イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第5話『救出作戦』感想

 天から降り立った少年が滅びゆく雪海を駆け抜けていく王道ファンタジー、姫様救出のために王子と二人旅! な第5話である。
 やっぱたまんねぇな……このベタ足のハイ・ファンタジーっぷり……。
 無垢なる存在が高貴な志を持った者と旅に勤しみ、苦難にあえぐ人々を助けてドン詰まりの世界がどうにかなっていくという、幾度も描かれ幾度でも描かれて良い物語類型が、新しく豊かな想像力と最高の画作りに支えられながら転がっていく様子は大変良い。
 カイナくんとヤオナくんの雪海旅行、そこで育まれていく絆の実感は大変良かったし、敵地に捉えられてなお”政治”しようとする姫様の生き方とか、さんざん『オメーも本は姫様だったのになぁ、なぁッ!!』って檜山声にコスられ続けるアメロテ将軍とか、ジワジワ状況が煮込まれてく感じが楽しかった。
 天膜世界がひと足お先に滅んでいく様子を既に見ているので、地上でくだらねぇ命の取り合いしてる場合じゃないと視聴者は分かりつつ、それでも他人を押しのけて自分たちの生存圏を確保しようと足掻く人間の浅ましさが、異様な世界にしっかり根を下ろしている。
 敵国トップの獰猛さも良く見えて、運命の少年たち決断待ったなしの状況ですが、さてはてどうなるか……懐かしくも新しいワクワクを、良く盛り上げてくれるアニメです。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第5話から引用

 というわけで救出ボーイズと囚われガールズ、それぞれの冒険を交互に映していく今回。
 カイナくんとヤオナくんは手を取り合って海底を歩き、戦争の犠牲になろうとしてるリリハを助けるべく共に進んでいく。
 姉ちゃんと一緒に進んだ軌道樹下りもファンタスティックだったが、水没した根を辿って進んでいく今回の旅も新鮮なワクワクに満ちていて、眼福力(造語)が大変に強い。
 やっぱきっちり構築された異文化に首まで浸かって、たっぷりと飲みたい”汁”で満腹になれるのはありがたすぎる……。
 廃棄された城の地下に遺されていた古代文字の伏線は、終盤回収される感じかなー。

 戦争に頭が凝り固まったオヤジ世代は、『子どもたちには何も出来ない、雪海馬(かわいい上に自然の奴らはアホみたいにデカくなってたくましく、大変カッコいい)に乗らなきゃ外には出れない』と、固定観念で世界を見ている。
 彼らが時間稼ぎための便利なオモチャくらいに考えているカイナくんが、地上にもたらした空気豆という技術で、ヤオナくんは城を抜け出し独自に姉を助ける道を、一緒に進むことが出来る。
 『オシッコはプライベートかつ重要な問題なので、油断なくすましておくと良い』ということも以前の旅から学び、険しい旅路の中新たな縁も育み、少年たちは大人たちが想像もしないやり方で、自分たちの物語を駆動させていく。

 ここのジュブナイルな手触りがやっぱ好きで、今回カイナくんの道連れになったヤオナくんのひたむきな純粋さ、労苦をいとわない誠実さが、姉譲りでグッと来る。
 世界観はヒネりまくりの超へんてこワールドなんだが、むしろそっちで珍奇味をたっぷり補充できる分キャラ造形やストーリーを安定感のど真ん中に投げ込んで、冒険譚のど真ん中をひた走ってくれる手応えはまことに嬉しい。

 天膜での出会い、軌道樹での旅を通じリリハと培った絆が今、カイナくんを新たな運命に投げ込んでいるわけだけども、つくづく主人公が良く旅をして、その中で優れた己の資質を開花させ、新たな出会いや学びを掴み取って、前に進んでいくお話だ。
 天膜育ちの優れた視力で、カイナはヤオナの目には映らないものを見つけて、今できることを即断する。
 人殺しの技術に馴染みはないが、より良く生きるための術は主人公の総身にみなぎっていて、そのタフな手触りが殺し合いに向けて突き進む国家と人間に対置される時、不思議な希望と安心感を生み出す。
 カイナくんがずっと、殺すためではなく生きるために旅をし続けているのは、このお話全体にとっても、彼と一緒に旅をすることで何かを変えていける人たちにとっても、凄く大事なことだと思う。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第5話から引用

 んでまー、健気な少年たちが絆深めつつ命を助けるための旅をしてる裏で、浅ましい人間どもが脅したり騙したり殺したり、こっちも生きるために必死だなッ!!
 天膜に奇跡はなかったと知っていながら、王族として少しでも状況を良くするべく精一杯のハッタリかますリリハは、ときおり見せる弱気な表情もまた可憐で、大変良かった。
 檜山声の凶悪皆殺しマシーンが堂々登場したことで、アメロテ将軍が敵の中では『話せるやつ』ポジションに推移してきた感じもある。
 ハンダーギル司令の渇ききった殺戮者っぷりは、滅びが近い世界で生存のために色々切り落とした末路という感じが強くして、真逆のポジションにいるカイナくんが対峙するべき悪役として、なかなか良い造形だ。
 外見がちょっと骸骨っぽい……死の匂いが濃い雰囲気まとってるのが、極悪帝国のラスボスとして欲しいものくれてる感じ。

 誇りのために全面戦争を選ぶアトランドと、それに殉じる覚悟を見せるリリハを鏡に、『はい、アメロテ将軍は蹂躙された亡国の姫です!』というサインが濃い目に出てて、今後どう転がしていくか楽しみでもある。
 めっちゃチラチラ見るじゃん副官……。
 バルギアは相当ロクでもない覇道で他人を踏みつけにしながら、枯れていく世界で生き残ってきた獣なんだなぁ。
 雪海人にとってはそんな食うか喰われるかが当たり前で、静かに滅んでいくしかなかった天膜では想像もできなかった浅ましさが、人の本性と諦められている。
 それは過酷な現実に適応した結果ではあるんだが、そんなもんが人間の性とうそぶかれても、あまりに寂しい。
 多分この奇妙な惑星のありふれた光景である、バルギアとアトランドの戦争(あるいはその回避)を通じて、人間ってのがどんな存在なのか、ワクワクを原動力に突き進んでくれる話になると嬉しいな、という感じ。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第5話から引用

 朝に旅立ち、困難に打ち砕かれかけてそれでも諦めず、夜に微かな希望と決意を、雪の中燃やしていく。
 長く困難な旅を経て、絶望を前にむしろ拳を打ち合わせる関係になった少年たちの物語と、残虐な戦の牙に捉えられかけた少女の人生が、今再び交錯する……という所で次回に続く。
 今回の旅は一日で目的地まで突き進む道のりだったので、大雪海に日が昇り沈むまでの景色をしっかり見せてくれる、時間的体験としても凄く良かった。

 カイナくん達が姫様助けるために選んだ道は、命がけの困難も期待外れの間違いも多く、道連れがなければ簡単に死んでしまうような、危うい旅路だ。
 でもそこに踏み出さなければ、リリハは戦争開始の狼煙としてその尊厳を辱められ、命を奪われて終わってしまっていた。
 お互いの望みを半分ずつ背負いあって、命の危機を互いに救いあって、そうやってたどり着いた場所を悲しい終わりにするのか、勇気に満ちた始まりにするのかは、ここから子どもたちがどんな旅へと、新たに踏み出していくかにかかっている。

 リリハを無事助け出すことが出来たから、戦争が終わるわけではない。
 でも命を諦めず、誰かの手をつかんで旅に出たことだけが切り開く地平は、必ずあるはずだ。
 旅の先に旅が続いていく、異世界ジュブナイル・アドベンチャーがどんな物語を紡ぐか……次回もとても楽しみです!