イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

宇崎ちゃんは遊びたい!ω:第10話『クリスマス前はドキドキさせたい!』感想

 踏み込みそうで踏み込めない、ギリギリのシーソーゲーム・モラトリアムもそろそろゴールが見えてきた、宇崎ちゃん二期第10話である。
 箱根から戻ってきて季節はクリスマス、相変わらずの距離感でイチャイチャし続ける宇崎と先輩をAパートで描き、Bパートは先輩の家族と過去を彫り込んでいく作り。
 先に進んだようで同じ場所で心地よく足踏みを続ける『いつもの宇崎ちゃん』をたっぷり堪能した後、想定を超えたクズがお出しされてリアルに戦慄した。
 そらーあの親父見て育ったら、反面教師にしてカッチリした性格にもなるわな……。
 そんな先輩が唯一、モヤモヤした不定形の感情に行き場を見失ってるのが宇崎花、と。
 解っちゃいたけど、見えちまってるな”正解”……。

 

 というわけで、Aパートは久々に密室で二人きりがっぷり四つ、付き合ってない二人の温度と湿度が四畳半を濡らす展開である。
 ちょっとエロティックなクスグリなんかもお目見えして、舌に馴染んだ宇崎味をたっぷり味わえたのは、そういうの嫌いじゃないファンとして大変ありがたかった。
 やっぱこのもどかしく甘い距離感を延々舌の上で転がしたい誘惑は強く、最悪の他者コンテンツ化人間である亜実の心情も、否応なく解ってしまう。
 しかし彼シャツがどーの下着がどーの、一生イチャイチャじゃれ合ってる距離感じゃ満足できないから、宇崎花は自分が奪われ満たされる瞬間を妄想し、それがスカされて怒るわけだ。
 決定的な変質を望みつつも、しかしそこに踏み出すにはためらいがある。
 オーソドックスでベーシックで、しかしありきたりではない悩みが面白く書けているのは、このお話の強みだろう。

 先輩だって花ちゃんの体内にこもった”熱”は既に感じ取っているわけで、だからこそ踏み込んでなにかが変わるのが怖い。
 しかしいい加減この心地よい足踏みのままではイカンのだと、周りの圧力と己の内面を噛み合わせながら確認していったのが二期であり、今回はその最終確認……という感じもあった。
 それは世間的に年齢的に”正しい”恋愛がどーしたとか、周りが見ててもどかしいとかそういう部分で花悪、先輩当人が宇崎花と……宇崎花を好きな自分とどうなりたいか、あくまで彼の内側にかかわる問題だ。
 求められ奪って欲しい(そうされることで、愛されるに足りる自分を確かめたい)少女と、大事にしたい青年の恋路は、放っておけばなかなか発火点に至らず、永遠に足踏みし続ける。
 ではその湿気った決意に決定的な一歩を踏み出させるのは、一体何なのか。
 二期最終盤は、そこを追いかける展開になりそうだ。

 

 未来に踏み出すにはまず起点の確認から……ってんで、Bパート先輩は久々実家に帰る。
 家族増えてることすら知らされていなかった先輩には衝撃の帰省であるが、情報ブロックしてたクソ親父のクソっぷりを鑑みると、家から離れていたかった気持ちも良く解る。
 イヤありえんだろ、あの四十路……。
 そのありえなさが、逆にありえるイヤリアリティを醸し出していて、ミルク色の異次元って感じだ……。

 チャラくてヤバい外装の奥に、クソ親父がどんな思いを隠しているのか。
 それに触れて先輩の気持ちが、どう前に進んでいくか。
 ここらへんを書くのは次回になると思うけど、あんまりに身近で嫌で、『こういう人間にはならない』と心に決めた硬い枷が、宇崎花との距離を固めちゃってる感じもあるかな……と感じた。
 最悪だと反発しつつも、その反発自体が生き方を不自由にしているファザーコンプレックスと向き合って、自分を解き放つことで先輩はようやくスタートラインに立つ。
 そういう構造かなぁ。
 風通しが良く暑苦しい宇崎家を二期は結構重点的に書いてきたから、先輩と親父の関係に宿る湿り気は新鮮であり、納得でもある。
 『色んな家があるよなぁ……』と思える作りなのは、横幅広くて結構好き。

 というわけで、先輩実家に帰る回・前編でした。
 宇崎がもどかしく感じる頑ななストイシズムがどこから来てるのか、先輩の根っこを掘り下げないと状況は動かないわけで、戻るべき所に戻って最終章が動き出すのは、凄く良いと思います。
 『そら呪われもするわ……』と納得のクソ親父に、どんな思いを暴いて叩きつけるか。
 そこからこそ走り出す青春のほとばしりを楽しみにしつつ、残りの物語を見届けたいですね。