四回の総集編によるご挨拶も終わり、Next Summit本格始動の第5話。
松本憲生! 福地和浩! 吉成鋼!
スーパーアニメーターによる容赦のないジェットストリームアタックに、怪物的美術力が重なり、『オレたちゃ本気だからよ……この”速度”で往くぜ!』と、力強い一発が新たな伝説開幕を告げるエピソードとなった。
この武甲山、一瞬だけの勝負カットというわけではなく、Bパート軒並みこのクオリティの只中を歩き、秋の木漏れ日が優しく降り注ぐ様子をググっと見てる側に届けてくる作りなのが、マジで狂ってる。
新作短編から”匂い”はあったが、Next Summit……マジで”Next”過ぎる。
そういう圧力に気圧されつつ、圧倒的な上手さ、それが悪目立ちしないなめらかな省力の凄みに包まれもする今回。
作画が良いことが目の前二メートルで小さく展開するドラマに確かな手応えを与え、それを通じてキャラの気持ちや吸ってる空気、顔を上げて目指す未来なんかを生っぽく教えてもくれる。
富士山で挫折を知り、友や家族に助けられて新たに立ち上がることを選んだあおいが、この冬をどう過ごしていくか。
ヤマに出逢ってしまったネガティブ高校生の息吹が、極めてスムーズでスマートなアニメーションにしっかり宿っているのは素晴らしい。
凄まじいクオリティで圧倒する隙間に、しっかり女の子たちが可愛く美しい瞬間も切り取られていて、キャラが生きてるからこそ見せるチャーミングさを、忘れず描いてくれるのも嬉しい。
Aパートはほっぺのハイライトが印象的な、ちょっと幼くぷにっとした感じで、Bパートは雄大な風景に包まれる等身大のみずみずしさが良く出ていた。
こんだけの大物に一人作画させる以上、個性やクセは当然出るわけだが、それが靴の中の小石のように悪目立ちせず、”ヤマノススメ”に馴染んだ一つの魅力として受け取れるコントロールの良さは、まさに圧巻である。
しっかし憲生作画の雪村あおい、マジでまつ毛長いな……。
登山部活動に飛び込んで、自分がどんな風に、誰と山に登りたいのかを思い知るAパートでは、キャラクターの個性が恐ろしいほど滑らかに踊る。
ひなたのパンの平らげ方、楓さんの着替えと広がる髪に宿る生きた質感、過酷なランニングに女の子歩きで並走できるここなちゃんの超人性。
どれもこれも心地よくアニメートされていて、脳髄が原始の快楽にブルブル震える。
仕草の一つ一つに『この子はこういう人』と、これまで”ヤマノススメ”を見てきて形作った”らしさ”がしっかり宿って、シャープでチャーミングな実在感が画面から湧き上がってくる。
空間と重心の理解力が凄まじい……んだろうな。
この活写は新キャラである小春部長にも生きていて、グワンと画面を大きく使ってご挨拶する出だしから始まって、グイグイ押し込んでくる当たりの強さ、むせ返るような活力があらゆる瞬間に宿っていた。
彼女の暑苦しいキャラが元気に動くので、それに気圧され飲み込まれる(でも昔のように距離を取ったりせず、一度は飛び込んで自分の体で理解しようとする)あおいの当惑も、良い体感を伴ってこちらに届く。
あおいが求める登山とは違っていたけども、情熱を傾ける先が違うだけで熱量は同じという楓さんの言葉に、『確かに……』とうなずける魅力をしっかり宿していた。
雪村あおいの登山人生、あらゆる局面で慈母のごとく寄り添い、厳父のごとく導いてくれる楓さんの、うららかな包容力が良く滲んでいたのも、彼女が好きな視聴者としては嬉しかった。
最初は腕を上げてフォームを創れていたのに、だんだん筋疲労が溜まって腕が落ち女の子走りになってしまうあおいの、自然な体力ない描写。
それがあおいの現状なわけだが、インターハイを目標にパワフルに突き進む登山部の山登りも、間違ってはいない。
そう実感出来ただけで、思い込み九割で生きてきたネガティブ少女には偉大な学びであり、それは楓さんが身勝手な強引さを演じて、この場所にあおいを連れてきてくれたからだ。
脇目もふらず駆け抜けるトレイルランに息を切らさなければ、自分が落ち着いて景色を楽しみ空気を吸い込み、山全部を味わいたい気持ちも見えてこなかっただろう。
そういう出会いを連れてきて、隣で一緒に駆け抜け、あるいは離れたつもりで帰りをしっかり待ってくれている友達がいるから、今進める。
そういうちっぽけで大事な思いが眩しく輝くお話だったのは、大変に良い。
……つーかこんだけ暗くなるまで待ってた倉上、やっぱ重いな……。
都会的な光が眩しい部活の風景をを描いたことで、自分たちのペースで、しかし緩むことなく進んでいく山行の味わいが濃くなる構成も、大変良かった。
担当アニメーターの個性が迸ったことで、Aパートで生まれた疑問にBパートで答えを出す構成をクオリティが裏打ちして、凄い分厚い実感でもってドラマが視聴者に入ってくるのは、正しいぶん殴り方だと思う。
山と街の景色は確かに違っていて、どちらも愛しく眩しいのだ。
”写実的”という言葉も生ぬるい驚異的な実在感の”絵”の中を、確かにアニメ調の美少女たちが汗水垂らして山登ってんだと納得させるマッチングの妙味が、武甲山の空気を見てる側に持ってくる。
Aパートで”部活”にヒーヒー揉まれたれたことで欲しいものは見つかって、体力づくりのヒントを貰えるようないい関係も創れた。
それじゃあ自分はどんな山に登りたいのか、お母さんの優しい厳しさに背中を叩かれながら一歩ずつ、今度は心地よく荒げられていく息の中、あおいは実感していく。
それは苦しいけど楽しいもので、インターハイとはまた別の目標のために、ちょっとずつ積み重ねたいと思える苦労だ。
マグカップから立ち上る煙の、圧倒的な実在感。
苦労して運んだサンドウィッチの、瑞々しい味わいが伝わるようなひなたの笑顔。
今回はメシの話としても仕上がりが良く、Aパートにうっすら漂う飢餓感を見事に回収するような、暖かく美しい山頂の食卓は印象的だった。
肩に食い込む荷物の重さ、山道の険しさに荒れる息をしっかり感じ取れたからこそ、待ち望んだ食卓は、甘く優しい生命の糧と感じられる。
体力づくりと登った武甲山で、景色を楽しみ美味を味わうピクニック的な楽しさ、家族の縁が深まる善き思い出作りと出会えている僥倖も、木漏れ日に眩しい。
弱音を吐いたりゴマをすったり、相変わらず根性悪い部分はなくなっちゃいないが、挫折と再起を経てあおいが山に何を求め、ヤマを歩く自分をどう捉えているか、良く見えてくる話だったと思う。
そういう弱さに飲み込まれてしまってたら、”部活”で目指すものと自分の願いが違っていることや、それでも同じ登山人として敬意を持った関係を作れることや、親友や家族と心を通わせながら登る一歩の嬉しさや、タフなトレーニングにもへこたれない自分には出会えなかったと思う。
思い込みで塞いでいた自分の可能性に、一歩ずつ近づいて新しい景色に出会う。
”ヤマノススメ”はそういう話なのだと、強く実感できる第5話でした。
大変良かったです。
そして荒れ狂う、一分半の叙情詩……吉成鋼美術展は今回も絶賛独占開催ッ!
Bパートでお母さんとの暖かな歩みを描いた裏側に、スッと”雪村家”が入っていく筆の強さ、あんまりにも暴力的に強すぎる……。
個性とクオリティが半端ないのは前提として、本編を補う一つの詩篇として、物語と情感が短い時間にギュッと濃縮されて強力なの、ホント強いと思います。
本編では出番なかった雪村ダディが、幾重にも思い出を重ねてきたアルバムの撮影者として、家族の夏の情景にしっかり寄り添ってるのも最高。
俺らの記憶にも鮮明な(総集編で振り返りまでした)富士登山後の重苦しさを、お母さんがどういう気持で見つめ、手を貸し、一緒に越えていったか見えるのも、大変良かったです。
ED一分半という己の”王国”で、存分に『吉成鋼の”ヤマノススメ”』ぶん回しているのは凄く楽しそうでもあって、こういう自由でパワフルな表現がおまけ……というには、ぶっちぎりの怪物(モンストロ)過ぎるけども……としてあるのは、作品が豊かに広がる大きな助けだと思います。
次回も楽しみッ!