イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第4話『夢にまでみた?フジ◯◯/3rd season秋』感想

 山を舞台に踊る私達の心の物語、おさらいラストの第4話である。
 あおいがひなたを追う(だから二人合わせて”向日葵”になる)”ヤマノススメ”アニメの定形を崩し、ひなたが陰りに曇る中広がっていくあおいの世界、それ故の軋轢と再確認される大事な思いを描いた三期は、かなり特殊なシーズンだ。
 僕は固定された役割にキャラクターが閉じ込められてしまうお話も、物語の生きた律動が生み出す自然な変化を殺して永遠を続けるのも好きではないので、いつも前を歩き強く明るく居続けるひなたが、年頃の少女……生きた人間ならば必ず持っているはずの揺らぎに向き合い、富士登山と下山、その後にあった迷いと再起を経て強くなったあおいを積極的に描きに行った、三期の筆は大好きである。
 なにしろくすんだ陰りに沈んだ時間が重たく長く、また僕らの心を強く打った”ヤマノススメ”の形とは大きく異るので、人によっては耐え難いとも感じるんだろうが、僕はとても感じ入るものがあった。

 同じことを繰り返して、同じ場所から溢れる柔らかな暖かさで、”癒やし”ってのを与えるための道具に、俺たちが生み出した物語とキャラクターを使いはしない。
 そういう決意と覚悟のあるシーズンだったと当時見てて感じたし、その感覚は今回の総集編で、より強く蘇ってきた。
 強く眩しく見えるひなたもまた、あおいが挫折の中囚われてきた影から無縁ではなく、そんなひなたを支えられる強さを、ひなたと山に登ればこそあおいも鍛えることが出来た。
 お互い対等に、かけがえなく補い合いながら、険しい山を登り進んでいく中、生まれてくる青春の鼓動。
 そういうものを、対流し変化し続ける一つのうねりとして描き続けたい。
 そんな決意は見事に形になり、ここから生まれる新たな物語へと続いていく。
 そういう手触りを確認できる総集編で、四話終わってみるととても良い、四期への地ならしになったと思う。
 ……ぶっちゃけマジ久しぶりで、忘れてる部分も多かったしね。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用

 総集編に進む前に、愛敬亮太コンテ演出の新作短編が挟まる。
 重苦しい三期に比して、三人娘がワイワイ騒ぐ明るい観光エピソードであるが、『曇り空の中の晴れ』というモチーフは共通であり、別角度から三期が睨みつけていたものを切り取る映像になっていた。
 ここまでの総集編で歴史改変されなかったコトにされかけていた、根性悪のネガティブ思い込み娘としてのあおいもよく描かれ、『そういう話だったっけ……? そう描かれてるしそうかも……』と思い込みだした脳髄を、気持ちよく揺さぶってくれた。
 亡霊のように可愛く肥大した、意地悪なひなたはあくまであおいのイメージでしかなく、こういうモンに勝手に支配されて勝手に面倒くさくなるのが、雪村あおいという少女の基本形である。
 それは簡単には切り崩されないが、しかし時には役割を変えてひなたが思い込みに支配され、あおいが逞しくそれをぶち破って手を引く関係にだって変わっていける。
 短い時間に”ヤマノススメ”の基本形をしっかり入れ込むことで、三期の特殊性と意義を思い出せる構成にもなっていて、なかなか面白かった。
 FUJIYAMAが動き出した後の、ワカメ影踊りまくりの大胆崩し作画もパワフルな見ごたえで、曇り空でも心底楽しむ少女たちの溌剌を、よく描いた短編だったと思う。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用

 さて、三期総集編はまず、あまりにも美しい闇の中の光から始まる。
 挫折の惨めさに封じ込めていた富士登山の記憶は、夏休みのアレソレを経て乗り越えられ、あおいはひなたに、超常からの景色を尋ねれるタフさを取り戻している。
 ここから青春は順風満帆に進んでいくわけではなく、先行していたはずのひなたが(ひなたが力強く導けばこそ手に入れた)あおいの広がる世界に揺らされて、ガタガタ曇り空に揺れていく展開を見せる。
 そのくさび役になるほのかちゃんとの出会いを、前回結構色濃くまとめていたのは、面白い効かせ方であろう。
 この絶景は富士登山……その失敗と再起を越えた、三期の彼女たちの到達点でありスタートポイントだ。
 まばゆい光を二人で見届け、とても近い距離で特別なものを共有する結論は、この段階で既に描かれている。
 ここに散々迷ってぶつかって、戻ってくるまでのお話であり、迷ったからこそ同じ場所に見えて、見える景色は異なっても来る。
 色んな山頂を螺旋状に繋ぎながら、時に後戻りや足踏みも繰り返して、あおいとひなたの青春は転がっていく。
 その手触りが、短くまとまった良い総集編が始まる。

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用

 ひなたの憂鬱を反射して、とにかく三期中盤は重くて暗い。
 話作りやキャラの書き方以上に、シンプルな絵作りとカラーリングがずっしり重くて、どこか歪んですれ違って、孤独で危うい匂いが濃い。
 この過剰なまでの心象主義は三期から濃く顕在化してきて、例えば四期第1話”ヤマノススメぷりくえる ”とかでも異様に元気だった表現手腕である。
 多分第5話以降の物語でも凶暴に牙を研いでくるだろう語り口で、そういうの大好きな僕としては大変ワクワクする。

 新しい友達を作り、世界を広げ前に進む。
 自分をおいて先に行ってしまうあおいに、ひなたがモヤモヤを抱えて進む状況は危険で不安なものとしてヴィジュアライズされ続ける。
 憂鬱は天候に、すれ違いは窓越しの反射に、孤独は崖っぷちの危うさに転化されて、異様な実在感でゴツゴツとこちらを殴り続ける。
 この主張の強さも三期で顕在化したもので、これまでの”ヤマノススメ”とはかなり違った語り口なので、正直初見では戸惑った。
 全話見届けた今となっては、この方向性で残り8話ぶっちぎると思うと、稀代の震えが止まらん筆致であるけども。

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用

 富士登山であおいを追い込んだ、重たい思い込みと孤独な暴走を再演するような、ひなたの金峰山登山。
 ここに強い思いをぶつけ”叱る”あおいを見た時、ひなたの瞳にようやく光が戻る。
 導き手を引くばかりだった関係はいつの間にか変わっていて、自分だって間違えることが沢山あって、それを正してくれるかけがえない友達は目の前にいて、何かが変わっていっても変わらないものが、眩しく輝いている。
 あおいの力強い叱咤はそういう現実をひなたに教え、大好きな人に怒られることでひなたは笑顔を取り戻す。……つくづく、あおいのことが好きすぎなマゾだな!

富士登山挫折と再起……それを導いてくれた友情の証として、二期で印象的に使われていた”羊羹”も、心と絆が力強く癒やされ、前に進んでいく元気を取り戻す象徴として、大変良い感じの使われ方をする。
 ここは二期からのロングパスが最高のゴールにたどり着いた瞬間で、マージ気持ちよかった。
 ひなたがあおいを励ますために与えた元気の源が、口に入れないことでネガティブ少女の魂を癒やし鍛え、巡り巡って思いの外ネガティブだった太陽少女の元に戻ってくるお話、対等でタフで優しくて、俺は本当に好き。
 それがハードな登山で流れる汗と、それを癒やしてくれる甘味のたまらなさ……大変”ヤマノススメ”らしいフィジカルな実感を伴って描かれ、”ヤマノススメ”らしい頑是ない笑顔とまばゆい光の帰還を導くのも、最高に良い。

 タフな山行とそれが生み出す挫折、そこから学び立ち上がる強さを経て、少女たちの世界は広がり関係も変わっていく。
 そこで揺らされながら、立場を時に取り替えながら、青春は前へと力強く進んでいく。
 暗がりの中迷っても、立ち止まっても良い。
 そのザラついた質感あればこそ、そこを超えて見えてくる景色も、そこへたどり着かせてくれる人のぬくもりも解ってくる。
 弱く迷ってしまう等身大の自分も、ありのままでも誰かが支えてくれるという信頼感も、そうして一緒に進んで見えてくる世界の美しさも、それをとても大事な人と一緒に見届けれる嬉しさも。
 全部ひっくるめて、ヤマにあるのだ。
 そういうもんが書けたアニメとして、俺は”ヤマノススメ サードシーズン”が大好きなのだと、思い出させてくれる総集編で、大変良かった。

 

 

 

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用

 そしてあおひな史観でまとまろうとする潮流に、圧倒的実力を以て猛抗議をかける吉成鋼という怪物ッ……!
 あったでしょうが、三期には”ここほの”がッ!
 美しい場所で触れ合う天使と天使の魂がッ!!
 (無いです。アニメ化の範疇ではガチで”ない”んだが、コイツ原作から自力でサルベージカマして”事実”にしてきやがった……立ち回りとしては”劇場版 とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-”における軌道エレベーターくらいの強引なパワー勝負。)
 コンテから撮影まで全部自力でやりきる、アニメーター腕力総動員でボコボコに殴りつけてくる”強さ”、あまりに信頼出来すぎる”ヤマノススメ”のオタク……。

 僕ほのかちゃんのお兄ちゃんホンット大好きなので、そこもきっちり入れ込んで『俺は……切り離されちまった全てが好きだぜッ!!』と”実力”で告げてくる男がガッチリ”〆”担当してんの、あまりに”強”すぎんだよなヤマノススメ四期……。
 『お花を髪飾りにしたここなちゃんが天使なのは、お兄ちゃんが花束手渡してくれたからでしょーが!』と、”ここほの”で閉じてまとまっちまいそうな所に”風”吹かして世界広げてきてんの、あまりに怪物(モンストロ)すぎる。
 もっと枚数減らして、一枚一枚をどっしり見せるのが普通なクオリティなのに『ワリー…好きすぎて、たっぷり描いちまったよ!』とばかりバッシャバッシャ叩きつけられるの、飯能の天使に夢中なほのかちゃんの心がそのまま演出されてる感じすらあって、最高の暴力だった。
 圧倒的なクオリティでぶん殴ると、”事実”が生まれるッ!!!!!

画像は”ヤマノススメ Next Summit”第4話より引用


 『どーせ鋼さんが”全部”でしょ?』とばかり”エンディングアニメーション”で一括りにサれてるのあまりに面白いんだよな……実際”全部”なのでしょうがない。
 こんな怪物が全力投球してくれる、ここからの未踏峰
 Next Summitの全貌は未だ見渡せず、全身を震えが襲っています。
 どんな物語が見れるか、大変楽しみです。