ、こういう勘所はきっちり抑えて展開していることが、何もかもがゆるくバラバラにならない大事な力加減なのだろう。
1クールのアニメーションをDIYする能力が、高い作品だ……って話ね。
という感じの、四人目の仲間を心地よく向かい入れるエピソードでした。
泣いてるガキに迷わず身を寄せ、ハンカチとトンカチをすぐさま差し出せる女(ひと)は無条件に尊敬できるので、主役をより好きになれる話で良かったです。
せるふがどういう影響力を部に及ぼし、その成果がどんな呼吸で積み上がっていくかも、ジョブ子や部員を穏やかに切り取るカメラを通じて、しっかり感じることが出来た。
自分たちなりのBPMをしっかり保って、焦ることなく着実に物語を積み上げていく姿勢は、大変素晴らしいと思います。
次回はどんな時間が流れ、どんな温もりが作り上げられるのか。
楽しみですね。
追記 新規技術と古臭い手仕事、幼すぎる少女とピリピリ大人のなりかけ。対立項に見えるものが実は既に融和していて、混ざりあえばこそ豊かに未来が拓けていくのだと、多分描くアニメ。
DIY追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
このアニメが巧妙なのは、幼さから抜け出せない(ことが良さでもある)せるふと、一足先におとなになりかけてるぷりんによる等身大の人間ドラマに、DIYが代表するアナログで古い文化技術と、新規なテクノロジーの対立/融和というテーマを重ねて、歩調を合わせて描いているところだと思う。
二人が互いの気持ちをわかる歩みは、変わっていく時代が否応なく生み出す新しい技術が、取り残された廃屋に息づく確かな手触りと対話し、両方意義あるものだと書いていくテーマ進行と、多分今後重なっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
どちらかが優越する話作りだと、三条市にドローン飛ばして無人バス走らす理由がない。
『それは僕らの大事なものを脅かす、新しくて怖いものではないか』という、結構一般的な新規テクノロジーへの怯え…あるいはトレンドに乗っかって前に出てくる側の傲慢を、柔らかな青春に溶かして『そんなことないよ』と語りかけてくる口調が、ズレて繋がる幼馴染のありふれて大事なドラマと…
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
呼吸を合わせて転がってった先に何があるのか、二人が共にDIYするOPは既に語っているし、今回ジョブ子の強がりと笑顔を通じて、テストケース的に描かれてもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
結構カタいネタを扱ってはいるのだが、柔らかで焦らない語り口と、暖かな青春ドラマの書き方が、上手くテーマの角を取り馴染ます。
これは『なぜDIYを選んだのか』つう疑問に答える語り口だし、『なぜ日常系か』つうジャンル選択へのアンサーでもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
当たり前の日々を輝くものとして描くからこそ、そこに食い込む我らの新たな隣人を、恐れるものではないと馴染ませる筆が、強く冴える瞬間がある。
DIY部が新鋭校の知見を内側に取り込んで、一般的に思われてる”DIY”の範疇を超えて新たな可能性に挑んだ時、このアニメだけが描けるものが形になんじゃないかなと、結構期待している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年10月20日
ここら辺の鋭いエッジが、僕の期待が反射しただけの妄想なのか、綿飴のような描画に隠された牙か…手探るのも楽しい