イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第5話『アンと猫の砂糖菓子店』感想

 お砂糖が生み出す素敵な魔法を求め、修行に励む乙女の夢道。
 シュガーアップル・フェアリーテイル第5話は初手窃盗! 治安最悪ワールドの偏屈職人に見守られ、アンちゃんが今日も頑張るお話である。
 ロマンスとしても少女の職業修行としてもかなりベタ足どっしり腰を下ろして、丁寧に王道を進んでいくこのアニメ。
 第二章開幕のお話も師匠ポジションとの共同生活を通して、砂糖菓子職人に大事なことをじっくり削り出していくエピソードとなった。
 妖精が側にいる生活をゆったり体験できたことで、この世界の砂糖菓子職人がどういう時間を過ごしているか、そのスタンダードを体験できたのは良かったなー。
 シャルとのロマンスもじっくりコトコト煮込む感じで、種族間の差異とそれを埋めていく想いを優しい手付きで扱っていた。
 全体的に落ち着いた運びながら心地よい騒々しさもあって、作品の強みが元気に弾んだ回だったと思います。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第5話より引用

 お話の結節点はいつも犯罪! というわけで、”猫”の名を持つ砂糖職人との出会いもまた、ローブ姿の怪しい強盗に出くわすところからスタートである。
 奴隷制が堂々運用されているヤバ世界なんだから、他の治安も最悪ってのはある意味理にかなってるんだが、ジョナス”ザ・キラー”が(最高に上ブレしたクズ度を誇るとはいえ)例外的にカスいんじゃなく、『そういう世界』なのがいい加減飲み込めてきた。
 そういうヤバさを作中人物は特にヤバいと思わず、スルッと立ち回ってるのも奇妙なリアリティである。
 だからこそ妖精に優しい奇特な人たちが、見ている側の倫理観に近づいてきて親しみやすい……ていう構造でもあるか。

 一見イケメンサンドイッチに見えるシャルとキャットの大岡裁きだけど、片方抜き身の刃握ってる異常状況ではある。
 後に明かされるねぼすけ妖精ベンジャミンとの関係性のヒントは、クソ奴隷が人命にかかわる脅しをぶん投げてきても同じ目線で悪口垂れ流す、キャットの奇人っぷりに既に漂っているわけだ。
 奇妙な縁でご厄介になったキャット工房だけども、仕事への姿勢や砂糖細工の腕以上に、妖精にまつわる価値観が似通っていたから、アンちゃんは実りある学習機会を得た感じもある。
 目先の金銭や名誉に流されず、自分が信じたものを実直に作り続ける。
 ”職人”という言葉を聞いて思い浮かぶイメージに、キャットの生き方はとても近い。
 駆け出しクリエーターであるアンにとって、それを実地で見ることが何よりの修行……というエピソードである。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第5話より引用

 寒い寒い冬空の下、凍える指先を吐息で温めつつシコシコシコシコ仕事の準備。
 そんなアンちゃんの健気に、シャルが無自覚にゼロ距離戦闘しかける描写もしっかりやるよッ!
 あんまりにもベタ足ダダ甘ロマンスを全力で叩きつけられ、思わずオッサンも幸福に身悶えであるが、ここは地味ーに仕事に勤しむアンちゃんの頑張りと、そこに寄り添うシャルのハンサムと、寒さ一つも受け取り方が違う種族の違いがないまぜになった、なかなか面白い場面だった。
 こうして人目の届かぬ街角、ほっこり暖かなイベントを積み重ねて育まれる思いが素直に報われる、”優しい世界”じゃ全然ないからなぁ、この話……。

 アンちゃんは顔面兵器が至近距離に置かれ、自分の体と心を暖かに撫で擦る感触にほっぺたポッポしとるわけだが、シャルは顔色一つ変えずにロマンスをこなす。
 ニクい色男の鉄面皮は、揺れる心を押し殺した結果なのか、はたまたカカシ小娘はなーんとも思っていないのか。
 ここら辺の機微も今後、ドキドキロマンスを盛り上げていく上では大事な要素で、二人の顔色の違いが興味深い。
 アンちゃんからの矢印が勝っているように見えて、シャルが白皙の奥にドデカ爆弾を抱え込んでるケースなんじゃないかなと期待するけど、さてどうかなぁ……。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第5話より引用

 途中絵に書いたような汚い金持ちの乱入などもありつつ、砂糖細工は無事完成、クソ窃盗犯へのケジメもつけて、アンちゃんの奇妙な修行生活は楽しい思い出となっていく。
 最初ぐーたらねぼすけ妖精だと思ってたベンジャミンくんが、砂糖菓子作る以外の機能を路上に投げ捨ててきたキャットを支えるパートナーとしてかなり頼りがいがあり、あまつさえ人間の営みをじっくり見守ってきた長老格だと解るクスグリも、また良かった。
 ミスリルとのチビッ子妖精凸凹暮らしが大変可愛らしく、『やっぱ羽根奪って奴隷にすんじゃなくて、一人格として尊重しあって社会作ってったほうが良いよ……』という気分になった。
 どっしりカメラを据え付けて、アンちゃんの修行時代に寄り添う今回。
 ある種の合宿物語みたいな、悪口もポンポン飛び出すけど気楽で嫌味のない風通しの良さ、個性の強いメンバーがガヤガヤ肩を並べている楽しさが濃くあって、なかなか良い味わいだった。

 その”生活”の実感が、独創性と矜持を第一とするキャットの生き様に芯を入れて、アンちゃんがそれに影響される姿にも納得がいく。
 延々地道に働き続ける実直さが描かれたのと合わせて、母の背中を越えていっぱしの砂糖菓子職人になっていくアンちゃんの資質が、丁寧に削り出される回だった気もする。
 いろんな出会いを経て生まれた縁、育まれた気骨と腕前が、少女に輝く未来を開いてくれるのか。
 それはまだまだ先の話だが、そうなっても納得の足場が丁寧に整えられていくのは、見ていて気分がいい。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第5話より引用

 というわけでねぼすけアンちゃんびっくりアンちゃんしょんぼりアンちゃん、いろんなアンちゃん百連発の、ありがたい修行エピソードでした。
 情緒豊かで感情表現豊かな主人公は、弾む毬のような面白さ、可愛らしさが全身に宿ってて、お話をアクティブに転がしてもくれてとても良いですね。
 こうしていろんな体験をして心を耕し、未来への種をまいている乙女が恋に仕事に、どんな花を咲かせるのか。
 物語の行く末が、とても気になる良いアニメです!