ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
物語は奴隷たちの牧場をしばし離れ、戦雲たなびくイングランドへ。
後世北海帝国に君臨することになる偉大なるクヌート一世の覇道が、足下に何を踏みしめているのかを描く回である。
財力、暴虐、恐怖、知謀。
用いて神の見捨て給うたこの地に、永遠の安らぎを
アシェラッドの死で生きる意味を見失い、奴隷身分に迷っているトルフィンに比べて、クヌートはその輝きにこそ進むべき道を定めて、一切の躊躇いなく覇道を突き進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
敵も味方も罪なきものも、軒並み砕いて野望の肥やし。
そこに栄達への私心ではなく、高邁過ぎる理想があるのが、また怖い。
私欲でやっているなら適当なところで歯止めが効くだろう野心も、戦乱を鎮め恒久の平和を地上にもたらす夢に牽引されればこそ、怪物的な推進力を得る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
父に愛されぬ孤独に怯え、残酷な世界に震え、数多の死に怖気づいていた少年は、もはやいない。
クヌートは、王になったのだ。
金貨と戦火に照らされたその歩みを、マーシア併合の調略、イングランド制圧の覇業と重ねて描いていくのが、今回のエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
アシェラッドが父王スヴェンに抜き放った凶刃に、何が籠もっていたのを知る数少ない男。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第5話より引用) pic.twitter.com/ogL3hHWQ5v
剣閃はけして消えない洗礼の痕として、子鹿を獅子へと鍛え上げた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
略式冠で髪をまとめ上げ、最前線を突き進むクヌートのかんばせには、もはや弱さも甘さもない。
豊穣なるマーシアをこの世の地獄に変え、それを成したのが”ヴァイキング”たる自分だと受け止め、なお歩みを止めない。
そういう男になった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
為ってしまった。
そんなクヌートは”慣例”である前線での略奪には厳罰をもって臨み、横紙破りなトルケルの箴言は寛大に受け取る。
数多の王が飲み込まれ、彼自身謀略をもって向き合い片足を突っ込んでいる、支配の…人間の”当たり前”。
命がけで殺し合いしてるなら見返りが欲しいし、せっかくふんぞり返れる立場に座ったなら、耳に痛い言葉など聞きたくもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
そういう惰弱を、クヌートは自身にも自身の軍勢にも許さない。
それでもなお末端ではタガが緩んで、暴力行為が人を獣に変える宿命はなかなか、歯止めが効かない。
なら、殺す
それが今のクヌートの価値判断である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
同時に地図を俯瞰で見る視点もしっかり確保していて、マーシアとの休戦調停は渡りに船と受け入れる。
それが戦ぐるいのトルケルには気に入らないが、荒くれた野放図に突き動かされつつ、彼の王がいかな存在にのし上がっていくか、隻眼でしっかり見据える。
野獣のように戦に狂いつつ、人間存在への鋭い洞察を忘れず、誇り高く一人立つトルケル叔父貴の存在は、血腥いこの物語、一服の清涼剤である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
覇道の後に権力が付随し、高御座に押し上げられて孤独になっていくクヌートにとっても、その存在は眩しい。
しかし王道楽土の夢のためには、腹芸もいる。
清濁貴賤、王であるために必要なすべてを飲み込み、死体と富と罪にまみれてなお、王道楽土の理想を捨てずにいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
そんな無謀を青年王は夢見ていて、トルケルはその行く末をあらくれた態度の奥、片目でしっかり睨みつけている。
そこには蛮人と賢者が同居する、旧き戦士像が確かに残っている。
王権をもって諸侯を制圧し、残酷な平和を世に敷こうとするクヌートは、そんな生き方に微かな憧れを懐きつつ、己には許さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
マーシア安堵の代金、しめて8000ポンド。
安い、と嘲り笑って踏みにじり、イングランド王の首を変わりに求める。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第5話より引用) pic.twitter.com/KG7fd5wySC
マーシア伯との対話は、綺麗に飾り立てた忠義と剥き出しの恐怖、その中間点で揺れる政治的妥協(あるいは決断)がどんな色をしているか、生々しく教えてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
それは黄金と戦火が反射する、獰猛なオレンジの夕日だ。
清廉に登る朝焼けの眩しさよりも、終わりゆく日の名残りに似ている。
二王を抱けば国が乱れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
目先の大金よりも仇敵の首を求めたクヌートは、傲慢なる独裁こそが世界に平和をもたらすのだという信念を、ギラリと燃やしている。
その炎がイングランドで収まらず、デンマーク本国まで焼き兄王を弑するのも、遠い未来ではない。
自身が精神の国に生きる王だからこそ、クヌートは想像力を悪用する才能に長けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
決裂した交渉、現世の富を跳ね除けて燃え盛る狼煙に、灰となった故国を重ねて脅す。
それが”効く”と知っていれば、いくらでも毒杯を積み重ねる現実主義者の根は、夢の国にこそ降りている。
人は否応なく夢を見てしまうものだし、その想像力こそが人を腐らせ、殺すのだという事実を、クヌートは冷厳に受け止めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
なればこそ、現実においていくら卑劣と冷酷を積み重ねたとしても、だからこそ生み出しうる永遠の夢が形になったのなら、全てが報われる。
全ては、そのためにこそある。
金貨を踏みにじり、灰燼の幻影でマーシアを制した覇業には、そういう精神主義が色濃く薫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
凄惨な足取りの奥にあるロマンティシズムはなかなかに気取られず、むしろ見えてしまえばそこが弱さだと、クヌート王は王冠の奥の素顔を、容易には見せなくなってもいる。
この世の富など、いくら積み重ねたところで無明の果て。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
しかし果てなき夢を現実に変える偉業(あるいは狂気)は、謀略・虐殺・簒奪…現実に成しうる悪行全てを踏破した先にしか掴み得ない。
かくして、イングランド戦争は決する。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第5話より引用) pic.twitter.com/80kymjpAvw
アスゲートが収めた刃は、幼きクヌートのかんばせを強く照らしたアシェラッドの剣が、その原点たる光を鈍らせたことを語っているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
目的は手段を正当化すると、信じて血と罪に足首を浸す男の夢も、現実の中で腐敗していくのか。
イングランドの王冠は、後の北海皇帝にとって”一歩目”でしかない。
今回描かれた以上の死体が、毒杯が、刃が、金貨が、その足元にうず高く積み上がって、あるべき正しい理想のために間違い続ける男を、孤独へと押し上げていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
無力な正義よりも邪悪な暴力を選んだ男の行く先は、まちがいなく冬の嵐よりも厳しい。
では農場で死んだ目をしているもう一人の主人公は、正しき無力を選んでこの覇道に相対していくのか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
トルフィンの遍歴に次回以降カメラは戻るだろうが、クヌートが選び取った歩みと真逆に進むのなら、その主因はなにか。
どんな光と闇が、トルフィンをヴィンランドへ押しやるのか。
そういうところも気になる、クヌート殿下の現状でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
暴力を専有する事で担保される権力の舳先に立ちつつ、誰よりも夢を睨みつけ続けてる生き方は強いし、怖いなぁと思う。
人に許される立ち方じゃないだろ、それ。
無慈悲な神に変わって世を守らんとするなら、それしかないか…。
まー結末自体はヴィンランド入植失敗、北海帝国崩壊と史書に刻まれているわけで、高邁な理想が現実の泥に飲み込まれ、叶わぬ中何を描くかが大事な作品でもあるのだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月7日
さて土にまみれて奴隷の仕事、すっかり煤けたもう一人の主人公には、どんな運命が待つのか。
次回も楽しみです。