イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

SPY×FAMILY:第25話『接敵作戦(ファーストコンタクト)』感想

 2クールに渡ったハイクオリティ冷戦下スパイ家族コメディも、ついに最終回!
 オペレーション<梟>の本丸である国家統一党総帥、ドノバン・デズモンドが顔を見せてフィナーレという、『実績上げたしまだまだ続くぞオルァ!!』な気合を感じさせるラストであった。
 こんだけ柵越えホームランを乱発されると、本来色々しこりも残るだろうモロに”続く!”な終わり方にも納得というか、逆に期待を煽られワクワク待てるというか……つくづく、色々凄い。
 最終回より早く、二期決定&完全オリジナル劇場版の報が出てるってのも強いわなー……。

 

 そんな外野の話はさておき、本編はこの作品らしいどっしりリッチな足取りで、<黄昏>の重要任務を追う形。
 原作を補強する形でオリジナルの演出が多数入っており、七面倒臭い<星>狙いをなんでわざわざやらなきゃいけないのか、セキュリティの硬さを強調する描写が太かった。
 一回こっきり殺して終わりなら不可能ではないが、継続的な対話を作るためには回り道が近道となる……って描写は、あくまで殺し屋ではなく諜報員なロイドさんのスタイルを描写で裏打ちする、良い補講だったと思う。
 まぁ半分ぐらいは、ヨルさんとアーニャちゃんとキャッキャ騒がしくファミリーコメディに勤しみ、『オメー真面目にスパイやる気あんのか!?』と時折聞きたくなるハッピーライフを描くための、作劇的言い訳ではあるのだが。
 しかしこういう所をヤスリがけするかどうかが、作品の嘘がツルンと喉を降りていくか否かの別れ目になったりするので、今回ぶ厚めにやったのは良かったと思う。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第25話より引用

 そんな滑走路を経て今回、話の焦点はフォージャー家というよりは、健気なダミアンくんの悲しき幼年期にある。
 アーニャちゃんは電波ピピピなテレパシーで勝手に集めた情報に基づき、はたから見たらワケ分かんねぇ暴走を好き勝手絶頂にカマして、大暴れした挙げ句グースカ寝とるだけだからな。
 アーニャだけに解ってる情報と、周囲が受け取るアーニャの印象のギャップ、四歳児の訳わからん可愛さをより際立たせるために、かなり上手く機能してる感じもあるなぁ……などと、最終回に思ったりもする。
 メチャクチャ独自な世界観を疑わず、突飛な行動に全力ダッシュする幼さ、別にテレパスじゃなくても幼子にはいつでもあるわけでね……。

 そしてそんな頑是なさを、置き去りにしないと生きていけないのがデズモンド家の次男というものでして……。
 名誉ある”皇帝の学徒”な兄貴と常に比べられ、どんだけ父を慕っても当たり前の愛情こそが遠く、心を凍らせて優秀であろうと務めるには、あんまりに普通な少年。
 ダミアンくんは家の現状を電話越し理解して冷たい息を吐きつつ、気付けばマブダチとトランプやって遊んでいるような、ごくごく普通の子どもである。
 やっぱなー……取り巻き二人がデズモンドの家格とか、それに付随するおこぼれとか一切期待せず、フッツーにダミアンくん好きだからダチやり続けてるのと、そのありがたみをダミアンくんもしっかり理解して友誼を丁寧に扱っているの、最高にいい。
 こういう心底いい子だからこそ、父に愛されるという一番根本的な願いを叶えてほしいと感じるが、それは叶わない。
 血も繋がらず、嘘つきだらけのフォージャー家と、血だけは繋がっているが心がすれ違い続けるデズモンド家、主人公とラスボスの”家”は面白い対称をなしている。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第25話より引用

 久々に古橋監督がコンテを担当した今回、鮮烈な明暗と遠近表現の巧みさが、画面にシャープな緊張感を与えている。
 朗らかな”ロイド・フォージャー”の仮面を完璧に演じながら、ターゲットの心境を理解するヒントを釣りだし、警戒心が強いデズモンドに可能な限り近づく<黄昏>のミッション。
 2クールやってようやくラスボスの顔を拝む最終回、標的の底しれなさはレンズ効果をバリバリ活かした”遠さ”の中に活写され、それはダミアンくんを傷つける家族としての冷たさ、それでも近づきたいと願う思いに重なっても行く。
 股の間から父を抜くカメラアングルとか、バキバキ過ぎて凄まじかったからな……こんぐらい不安定で危うい場所に、デンズモンドという”家”は足場を置いてしまっているわけだ。
 それは今までたっぷり楽しんだフォージャー家の安らぎとは真逆で、この遠さと揺れを利して<黄昏>は任務達成の足がかりを慎重に積み上げていく。
 それは、あくまで東西平和のため。怜悧なスパイとしての演技でしかない。

 ……はずなんだが、父が触れないダミアンくんの肩に、ロイドさんだけが手を伸ばしているのもまた事実だ。
 結局ねぇ……この男(ひと)はまーったく、苦しんでるガキ見捨てて、あるいは便利に使って任務達成とか、もう出来なくなっちゃってんだからフォージャー家の暮らしの中でッ!
 ワケ分かんねぇことしか言わない娘の一言とか、冷たい分断主義を告げるターゲットに世間話を装って対話の信条を告げる父とか、色んな人に後押しされて、ダミアンくんは飲みかけた言葉を手渡す。
 そんな小さな勇気が、東西冷戦の最前線に満ちている重たい空気に、どれだけの意味を持ちうるのか。
 底しれぬデズモンドの”遠さ”を、埋めうる道はあるのか。
 ”続く”最終回に相応しく、ターゲットとの距離感を計測して任務継続な今回、凝った画面構成がそのまま、ドラマの現状を可視化していく。
 ここら辺の質の使いこなし方は、メチャクチャこのアニメの本道を最後に堪能できた感じがあって、とても良かった。
 ダミアンくんの細やかな表情の変化を丁寧に追いかけて、彼が小さな体に詰め込んでいる心の柔らかさ……それがあらゆる子どもに通じる普遍的で、とても大事で蔑ろにしてはいけないものだと語ってくる所とか、ホント最高。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第25話より引用

 かくして少年の小さな勇気は確かな手応えを手に入れ、スパイは実利を冷たく見据えつつ、喜びに湧く幼き友情を見落とさない。
 <黄昏>があくまで任務と平和のために動く公共の機械であることを再確認する話運びながら、細かくダミアン・デズモンド個人の思いを気にかけてる描写を入れることで、僕らが見てきた良き父”ロイド・フォージャー”もまた嘘ではないと解る描写である。
 ここに重なっているのが、ズタズタにぶっ壊された名もなき少年の子供時代であること、だからこそすべてを捨てすべてに嘘をついてでも、嘘でしかない”平和”を求めている所まで、アニメは描いてくれっかなー……。
 哀しいかな、凄く同時代的なエピソードにもなっているし、おそらくはそれを狙い覚悟して描いた話数だと思うので、アニメスタッフが”今”あの話を、こんだけ豊かに耕した観客の土壌に種まきするかは、見届けたい欲があるわな。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第25話より引用

 とまぁ、見果てぬ夢の話はさておき、『やっぱこのアニメの美術サイッコ~~~!』と思える東欧的夜景が挟まり、俺のテンションは最高潮。
 やっぱ凝りに凝った美術を現役で浴びるために、このアニメ見続けてきた部分は大きいからな……こういう最高風景を最後に味あわせてくれるのは、大変嬉しい。
 相手に警戒されず接点を作り、攻略の糸口を手繰り寄せる。
 <黄昏>として”接敵作戦”の第1段階を完ぺきにこなしロイド・フォージャーに戻る男を、夕闇は優しく包み込んでいく。
 家にはワケ分かんねぇ事ばっかいう血の繋がらない娘が、グースカ高いびきを響かせ、世はすべて事もなし。
 忠犬ボンドの凹むほっぺが、圧倒的なもふもふを感じさせて、最高にいい。
 白くてでっけー犬成分を、アニメ化した上でたっぷり摂取する最高の体験を毎週させてくれたのは、二期で一番偉いことの一つね。

 

 というわけで、”SPY×FAMILY”2クールの放送が終わりました。
 力んだ座組に一切気圧されることなく、しっかりマスに向かって届くホームランをバコバコぶっ飛ばし、”しっかり”以上の結果を上げて二期&映画に繋ぐという、最高のフィナーレを迎えた今作。
 そういう商業的・対外的成功をモノサシにする必要もなく、毎回楽しく、多彩で、面白いアニメでした。

 嘘ばっかりの家族に満ちた、圧倒的に本物な楽しさと温もり。
 細やかに美しく生活を描きあげる筆の多彩さ、舞台のちょっとエキゾチックな空気をありふれた家族劇のスパイスに変えていく手際。
 ぶっ飛んだ漫画的設定を過剰なパワーでブン回して笑いを作ったり、しみじみ心にしみる感動をシャープに編み上げ、適切に突き刺したり。
 しっかり狙った所に自作を持っていくために、何をすればいいかをよく考え、成功したアニメだったと思います。

 嘘つき家族のほのぼのコメディとしても、劣等生の凸凹学園日記としても、危うい天秤の上で揺れる東西冷戦を巡るエスピオナージ・アクションとしても。
 多彩な魅力を持ち、だからこそより多角的に色んな人に届いていた原作の魅力を、アニメの全領域フルスロットルで走り切ることで見事に最大化した、力強い作品だったと思います。
 破綻のない丹精な作り込み、思いの外スタッフの個性がよく出るコクの強さを毎回堪能しながら、毎週楽しく見られるアニメでした。
 ここからさらなる発展を果たし、とんでもなく大きくなっていくと思いますが。
 同時にただただ”アニメ”としての仕上がりの良さ、胸を揺さぶる面白さを大切に、しっかり見守らせて欲しいなと思います。

 お疲れ様でした、面白かったです。
 約束された再会まで、何が見れるかを楽しみにしつつ、今はひとまずのさよならを。
 楽しいアニメでした、ありがとう!!