機動戦士ガンダム 水星の魔女を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
シャディク編後編、さよなら褐色の王子様…というお話。
超チャラそうな印象だったシャディクくんが、五人の仲間とは心地よい信頼で結ばれ、ミオリネは心底愛し守りたく、企業の檻の中成り上がった不自由を引きちぎれない子供の一人と教え、今日も株価バク上がり
作り手の掌の上でコロンコロン転がされる快楽を味わいつつ、チーム戦の醍醐味を味わえるアクションの組み立て、色んな要素に届く的確な目配せと、大変面白い回でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
シャディクガールズがリーダーとベタベタし過ぎず、しかし内面まで踏み込んだ関係を作って、キッチリ地球寮の素人詰めてくる説得力
その上で、過酷な企業宮廷に養子として成り上がった…ミオリネより早く”大人”になるしかなかった孤独が命取りとなって、他人を信頼することを覚えたお姫様に肘鉄食らう流れは、あんまりに切な過ぎた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
白馬の王子様を待つより、風の精霊で一緒に旅立って欲しかったから、ガラスの靴は脱ぎ捨てた。
そんな想い人の気質に寄り添えれば、ミオリネの内面を具象化した温室にも入ることが出来たのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
愛すればこそのためらい、世界の厳しさを知ればこその絶望が、踏み込ませなかった一歩。
それを横合いから、泥まみれかっさらっていった”株式会社ガンダム”の仲間たちと進む道、見送る背中。
あくまで冷静に、冷酷にすら思える態度でシャディクの愛着を跳ね除けたミオリネが、切り落とした未熟な果実。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
フランス語ではpomme d'amour…”愛の林檎”と呼ばれる赤い実を差し出されたことで、スレッタとの物語が始まったことを思い出すと、なんとも…なんとも…。
母の名残を閉じ込めた幼年期の棺であり、企業宮廷のコードに汚された学園の空気を遮断する聖域でもある、小さな温室。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
各キャラクターとここの距離感はそのまま、ミオリネの心の一番柔らかな部分を、どれだけ許しているかを表す。
(画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第9話から引用) pic.twitter.com/ZbdnfbkqYs
これまでも的確に使われてきたモチーフだが、ミオリネの地位でも家柄でもなく、なんの飾りもない彼女自身を求めた(そして間違えた)シャディクにクローズアップする今回、この舞台装置はググッと意味論的階梯を駆け上がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
水星の魔女が学園に辿り着く前、グエル先輩がホルダーだった頃から…
シャディクは温室の前まで自分の足で来て、しかし踏み込むことはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
それは信頼できる仲間に見抜かれていた、近づくほどに傷つけ合うヤマアラシのジレンマに怯え、愛すればこそミオリネの気持ちを尊重し、だから拒絶を前に立ち止まってしまう誠実と、強く繋がっている。
自分は選別される孤児、あの子は便利なトロフィー。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
共に苛烈な企業宮廷に自我を認められず、生き延びるすべを探している同志として、シャディクはミオリネを大切に思っている。
その視線は少女の鎧を貫通せず、シャディクが這い出し適応した(せざるを得なかった)企業と大人のルールが分厚い壁になる
母を孤独に殺し、自分を政争の道具にしている大人の世界に、あの子は賢く馴染んでしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
自分の手を引いて過酷なサバンナで一緒に走るなり、あらゆる存在を一度は拒絶する保護膜を破って内側に入ってくるなりしてくれれば、見える景色も違っただろう。
しかし女は温室から出ず、男は荒野に慣れた。
温室はミオリネの柔らかな果実を守り育む場所であると同時に、デリングが君臨する大人の世間では、大事にしてくれない母の思い出…そことの紐帯が切れていないありのままの自分と、世界を阻む防護壁でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
死んでいった大事な人を、当たり前に抱きしめ続けられるような、健気な祈り。
企業宮廷で繰り広げられてる数多の暗闘、それが滲み出して歪んでる学園の空気を思い出せば、それが温室でしか生きられない、弱い花であることは理解る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
…そういう意味では、地球寮と株式会社ガンダムは、沢山の人が入れない小さな温室が窮屈になった、ミオリネの新たな殻なのかもしれない。
立場のグラデーションはあれど被差別階級アーシアン、企業のロジックには取り込まれていないし、踏まれる痛みを知ってるから何かを大事にも出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
ミオリネが孤独に抱きしめていた弱い花を、もうちょっと広い世界、あるいは”会社”という、企業の空気に適応した形で咲かせる可能性を肌で感じたから…
ツンツン針を伸ばしているお姫様は、土臭い地球の連中をこそ同志に選び、ビジネスという戦場でも、チームによる決闘でも、力を合わせて闘うことにしたのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
ハリネズミなのはシャディクと良く似てたが、水星たぬきと戯れるうち、痛くない棘の刺し方(刺され方)を学んだ…というか。
スレッタに逃亡を阻止され、エアリアルに救命されて、ミオリネの運命は動き出した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
赤い実を一緒に抱きしめてくれる人、鋼鉄の子宮たるコックピットに庇護してくれた人と、触れ合う内に少女の世界も変わっていく。
温室の外でも息が出来て、花も枯らさない道。
自分も戦って、誰かの花を守る道。
僕らがここまで見守ってきたお姫様一歩ずつの変化は、しかし温室に入らない(入れてくれないと、あまりに紳士的に生真面目に受け入れている)シャディクには見えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
俺が、ミオリネを守るしかない。
比喩でもなんでもなく、殺し殺されが当然なビジネス砂漠で生き延びてきた男は、そう思い込む。
それを生存のための過適応と嗤えるのは、あの世界のイカれたスタンダードを実感してない立場の、気楽な寝言だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
サリウスに選ばれた彼の足元には、選ばれなかった孤児の遺骸が百億眠っている。
御三家に相応しい男だと示すために、数多の商売敵を葬っても来ただろう。
ミオリネが温室の中、赤い実を母の思い出を土に繋いで守り、キャンキャン夢を吠えていられたのは、デリングがそういう企業闘争の厳しさを遠ざけていたからではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
奪われるだけの無力なトロフィーと配することで、苛烈すぎる闘争の当事者にならなくて住むよう、彼の温室に入れたからでは?
シャディクとミオリネの断絶からは、そんな空想も転がりだす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
どー考えても人倫踏みつけにし過ぎの激ヤバ環境なんだが、しかし血縁の情はネジレつつも親子を繋いでもいて、極めて奇っ怪な形で”家”の諸相を書いてるのは、このアニメの面白いところ。
温室での夢に包まれるのではなく、サバンナで活きる戦士として己を鍛えたシャディクにとって、スレッタは無垢で視野が狭い、ただの子どもだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
子どもであること、自分の思いに真っ直ぐであることは、心臓を曝け出しているのと同じ。
戦士はそう考え、姫を檻に…彼の温室に入れようとする。
でもミオリネは他人を拒む殻の中で、それをぶち破って手を取り、一緒の夢に駆け出してくれる仲間をこそ求めていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
『世の中こんなもんさ』と賢く諦めるのではなく、『あなたの夢は私の夢』と抱きしめて、一緒に滅茶苦茶やってくれるバカな子どもだけが、温室に入れたのだ。
彼を学園のアイドルにしている、グラスレー御曹司としての社会的立場。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
それを獲得するべく鍛え上げた、怜悧で大人な世界認識と、それに支えられた残酷な実務能力が、ミオリネの隣から遠ざけていく。
弱くて、何もなくて、それでも何かをあきらめたくないバカ達。
それをお姫様は”私たち”と考える。
シャディクが温室の外で一つ賢く、一つ強く、一つ大人になる度に、ミオリネは裏切られた気持ちだったのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
他人を信用せず、何もかも自分で成し遂げるエゴイズムは父に似てて、つまりは母を冷たく殺した。
そんな風に友達が変わっていく現実に、温室に己を封じたミオリネは手が伸びない。
踏み込んでくれなかったシャディクが間違ったと、決闘の結果は一見描く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
しかし冷たいおとなになることでしか生き延びれない、過酷すぎる世界にシャディクを置き去りにしたのは、自分も同じか。
そんな思いがあればこそ、恋色に育たたなかった果実を切り取るミオリネの指には、複雑な感情が宿る…
気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
今回シャディク→ミオリネの思いはたっぷり描かれるが、ミオリネ→シャディクの感情はあくまで秘密のベールの内側、固く冷たい指揮官としての顔に阻まれて、なかなか見えない。
だからこそ見ているものが考え、解らぬと首をひねり…その過程が、シャディクとのシンクロ率を上げる。
『俺はこう生き延びるしかないんだ』という答えを温室の外で見つけ、もうそれを裏切れないシャディクの成熟と、水星と地球の仲間に囲まれ、未だ己と世界のあり方に悩めるミオリネの未熟が生み出す、解りたいのに解らないままならなさ、切なさ…だからこその切実さ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
こういう物語の心臓にしっかり、見てる側の視点が重なるよう、あえて大きなミステリとしてシャディク・ゼネリ唯一の女を、謎めいて描いたのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
いつの間にか成長し、自分の意志をもって進みだしたお姫様が分からないから、シャディクは負けた。
自分を置いて、自分が置き去りにして荒野に一人活きるやり口を、良く理解していたからミオリネは勝てた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
自分が選んだ、甘っちょろくて人間的な、誰かを頼って誰かを信じる、何も諦めない生き方で。
道は分かれた。
再び交わるかは分からないが…あんまりに切ねぇだろこれで終わりじゃっ!!
さて、もう一つの男女の道、夢と現実家族と己の路も今回、助っ人探しの中で描かれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
待ってましたの助っ人要請を、『ダディがNOって言うから…』で拒む時、スレッタは舗装されていない草の上を、グエルは固く冷たいレールの上に立つ。
(画像は”機動戦士ガンダム 水星の魔女”第9話から引用) pic.twitter.com/VjkW01Fpe1
グエル自身なぜ動けないのか分からない、複雑怪奇な愛と反発の中間地点。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
そこに何があるのか…『お父さん、大事なんですね』と、的確に答えを差し出した瞬間、ライトが灯るの最高~~~。
高雄統子演出みたーい!!(デレアニに呪われ続けるマン)
先週眼球ガンギマリでプロスペラの呪言を聞いてたスレッタにとって、”家”は世界最上の価値である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
スレた態度でマッチョを気取り、勝ち続けて大人になったのだと思いこんでいたトサカをぶち抜かれて、”家”から追い出された…それでもその愛と呪縛が解けない青年も、また”家”を愛している。
”家”に報いる立派な男であろうと、トロフィーたる犠牲者を踏みつけに詰り、それを跳ね除けられて地位を失い、野辺に自分を探している男が動けぬまま見つけた、追いかけたい背中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
そこに踏み出すことも出来ず、”家”の言いなりに戻ることも出来ず、グエル先輩は立ち尽くす。
全視聴者が待ち望んだグエル仮面颯爽登場はならずとも、むしろ堂々参戦できないこの難しさを描くことで、少年のナイーブな葛藤、純情なる恋心はオレンジに燃える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
ここで瞬殺確定など素人で出るしかなかった事で、シャディクが掴み得なかった連帯と夢の強さを描くことも出来るしね…。
グエル先輩が一歩も動けぬ石畳のレールを、トテテテーと駆け抜けていく野生児は、その重さを知っているわけではなく、あくまで無知な子どもだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
蒼き覚醒を果たして”私たち”に話しかけるその危うさを、花嫁さんが聞き届け怪訝な顔してるのが、今後どう活きるか。
どー考えても作中最大の爆心地は、この天然無垢な水星たぬきなので、こっちも無邪気には見守れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
…アンチドート(”毒消し”ってネーミングに、ガンド技術がどういう扱いかよく解って最高)跳ね除けてエアリアルが踊った時、ママンが泣いてたのは、間違いなく闇深いよなぁ…。
ガンドは未知の粒子を体内に取り込み、機械と人間の媒をさせるサイボーグ技術だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
機械が人に近づくように、人が機械に近づき、塗り替えられるその魔術が、指揮系統のオーバーライドとして描かれるのには、納得がある。
おそらくスレッタ、機械を扱う自分と、扱われる機械の境界線が極端に薄い。
それ故の”私たち”であろうし、もっと呪いが濃い、血縁の臭気も濃い秘密が、ガンダムには宿っているのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
それを知らぬからこそ、少女は無垢でいられるのか。
知ってなお無垢でいるためには、外界を拒絶する温室の壁が必要なのか。
夢を見たまま、大人になることは出来ないのか。
そんな事を感じさせる、チームワークと信頼の勝利でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
今回の勝ち方、『リーダー以外は頭飛ばされても負けじゃない』っていう、決闘フォーマットの裏をかいた書き方なんだけども。
それは学園のルール、大人のやり口に慣れすぎた、シャディクの硬直を顕にすると同時に…
(例えば地球紛争で数多の孤児を生んでいる)完全なノールールではなく、あくまで誰かが用意したルールを活用することでしか、夢を失わない子どもたちが闘う手筋がない現状も、語っているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
決闘で勝って、晴れて”株式会社ガンダム”は市場に出ていく。
それは自分を食い殺そうと襲いかかって、立ち向うために夢を殺して武器に変えるしかなかったシャディクが、弱く綺麗な…綺麗なままでいてくれなかったミオリネに、絶対に立ち向かわせたくなかった獣の巣だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
宮廷のルールは株式チャートで収まらず、野放図な暴力と死、制度とその抜け道を剥き出す。
バーチャルな演算で強化された、仮想と現実のサイボーグたる決闘上で、死人もなく政治を解決するために展開される、清潔な戦い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
それだけが世界のルールでないことは既に示され、しかし大人が都合よく用意したレールの上で、檻の中で、未だ物語は進む。
これが壊れた時、何が起こるのか。
ミオリネとスレッタの二人旅が、波高くとも順調であるほどに、先に待ち構えるものが怖くもなっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
用意されたシステムを突破している手応えが、システムそれ自体に依拠しているどん詰まり感、かなり丁寧に積み上げてる感じあるんだよなぁ…。
同時にそうする以外、立ち向う道はないのかもしれない
世界を実効支配する企業宮廷のやり口を、全否定した戦い方ってつまり、交渉の余地がないテロルだろうし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
温室の外に出れたと思えば、そこもまた檻の内側。
そんな多重世界卵の中を転がる青春は、いったいどこにたどり着くのか。
次回も大変楽しみです。
追記 ”ニュータイプ”とはまた異なったリアリティで、人類定義をオーバーライドしうる魅力的で危険な可能性を彫り込んできているのも、”ガンダム”最新鋭として正しい野心だと思う。
水星の魔女追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
↓ って以前書いたんだが、ガンド人間であるスレッタの異様な機械との親和性(”人間”との不協和)を対手として目の当たりにして、出てくる感想が『キモい』なの、良いサイボーグの書き方だなと思った。
新しく、異質なものはキモい。そらそーだ。https://t.co/fFP2DoiQW9
あの反応はシステム化された差別ともまた違った、かなり生理的なリアクションだったのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
スレッタが全くその異質性を自覚していない、ガンドの子どもとしての祝福と呪い。
これが剥き出しになった時、彼女に手を引かれて孤独な温室を出たミオリネが、どんな反応をするのか。
夢を食い殺す怪物が間近にいたのだとおののくか、それももまた私の愛した夢だと抱きしめるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年12月5日
サイボーグロマンスの境目をどこに持ってくるのか、色々考えるのも楽しい頃合いである。
ぜってー超ロクでもねぇことになるな!
イヤすぎるが避け得ないので、こうして予防線を張っておくッ!!