イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うる星やつら:第7話『住めば都/生ゴミ、海へ』感想

 奇っ怪青春アニメ初春の水着回、不思議な隣人と過ごす奇妙な時間を描く第7話である。
 なんの背景説明もなく謎の水棲珍生物がドドンと出てきて、少々の騒動は巻き起こしつつ日常に同居し、当たり前のペットのように飼うの捨てるのの騒ぎとなり、妙にしんみりした夏感を漂わせながら、良い感じにオチる。
 新キャララッシュも一段落付いて、色恋沙汰からもちょっと遠い場所にある、とぼけて不思議で楽しいお話が、普段とは違った落ち着きとともに流れていくエピソードとなった。
 何しろ宇宙からやってきた美少女がメインヒロインなので、面白ければ何でもありと受け入れまくる度量の広い作品世界。
 それを活かして、外見も存在も性格もどっかズレてる妖怪と、いつもの面々が不思議に触れ合い、すれ違って別れていく呼吸が妙な静けさを宿して描かれていた。
 この『一大事と焦るはずなのに、日常に飲み込んで平然と受け流す』感じはとても好きで、ラムちゃんの水着に興奮するより早く、童話めいた奇妙な味わいをしみじみ飲み下していた。

 

 

画像は”うる星やつら”第7話から引用

 物語はあたるがサクラ先生の艶姿に興奮して反撃をもらい、当たり前のように水底に広がる異界に迷い込むことで始まる。
 あんまりにも日常に近い場所にひっそり暮らしていた妖怪の暮らしは異様に所帯じみていて、水底の無重力に食器だの茶葉だのがプカプカ浮かび、不自由もあろうにスルッと『昭和の客あしらい』を展開していく。
 異常性を特にツッコむことなく、奇妙な噛み合い方をして滔々と状況が流れていくのはこのお話の特徴で、異様な金持ちも宇宙から来た鬼っ子も、気づけば落ち着いて日常の一部と化している。
 ノンキなのか度量が広いのか、ワイワイ騒がしいけど妙な所で落ち着いている作品独自の呼吸が、あんまりにも穏やかな妖怪を鏡に、よく表に出てくる回といえる。
 こののんびりした展開に、蛙亭・中野周平さんの構えない芝居がよくハマっていて、大変良かった。
 芸人声優特有の油っこさがなく、奇っ怪ながら可愛げもあるキャラと独自の素朴さが良い食い合わせで、とても存在感があった。

 『普通、地上人は水中で呼吸できない』という常識すらなく、しかし『客には茶菓子を出してもてなすものだ』という礼節はある、奇妙な生物。
 水泡文字でコミュニケーションのズレと面白さを強調してくる演出にもセンスがあり、恋と暴力に騒がしい『いつものうる星』テイストを残しつつも、独特のBPMで物語は進んでいく。
 先にも述べたとおり、この不思議な落ち着きと器量はお話の強みであり、基本であるとも感じていて、キャラが揃ってきて基本的構図が見えて、そういうモノが表に出てくるタイミングなのかな、と思ったりする。
 流浪する妖怪の図太さ哀れさ不思議な空気が今回の味なので、ホテルの客は当たり前に大騒ぎするが、しかし前回の新聞記事を思い出せば、こういうことは日常茶飯事、異常事態に耐性がある社会な気もする。
 そこらへんはその時のノリ優先、話の都合で色々変わるってのが、闊達自在でいいところでもあるが。

 

 

 

画像は”うる星やつら”第7話から引用

 真顔でトボケてるのはBパートも同じで、ずーっと”ポチ”の顔を映さぬまま少年の一夏を描く筆先が、まさかまさかの正体で元気に炸裂する。
 いかにもな夏の思い出を、主役たちと一切交わらぬまま勝手にボムってエモい感じ出しつつ突っ走り、勘違いを炸裂させて妖怪をペットにしていく大暴走は、しかしあまり派手には描かれない。
 ズレてトボけたまんま世の中は転がっていって、奇妙な凸凹が良い感じに噛み合うのであれば、それはそれで良いじゃないか。
 そんな不思議な開き直りが、心地よいクスグリともなって良い笑いを生む。
 厄介な同居人を引き受けてくれる物語の中心核と、海にやってきた主役たちが一切接触しないまま話が終わっていくの、よくよく考えると凄い話運びだよな……。

 妖怪を海に捨てていくというのに、あたると家族には思い詰めた感じがなく、問題なのは近所への体面であって、妖怪はスイカを持ち運ぶかのように気楽に、海へと旅立っていく。
 Bパートは情景の作り方がなかなか良くて、別れの悲壮感も奇妙な静けさで穏やかに飲み込む……ようでいて、俗な未練も時折滲ませ、さてどう受け止めたものか当惑する高校生たちが、普段よりリアリティ高くこちらに迫っても来る。
 さくら先生とツバメの大人な恋愛を、ドキドキしながら見守る初心な描写などもあり、男女四人年相応の青さが生きて、青春のスケッチとしても……極めて珍妙ながら鮮度が良かったと思う。
 すごーく奇妙なことが置きてるんだけども、それを当たり前の日常としてするーっと受け流し、しかし確かにヘンテコで厄介な事柄は積み重なっていき……という呼吸は、メインストリームに吸収されきらなかったオルタナティブな作風が、この作品を結節点としてポップカルチャーの前面に立ってきた当時の空気を、少し感じもする。
 ポチと過ごす奇天烈な日々には、つげ義春の匂いが確実にあるんだよな……。

 

 という感じの、ある意味日常系の走りといいますか、ドタバタハイテンションな普段の空気を少し和らげて、ファニーでチャーミングで、微かなペーソスが良いスパイスとなった二連作でした。
 ゆったりとしたテンポは、15分にツメて一気に語り切るいつもの形式ではなく、2本どっしり使って愛すべき珍生物との、ノンキで不思議な出会いと別れを書けたのが大きかったかもしれない。
 1クール目もそろそろ折り返し、『いつものうる星』が地固めを終えて、作品のオーソドックス・スタイルからちょっと外れたところにも、良いボールが投げ込める態勢が整ってきた。
 そんな事を示す話数と言えるかもしれません。
 俺はやっぱこの、ヘンテコが当たり前で、不思議を受け流して、穏やかに幸せに不条理が受け流されていく呼吸は好きだなぁ……。
 いい回でした。次回も楽しみです!