イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第4話『王家勲章の行方』感想

 砂糖乙女の生き様は、暴走乱入ビンタに涙……何でもありだかかってこいッ!
 綺麗な包み紙に迸る野蛮を詰め込んだ、今一番アツい(当社比)少女青春物語、第一章完結の第4話である。
 前回ジョナス・ザ・ゴミクズキングが点火してくれたお話の勢いそのままに、アンちゃんが泣いて笑ってまた泣いて、人生の手綱をシャルの存在を暖かく感じることでしっかり掴んで、明るい空へと歩みを進めていく様子が力強く描かれていた。
 振られた腹いせに植えた狼の大群をけしかける、倫理のブレーキが確実にぶっ壊れてるヤバ人間をビンタ一発で許すあたり、度量もデカいと良く理解った。
 ……いやアイツはやっぱり、消しておいたほうが枕を高くして寝れるタイプの動物だよアンちゃん……。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

 そんな”地獄の屍肉漁り(ヘル・スカベンジャー)”が全てを奪っていった後、降りしきる涙雨に濡れる少女と見守る妖精。
 るれない態度ばかりとっていたシャルは旅路の中、アンの優しい気持ちに触れて静かに距離を縮めて、雨に濡れることもいとわず面倒を見てくれる。
 ここで降っている雨は物理的な天候現象であると同時に、ドス黒い闇に飲み込まれかけているアンの心の具現でもあるので、それを拭わず共に濡れるシャルは、アンを取り巻く嵐を共に闘っていく覚悟と優しさを、具体的な姿勢で良く教えてくれる。
 細やかな心象を切り取るクローズアップの多様が目立つ作品だが、こういう感じのクッションかけた演出もたいへん上手く、正調ジュブナイルに必要な文学的奥行き優れた美術とともに、豊かに踊っている感じがある。

 どれだけ雨が降り注いでも太陽は昇り直し、世界には美しいものが満ちている。
 新たな妖精を宿した青い木の実は、絶望を超えて立ち上がっていく可能性の大きさを示すように、強い存在感を宿して画面に切り取られる。
 どんだけ世界が差別と暴力に満ちていても、確かに生まれ出る美と可能性。
 雨上がりの世界で妖精という神秘にアンが出会い、その誕生に手を添えていく様子は、銀砂糖職人という職業に必要な美との出会いが、アンの前に豊かに開けていることを教えてくれる。

 あとまー、現実に煤けた妖精奴隷の姿ばっかり見せられてきたので、それが世に生み出される時どんな姿なのか、この目でちゃんと確認したかったてのもある。
 現代の倫理観に縛られてる読者としては、世間のゴミカスっぷりよりもアンの平等と博愛を信じたくなるわけで。
 今回ルスルの神秘的生誕を目にしたことで、アンが理由もなく大事にしてる信念が、間違いではありえないことが良く理解った。
 この『妖精って、綺麗で良いものだね……』というしみじみした実感は、シャルとの(困難山盛りだろう)恋路の正しさも裏打ちしてくれる描写なわけで、ファンタジックに美々しく描けていたのはとても良かった。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

  血と涙に濡れた装束を脱ぎ捨て、飾り気のない職人の衣装を身にまとったアンは、美と出会った感動を指先に込めて、たった一人のために砂糖細工を仕上げていく。
 シャルのために、シャルが笑顔になってくれるように、シャルのように美しく。
 乙女の心は運命が出逢わせてくれた彼女の妖精騎士でいっぱいであり、そこから溢れるものは美しい砂糖菓子を通じて、人間の醜さに疲れ果てていた妖精に伝わっていく。
 母の思いを引き継ぎ導かれ、クソゴミ人間の裏切りでそれを奪われてしまったアンの心に、一体何が残っているのか。
 ルスルをモチーフとしつつ、アン自身の面影も率直に反映された小さな砂糖菓子には、彼女の赤心と現状が力強く反射している。

 美術家として彼女の指が作り上げたモノが、あれだけ頑なだったシャルの心を溶かし、羽根に触ることを許す決め手になるのは、手仕事を話しの真ん中に据えた物語として凄く大事なことだと思う。
 言葉では動ききらない大きく重たいものも、心の奥底から湧き上がる気持ちを指先に込め、美しい形にまとめ上げていく営為は、アンのいちばん大切な……大切になった人に触れ、身近に近づく何よりの助けになっていく。
 そうやって生み出されたモノが彼女の夢を形にして、得られた変化と成長がアンをもっと素敵な人にしていくだろう。
 具体的なモノが生み出されることによる、ポジティブな人生のサイクルがここではしっかり回っていて、略奪と殺意でそれを逆に回したジョナスの後だけに、この前向きな手応えはよく効く。
 カスに全部を奪われたように見えても、アンが母の遺志を継いで磨き上げた技術と、出会った”美”を形にしたい情熱と、恋に震える柔らかな心は消えない。
 そして彼女の騎士はその思いをしっかり見つめて微笑み、暖かな信頼を預けて守ってもくれる。
 凸凹色々あった二人の気持ちが、嵐を経て素直につながっていくロマンスの質感も滑らかで、大変良い夕暮れだ。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

 『泣き寝入りはゴメンだ……退きな、運命を切り開く馬車が通るぜッ!! 』とばかり、試験会場に特攻(ブッコミ)かける主役達。
 もともと作品に眠っていたあらくれポテンシャルが、ジョナスのヤバ行動を契機に一気にハジけた感じがあり、この勢いは大変よろしい。
 ミスリル・リッド・ポッドの戯けた謀略も良く効いて、衝動で激ヤバ行動取るわりに脇が甘いゴミ人間は、本性をさらけ出すことに。
 『ザマァああああ!』って手応えと同時に、こんだけ悪辣に振る舞いつつ肝心な所がテキトーな楽観主義で穴だらけなの、生々しいソシオパスの手触りが濃厚でやっぱスゲェな……ってなる。
  盗作野郎がお目々泳ぎまくりの浮ついた姿勢でフラフラしているのに対し、アンは目の前の細工に一意専心、強い集中力で砂糖菓子を作り上げていく姿が描かれているのも、彼女が仕事に掛ける思いの強さ、職人としての才覚を感じ取ることが出来たなー。
 勝負どころで三昧出来ねぇヤツは、やっぱダメだわ。
 あとミスリルの道化芝居、正調妖精物語の味わいがあって、個人的に味わい深いわな。

 前回アンの砂糖菓子を酷評したヒューは、マイナス点だったオリジナリティのなさが既に克服され、アンだけの芸術品が既に形になっていることを見抜く。
 それを生み出したのはやっぱりシャルへの恋心であり、職人としての技術と社会的評価が、ロマンスと心地よいダンスを踊っている物語の構造を、うまく可視化してくれる。
 ここの連動がうまく行ってるの、『キャッキャは良いから仕事しろよ……』って気持ちが少なくなってくれるし、このカスみたいな世界で確かに何かが上手くいく手応えを生んでもくれるので、凄く良いと思うな。
 そうやって生まれた変化に、アンの柔らかな心がどう反応するか、繊細に切り取る表情の芝居も力強いし。

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

 まぁそういうヒロイン力高い評定した直後に、ビンタというには腰が入りすぎている掌底フックがジョナスの顎を砕き、スカッと異世界完了! なんだけどね。
 あんだけの仕打ちブチ込まれて、殴打一閃で終わらせるあたりアンちゃんには危機感センサーが搭載されていないのか、とんでもない度量の持ち主なのか。
 善良すぎて危なっかしい部分もあるので、シャルにしっかり見守って欲しい心持ちである。
 ひでー御面相であるがまったくやり過ぎ感がなく、むしろ『もうちょいキッチリツメておいたほうが、後顧の憂いが断ち切れる!』と思わせるのが、ジョナスくんの”才”である。
 やっぱ、頼むから死んでくれ……。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

 まぁカスのことはスカッと忘れて、今は明日につながるロマンティックを、エモい夕日に溶かす時間だッ!
 ド直球に強い場面を衒いなく全力で叩きつけ、一年後の成長に、続いていく物語にときめきを高めてくれる一連のシーケンス……大変良かったです。
 国の上の方の人たちが、アンのさらなる成長とオリジナリティに期待してる様子と、明日は昨日よりも善くなっていける歩みに、黒髪の美丈夫が優しく……時にちょっと意地悪に寄り添ってくれる距離感が、マージで凄い。
 つーか抱き寄せるだけで終わるかと思いきや、更にゼロ距離へと躊躇いなく踏み込み、夢を生み出す魔法の指にささめき口づけまで届けに来るとは……強すぎるよシャル・フェン・シャル……。

 乙女心を翻弄する軽やかな足取りと、柔らかな部分へ本当に触って欲しいタイミングを見逃さない選球眼の強さを併せ持ち、この後のドキドキ☆砂糖菓子ライフを牽引するのに十分なパワーを教えてくれて、大変に良い。
 なんだかんだ根っこが優しくて強く、アンを通じて世界に確かにある希望を見落とさない前向きさもあって、主人公を預けるに足りる信頼感がキャラ造形にあるのが、大変良い。
 そういうシャルの良い部分を引き出せたのは、かわいいかわいいカカシちゃんの純粋で真っ直ぐな心根……それを育んでくれた母との思い出だと思うわけで、そういう善なるものの価値が時に厳しく試されつつも、しっかり信じられてドラマと恋路が進んでいくのは好みだ。
 想い人の一挙手一投足に、体温上げられ瞳が潤むアンちゃんの純情が、色彩豊かに細かく切り取られ続けるのも、独特の温度感を生み出してて良いわ。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第4話より引用

 かくして頼もしい仲間とともに、アンは自分の人生の手綱を握って、夕焼け色の未来へと進みだしていく。
 この試験会場まではシャルに手綱を握ってもらった(信頼して預け、受け取ってくれるまで関係を作り上げてきた)馬車が、あえて勲章を与えられなかったアン自らの歩みを助けるように、彼女の制御下に入る。
 それはこのお話の主人公がただロマンスに憧れ、運命に翻弄されて被害者面をするだけでなく、母から受け継いだ手仕事と誇りを武器に自分の腕で、未来を切り開く意思と可能性を持っていることを教えてくれる。
 シャルとの王道ロマンスを色彩豊かに織りなしつつも、アンが一人の人間としてポジティブに母の影から巣立ち、自分だけの恋と仕事に突き進んでいく足取りが鮮明なのも、このお話を好きになれる大事な足場だと思う。
 やっぱなー、まっすぐ応援できる主役が成長物語の真ん中に立っているのは、とってもいい感じだ。

 

 というわけで悲しみの雨から雨上がりの希望、白昼の決戦に夕日の旅立ちまで、情感豊かに少女の心を風景に刻んで描かれる、第一章最終回でした。
 大変良かったです。
 人間としての伸びしろを期待して、あえて勲章を与えず未来へお話が伸びていく決着も、遂にアンの純情が心に届いて持ち前の優しさを素直に使えるようになったシャルの立ち姿も、納得と見ごたえに満ちていました。
 クソカスに一発叩き込んでケジメ仕上げて、さぁ希望の未来へレディーゴー!
 次回からどんなお話が紡がれていくか、大変楽しみです。