史実と異なる道を辿った長崎で躍動する、昏き瞳の復讐者達の物語。
ニトロと亜細亜堂が組んでお送りする本格ダークヒーロー時代劇、颯爽登場の第1話である。
世界観の説明、キャラの見せ方、全体的な雰囲気、お話の方向性。
全体的に収まりの良いスタートとなり、何をやりたいか伝わりやすい出だしだったと思う。(時代劇分解酵素が濃い目な、オッサンのファーストインプレッション)
冒頭お出しされる、どっからどう見ても”長崎地獄城”って感じの異常建築からして、『これは史実の江戸時代、現実の長崎に大変良く似ていて、草薙の取材力と美術力が怒涛の美術から溢れかえってはいるものの、フィクションなのである! 耶蘇教も別の名前に変えてあるので、実在のカトリックとは関係ない極悪組織なのであるッ!!!』という、作品のスタンスをよく伝えてくれる。
こんだけ邪悪なトンチキが初手からそびえ立っていると、かーなり渋く抑えた筆致からどんなぼんくら力が飛び出すか、期待も高まっちまうな……。
話のベースはモロに”必殺”シリーズであり、陰鬱に地道に抑え込んだリアルな味わいが、トンチキ殺し技で一気に弾ける緩急もいい具合に継承。
ガラス仕込んだタコ糸による扼殺斬首、狙いすました鉄花札による投擲殺、そして蒔絵職人による金箔窒息。
『あんなに気合入った手仕事作画で、「はい、私たちは蒔絵に代表される日本文化を大事にしていきますよ!」ってウィンクしてたのに……』と思わなくもないが、このダイナシ感が時代物の醍醐味だッ!
ネタはさておき、美術や仕草が全体的に細やかで、”和”を浴びる心地よさが強いのはとてもありがたい。
トンチキにぶっ飛ばすところと、丁寧に組み上げていく部分のバランスは現状いい感じで、今後この美しい情景に足元を支えられつつ、どんなロクでもない陰りが男たちを包み、繋げ、壊していくのか楽しみだ。
長崎出島という舞台設定が、禁教カトリックの美しさと背徳をお話に取り込む良い足場になっていて、ここら辺のチャンプルーな感じをどうセンス良く見せていくかは、今後の焦点かなと思う。
橋の石組みの確かさ、待ち望んだ死地へ駆け抜けながら弾き飛ぶ目釘。
小道具や背景に詩情をしっかり宿し、作品全体をまとめ上げる活かし方出来ていたのも、フェティシズムが濃い目で良い。
男の色香を掘っていくのなら、そういう所が強いのは大事だ。
ときおり暴れるトンチキ要素をご愛嬌にできているのは、復讐代行業のドス黒い重たさをしっかり描く、渋い描線のお陰である。
主人公・繰間雷蔵の実直な武士らしさが、幕末の気配漂う爛熟した時代にそぐわぬまま便利に利用され、因果に絡め取られ血に染まる先には、武士としてケジメをつけることも許されぬまま、男雛女雛が血の池に沈む末路が待っている。
生き恥を堪えて復讐を果たし、ようやく死に場所を得たと思ったらすべてを失うこのスタートから、主役はどう転がっていくのか。
利便事屋の今後が気になる運びである。
殺しの符牒に、恨みが刻まれた黄金小判を使うのも(”処刑人”へのオマージュを微かに感じ取りつつ)大変良い。
悪党ぶっ殺して颯爽解決……という感じではなく、殺しの犠牲者は生々しい執着を見せつけながら醜く死んでいき、座組の軽妙さに比べてそこで描かれる”死”には、割り切れない重さが常時つきまとう。
それは現状殺す側のリベンジャー達にも無縁ではなく、いつか因業のツケを払うのだろうな……と、第1話から予感(あるいは期待)させる仕上がりだったのはたいへんいい感じだ。
まだ懐の見えないクセつよの連中が、本格的に因果の沼に沈みだした雷蔵を裏稼業仲間と取り込んだ後、どんな素肌を見せてくれるか。
赤黒い色合いを濃くに出した第1話は、そこへの期待も強めてくれる。
暗い橋の下、丁寧な言葉づかいで義父殺しの重たさをしがんでいた雷蔵に寄り添う碓水幽烟は、一見眩い光の中で微笑むようにみえる。
しかし背中に背負った聖マリアの刺青は、表の闇よりなお濃い暗がりに身を置かねば生きて行けぬ、彼の事情を密かに語りもする。
面目も義理も愛も、なにもかも奪われて血に汚れた雷蔵がこの透明な男に導かれて、どんな闇と光に踊っていくのか。
なかなか詩情のある画作りで、しっかり語ってくれるスタートにもなっていた。
というわけで、なかなか期待の膨らむスタートでした。
何もかんもおふざけで終わらせるには作りがしっかりしていて、渋さが地味さになるにははっちゃけている。
かなり良いバランスで滑り出した物語は、主人公を出口のない因縁の沼に突き落として終わった。
さて、ここからどんなお話が幕を開けていくのか……。
次回がとても楽しみです。