イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第7話『要塞の国』感想

 流れ流れて敵国バルギア、最底辺のスラムから見上げた悪鬼の素顔とは! て感じの、カイナ第7話。
 悪の帝国を気取るにはあんまりにもしみったれた国情が、ハリボテ要塞の中で悲しく響くが、なんもかんも生活インフラを支える軌道樹環境の悪化が悪いんや!
 譲り得ない理念とかではなく、メッチャ生っぽい資源枯渇で否応なく戦争してる手触りが、寝たり食ったりクソしたり、とにかく生きてる人間を描き続けてきた筆とよく重なっていた。
 水がねーのが殺し合いの原因だってんなら、天膜からだけ見えた夢の国にたどり着けば戦争も回避できる。
 賢者はいなくても空に登った旅に意味はあったと、いい具合にまとまりそうな希望も見えて、しかし未だ敵国迫る脅威!
 話が過剰にデカくならず、地面に足をつけたままゴリゴリ作品独自のリアリティを手に入れていく感触が、大変いい感じだと思います。
 俺ァ、やっぱこのアニメ好きだな……。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第7話から引用

 というわけで悪の大要塞に乗り込んだカイナ一行であるけども、蓋を開けてみりゃ水もマトモに飲めねぇ詰め込み過ぎなスラムの中で、盗み騙しが当たり前の最底辺ライフが展開される、大変しみったれた国でありました。
 なんとなく予感はあったがこのアニメの敵国、根っからの悪というよりは一足先に天膜を滅ぼした環境悪化に追い立てられるように、生きるために他人から奪い、否応なく志を忘れていった、生っぽい”悪”であった。
 みっしり息苦しいバルギア・スラムの美術には負のカタルシスがあって大変興奮したが、それを踏みつけにしてる国の上位層が特別いい暮らししているわけでもなく、上から下まで生々しく希望なしの、イヤーな国である。
 この独特の手触り許されるの、このアニメがここまでどんなテンポと解像度で話転がしてきたか、その証明って感じがするな。
 最高だと思います。

 ドクロ兄弟団(このネーミングも最高)の盗みに、悪を知らぬカイナくんがさっぱり対応できないのも、妹がぶっ殺される瀬戸際ですぐ諦めちゃうのも、キャラクターに嘘がない描写で好きだ。
 アジトに飾られたドクロを撫でる、大したことねぇ”儀式”にすがることで、死ぬのをただ引き伸ばしているような日々にも希望を抱かざるをえない、人間の強さと弱さが良く滲んでいた。
 殺しや盗みが入り込む隙間がないほど限界だった天膜と、救済の希望だったはずなのに人間の重さに負けてしょぼくれたディストピアになってるバルギアと、どっちがマシかは分からないけども、見ている側はカイナくんの素朴な善良さ、姫様の気高さが答えであって欲しい。
 最初は『お前らの死骸を啜って、俺たちは死期を引き伸ばす!』と禽獣以下の生き方強いられてた盗賊団が、じんわり主役たちの温もりに触れる中で優しさとか仲間意識とか、捨てちゃいけない人間性を思い出していく感じも良い。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第7話から引用

 薄汚ぇ釣りとわかっていても、見捨てちゃいけない命がある!
 気高き責務をためらわない姫様に、アメロテ将軍も仮面を外して思わずニッコリだ。
 悪の走狗となってる時はバイザー下ろして顔を隠し、自分からは奪われた輝きを目の当たりにすると満足そうに微笑むの、感情表現がわかりやすくて良い。
 わざわざスーパーヒーロー着地して状況に対応しに行ったの、めちゃくちゃ買ってる姫様を余人が傷つけないよう、自分が飛び込んだ可能性高いな……。
 身体を鋼に変えても、未だ心にくすぶった炎が残ってる将軍の描写すごく好きなので、今後も美味しいポジションキープしていて欲しい。

 僕は既に盤石の信頼でつながった少年たちが窮地を脱するべく阿吽の呼吸で無茶苦茶やるのも、そうして飛び込んだ運命の先にありえないほど綺麗な風景があるのも最高に好きなので、敵の罠に飛び込んで命を救い、自分も助かる大冒険の描き方は大満足。
 ”悪”と向き合う時はぽやぽやおっとりした対応なのに、今為すべきことを直感した時は稲妻のように素早く、獣のように精悍な表情で勇気を振り絞るカイナくんが、僕はやっぱり好きですね。
 リリナを抱きしめて沈んだ海の幻想的な虹色と、凛々しき若武者のかんばせが、厳しい現実の中彼らが選んだ甘っちょろい道が間違っていないと、強く語ってくれる。
 美しいものは正しい。
 そんなベタ足の演出美学を全面に押し出し、泥臭くも真っ直ぐなお話を編んでくれているのが、なんとも自分の肌に合う。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第7話から引用

 かくして窮地を乗り越え敵国の最底辺から知る内情は、マトモな水すら手に入らない困窮の極みであった。
 こういう世知辛さを描かれてしまうと、『悪のバルギアぶっ飛ばして全部オッケー!』たぁ今後転がっていかないわけで、さてちったぁ笑える結末に向かってどう話を進めていくか。
 そのヒントが、賢者じゃないけど広くて高い場所に確かに暮らしていたカイナくんが、当たり前に見つめていた景色にあるのは凄く良い。
 遥か彼方に輝く大きな夢が、どうしようもなくなにもかも諦めて生まれる戦争を遠ざけるかもしれない。
 カイナくんという大雪海の異物が、衰退と闘争を当然とする今の世界を、変えていけるかもしれない希望。
 その手触りも、バルギアの臓物に頭を突っ込んで内情を学ぶ今回、より鮮明になってきた。

 とはいうものの現実を動かすには”証拠”ってやつが必要で、それ以前に追手っていう”現実”が子どもたちにしつこく迫るッ!
 生々しい厄介事は尽きないけども、どん詰りの世界をどうにか出来そうなまばゆさ、逞しさが冒険の中に宿っていて、大変好みの味付けであります。
 窮地を乗り越え育まれる友情という、ドが付くほどにベタな展開なんだけども、このお話にはむしろその直球が清々しい。
 同時に結構容赦なく命を奪う話でもあるので、ドクロ兄弟団の未来が心配でもありますが、さて次回はどんなピンチと冒険が待っているのか。
 大変楽しみです。