イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第1話『かかしと妖精』感想

 『砂糖菓子と恋と妖精と、そういうモノで女の子は出来ている~ッ!!』てな塩梅のファンタジック壁ドンイケメン祭り、飯塚晴子神の美麗なキャラデザで第一話が着弾!
 世間知らずな夢見る乙女と、バキバキに世間ずれした被差別階級の凄腕剣士が運命に導かれ、ともに旅立つオーソドックスなスタートとなった。
 全体的に繊細な描線と、少女漫画……というよりは正統メルヘンの香りを漂わせる各種道具立てがしっかり噛み合い、かなり好みの味付けである。
 甘いだけかと思いきや、妖精を奴隷化している世間の風当たりはなかなかに苦く、ここを超絶甘ちゃんな主人公がどう切り抜けていくかも今後楽しみ。
 話の中心軸になりそうな”銀砂糖の菓子”がどんな魔法を持っているか、第1話の段階ではまだ分からないので、その凄みを見てる側に伝えてくれるエピソードが待ち遠しい。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第1話より引用

 とにもかくにも美術と色彩が良くて、妖精が実在する(上に、あまりに現実的な政治闘争が500年前に終わって奴隷身分に叩き落されている)世界の手触りをしっかり伝えてくれる。
 ヒャッハーな盗賊が跋扈し、奴隷商がヒューマノイドを商う現実のしっかりした描線と、不確定な未来に漕ぎ出していく無人の旅、あるいは失われた母の思い出を抱きしめる夢の中の薄ぼやけた輪郭を、上手く組み合わせながら世界を作ってくれた感じだ。
 母が継がせたアンの甘すぎる夢は、今後厳しい試練に晒され彼女も大人になっていくと思うのだが、スカした妖精と出会い旅に進みだしたことは、けして間違いじゃない。
 そんな未来を出会いに満ちた強い光と、世間に隣接していないときの朧げで美しい筆致が静かに裏打ちしていて、なかなか好みの描き方だ。
 ときおり顔を出す、輪郭線が淡い水彩の世界が凄く良いんだが、それが作品全部を支配しておらず、あくまでアンの儚い理想、そこに近づく瞬間だけ形をなすのが、幻想譚として良い手触りだと思う。
 この蜃気楼のような質感が、現実に駆逐されていくのか、あるいはアンの未来に折り重なっていくのか……そこが気になる話である。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第1話より引用

 そしてそんな青春の旅路を華やかに彩るのが、顔面凶器の俺様妖精~~~。
 遺伝子にあごクイ壁ドンを刻み込まれたように、おぼこいアンにめっちゃグイグイ迫って、見てる側も巻き込んで激しくDOKI☆DOKI惑わしてくる、凄腕の戦士妖精である。
 何がどうあっても”命令”は出来ないアンは、砂糖菓子職人と同じく妖精との共存という夢を、母から継いでいる。
 それはけして間違っていない綺麗で大事なもののはずで……しかし現実はそういう形になってくれていない。
 差別と暴力に満ちた世界から、夢という脆い砂糖細工を守るための剣として金貨一枚、シャルを買ったアンだが、まー初手から人間扱い男扱い、心臓はフルスロットルで早鐘を打つ気配よッ!

 ロマンスのエンジンがお話の開始時からバリバリ唸っているのは、恋を通じて何者かになっていくだろうアンの未来を考えると大変いい感じだし、正直俺もこういうベタ足の”乱打(ラッシュ)”には弱い。
 70年間戦闘奴隷、世間の酸いも苦いも噛み締め続けただろうシャルが命令以外の関係性で人間と繋がるのを怯えている感じなのが、妖精と人間の間にある断絶を思わせていい感じだ。
 猛烈なアプローチも恋心ゆえではなく、おぼこ一人翻弄するならこの手が良かろうと、ある意味ナメて……あるいは自己防衛でぶっ込んでる感じがある。
 強ぶってはいるものの、優しくされることに慣れていない美男子と、無垢なる力強さと無知な弱さを兼ね備えた乙女。
 良いじゃない……額縁に入れて飾ったくなる感じの、オーソドックス&スタンダードだよ。
 職人を目指すストーリーライン、丁寧に編み上げられた美術と合わせて、名作劇場みがあるのは好みだな。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第1話より引用

 しかしアンだけが強い感情を戦闘妖精に抱いているわけではなく、シャルの瞳が一瞬、少女の横顔を追いかけている様子も、美しい旅路の中しっかり切り取られる。
 少女にかすかに香る銀砂糖の香りが、どんな思い出を呼び覚ましているのか。
 70年の奴隷生活、あるいはそれ以前の過去がこうも捻くれた白皙の剣士を生み出しているのだとしたら、少女が彼と友達……あるいは恋人となっていくためには、頑なな記憶と心の奥へと進まなければいけない。
 擦り切れた心の何処かで、そうやって踏み込み触れ合ってくれるのを待っているからこそ、シャルも少女の真っ直ぐな瞳を見つめ、気取られぬように眼をそらしたりしてるのだろうしね。

 ここらへんの甘く純情な視線の交錯が、基調な第1話の尺をしっかり使ってサイレントで描かれていたのは、結構好きな手付きである。
 とにかくアンの過剰な喋りで埋め尽くされ、その過積載な感じが彼女がこれから走り抜ける思春期の手触りを夜句伝えるお話でもあるのだが、そこに寄り添うシャルの内面は遠く、謎めいて語られない。
 しかし既に漏れているものはあって、仕草と景色の中豊かに描かれているものを舌先で転がして、キャラとドラマの味わいを確かめていく楽しさが、確かにあるスタートだった。

 

 やっぱ”第1話”はこうして、作品が差し出してくれる挨拶を自分なりに噛み締め、好実や信条に合うか合わないか、一緒に踊ってくれる作品かをじぶんなり確かめていく瞬間が楽しい。
 そういう趣味を持つ人間として、実直ながら豊かなステップで『私達はこういうお話です!』というのを伝えてくれる、良いスタートだと感じました。
 かなりベタ足王道踏破な感じだけども、どこで捻って独自性を出してくるのか。
 既にぶっちぎりの透明感を誇る”絵”が十分、オリジナリティを担保している感じもあるけども、話運びやキャラの見せ方でもこのお話だけの魅力を、ずずいと前に押し出してくれるとありがたい。
 タイトルにもなってる”砂糖菓子”がどういう存在なのかが、一つの鍵になりそうな感じなので、街へたどり着いて腰を落ち着けた後、アンの夢をどんな手付きで描いていくかが注目……かな。
 次回も大変楽しみです。