イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第5話『気持ちいいですね、柔道って。』感想

 買っても負けても続いていく畳の上の一本道、インハイ予選とその先を描く”もういっぽん!”第5話である。
 天音と永遠のこじれた青春一本背負いとか、亜美と未知運命の大将戦とか、見どころはたっぷりあるわけだが……南雲オイ南雲ッ! に尽きる。
 インハイ進出の立役者、期待の剣道部エースという金看板を投げ捨てでも、湿った視線の先にあるその背中を追いかけようというのか。
 情念戦士が抱え込んだ想いが炸裂する滑走路が、楽しさに弾みながら柔道一直線に突き進む未知の道にグイッと寄せてきて、さて次週どうなる。
 とんでもなく重たく湿ったモノを、底抜けに爽やかに終わらせ続けていける作品のポテンシャルが、巨大過ぎる感情質量を遂に露わにした南雲杏奈を受け止めきれるのか。
 試合の盛り上がりだけで話の山場を作らない、青春群像劇としての手付きが感じ取れる話数となった。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第5話から引用

 というわけで物語は、厄介にこじれてしまった青春の結び目を懇親の背負いが解くところから始まる。
 自分に”柔道”を教えてくれた先輩との間柄をぶん投げた変形背負いにこだわり、勝手過去を乗り越えていく永遠の目には涙が浮かんでいる。
 天音が永遠の前では泣かずほほえみ、チームメイトの元に戻って涙を流すのは、かつて折れ曲がってしまった善き先輩・後輩の間柄を、真剣勝負を通じて二人が取り戻せたことを良く語っている。
 負けた悔しさや不甲斐なさを飲み込んで、強い顔を作る矜持。
 そんな思いを手を取り預け、素直に涙を流せる仲間。
 中学時代は身につけていなかった連続背負いで勝負を決めた永遠だけでなく、天音もまた過去に足を止めず進み続けたことで、確かに得たものがある。
 この勝負はそんな足取りを確認し、それがどんな出会いから動きだしたのかをお互い、掴み直す場だったのだろう。

 試合の決着のさせ方を見ると、渾身の投げ一つで動きを止めず、相手の想定を上回る連続攻撃で流れを作れたものが、勝ち星を掴んでいる。
 このお話が見据える”柔道”は、手前勝手に勝ちを確信すれば致命的な隙が生まれ、絶え間ない鍛錬だけが実現する組み合いの発想力が、大きな力になる競技だ。
 対手を侮らず自分に驕らず、真摯に勝負の場に向き合い続ける集中力と、それで研ぎすまれた精神が成し遂げる飛躍。
 豊かなイマジネーションと、それを形にするフィジカルとテクニックこそが勝負の決め手なのだ……と書いているのは、古き善き”心技体”を自分なりの筆で描き直す手応えがあって、大変良い。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第5話から引用

 一勝一敗にもつれた大将戦も、相手の想定を超えていく手札をどれだけ鍛え込んでいるか、集中力を切らさず勝負に挑める心の強さが、勝敗を分けたように感じられる。
 苦況にも笑い続けれる未知の心は弾むような可能性に満ちているが、同時に腰の落ち着かないうわっついた部分を残していて、どっしり勝負の行方を見据える落ち着きがない。
 これは南雲含む仲間の応援を良く聞いて力に変え、地力以上のパフォーマンスを引き出せる強みでもあるし、一年坊主らしい経験不足の現れとも言える。
 ”三年”である亜美はポイントリードされてもブザーが鳴るまで諦めず、アグレッシブな未知の勢いを逆手に引き込み、その想定を超えた連続攻撃で一本を奪った。

 自分がどう勝つか。
 そのイメージを腰の軽い妄想ではなく、自分と相手を良くみた上での事実として見つめ、手繰り寄せられる者は強い。
 主役である未知は明るく奔放なその性格上、まだまだそういう強さは遠く、あるいは今回叩きのめされたたぐいの強さとはまた別の、彼女だけの柔道をその手に掴んでいくのかもしれない。
 因縁とか思いとか、いろんなものを受け止めてくれるからこそ貴い”柔道”を描くこの作品、いろんな強さが存在しているのだと競技を通じて描いてくれると、群像劇としての奥行きもさらに広がっていく感じがする。
 冷静に引いて守ればポイントガチ出来そうなところを、柔道楽しすぎるから全力で攻め続けた未知の大将戦には、彼女だけの”柔道”の匂いを感じれたし。

 そんな女を見つめる南雲の視線……湿り気が強いッ!
 ずーっと南雲が未知を見つめる視線を特別な湿度で切り取り続けているこの作品、溜め込んだ火薬が遂に炸裂するまで、なおも溜め込むからすげーわな……。
 ていうか南雲単体で終わるならさておき、隣の子も道を見つめる南雲を影の中からじっとり見つめている描写が多くて、お互い背中を追い続ける届かぬ視線が堂々巡り、全てを更地にするだけのポテンシャルが限界寸前ッ……!
 主役である未知が鈍感で底抜けに明るいから、そこが湿気抜きになってギリギリ成り立ってるな、このお話……。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第5話から引用

 戦いすんで日が暮れて、後は引きずらずにノーサイド
 それが出来なかった天音と永遠が、ようやく対等な視線に戻るまでの長い旅路を書いていればこそ、一切の気負いなく負けた相手にベタベタ出来る未知の凄みは良く伝わる。
 ただただ何も感じないバカだからこういう事ができる……というわけではなく、負けた不甲斐なさをよく噛んで腹に落とし、あえて引きずらず周りを見渡している様子も、しっかり描かれていた。
 未知が南雲を見ていないわけではなく、かけがえのない友達だと大事に向き合い、しかし追いすがれない削り出し方なの、なかなかいい感じよね。

 そんな風通しの良さは南雲も重々承知で、その上で少し離れたところから想い人を見つめる湿った陰りは止まらんのじゃいッ!
 ここでも剣道部の南雲見つめ続け系女子が隙無くカメラに抜かれていて、剣道部という居場所で南雲杏奈が成し遂げたことの意味、それが生み出してしまう引力がちゃんと書いている。
 そういうモンを引きちぎってでも進みたい場所を、羨ましく見つめる視線を間近に見つめられていることに、南雲は果たして気づいているのか。
 ……気づいてるよなぁ、賢い上に情が深い女(ひと)だから……。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第5話から引用


 そしてここからは衝撃の告白までノンストップ、SUPER NAGUMO TIME!!
 楽しいはずの下校風景に滲む疎外感、勉学も怠けない生真面目に仄暗く発光する思い出の写真、何度でも目を奪われる貴方の残影。
 た、畳み掛けてくる……こっちが倒されるまでッ!!!
 こんだけエモの波状攻撃を仕掛けられると、南雲がどんだけ重たい荷物背負っていようが”そこ”に飛び込むしかない必然性が分厚く積み上がってきて、まさかの退部宣言にも納得するしかねぇ。

 学力やらインハイの結果やら、他人が外側から判断不能な指標は常に南雲が”上”、未知が”下”と位置づけているわけだが、南雲個人の主観としては園田未知は常に太陽に近い方、自分が見上げる方に位置している。
 剣道に身を置く限り掴めない綱へ、なにもかもなげうって縋り付く前駆症状として、南雲は未知に退部を相談する。
 それは降って湧いた急な思いではなく、ずっと溜め込んで溜め込んで見つめ続けて追いすがって、でも掴めなかったから遂に選んだ、情念の一擲である。
 新しく進み出し手に入れた居場所で、新たな仲間と懸命に励むことでこじれた気持ちが収まった話を永遠と天音でやった上で、どんだけ押さえつけてもその引力圏に身を置きたいという”渇き”が南雲主演で編み上げられていくの……感情のネジレを切り取る技芸がこの話、本当に多彩だね。

 南雲が青高の火薬庫だって描写は第1話からずーっとあったので、インハイが落ち着いたこのタイミングでドカンと炸裂させて何を描きにくるか、来週大変に楽しみです。
 正直心待ちにしていたからな……あの視線の導火線が、なにもかも吹き飛ばす一瞬をよ……。
 南雲の湿った情感をどう見つめどう受け止め導くかで、未知の器量、主人公の資質も濃く描かれそうで、折り返しの次回第六話、間違いなく大勝負となりそうです。
 良いよォ……大変に良いッ!!