イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チェンソーマン:第4話『救出』感想

 行く先も進む道も見えやしねぇ野良犬どもの、四つん這い青春群像劇。
 早川家地獄の同居生活開始! な、チェンソーマン第5話である。
 『”ヤマノススメ Next Summit”と合わせて作画の特異点と化した、2022秋水曜日……今回のモンスターはコイツだ!!』ってんで、吉原達矢コンテ演出回である。
 じっとり、偏執的ですらある細やかな動きで切り取られる人物には独自の存在感があり、かと思えば蛭の悪魔とのグチャグチャアクションでは勢いある下劣さも暴れ、最終的にデンジを惑わすパワーちゃんの肉感を見せられて『なるほど……コイツぁ吐息まで切り取ってくるような、マニアックな作画が必要だったわけだ!』と、不思議な納得で収まる回だった。

 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 疑似家族としてひとつ屋根の下、クソのこびりつきまで付き合わざるをえない密着生活が始まり、『そらームカつくよな……』と納得の生活描写を経て、差し出されたご褒美。
 最初は蠱惑的な胸元に視線がクローズアップし、顔面のないモノとしてパワーちゃんを見ていた視界は、三揉みというあまりに限定的な、しかし同時に魅力十分は報酬を差し出され、天使の顔をじっと見つめることになる。
 悔しい……こんなご飯も大事にできないクソアマに興奮も岡惚れもしたくないのに、身体で理解らされてしまう……天使だってよ!

 まぁ実際揉ませてくれるとなりゃー悪魔も天使だろうが、デンジくんがパワーちゃんの顔をちゃんと見るようになったのは、ニャーコという身内を助けるための嘘の約束をにデンジがつられ、それでもなお背中にかばって命を護った結果、悪魔も約束を果たしたからだろう。
 ポチタとの間に自然に……しかし確かな決意と切なさをもって成立していた、対等な互助と信頼に満ちた関係。
 それが、このクソアマと成立するのか。
 クソの匂いまで嗅がなきゃならない共同生活は、浅ましい欲望しかもってない血の魔人とチェンソーマンに何かを教えるのか。
 クソガキどもの”首輪”役を押し付けられたアキくんの、未来は甘いか酸っぱいか。
 破天荒ながら何かが起こる、確かな期待に満ちた共同生活スタートのエピソードとなった。

 

 さて。
 最初に結末から始める”逆立ち”になったが、お話としては血みどろバトルで蝙蝠の悪魔を倒して一安心……と思ったら乳首とチンポの融合体が横殴りキメてきて、アキくんが精一杯”ヤバい先輩”の顔作ってデンジくんにウサちゃんおリンゴ差し出し、パワーちゃんも混ざって楽しい早川家開始! つう形。
 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 パワーちゃんのメロウな回想、チェンソーマン大勝利のヒロイックな余韻が、蛭の悪魔のキメェ口でバクンと閉じられ、激戦を経て狐の悪魔に喰われることで終わる。
 瞳や口内にカメラを据えた演出が要所に据えられて、不思議な繋がりとテンポ感を生み出している前半でもあった。
 人間の要素を残した魔人とチェンソーマンは、瞳を開けて閉じることで自分の大事なもの……大事になりうるものを自分に引き寄せていく。
 それは閉じられると同時に開かれて、色んなものを取り込んで新しい場面に繋いでいく。
 悪魔が閉ざす口は二度と開かれることなく、捕食の果てに閉じ込めて終わらせる。
 目と口、同じく開閉機構を持つ身体が宿してる確かな差異を、人間と悪魔に割り振って活かす演出が面白かった。

 

 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 後にマキマに名指しで、首輪が必要な野良犬扱いされる二人は共に、四つん這いで獲物後をすする獣だ。
 血は闘う力を与え、臓物ベチョベチョの最悪を駆け抜ける資格を与えていく。
 それだけじゃ蝙蝠の悪魔と何ら変わらない怪物で、パワーちゃんにもデンジくんにも、他人の血を貪って力に変える悪魔性は宿っている。
 裸の野人は荒く息をつきながら野犬のように戦場を駆けて、牙の代わりに額から突き出したチェンソーで敵に噛みつく。
 そして、そのスタイルでは勝ちきれない。

 デンジくんはアキくん筆頭に、重くて大きな何かを賭けて戦う夢バトルの戦士に強いコンプレックスがある。
 人類鏖殺という下らなすぎる……しかし悪魔は崇高だと信じている妄念にも、釣り合う願いを持ってない自分を守るように強く吠えて、必死に噛みつこうとする。
 借金に縛られ、タバコを食わされキンタマもがれ、世の中の”まとも”を何も教えられず与えられなかった野人は、しかしずっと”まとも”に憧れ続けてきた。
 フツーに食えてフツーに愛される日々すら手の届かぬ高嶺の花、どうすりゃそこに入れてくるか解らないまま睨む日常の眩しさ。
 不屈の努力、守りたい未来、己の全部を賭けれるような美しい星。
 そういうモンが心底欲しいのに、自分は全然持ってないし、人間様の綺麗な衣装をまとってないデンジくんを、世界は野良犬扱いだ。
 おまけにチンポ乳首ブンブン振り回してぶん殴ってくるし、ガチガチバチバチ食ってくるし、ホント最悪。

 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 『そらキレるわ……』と納得な空疎と焦燥であるが、しかしデンジくんは本当に何も持っていないのか。
 イカれたリビドーぶん回すゴミクズ大量殺人鬼を前に、自分を騙した嘘つき魔人をかばって立つ。
 命がけの戦場で、『早く逃げろ!』と吠えて時間を稼ぐ。
 温もりを平等に分け合った心の友を、心臓に宿し戦う力を絞り出す。

 デンジくんの行いは既に、ご大層な包装紙でくるまずとも彼の正義をたしかにしっかり飾っていて、アキくんもそれが見えるから後輩を助ける。
 りんごをうさぎ型に剥き、一緒に暮らしてカレーを作り、ちったぁ世間が解ってる先輩として生き方を伝えようと、不器用に誠実に隣り合う。
 デンジくん自身、既に持っていると気づいてなくてやけっぱちな美質に、アキくんはどこか懐かしい家族の匂いを交えて感づいている。

 

 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 後輩に圧力かける時、瞬きせず深海魚めいた異貌を頑張って作っていた青年が、嘘っぱちの報告で後輩を守ってた時、世界に満ちる輝き。
 どっしりと彼らとの生活を描かれた時見せる、無防備で満ち足りた表情。
 今回のエピソードは、早川アキの話でもある。

 あんだけ『俺は怖くて悪い先輩だぞッ! お前と違って本気だぞッ!』て顔作ってたのに、命がけで守った後輩の枕元、剥いてるりんごはウサギちゃんなのよ……。
 知恵の樹の実で飢えを癒そうと、あさましく手を伸ばす野良犬相手に、悪ぶって『俺がお前に”まとも”教えてやる……』と告げる姿は、あんまりにも優しい。
 アキくん……アキくんッ!!!!

 惚れた相手に嘘を付き、『皆殺しにしてやりたい』と息巻いてた悪魔混じりを救った時に、街は眩しく光っている。
 クソの流し方も知らねぇデンジの文化的荒廃が描かれたあとだけに、コーヒーは一滴一滴ドリップする、新聞は読む、カレーは手作りするの”丁寧な暮らし”っぷりは、彼がただの荒れ果てた復讐者ではないことを良く物語っている。
 闖入者パワーちゃんのウンコにデンジくんが文句つけてるの、『お前どの口で……』感と『そっか……アキくんと同じこと言ってら……』感が同時に湧き上がってきて、マジ何ともいえない良い味わいがあった。
 丁寧に穏やかに、ぬるりと長尺で切り取られた『早川アキの日常』に宿る、当たり前で”まとも”な温もりと爽やかさ。
 それは間違いなく早川アキの、人生悪魔にマジでズタボロにされつつ人間であることを諦められない生き方から吹いてきてて、成り行きで躾けることになった野良犬二匹に、他人の血を啜る以外の生き方、誰かの輝きに目を開く生き方を教えていく。
 それが素っ裸の夢バトル弱者だと自分を思い込んでるデンジくんの”本気”に、どういう色を加えるのか。

 

 

画像は”チェンソーマン”第4話から引用

 マキマならずとも、興味深いところであろう。
 密かな純情を身支度に宿すアキくんと同じ仕草を、同じように窓を鏡にマキマは果たしている。
 後輩二人との同居を命じ、彼を”首輪”と嘯く女は果たして、アキくんが見せた爽やかな人間味を、その身に宿しているのか。
 謎めいた遠さで、女は微笑み闇に輝く。
 マキマの底しれぬ……だからこそ思わず追いかけたくなる仄暗い魅力を、しっかり動かせているのはアニメの良いところだと感じる。

 例え深謀が闇の中に潜むとしても、成り行き任せの同居生活は賑やかで楽しく、野良犬たちに居場所と倫理の衣を与えてくれる。
 カレーも食えるし、密室の中でオッパイも揉める。三回だけだけど。
 ここが三人のスタート地点であり、こっから先も相変わらずろくでもなく、しかし乾ききらない暖かな暮らしと思い出が、ここに積み上がっていく。

 その手触りが、チェンソーマンのアニメらしい筆致でずっしりどっしり描かれる回でした。
 ポテチをコーラでガハハと勢いよく流し込む、原作のジャンクな味わいは確かにかなり削れているけども、やっぱ自分はこの、ポテトチップスを高級食器に乗せて丁寧に差し出してくる手付き……嫌いじゃないんだよな。
 ジャンクはジャンクでも元々、選び抜いた素材を慎重に調理してジャンクな味付けにした話だったと感じるてるしね。
 アニメ化に伴う変化をどう評価するかは、”チェンソーマン”のどこが好きだったか、何を”チェンソーマン”の心臓だったと思っていたか、個々人の視線が垣間見えて面白い。
 まぁ強い楽曲付けて重厚なハイクオリティで絶え間なく殴り続けるのが、今の集英社アニメ勝利の方程式なので、例えば同じMAPPAの”ドロヘドロ”みたいな心地よいジャンク感では切り込めなかった……つうのも、勝手な想像ながらなんとはなし飲み込めてる。
 こっから先描かれるものもかなり画角が(物理的にも、それが与える印象的にも)変わって見せそうだけど、どう変えて何見せるてくれるか……楽しみなんですよ、僕は。