パ 冬来たりなば春遠からじ、2月のヤマノススメである。
寒風吹きすさぶ中でも、受験が近くても、山人は絶景を求めて峰を進み、友とのかけがえない時間を楽しむ。
ほのかちゃんに強くクローズアップした構成が今まで足りなかった栄養素を補充してくれると同時に、彼女がここなちゃんを見つめる視線……を見守るお姉ちゃん二人の優しい瞳が、よく際立つエピソードだった。
山という非日常を描く筆も異様に元気だけど、今回はほのかちゃんの私室に切り込む筆が凄くシャープで良かった。
受験を控えた彼女の机の周りに、何が置かれ何を見ているか。
それをしっかり伝えてくる画面構成が、そのまま物静かに己を語らない彼女の豊かな内面を、僕らに教えてくれる。
沢山の参考書に囲まれカリカリ自分を追い込んでいる姿も、そんな日々からの脱出口のように皆との楽しい思い出を飾っている姿も、全部黒崎ほのかなのだ。
そんな彼女が登る山は、ガチのマジで絶景過ぎていつもながら圧倒される。こんな美術を、週イチで浴びちゃっていいものかな……。
前半は晴天の御岳山、後半は曇り空の赤城山と、天候と場所を変えて2月の山を描いていく今回。
寒さ厳しく、それ故大気中の塵が落ち着いて空気が澄んでいる季節の手触り……冬特有の透明感ある日差しの美しさを強調する御岳山行が、大変良かった。
最初はガッカリだった赤城山スノーシュー旅も、その実力を発揮する新雪を踏み分けて、肌を切る寒さすら心地よい瞬間を絶妙に切り取ってくる演出が、よく冴えていたと思う。
秋から冬、そして春へと巡っていく季節をゆったり追いかけていくNext Summitは、人間を取り巻く様々な場所や時間全てに輝ける喜びがちゃんとあって、それを見つけていく楽しさ、有り難さを大事に進めてくれてる感じがある。
『一瞬一瞬が、かけがえない今なんだ!』と、言葉にしてしまえば青臭く嘘くさくもなる世界の真実を、圧倒的な描画力、観察力でもって詩情豊かにアニメにして、見ているものを包み込んで静かに語る筆先は、上品で靭やかだ。
色々な景色があって、豊かで美しい。
そういう語り口は自然と風景にとどまらず、そこに足を運ぶ人間たちにもしっかり及ぶ。
寒さを切り裂いて届く暖かな光の下で、手をつなぎ微笑む少女たちの群像。
指先の表現が大変丁寧、かつ豊かなメッセージ性をもっていて、大変良かった。
無骨なほのかちゃんが大天使青葉ここなと距離を縮め、手を取り合い光の中に進んでいく様子も良かったが、年下の二人を気にかけ、自分たちもかけがえない時間を積み上げていく年上組の描写も、しみじみと染みた。
等身大のティーンエイジャーとして恋に興味もあるが、しかしそっちにガッツくよりも山と友情に夢中な四人。
その弾むような心が、パワースポット巡りの旅から良く見えてくる。
ハタから見てるとこれ以上はない最高の宝物を、お互いに贈り合っている関係だけで自足してしまいそうな感じもあるが、『それはそれ、これはこれ』なのだろうかどうなんだろうか……。
仲良しチームで満たされきってないで、健全な脇目を色んなものに投げかけている貪欲と余裕は、結構好きである。
今回は自分の目で確かめ進むからこそ感じ取れる、豊かな心の動きが山景色に映えて、成長物語としての手応えが濃かったようにも思う。
最初はピンとこなかったパワースポットの実感も、実際足を運び、大好きなここなちゃんと一緒に歩みながらその凄さを思い知ることで、ほのかの脳裏に強く刻まれていく。
かつて登った山は遠くに見えて、思い出を宿して新しい景色として立ち上ってくる。
山登りに滲む様々な思いは一つ一つ重なって、それぞれの心にかけがえない山脈を作っていく。
それは共に歩いた人たちと共有され、新しい未来へと繋がっている。
肌を切り裂く冬の寒さを感じ取れるほど、よく仕上がった画作りに支えられて、そんな確かな手触りも僕らの側に、確かに近寄ってきてくれる感じだ。
絶景や特別な体験だけをミーハーに追いかけ描くので終わらず、そこで動いた心や生まれた思い出の手触りまで、しっかり伝えようと毎回頑張ってくれているのは、凄く良い感じだ。
そこの手触りが穏やかなのは、やっぱ二期と三期で薄暗い荒波を描き切り、乗り越えさせた後に広がる景色だからこそ……なのだろう。
巡る季節の中には色んなことがあって、色んな景色があって、色んな出会いをして、その全てが混ざり合いながら、大事な大事なヤマになっていくのだ。
それを手助けしてくれる各種ギアも、とてもかっこよく描かれていて良かった。
静止した物体へのフェティシズムというより、人間に寄り添い体験を豊かにしてくれる相棒へのありがたみを込めて、『大事な仲間だからかっこよく描いてやるぞ!』みたいな気概が、見せ方から感じられたのは凄くヤマノススメらしい。
とても暖かく美味しそうな食事シーンもそうだけど、何かと辛さが強調される登山趣味には楽しいこと、綺麗なこと、カッコいいことが沢山あって、テンション上がるもんなんだ! って語り続けているのは、テーマに選んだものを大事に称揚する態度で好きだ。
もちろん富士登山断念に代表されるように、楽しいばかりがヤマでもないのだが、しかし確かにヤマには色んなモノがあり、色んな気持ちを持ち帰れるから夢中にもなる。
カメラもスノーシューもそんな歩みの相棒として、手に取り足に履くだけでテンションが上り、実際使えばかけがえない魅力を届けてもくれる。
そんな名脇役たちにちゃんと目配せしながら、丁寧にギアの魅力を引き出してアニメを作っているのも、このお話の好きなところだ。
Aパートは初々しい中学生組と、すっかり”仕上がった”高校生組が青春を並走していく。
年上が見守る構図……と見せておいて、実はあおいとひなたの柔らかな青春もまた、後輩たちにしっかり見届けられ、微笑みとともにかけがえない思い出として心に刻まれているのだと、バランス良く描く筆が元気である。
ほんっとここなちゃんが可愛く描かれていて、『そらーほのかちゃんも夢中になるわ……マジ狂うわ……』と納得する回だった。あの笑顔は狂う。
今まさに芽吹きつつある幼い想いも、荒天曇天乗り越えて強く結ばれた関係も、両方眩く尊くて……その価値を、案外当人は解っていない。
『解ってないんだろうな~』とニヤニヤしながら幸せに見守る者たちが、また見守られている豊かなエコーが、少女たちを包んでいることが良く解るお話だった。
この暖かな共犯関係、お互いの年と色合いは違えど公平な間柄で皆が繋がっていると解って、大変良かったです。
ほのかちゃんが交じると、住む場所も年齢も違うけど確かに繋がっている仲間の特殊性、それを意識せぬまま一緒に歩いている尊さが際立って、やっぱいいわ……。
Bパートは小春部長の元気なキャラ性を生かし、ぷにぷにしたデフォルメなんかも活用して、曇天ながらより明るい雰囲気。
急に”孤独のグルメ”パロ出してきて、そういうクスグリも嬉しい。
安易にセリフでやらず、画面構成でパロってくるの品良くて好きよ。
ほのかちゃんが群馬県民ギャグを投げてきたり、やや砕けた雰囲気が雪の赤城山(ややイージーモード)にしっかり噛み合い、Aパートの端正な雰囲気と良い対称を成していた。
Next Summitの前後編(+吉成鋼大先生劇場)構成は、各パートで担当スタッフの個性が存分に暴れつつ、夏の富士山リベンジに向けて統一感ある構成を保って進んでいるように思う。
AパートとBパートを一話の中で対照させながら、それぞれの良さを堪能できる作りもいいし、話数を越えた響き合いも豊かだと感じる。
ここら辺はデカいストーリーを追いかけず、肩の力を抜いて少女たちの生活を追いかけていく筆の強い所だ。
様々な思いと出会いを、引き出し受け止めてくれる景色の中で、流れ行く時を寿げる。
そんな幸せな実感が、美味しいご飯に舌鼓をうつあおいの笑顔にしっかり宿っているのが、何より嬉しい回でした。
『こうして人間に大事なものを山ほど見つけて、自分に蓄えて進んでいく雪村あおいが”二度目の富士山”負けるワケネーんだよ……』と、のんびりした季節のめぐりにクライマックスを睨んだ”殺気”食い込んでいるのも、俺は大好き。
負けワケねぇッ!
そして一週間に一度の美術展、Next Summitエンディングの時間である。
この一分半が強烈極まる本編補足……あるいは”3つ目の本編”として機能していることは、8話付き合った諸兄には既に当然のことと思われるが。
ほのかちゃんにフォーカスした本編の後ろ側、出逢った時の眩さを指先でなぞるように、やや静かに積み重ねていく筆致がいい。
カメラを触る指先、覗き込む目元……それが繋げていく出会いが豊かに綻んで、この2月の実りがある。
そういう気持ちを噛み締めながら放送を見終われるのは、大変にありがたいことだ。
ここまでもその片鱗を見せていたカメラへの溢れる愛情が、今回のEDにも滲んでいて、ある機械への強い思いを叩きつけたラブレターとしても読めるのは、Next SummitED集の嬉しいところだと思う。
あらゆるカットから迸る『この機械の相棒は、人間の思い出を健気に切り取って、ときに人の目で切り取るより美しく描いてくれる……とても頼れる、イイやつなんだよ!』という叫び、俺は幻聴じゃないと思ってる。