イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アキバ冥途戦争:第4話『実録! 豚の調教師だブー!!』感想

 薄皮一枚の萌えで包んでお出しする、ロクでなさの原液濃縮還元アニメ、第4話はぶっちぎりブラック企業の地獄研修実録! である。
 つーか実質ヤクザなわけだし、過酷な状況で精神削って、フィジカルな圧力バキバキに押し込んで更に追い込んで、上の都合のいい人格をぶっ壊れた焼け野原におっ立てる手法は、そらー使うよな……と、変な納得をした。
 ヤバい自己啓発セミナーも、ヤバい宗教団体も、ヤバい企業も軍隊も、みんなこの形式で人間を組織に忠実なグンタイアリに変える! って生々しいメソッドを、黒い笑いと微かな媚びでぎりぎり食える形にまとめていて、大変にこのアニメらしかった。
 睡眠時間削りと洗脳の固定化、一石二鳥を狙ってモニュメント立てさせるの、ホント良くある手口過ぎて爆笑しちゃった……良く調べてあんなー。

 

 

画像は”アキバ冥途戦争”第4話より引用

 ……なんてブッサイクな泣き顔なんだ……。ウソップ海賊団解散かよ。
 今回話しの中心に立って、なんかキラキラ良い感じ風味出すのはしぃぽん(と、相変わらず揺るがない嵐子)なので、他の連中はバキバキに脳みそ洗われて、オタクの履いてるジーンズよりストーンウォッシュされていく。
 生まれて当然の反発を一旦受け入れたフリで、生き死にの極限状況に強引に持ち込んで正常な判断力をぶっ飛ばし、白紙になった脳みそにグループへの忠誠、苦労を苦労と感じない麻痺を刷り込む手腕が、この感動の涙を産んでいる。
 仲間からの自発的な糾弾、睡眠時間の削除、個性の否定と異様な内部ルールの当然化。
 散々キッツい圧力をかけ続けて、最後に承認と肯定を与えてドーパミン回路をぶっ壊す方法論も”こういうの”には付き物で、佐野さんは腕のいい調教師だなぁ……と思った。

 もちろんしぃぽんが感じたようにイカレたやり口なわけで、それに押し流されちゃった他メンバーが脆い……って切り捨てるには、”こういうの”は人間の根本的なバグを的確に狙いすぎてて、抗うすべがほぼ無い。
 どんどん瞬きしなくなっていくガンギマリ人間のなかで、嵐子だけが”任侠仁義”という別の狂気に既に洗われているので、自分を見失わず人間の目を保ち続ける。

 『この店が守れれば、それでいい』

 かつて身を置いた修羅場、刑務所暮らし……それに耐えてアキバに戻らせる譲れぬ願いを思い出せば、メソッド化された地獄は嵐子にとってそよ風のようなもので、サラリと受け流せる範疇なのかもしれない。
 他の連中がフラッフラヤバ状況に流され、ゾンビ映画めいた演出でしぃぽんを追い回す中、嵐子は唯一、彼女の人間性を肯定する。
 クソみたいな環境が際立ってくるほどに、それに流されない嵐子の頼りがいと、どんな無様にも耐えて見果てぬ春を待つ”侠”の強さ、一種の狂気も良く見えてくる。
 ソッコー洗われて仲間を売り飛ばしにかかるボンクラと、ゴミ漁りも辞さずきったねぇアントウェルペン大聖堂でパンダと死にかけてる超ボンクラの中で、揺れぬ嵐子の侠気。
 ひとしきり笑ったあと、『地下闘技場とか賭場は日常的に接することほぼ無いフィクションだけど、この洗脳メソッドは現代社会のあらゆる場所で暴れ狂っとるからな……』と、笑いが心地よく冷えるわけだが、笑えないメイドは狂った世界の中でたった一人、頼もしく立ち続ける。
 嵐子が、物語の柱だ。
 4話まで話転がってみて、そんな構図も見えてきた。

 同時にそんな嵐子に支えられ、”とんとことん”が瞳孔開きっぱなしのヤバ職場と化すことで自分の夢を捕まえ直せたしぃぽんの物語には、泥まみれだからこそ嘘のない生っぽさが、しっかり宿っていた。
 あんまりにもロクでもなさのぶんまわしが巧いので、こういうマトモな手応えもいつかぶっ飛ばされるんじゃないかと戦々恐々だが、彼女がギャルメイドである自分に見た夢は、けして嘘ではない。
 嘘ではないものを嘘に出来るのが銃弾と札束と暴力であり、実録ヤクザアニメであるこの作品は、一切の容赦なくそれを抜き打ちもしてくるわけだが。
 人間のど真ん中にある嘘のない輝きと、クソ以下で圧倒的な現実がぶつかった時、何が残るか。
 そういうのを問う話に、今後なっていく……のかなぁ?

 

 

画像は”アキバ冥途戦争”第4話より引用

 一方”とんとことん”を包囲する上部構造も顔が見えてきて、キュベレイみたいな肩幅のイカれたメイド服軍団が、超ろくでもない上納金吸い上げ機構を暴力的に駆動させてる様子は、期待してた以上のイカレ方だった。
 洗脳モニュメントをバズーカでぶっ飛ばし、強引に『いつもの”とんとことん”』に話を戻したしぃぽんは、スゲー簡単に人命が奪われるメイドの現状を見据えないまま、ギャルメイドに夢を見る。
 その手触りは青春味で大変いいのだが、そういう真っ直ぐストレートが許されるほどマトモな世界じゃないってのが、狂って暴力的な絵面から良く解る。

 上には絶対忠誠、求められるノルマは魂削ってでもヒリ出す。
 佐野さんのスパルタスタイルはグループ内で最適化された生存戦略であり、自分らしく生きることはすなわち、組織全体に牙を突き立てることと=である。
 そんなジャングル以下の環境で生きていくためのスキルを、厳しいながらちゃんと教えてくれてた事実がひっそり、ラストに描かれるのはなかなかいいな、と思った。
 佐野さんが何にビビって退場したのか、心地よいボンクラライフを取り戻した”とんとことん”は何も分かってない。
 ……嵐子は多分イヤってほど分かっているが、それに立ち向かってなにか新しいものを仲間と作り出していく希望が、苛烈な人生で削れてしまっている。

 本来なら粛清現場に生身で立って、ヤバさを肌で感じた店長が部下を引き締めてサバイブしていく局面だが、あのアマ御存知の通り最悪なので、それは期待できない。
 今回はグループが押し付けてくる銭と暴力の圧力、それに適合させんと鬼教官が差し伸べた手をスカッと跳ね除けたが、ボンクラ共のおもしろコメディは悲惨な殺戮と紙一重、いつシャレにならない状況が牙を向いてもおかしくはなかろう。
 問題なのはそれがいつになるのかと、その時”とんとことん”組員……店員がどう生きてどう死ぬかだ。
 『笑いでコーティングしてるけど、いつでも地獄の釜の蓋は開くんでよろしく!』と、佐野さんが見てる世界を”とんとことん”が見れてない様子でしっかり宣言してきたのは、今後にドス黒い期待が膨らんで大変良かった。
 ぶっちゃけ、なごみ以外皆殺しエンドはフツーにあると思っている。

 というわけで、今回もぶっちぎりにロクでもない冥途戦争でした。
 人間をどうぶっ壊して兵隊を作るか、細かいところをよくツメた描写にピキピキキマったユーモアが宿り、大変面白かったです。
 こんぐらい張り詰めたヤバさを、薄皮一枚ギリギリで笑いものにしてくれてると、ブラックユーモアの精髄を食ってる感じで大変に良い。
 そこかしこに人生ぶっ飛ばす爆弾が埋まってる戦場で、のんびり惰眠を貪り、コメディ青春劇を演じるボンクラメイド達の、明日はどっちだ。
 次回も楽しみです。