イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第6話『後悔したくないから』感想

 重すぎ湿り過ぎの女女感情をピーカン主人公が元気に一本背負いするアニメ、六話にわたり溜め込んだ重力爆弾が遂に炸裂する南雲回の到来である。
 このままレールを切り替えなければ、剣道で”やるべきこと”を全て叶えられた可能性の塊が、それでもなおやりたいと思えたこと。
 柔道という競技それ自体の魅力ではなく、園田未知という少女の引力を選んで青春を突き抜けていく南雲杏奈の存在感、大変良かったです。
 主役チームを県予選第二回戦で敗退させたり、期待の新人を大きな大会には出さなかったり、『勝つこと以外にも、大事なことは沢山ある』という、ともすればウソっぽい題目になってしまいそうなテーマに実際のドラマがしっかり噛み合ってて、未知達がどんな風に部活しているのか、しっかり伝わる手応えが良い。
 念願叶って未知と一緒に部活をする南雲、それを見守る仲間たちの汗が、爽やかに眩しい折り返しでした。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 というわけでこらえきれず口をついて出た本音に、戸惑う太陽小町と八の字眉毛。
 今回は延々南雲の複雑な表情を追い続けるわけだが、いつもバカばっかりなお調子者が日常に投げ込まれた本気の爆弾、炸裂の気配を感じ取って表情が冷える瞬間も、しっかり切り取ってくる。
 未知の人間センサーが優秀で、楽しく笑うべき時とマジに受け止めるべき瞬間の切り替えが、しっかり出来るところが色んな女を狂わせていると思うのだが、ここら辺のギャップの描き方も良い。

 そんな女に惑わされる筆先が、思わず追いかける”ふたり”。
 ここのカットに籠もった”殺気”は本当に凄くて、『里に月は灯らなくとも、二人きりともに歩ければ……』と語りかける問題文が、今までの歩みとかこれからの栄光とか全部投げ捨てて、未知の隣に立つ南雲の覚悟をギラギラと反射している。
 ふたり。
 たったそれだけのために、何の文句もなく順風満帆な”やるべきこと”を投げ捨ててしまって良いものか、賢く優しい南雲は正しく迷っている。
 運命がこじれて”ふたり”でいられなかった、永遠と天音の話をやった上でここに突っ込んでくるのが、人間と人間が取っ組み合いするお話としてスゲーなと思う。

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 ここで最後の一発を押し込むのが、同じく園田未知で人生狂った、狂わされた、自分から狂って一切の後悔なしな氷浦永遠なのは、あまりにも面白すぎる。
 永遠ちゃんなりに勇気を振り絞っての屋上ランチだってのが、覚悟の柔道着で武装してる様子からも伝わるけども、最初はめっちゃ遠い間合いだったのが眼科の園田を友に見つめることでググっと近づいて、一気に『わかるってばよ』になってるの、キチはキチを知るというか同病相憐れむというか……とにかく凄い!
 こんだけ女達を狂わせておいて、当人は地上でガハハー笑いながらフツーに過ごしているところが、また感情恒星系の中心としての”格”を感じさせる。
 後悔を置き去りに逃げ道のない場所に飛び込んで、掴み取ったものはあまりにも眩しい。
 そう語る永遠の言葉には、実際前に進み出たからこその重さと、同じ気持ちで同じ女(ひと)を見つめればこその共鳴が強く宿っている。
 早苗と違って古馴染みではない二人が、園田LOVEの引力でググっと距離を縮めていくの、今後の”部活”にとってもアツい描写だった。

 そして風呂。
 携帯電話に山盛り詰め込まれた具象から、胸の中だけに刻まれている永遠の思い出を終わりなく蘇らせながら、欲しい所で欲しい一言が届く。
 名札の文字に刻まれたそれぞれの性格が、日常のなか育まれるかけがえない時間の全てを一緒に過ごしてきた、時の重さ。
 その真意を知ることなく、しかし南雲杏奈が一番わかってほしい想いを、一番わかってほしい相手である園田未知は、完璧に気楽に受け止める。
 それが”ふたり”の当たり前で、だからこそ南雲杏奈は人生を切り替えないといけない。
 そんな事実が、柔らかで暖かな水から染み込んでも来る。
 少女15歳、勝負の瞬間(とき)である。

 

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 剣の道を一緒に進み、娘の”これから”にずっと期待してきた父親に告げる重たく長い本心を、未知自身にはスパっと短く切り出すところが、凄く良い。
 南雲の周りには色んな繋がりが確かにあって、彼女はその全部を大事にできる人で、その上で”ふたり”を選ぶからこそ手も震える。
 しかし同じ思いで既に後悔のない道へ踏み出してる永遠が、勇気を引き出す魔法を無言で差し出してくれて、本当に言うべきこと、やりたい事へと進んでいける。
 自分の考える”かくあるべき南雲杏奈”よりも、娘が勇気を振り絞って進み出す”こうありたい南雲杏奈”を祝いでくれる家族の存在も、またあったかく心強い。
 抜け目なく古巣全員に手書きの詫び状叩き込んで、地雷原を事前に処理してあるところとか優等生極まるッ!

 ずっと一緒にはしゃいで育って、二人だけの謎めいた暗号のようにふざけた敬礼の挨拶。
 そこに込められた強すぎる思いが真実どんな形か、気楽な未知は分かってはいないのだろう。
 それでも、その理解らなさをまるごと飲み込んで”南雲杏奈”と向き合う気持ちは、ずっと未知の中にある。
 あるからこそ、南雲杏奈は震える拳を握りしめて自分の思いを短く、まっすぐに伝えたい、届けたい相手として、園田未知を選んだ。
 南雲の心が繊細に震える様子を丁寧に追いかけたことで、その怯えも躊躇いも涙も全部受け止めれる未知の”人間”が、しっかり書かれた感じが強い。
 こんだけ人間が太い主役がいると青春物語はどっしりと安定するし、皆に好かれる理由も解るし、そんな彼女が仲間と一緒に全霊を傾ける”柔道”の価値も上がるわけで、とても良い決着だったと思う。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 そして一つの決着は一つの始まりでもあるわけで、”部”として友にバトンを繋ぐ体育祭、初めての柔道着、才能と勤勉が生み出す可能性……と、南雲杏奈の柔道部物語は元気に転がっていく。
 念願叶って未知と共に過ごす”部活”での笑顔と、同じくらい”ふたり”以外の仲間ともいい距離感、いい空気で過ごしていて、未知一人にベッタリしないのは南雲らしいな、と思う。
 未知を選んで進んだ道が、凄く幅広く、何も取りこぼさず南雲の未来を広げていってくれるのは、”やるべきこと”より”やりたいこと”を選んだ一見身勝手な決断が、その実何も傷つけてはいないと教えてくれる良い書き方だ。
 そんな風に人間の明日を閉じ込めるのではなく羽ばたかせる方へ、無自覚に手を引っ張れる才能というのが、園田未知にはあるのだろう。
 無論、南雲杏奈の性能が身体・知能・人格、全領域においてぶっちぎってるってのもあるが。

 そういう逸材を、当たり前にデカい大会には出さない先生の決断は偉いし、飲み込みきれない思いを飲み込もうとする南雲の震えに、まーた未知が手を添えもするわけよッ!
 スポ根漫画の文法なら才能あふれる初心者の覚醒無双は大きな見せ場になるはずで、そこを外してでも『普通の部活』な対応する所に、このお話が何を描くのかが滲んでいる感じもある。
 勝ったり負けたり繰り返しながら進む、長いようで短すぎる三年間。
 そこで何を掴み取るか選んだ南雲が身を置く場所として、青西柔道部……否、剣道部と隣り合う武道場はとても良い場所なのだろう。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 ていうか先週夕暮れの車中、相当な重力出してた佐野ちゃんの思いの始末も画面の端っこにクッキリと切り取られ、全方位隙のないアニメだと感心する。
 南雲が選んだ道って正解がない道で、色々後を引きかねない決断だったと思うのだけども、佐野ちゃん筆頭に色んな人から寄せられる思いの重さをちゃんと分かった上で選んで、だからこそ良い関係が続けられてる描写がしっかりあったのが、スッキリした後味を生んでもいる。
 未知を追いたい気持ちも、いま足を置いている場所への愛着も、全部ウソではなくだからこそ真摯に向き合って出した答えだから、佐野ちゃんもこの表情で南雲に向き合えるのだと思う。
 いやこの晴れやかな表情の奥で、感情の小宇宙(コスモ)をまだ抱え続けている可能性も当然あるけどさ……。
 それもまた良しッ!

 

 

画像は”もういっぽん!”第6話から引用

 

 かくしてクール半分引っ張った南雲杏奈の巨大感情にケリが付き、さて金鷲旗三人でどうする! という所で、幻の五人目が顔を見せて次回に続く。
 人間が人間に抱く強い感情、その焦点となってくれる”柔道”の強さをしっかり書いてきたお話なので、一見お軽く見える彼女がどんな気持ちを競技と人に抱いているかも、熱く描いてくれると思います。
 来週も楽しみッ!!