イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

デリシャスパーティ♡プリキュア:第34話『おじいちゃんはガンコ!おでんは野球のあとで』感想

 そろそろ最終コーナーが見えてきたデパプリ、ラスト個別回? のトップバッターはゆいちゃんとなった。
 お話としてはゲストキャラとの交流を通じて、ゆいちゃんと拓海くんの現在地を示す……という感じのお話。

 ゆいちゃんは登場時からかなり完成度の高い人格をしていて、作中の体験を経て大きく自分を成長させるようなお話を、(例えばここねやらんと違って)あまり背負っていない。(ここを例外的に補足したのが、映画”デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ!”だったかな、という感じもする)
 ブレない安定性を主人公が維持することで、お話全体に落ち着いた雰囲気が生まれているわけだが、今回も変化の主役は老害に片足突っ込んでる頑固ジジイと、素直になれない生意気盛りの少年である。
 ゆいちゃんは行き方を勝手に決められたくない宏輔のために野球大会を開き、拓海くんは又三郎の頑なさを穏やかに諭す。
 ふたりともとても大人びていて、かといって人生の荷物に足を取られるほど老いてもおらず、とてもいいバランスで自分の人生を生きている。

 この成熟は物語が始まる前、祖母を既に失っていることが背景にあることを、今回のエピソードは静かに示す。
 傑作エピソードである第21話に色濃く現れているが、デパプリは何かが終わっていくこと、そこに漂う死や老いの匂いを作品から排除することなく、むしろ真正面から向き合って何が得られるのか、自分なりの答えを出そうとしてる気がする。
 又三郎が『自分が動けるうちに、伝えたいものがあった』『ヨネさんもジンジャーも逝っちまった』と率直に語るように、デパプリ世界で時は残酷に行き過ぎるもので、色んなモノが否応なく終わっていく。
 その上で伝わるものはあるし、終りが近い老人だろうが若人の息吹を身近に感じて、生き方を改めることは出来る……という前向きなメッセージが出ているのは、とても良かったと思う。
 ”プリキュア”でこんだけ濃く『人は死んでいってしまうし、全ては終わっていってしまうが、それでも続くものが確かにあるし、我々は必ずより善くなっていける』というメッセージが出るのは珍しい気もするが、思い返せば全世界を飲み込む闇の意志とか、滅びと破壊にしか生きられない悲しい存在とかとバトルしてきたこのお話、死の宿命とは常時取っ組み合ってきたとも言える。
 珍しいのはそれが非日常的なバトルではなく、当たり前の日常に染み出した影として描かれ、それを噛み締め受け入れていくことで、少女の成熟を描く鏡として生かしている所……かなぁ。
 シナモンの死を語るマリちゃんの口調にしても、"終わり"を前提にした上で今と未来を真っ直ぐ見据える正しさ、そうは真っ直ぐ行ききれない老人の屈折が滲んでいて、見た目より奥行きがある話かな、とも思った。

 

 終わりゆく定めに人が何かを遺すためには、受け継ぐことが大事になる。
 それが今回のメインディッシュである味噌おでんであり、料理人としての成功故に頑なに閉ざしていた又三郎の門戸を、ゆいちゃんと拓海くんは穏やかな交流を経て開いていくことになる。
 祖母が伝えそこねた秘伝は、孫の人格的成熟(それを鍛える槌が、死と離別というかなり重たいものであることと、今回の筆は結構ちゃんと向き合っていたように感じる)によって老人の心を開き、今は亡き友と作り上げた味は若き世代に繋がっていく。
 野球大会とプリキュアバトルを経て、又三郎が孫の進路の自由、抱え込んできた秘伝の開放を決心した裏には、畏友の位牌を前に迫り来る終わりを見据え心を縮こませるのではなく、自分が終わってなお繋がっていくものに目を向ける変化が、あるように思う。
 老人がその生の終わりに向き合うものと、ゆいちゃんは祖母と死に別れた時に既に直面していて、だからこそ祖父と孫がふれあい思いを伝え合う風景を、懐かしく愛しく見つめもするのだろう。
 それは凄く成熟した……ともすればエピソードが始まった段階での又三郎を追い抜いた精神状態であり、『そういう人』としての和実ゆいをスケッチするエピソードでもあったと思う。

 

 そんなゆいちゃん唯一の傷が、拓海くんの純情に気づかない・気づけない恋愛関係の未成熟であり、それがあるから完璧すぎて面白くないキャラにはなってないのも、また面白いところだ。
 おしゃまな宏輔くんを良い触媒にして、拓海くんの純情がまた空回りする様を描いたわけだが、そろそろ終りが見えてきたこのお話、和実ゆいは幼なじみの初恋に気づくのか、気づかず終わるのか。
 心身が成熟しパートナーを見つけ、家庭を気づいていく人の健全な変化も、その先にあるだろう”終わり”と同じく寿ぐべきものとして描くのであれば、甘酸っぱいすれ違いを続けて終わるのではなく、真芯にガツンと叩きつける形で真っ向勝負、仕掛けて欲しいところだ。
 ふたりともとても素敵な人だから、思いが重なる幸せまでたどり着いて欲しいと思うしね。
 マリちゃんとあまね先輩、人間力高い二人が事情を察していて、いざとなったら全力サポートしてくれそうなのは、なかなか有り難い。

 しかし現状はあくまで脈なし、祖母を通じて死や終わりには感度が高いが、自身の恋には鈍感なゆいちゃんであった。
 あるいは拓海くんとの恋、その先にある新しい形の性と生に目を向けることが、完成度が高い主人公に許された最後の成長要素……なのかもしれない。
 だとしたらそれは最終決戦の火花の中で、眩しく咲き誇る花になるのかな……って予感もあり、今後とも見守りたいところだ。

 

 という感じの一見ゲストキャラを使ってサラッと流したようで、通奏低音のように人間の”終わり”と”続き”が鳴り響く、デパプリらしいエピソードでした。
 人生の若木たる児童をメインターゲットに取る話で、こんだけ濃く”終わり”を描く筆は異色でもあるし、これから苦難も喜びも沢山ある自分の物語を突き進む手助けとして、必要な物語にちゃんと向き合った結果でもあると思う。
 子どもが相手でも、あるいは子どもが相手だからこそ、大事なことはちゃんと描くべきなのだろう。

 あるいは子どもに縁遠いはずの”終わり”と、物語の外側で既にしっかり向き合った結果、色んな人に生きる糧を差し出せる人間になっている和実ゆいという人を描くべく、こういう話になった感じもある。
 そういうゆいちゃんだから、僕も好きになったのかな……などと思いつつ、終盤戦へ差し掛かったデパプリがどこへ進んでいくか、楽しく見届けたいと思う。
 次回も楽しみです。