イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン:第33話『新月の重力』感想

 ウェザーの犠牲をもってしても追いつけない、邪悪なる天国への道。
 予兆というにはあまりに怪奇にすぎる異常事態の只中に、現れた新たな脅威”C-MOON”……という、ストーンオーシャン第33話である。

 

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第33話から引用


 ウェザーへの追悼をぶっ飛ばすようにアナスィのおもしろラブコメがあり、重力が反転する異常事態があり、迷いを振りちぎって決戦に進む侠気ありと、いつも以上に見てる側の心の振幅が大きい回である。
 つーかなんで当たり前のように、わざわざ踏み台付け足してまでエンポリオくんに運転任してんだ……『子どもが運転してんだしよ~』とかいう、ノンキなツッコミも唐突にぶっ放されるし、命がけの追跡行だというのに気楽な奴らである。
 でもそういうタフさとか、ここで父にすがりたくてうなされる弱さとか、それを無意識的にアナスィに預けられるようになってる関係性とか、覚悟と激戦が一見関係ないところにある剽げた柔軟性こそが、糸使いである徐倫の強さなのかもしれない。
 負けてはいけない正義を貫くための厳しい戦いの中でも、思わず笑ってしまうユーモアは確かにあるし、ワニに向かって中学生レベルの盛り上がり方をしたって良い。
 そういう人間的弾力性を失っていくと、笑えない張り詰めた生真面目さが逆に笑いになる神父のような生き方しか出来なくなるのだろう。

 ウェザーと過ごし別れた日々はアナスィを確かに変えていて、徐倫一辺倒ではない”何か”を感じ取る余裕を育んだことが、徐倫を引き寄せる引力になっていく。
 目的に向かって脇目もふらず、犠牲も顧みず突っ走る一直線は、この後発揮される世界改竄レベルの異能のように危うく無差別なもので、回り道にこそ一番正しく目的へ至る道程が隠されてもいる。
 父に甘えるのではなく地力で神父を追うというアナスィの提案は、胸に預けられた小さな徐倫の顔(かわいい)から伝わる震えを、自分の頼もしさに書き換えて恋してもらおうという、結構ゲスい打算の産物だ。
 同時に『F・Fもウェザーもぶっ殺されたし、神父許すまじ!』という思いがアナスィを突き動かしていて、彼が恋する少女が覚悟と不安を同居させているように、割り切れないからこそ面白い人間の妙味が、ここに来て色濃いと思う。

 

 

 

画像は”ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン”第33話から引用

 運命の新月が近づく中、宇宙センター観光に勤しむ神父は一人きりだし、新しい出会いがあっても暴力的にはねのける……どころか、覚醒の余波でぶっ殺してしまう。
 狂った重力の中で、地べたに張り付いた”世界”を捉えようと這いつくばる姿は、失われたDIOの盲信でここまで来て、遂に覆い隠せないレベルまではた迷惑な現実改変願望が荒れ狂い出した彼の現状を、よく語っていると思う。
 後ろの方向へと落下していくよう、世界の法則が狂う異常事態は、エンポリオくんが正しく直感しているように『とんでもなくヤバいことの前兆』でしかない。
 前兆でしかないこの段階で、ちょっとイラッとするけど罪はない一般人は巻き込まれて死ぬし、天地の概念は大きく狂わされていく。
 神父が求める”天国”への道は、そういう常軌を逸した凶暴性に他人を巻き込み、強制的に書き換えてしまう危ういものだ。
 それはペルラを死に追いやった無慈悲な運命と、それを乗り越えていく知恵と勇気にかけていた自分を認めないために世界の方を書き換える、無邪気な邪悪さに突き動かされている。
 彼が愛し希うDIOのスタンドが”世界”であり、時間という最も根本的な法則を自分に都合良く書き換える力なの、後出しなんだがメチャクチャハマってるよなぁ……。

 一方徐倫は迷いを見せつつも、いざ危機が訪れると研ぎ澄まされた刃のような覚悟と決意を、その顔に浮かばせる。
 アナスィはその凛とした横顔にこそ、自分の全てを捧げてもいいと思えるほどに狂ったのであり、弱々しく自分を頼る都合の良さは、実は結構どうでもいいことにあまり自覚的ではない。
 のだが、結局は颯爽とカッコよく、自分をテキトーにあしらいつつ運命に向かって堂々突き進む徐倫への愛を追いかけて、彼は彼の運命を突き進んでいく。

 徐倫は巻き込まれた女達をクールに置き去りにして、自分が挑むべき戦場へと足を進めていくが、それは冷酷な拒絶ではなく相手の状況を見据えた上での判断だ。
  『あいつは自分で戻ってくる』とアナスィの判断を最終的には支持して、エルメェスを置き去りに前へ進む判断も、一見すると冷徹だが、ここまでの旅を一緒にくぐり抜けた仲間への信頼が根っこにある。
 『助かるんなら自分でやりな』というシビアなタフさを、徐倫刑務所の中で強制的に学んだけども、”アンダー・ワールド”の犠牲になりかけた子どもたちを見捨てなかったように、使命で他人を踏み砕くことはしない。
 そういう優しさが強さと結び合っている所に、アナスィも狂うほどの愛(ある種の引力)を感じてるんだと思う。
 ここら辺、優しさに自滅せず果たすべき使命へ戻れるシビアさを、殺人鬼であるアナスィの現実感覚が補助していいバランスなの、面白い間柄よね……。

 

 というわけでたいそう不気味にキモく”C-MOON”も登場し、神父との決戦も新たな局面へ突入。
 イカレきったケープカナベラルを更に震わせて、運命の瞬間は刻々と近づいてくる。
 次回も楽しみですね!