イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

デリシャスパーティ♡プリキュア:第45話『デリシャスマイル~! みんなあつまれ!いただきます!!』感想

 食って笑って戦って!
 ローカルな手触りで一年を駆け抜けたデリシャスパーティ♡プリキュアも、遂に最終回。
 大仰に構えた所なくどっしり丁寧、一話まるまるエピローグに使って、別れと出会いの先にある風景に元気よく進んでいく、このお話らしいフィナーレとなりました。
 ブンドル団幹部たちがガチで牢屋にブチ込まれ、司法制度の更生効果を体現するかのような前向きさで刑務に励んでいる姿とか、おそらくこのプリキュア以外では見られないだろう……。
 ファンタジックな題材を扱いつつも、地に足ついた雰囲気を大事に話を進めてきた一年間の、集大成となる最終回だったと思います。

 

 カメラは最終話だからって焦ることなく、おいしーなタウンとクッキングダムに戻った日常を追いかけていきます。
 そこにはなにかの終わりがあって、しかしそれは永遠の別れではなくて、魔法の国に行き来もできれば、離れていても連絡は付く。
 あくまで”隣国”くらいの距離感で描かれる異世界の手触りは、なんともこのアニメらしいなぁ、と思った。

 そんな風に流れる時間を、プリキュア全員がそれぞれに掴んだ未来へのステップをマリちゃんは見守って、来るべき別れに備えていく。
 これまでそうだったように、彼は見ているものの代弁者として、あるいは物語上必要な行為を真っ先に行う代表者として、この最後のチャンスにプリキュアに言ってほしいこと、やってあげて欲しいことを形にしてくれた。

 あなた達こそが、私だけのプリキュア

 それは20年を迎える一大コンテンツに足を乗っけつつ、かなり”変”なアニメとして独特の角度から、自分たちが描くべきものをしっかり描ききったこのお話に手向ける、一番誠実な言葉かなと思った。
 人間の一番根本的なところを育む食事を大事に、分け合い共に笑って時折迷って進んできた先に、待っている景色。
 伝説の戦士である以上に等身大の少女だったゆいちゃん達が、待ち望んでいた未来に近づけたのはやっぱ、マリちゃんが時に前に出時に後ろに下がり、物語が一番いい形に収まるよう生き生きと動いてくれた結果だなと、この最終話に思いました。

 そんなマリちゃんがあくまで個人的に、獄にブチ込まれてるフェンネルに向き合い、間違えきった過去とそれでも確かに共有した時間を噛み締めながら、罪の行く先に寄り添う思いを吐露する時間があったのも、凄く良かった。
 親友として、その独善が歪んでいく気配を感じ取れなかった無力な存在として、マリちゃんはこの結末に色々思うところがあると思うし、その切なさは大人だろうが子供だろうが変わりがない。
 なまじっか背負う荷物が増えて、自分の限界を知っている分、正しい大人の方がたどり着いた結末に思うものは多いのかもしれない。

 その上で、間違えたものもまた歩き直せるかもしれない現実的な希望の1つとして、”懲役”がめっちゃポジティブに描かれてるの、俺は本当に好きなんだよな……。
 完璧への強迫観念に支配されてたセクレトルーも、人妻への憧れで獄中生活にゴリゴリ勤しんでるし、ナルシストルーも何かを味わう楽しさを広げて、自分が身に着けた技術の精髄であるスピリットルーを、他人を助ける優しい機械として作り直すことも出来た。
 彼らの牢獄ぐらしは懲罰であると同時に、制度に期待されている通りの生き直しのチャンスとして機能してて、プリキュアらしい理想主義が”懲役”にすら及んでいるのが、俺はとてもいいことだな、と思う。
 生まれつき闇の存在として宿命に縛られ、けして覆せない運命に突き動かされて悪事を働く存在がいなかった、あくまで人間の物語としてのデパプリで”悪”を描く以上、それがいつか笑顔に包まれるのだと信じられる足場が、特別な魔法ではなく人間界にもありふれている法制度に宿ってるのは、僕は希望だと感じた。

 

 ここら辺の特別ではないものを大事にする手付きは、最後の変身を巨大ケーキのキャンドル点火に使った展開からも感じられた。
 プリキュアは伝説の戦士であるが、メシばっか作ってたデパプリは闘いばっかやっていたわけではなく、その特別な力は誰かを殴るためではなく、誰かを笑顔にするために使われてきた。
 お話に幕が下りるこのタイミングで、そのど真ん中に火を灯すように一年お世話になった変身バンクと合体必殺技が使われて、祭りを楽しむ人々だけでなく、ムショで頑張る元悪人どもにもケーキが振る舞われるのは、デパらしい絵だなと思った。
 やっぱ間違いなく”ヘン”なプリキュアで、だからこそ好きだなぁ、デリシャスパーティ♡プリキュア……。

 一年かけてバブちゃんから体も心もデカくなったコメコメが、ゆい達とともに過ごした日々を強さに変えて、別れを前に堂々と独り立ちしようとしている姿も、また良かった。
 メイン顧客層の愛玩願望の受け皿になるためには、ずーっと赤ちゃんでいたほうが色々都合が良かったかもしれないが、コメコメは自分なりの物語をしっかり背負って、何も出来ない無力な子供であることに悩んだり、自分なりに出来ることに背伸びしながら飛びついたりして、元気に頑張ってきた。
 その成果を彼女なり示す上で、"継承"ってテーマを背負った主人公が何を伝え得たかを描く上で、あの強がり笑顔はとても良かったと思う。
 その尊い震えを全霊で受け止められる和実ゆいのデカさが、一年の物語……特に後半の厳しい試練を通じて美質をそのままに、より靭やかで優しいものになったと解る描き方も、また良い。

 ゆいちゃんとたっくんの未来も、彼女たちの今に全く嘘がない柔らかさと暖かさで未来に繋がっていて、焦りがなかった。
 それが恋という形にまとまっていくかは不定形の未来の中だが、激しい戦いの中でゆいちゃんは品田拓海という少年が自分にとって特別な存在であり、大事なものだということを実感した。
 あんまり自分の願いを告げず、誰かが夢に向かうためのエナジーを分け与えてきたゆいちゃんが、『世界中の招き猫を見てみたい』というわがままを、たっくんにまず告げる。
 それが今の二人の現在地なのだ……という納得が、これまた終盤戦の物語を経た上でこの最終回にはしっかりあった。

 

 おいしーなタウンというローカルな場所、そこに漂う少しノスタルジックな共同体理想主義を柱に進んできた物語は、あまり大きなモノをカメラに切り取らず、メシを食って必死に生きてそれでも死んでしまう、人間の生身を大事に進んできたと思う。
 ヨネさんは物語が始まる前に当たり前に死んでいて、ゆいちゃんはその小さく切実な衝撃を噛み締め受け止めたところから、物語に飛び込んでいる。
 彼女の人生で一番大事だったはずの決断は、既に果たされたところから物語は展開し、”答え”を既に見つけているゆいちゃんに助けられる形で、他の子達も世界の命運もいい方向へと進んでいった。
 あくまで人間基準、当たり前の営為を大事に手の届く夢を積み重ねていくその筆致は、派手さがなくて実直で、時にへんてこで……やっぱり好きだ。

 画角を思いっきり地面に近づけた結果、”人は死ぬ”という事実を作品の真ん中に据えた上で、それを受け止めて前に進む力に変えたゆいちゃんと、愛と独善に呪われてしまったフェンネルとの最終決戦には、なにか異様な生っぽさが宿ったように思う。
 作品で大事にされた”食べる”という命の営為に比べ、あまり堂々前に出ることは少なかったが確かに、このお話における死と断絶は相当、色が濃かったように思う。
 死によって隔てられてなお受け継がれるものの意味と、それを糧にした上で自分だけの今を必死に走っていく尊さと、ゆいちゃんが賢明に助けた人たちとゆいちゃん自身が、向き合った物語。
 死別の悲しみと孤独に向き合いきれず、間違えてしまった魂を諦めず手を伸ばして、握り飯食わせた最終話のゆいちゃんは、物語が幕を閉じた後も一歩ずつ、日々を生きていく。

 それは独占と独善の危うさが、いつでも悲しみを世界に広げてしまう場所を進む、ということだ。
 ファンタジックな現代版御伽噺の中で、ゴリッと硬い質感で見据えられていた反・共有主義への抗議。
 土っぽい匂いの書き味と並ぶくらい、断絶と孤立が加速し続けるモニターの向こう側の世界に向けて、今言うべきこととしてそれを選び取った意味は、もしかするとこのお話を受け取った人たちがどう生きて行くかで、値札が付く部分かなと思う。
 主役を特別にする力に”Sharing”を冠したこのお話は、パッと見の感触よりも結構シリアスで重たいものを扱いつつ、あくまで明るく朗らかに、自分たちらしい語り口を最後まで徹底して、自分たちが積み上げた物語を走りきった。
 一年、大きなアクシデントに見舞われつつもこの終わりまで、キャラクターとドラマ送り届け、描くべきものを描けた。
 それはやっぱり、特別に凄いことだ。

 デリシャスパーティ♡プリキュア、とても面白かったです。
 僕は”食べる”という行為が人間存在にどういう影響を及ぼし、意味を持っているかに結構な興味があって、そこに響き合うこのプリキュアを、とても楽しく見続けることが出来ました。
 人間の一番根本にふれるテーマを扱うのに相応しい、身近な手触りを大事にお話を作り上げていったこと。
 だからこそ描ける、ちっぽけで大事な少女と少年達の青春の歩みを、生き生きと描いてくれたこと。
 その先陣を力強く走った少女の危うさを、最終コーナーを回りきるタイミングでしっかりと削り出し、和実結という存在が何に支えられ、何を作っていけるのか刻みつけてくれたこと。
 好きになれるポイントが沢山ある、良いアニメ、良いプリキュアでした。
 お疲れ様でした、ありがとう。
 楽しかったです!!