去らば赤い超新星、アキバ冥途戦争第7話である。
鮮烈な印象と存在感を叩きつけ、お話と主人公の方向性をグイッと本格ヤクザ味に捻じ曲げていった愛美さんは、時代に適応できなかった猛獣のように身内に狩りたてられ、死んでいった。
彼女(と、彼女が殺したねるら)を壁とし、鏡とし、足場とすることでなごみは自分だけのメイド道を見つけ、嵐子が仏頂面の奥に秘めていた過去が垣間見え、”萌えと暴力について”というキャッチコピーの意味合いも、少し肌に馴染んだ。
たった二話、流れ星のように激しく熱く駆け抜けた彼女が、お話に残した影響はデカいし、それは残りの話数が転がっていく中で更に強くなっていくだろう。
……つーかキャラ立ちすぎてて、これ以上表舞台に残っていたら主役食ってた可能性がデカいので、派手な花道用意してここで退場させたのは大正解だったと思うね。
というわけで仁義盃交わした姉が殺され、メイドに憧れアキバに迷い込んだ普通の女の子は忍者になっていた。
ここでNINJYAブチ込んでくるボンクラ力、冴えに冴えてて最高に良かったが、その装束はツインテが小型犬っぽくて可愛い……だけでなく、口と顔を覆い隠して自分が何者か見えなくなってる、なごみの現状を良く語る。
嵐子に見つけられ、忍者である自分(≒メイドではない自分)に満足しているのか問われた時、なごみは覆面を外して己を吠える。
ずっと夢見てきたようにメイドでいたいが、しかし奇妙に捻くれた暴力アキバは”メイド”をヤクザの隠語に変えてしまっていて、望むままキラキラ萌え萌えキュンなどは出来ない。
盃交わした妹のため、組織を裏切りその血でスジを通したねるらのように、強く生き抜くことも出来ない。
嵐子や愛美のように、暴力装置としての”メイド”を肯定して堕ちることも出来ない。
それでもメイドでいたいから、なごみは危険を承知でアキバに残り、メイドによく似た業態の忍者喫茶店員を続けていた。
最終的に、”ヤクザとしてのメイド”の極北である愛美を最高のロシアンフックでぶっ飛ばし、負けず殺さずを由とする自分だけの任侠道を見つけて、なごみは忍び装束を脱ぎ捨てる。
それは爆笑必至の大迷走であり、同時にこの奇妙な物語の真ん中にいる存在が、自分らしく”アキバ冥途戦争”らしくたっぷり悩んで道を見つけるのに必要な、戯けて切実な装束だったわけだ。
ねるらのオタクとラーメン屋、そして姉に恥じない自分を目指す気持ちに助けられて、ねるらは自分なりのメイド道に目覚める。
ここでオタクが出てきてねるらの遺志を託すの、このお話の”メイド”がヤクザの隠語でしかない状況から半歩出てくる感じで、凄く良かった。
過酷なルールにぶっ潰され、路上のシミになるのも当然の過酷な宿命を飲み込んで恨まず、ねるらと過ごした時間を惜しみ、涙を流して未来を託す人がいる。
それは極めて奇妙でトンチキであるが、この世界の”メイド”が僕らの知る……そしてなごみの夢見たメイドと同じ、なんか暖かいモンを育んでくれる明るい職業でもあった証明だ。
どー考えてもメイドは鉄砲で撃たれては死なないし、死んではいけないわけだが、しかしそんな奇妙な宿命に囚われた奇っ怪な世界においても、ねるらは銭金への執着と安易な暴力以外の何か……多分”萌え”と言われるものを体現していた。
生前世界を変える大器としてなごみを見込んでいたねるらの思いが、涙ながら託されることで主役の覚醒が促されるのは、このお話がヤクザの話であり、メイドの話でもあると新たに示してくれる感じがあって、なんか良かったのだ。
ねるらが夢見なごみが目覚めたメイド道は、つまりは古臭い任侠そのものであり、誰かを強く思えばこそ揺るがぬ護民の暴威こそが、その芯にある。
かつて嵐子が心に抱え、店長をハジカれた時に壊れてしまったもの……だからこそ、なごみに変わらぬまま守ってほしいと伝えたもの。
それこそが一番大事なものを変えないために、確かに変わっていかなければいけない宿命をラーメン屋との問答で豁然と悟り、萌え萌えキュンなメイドの本道をドヤクザ満載の現状から変えていくべく、一本スジを通したなごみの背骨となる。
何も理解らぬアマちゃんが、気分の赴くまま交わした姉妹盃の苦さ、託されたものの重さを飲み干すように、なごみは振る舞われた出前のラーメンを再度飲み干す。
今回なごみが目覚めるものは、前回ねるらが姉妹盃に託した夢であり、あったけぇ中華麺はその温もりを蘇らせ、未来に繋いでいく。
ねるらも同じものに憧れたからこそ、自分の命を危うくすると解ってグループの垣根越えて盃を交わし、妹を守るために組織に背いて仁義を貫いた。
それを貫き切るほどの強さはねるらにはなかったわけだが、しかし志は継がれて、主人公は真の任侠として拳を握る。
それは『こんなのメイドじゃねー!』と吠えつつも言葉でただ否定するのではなく、制御された暴力で赤い超新星の振るう暴力を上回り、勝利することで形をなす。
何度見ても肩関節が大きく回った、良いロシアンフックだ……ボブチャンチンを思い出す。
世界が否定し難く悪徳と理不尽に溢れているのなら、そこから目を背けて夢を見るのではなく、自分自身が炸裂する夢そのものに為る。
そんな決意を込めてなごみはクナイを投げて敵を傷つけ、しかし命は取らない。
血を流す意味、理想を捨てぬ厳しさを、状況に流されるばかりだった主人公が覚悟決めて飲み込んでいく展開には、素直な熱さがあったと思う。
顔を覆い隠し素性を隠す嘘でしかなかったはずの”忍び”の技が、新たに滾った思いを確かな力に変え、許されざる暴力に対抗する武器になっていくのは、全く理屈は通ってないがそれゆえに熱い。
忍者カフェ、別に忍び育成機関ってワケじゃなくただのコンカフェだからな……そこに至って暴力が磨かれるわけじゃないんだが、物語の熱量とトンチキな迫力は、なごみが赤い超新星に打ち勝つ下地として、忍従の日々を飲み込ませる。
こういうハチャメチャでパワフルな話運びをぶん回せるのは、色々頭のネジが外れた世界観と展開でもって『この話は、こんくらいの調子で進むからね!』とここまででしっかり、見てる側に告げてきたおかげでもあろう。
不殺の任侠道は暴力それ自体が持つ制御不能性(”専守防衛”を旨としていた嵐子が、過酷な現実のなか飲み込まれてしまったもの)と、常に向き合う必要がある。
メイドは暴力装置、ナメられたら仕舞い。
そんな古臭い暴力主義をぶん回し、ナァナァな組織主義の時代に適応できなかった愛美は、自分自身の牙に穿たれるように死んでいく。
なごみのメイド道は銭と暴力が”メイド”をヤクザにしてる現状を飲み込むより、あるいは嵐子のように自分を暴力機械に変えていくより、遥かに厳しい道だろう。
だからこそ、夢破れた任侠達は瞳に星を宿す理想主義者に、”そのまま”でいることを願うのかもしれない。
”メイド”をメイドに戻そうとするなごみの生き様と真逆に、ヤクザでしか無い”メイド”を体現する愛美は、勝ってる時も負けてる時も最高にカッコいい。
アキバの大路を肩を怒らせ、部下引き連れて三池歩き(※三池崇史監督のヤクザもので、超強そうなヤクザが横幅広くズカズカ歩く様子を意味する、身内のスラング)カマしてる時も、信奉する暴力を暴力で上回られ、全てに裏切られて公園の水で野獣のように喉を潤す時も、何も出来ないアマちゃんから覚醒を果たした女が、自分の信じた”メイド”を拳で上回り、死地に向かって進んでいく時も、ザラついた美学が白薔薇の衣に宿って美しい。
なごみがねるらの血で以て”メイド”のメイド的な側面に目覚め、これを作品に貫いていく存在だとすれば、愛美は”メイド”のヤクザ的な側面を一切ブレることなく、力強く体現して散っていった。
ナメられたら殺し返す、野放図な暴力装置でさえあれば稼業が成った時代は遠くに過ぎ去り、しかしその事実を長い刑務所暮らしに置き去りにして、終わらぬ暴走を続ける恐竜。
彼女の超暴力主義が、メイドリアングループ先代に叩き込まれたものであり、彼女自身の逮捕を持って先代がその旗を降ろした(ことを、亡き彼女を敬愛する愛美は認められない)結果、銀河系侵略者の牙は折れた。
ヌルくなった時代の中、しかし暴力こそがヤクザの背骨を立てている事実はこれまでのロクでもないお話の数々が語っているし、アキバに君臨する唯一の勝者となった凪がどう”暴”を使っているかを思えば、愛美の純粋さは”メイド”の真実を射抜いていたのだろう。
だがその凶暴な真っ直ぐさは時代と器用に折り合うことなど出来ず、群れることが出来ない獣はひとり死んでいく。
献身的に彼女の暴走を支えてきたみやびに暇を与え、一人終わっていく彼女の在り方は、ねるらの遺志を継ぎ”とんとことん”の仲間と進むなごみと……あるいは同じ暴力装置でありながら”とんとことん”の存続にとにかく拘る嵐子と、鋭い対称を為していた。
”メイド”がライバルを食い破ることでしか生存できない暴力装置であることを否定し、時代とナァナァに寝て立ち回ってきた宇垣が銃弾を撃ち放つ時、目をつぶっているのは印象的だ。
愛美も、彼女を打ち倒したなごみも己が振るう拳から目を背けず、自分が暴力装置である前提のもとにどんな道を進むべきか、選び取っていた。
誰彼構わず噛みつく狂犬を身内に飼っていたんじゃ、手打ちもなにもあったもんじゃあない。
純白の衣装を己の血で染め上げ、真紅の薔薇を見事に咲かせた愛美の始末は、しかし宇垣が求めていたようなヌルくて冷静的な結末を連れてきはしなかった。
交渉相手である凪は綱紀粛正のために身内を迷わず撃てる女であり、上前ハネてたカスをシメる時、目など瞑ってはいない。
暴力的になるしかない”メイド”の定めから目を背けたものは、その凶暴さに飲み込まれて消えて死ぬのだ。
タマ取る時目をつむってしまう弱気、根本的なヤクザ稼業の向いてなさを見抜かれて、宇垣は凪に食われた感じもある。
ハッタリとしてしか使わないにしても、抜かないと分かっている伝家の宝刀は、抑止力にならんからなぁ……。
しかし暴力だけを真っ直ぐ見つめ続けた愛美も、身内に撃たれて真っ赤なドラム缶に詰められ、死体も残らず消えた。
”メイド”は生きる喜びを客と分け合う明るい仕事なのか、否応なく暴力的であるしかないロクデナシなのか。
愛美が主張する全面戦争を避けてナァナァで誤魔化そうとした結果、戦争で敵に被害を与えることもなく丸呑みされてしまったメイドリアングループの末路は、そんな作品の問いかけを際立たせる。
まー宇垣さん、なごみとは別の意味でヤクザやるには普通すぎたんだろう……命の取り合いを余儀なくされる無法な現実を、どうにかやり過ごしたかった結果、グループと自分が生き延びる唯一の手段……愛美が背負う暴力を自分で否定してしまった、というね。
作中最凶の暴力装置を殴り倒しておいて『メイドは萌え萌えキュンだろッ!!』と吠える、別の方向でイカれたイケイケドンドンな主役。
外敵を飲み込んだ今、なごみが目覚めた任侠道に立ち塞がるのは、荒廃したアキバに君臨する暴虐の王……という話に、今後なっていきそうである。
凪さんが”とんとことん”の収支報告と履歴書見つめる目、絶対ズタズタになっちゃった過去と捨てきれない自分の感情を見つめてて、異様な熱宿ってんだよな……。
愛美やねるらに”それ”があったように、凪には凪の任侠道があり、しかしそれは古き良き”メイド”から気づけばかけ離れ、何もかもが歪んでしまっている。
これを示すのに、オールドスクールないわゆる”メイド服”は過去回想にしか出てこなくて、今はケモミミだの宇宙人だの、ゲテモノメイドしか闊歩してない見せ方は、結構好き。
そういう柵を脱ぎ捨て一度忍者装束に身を包んだからこそ、心の奥に刃を構え、自分の一番大事なものを貫く強さをなごみが手に入れた形なのもね。
『こんなのメイドじゃねーだろ!』と、至極真っ当ながらそれを言ったらおしまいなツッコミを、堂々主役が吠えたこの折り返し。
なごみの眩い生き様は嵐子がかつて夢見、諦めて暴力装置に自分を落としたものだということは、既に示唆されている。
メイドの魂は散り際にだけ咲く、夢色血の色六尺玉。
鮮烈な散り際を見せたねるらと愛美、ヤクザの本質に目を瞑った宇垣の自滅を見ていると、そんな言葉も謳いたくなる。
ひとまずの危機を脱した”とんとことん”が進む道も、死に様にこそ輝きを見せるのか。
次回以降の話運び、大変楽しみになる第7話でした。
追記 悪運と偶然が生み出した結果でも、『殺しまくって生き延びた』という事実は、そらー大きく響くでしょうよ……というお話。
……それにしたって、ナマくれてた敵対組織を皆殺しにして全面戦争の火種を作り、身内の粛清と最凶の武闘派襲撃を生き延びてしまった”とんとことん”、実態はさておきアキバの裏街道じゃ相当、名前が上がってる気はするな。
大半嵐子の圧倒的暴力が全部をなぎ倒した結果なんだが、覚醒を果たしたなごみはもちろん、ゆめち以下構成員も修羅場をくぐり抜けて、かなり筋金入ってきてるしね。
そういう嵐の中で、相変わらず日和見主義のドクズでい続けられる店長は、やっぱこの作品の大事な所守ってくれてると思う。